讒言ざんげん)” の例文
「うちの殿様も、つまり、讒言ざんげんに逢って、今のように浪人していらっしゃるのよ、だから、わたし、ほんとうにお気の毒だと思うわ」
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「はてさて、わからぬのう、このわしが十余年間何もしなかったことは確かじゃが、ひょっとすると、人の讒言ざんげんということもあるのう」
というような、極めて悪性な讒言ざんげんと、偽装ぎそう腐心ふしんし、そのまに、毛利家の軍事顧問を入れ、城郭じょうかくほりを深め、塀を高くしていた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「きっとこれはだれかが天子てんしさまに讒言ざんげんしたにちがいない。天子てんしさまには、間違まちがいだからといって、よくもうげてくれ。」
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
黒人オセロは、イヤゴーの讒言ざんげんによって、妻デズデモナを殺しますが、後に邪推に過ぎなかったことがわかると、悔恨のあまり自殺しました。
三つの痣 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
はゞかりながら、あの時世間では、関白殿が此のような悲運にお遇いなされるのも治部殿が讒言ざんげんをなされたからじゃと、多くの人が申しておりました。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その小谷は同輩の嫉妬を受けて讒言ざんげんせられ、その罪名は何であったか判らないが、敷物方と云うから何かじぶんの出納していた職務のうえからであろう
宝蔵の短刀 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
橘諸兄の子の奈良麿ならまろは父に加へた押勝の讒言ざんげんを憎んでゐた。そのうへ彼は当時の政治に反感と義憤をいだいてゐた。
道鏡 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
そこへ今度は佐久間盛政の注進で、長浜の勝豊謀叛むほんすとの報であるが、勝家、盛政が勝豊と不和なのを知っているので、讒言ざんげんだろうと思って取合わない。
賤ヶ岳合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
しかれどもひそかおもへらく、賢者けんしや旧悪きうあくをおもはずといふも事にこそよれ、冤謫ゑんてき懆愁さうしうのあまり讒言ざんげん首唱しゆしやうたる時平大臣しへいのおとゞ肚中とちゆうに深く恨み玉ひしもしるべからず。
ましてそれがしが、御身の妻女はこれこれと、其の良からぬことを告げたところで、証拠無ければただ是讒言ざんげん
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ところがこの書物についてある僧侶がローマ法王に讒言ざんげんしたので、法王は宗教裁判所に審査させることになり、その結果この讒言ざんげんは通らなかったのでしたが
ガリレオ・ガリレイ (新字新仮名) / 石原純(著)
戦国の世によくある慣いで父将軍はちょっとした落度をたてに政敵から讒言ざんげんを構えられ秦王のちゅうを受けた。母と残された麗姫はこのときまだこどもであった。
荘子 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
亡父の怨みの相手、石崎一族の讒言ざんげんで、拙者も家を追はれ、妹と二人、江戸へ參つて艱難して居るところを
以ってのほかの讒言ざんげん、みなこの早乙女主水之介を罪ならぬ罪に陥し入れようとの企らみからでござります。
そればかりでなく、この頃は万力を少しくうとんじるような気色けしきも見える。それも恐らくお俊の讒言ざんげんに相違ないと、万力はますますお俊を憎むようになりました。
半七捕物帳:67 薄雲の碁盤 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
綾麻呂 臣、石ノ上ノ綾麻呂、今、無実無根の讒言ざんげんこうむって、平安の都を退下たいげし、国司となって東国に左遷させんされんとす。………文麻呂いいか? もう一度、返答だ!
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
菅原道真公、藤原時平の讒言ざんげんによって筑紫博多の島へ流された。落ちついた先が安楽寺という寺で、流されるという言葉が船頭、舟乗り、釣り師にとっては禁句である。
江戸前の釣り (新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
二人はもとはうちの家来の子で、おとうさんもおかあさんもたいへんよいかたであったが、友だちの讒言ざんげん扶持ふちにはなれて、二、三年病気をすると二人とも死んでしまったのだ
燕と王子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
御主人様は、この地方では由緒ゆいしょある家柄の御方でいらっしゃいましたが、人の讒言ざんげんにあって地位も領地も失い、その後はこの野の片隅にわびずまいをしていらっしゃいました。
頼朝の誤解はけ、讒言ざんげんをした梶原が刑罰に処せられているに反して、これでは中尊寺の三位房法印とかに諫められ、弁慶ばかりを見殺しにして山越しに落ちたと書いてある。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
織田家の用人松原郡太夫が家老の玄蕃の勢力をねたんで、玄蕃に異図のあるということを、藩主信邦に讒言ざんげんをしたため、玄蕃は疑獄の人物となったが、調べが進むにしたがって
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これは淡海真人三船おうみのまひとみふね讒言ざんげんによって、出雲守大伴古慈悲こじひが任を解かれた、古慈悲は大伴の一家で宝亀八年八月に薨じた者だが、出雲守をめさせられた時に家持がこの歌を作った。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
長屋王の自尽は讒言ざんげんると伝えられるが、若しこの王在世ならば、光明子立后の事もなかったであろうと言わるるところからみても、長屋王の変の背後に介在する魔手は想像がつく。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
筑波つくば挙兵のそもそもから、市川三左衛門らの讒言ざんげんによって幕府の嫌疑けんぎをこうむったことに及び、源烈公が積年の本懐も滅びるようであっては臣子の情として遺憾にえないことを述べ
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
故意こいならず犯罪はんざいすことがいともはれぬ、ひと讒言ざんげん裁判さいばん間違まちがひなどはべからざることだとははれぬ、そもそ裁判さいばん間違まちがひは、今日こんにち裁判さいばん状態じやうたいにては、もつとべきことなので
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
その巻の十上にいわく、犬は鷹にも飼い人も食いしなり、『徒然草』に雅房大納言鷹に飼わんとて犬の足を切りたりと讒言ざんげんしたる物語あり、『文談抄』に鷹の餌に鳥のなき時は犬を飼うなり。
到底とてもこれに相續は石油藏へ火を入れるやうな物、身代けふりと成りて消え殘る我等何とせん、あとの兄弟も不憫と母親、父に讒言ざんげんの絶間なく、さりとて此放蕩子これを養子にと申受る人此世にはあるまじ
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
幸いにして何のこともなく一命は助かり、引き続き国事に奔走ほんそうしたが、世には随分念の入った讒言ざんげん悪口がある。しかしこれがために軽々しく一命を捨て、ヤケとなり、あるいは他をうらむことを要せぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ふ寶澤こたへて我は徳川無名丸むめいまると申す者なり繼母けいぼ讒言ざんげんにより斯は獨旅ひとりたびを致す者なり又其もとは何人にやとたづかへせば彼者かのもの芝原しばはらへ手を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
しかるに雑人ぞうにんばらの讒言ざんげんを信じて、故意に、この孫堅に敗軍の憂き目を見せたことは、味方同士とはいえ、ゆるしておき難い。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
橘諸兄の子の奈良麿は父に加えた押勝の讒言ざんげんを憎んでいた。そのうえ彼は当時の政治に反感と義憤をいだいていた。
道鏡 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「天神様をごらんなさいな、菅原道真公を。天神様はあの通りのいいお方でしょう、それでさえ筑紫つくしへ流されたじゃありませんか、時平公しへいこう讒言ざんげんで……」
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかれどもひそかおもへらく、賢者けんしや旧悪きうあくをおもはずといふも事にこそよれ、冤謫ゑんてき懆愁さうしうのあまり讒言ざんげん首唱しゆしやうたる時平大臣しへいのおとゞ肚中とちゆうに深く恨み玉ひしもしるべからず。
やがて文林郎内台御使ぶんりんろうないだいぎょしを授けられたが、その同僚に雲石不花うんせきふかという者があって、これと仲が悪かったので、そのために讒言ざんげんをせられて、雷州の録事ろくじしりぞけられた。
富貴発跡司志 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
妬む者の讒言ざんげんか、それとも本当に覚えのあることか、そのうわさはまちまちでいずれとも決定しなかったが、ともかくも二人は有罪と決められて、楊は死罪に行なわれた。
雪女 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
構え、高木の讒言ざんげんで浪人したが、まもなく高木の方も禄を捨てて、江戸へ来たということだ
即時に押寄せられるでござろう、因って思うに、筋なき事を取り持って石田がさま/″\に讒言ざんげんいたすとも、殿下はあながち彼等の言をお信じになっていないのである、旁〻かた/″\此の場合は
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
到底とてもこれに相續そうぞく石油藏せきゆぐられるやうなもの身代しんだいけふりとりてのこ我等われらなにとせん、あとの兄弟けうだい不憫ふびん母親はゝおやちゝ讒言ざんげん絶間たえまなく、さりとて此放蕩子これ養子やうしにと申うくひと此世このよにはあるまじ
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
故意こいならず犯罪はんざいすことがいともわれぬ、ひと讒言ざんげん裁判さいばん間違まちがいなどはありべからざることだとはわれぬ、そもそも裁判さいばん間違まちがいは、今日こんにち裁判さいばん状態じょうたいにては、もっともありべきことなので
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
大高、沓掛くつかけ等をも占領した。信長は今度は笠寺を攻めて見たが豊政驍勇ぎょうゆうにして落城しそうもない。そこで信長は考えた末、森可成よしなりを商人に化けさせて駿河に潜入させ、義元に豊政のことを讒言ざんげんさせた。
桶狭間合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そこで御所ごしょがって天子てんしさまに讒言ざんげんをしました。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「讒者。……ムム、梶原景時のたぐいか。とはいえ、あれほどご聡明な鎌倉殿が、小人ばら讒言ざんげんなどに動かされてとは考えられぬ」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昔から、菅原道真すがわらみちざね公、或は、源高明たかあき公といった人々が讒言ざんげんのために、無実の罪を着せられた例もあり、往々にして誤りはあるものでございます。
そうした許し合った仲になりましたが、奥と表の隔てがあって、まだしみじみとお話もしないうちに、朋輩に知られて、秋壑に讒言ざんげんせられましたから、私とあなたは
緑衣人伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
時平ときけば此 御神を讒言ざんげんしたる悪人なりとて、其悪千古に上下して哥舞妓かぶき狂言にも作りなし、婦女子もあまねく知る所なれど、童稚どうち女子ぢよしはその実跡じつせきをしれるがまれなり。
かまへ、高木の讒言ざんげんで浪人したが、間もなく高木の方も祿を捨てゝ、江戸へ來たといふことだ
その後為守は法然の門弟浄勝房じょうしょうぼう唯願房ゆいがんぼう等の坊さん達を関東の方へ頼んで来て、それを先達として不断念仏をはじめ行い出した時、時の征夷将軍(右大臣実朝)に讒言ざんげんする者があって
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
お光にむかって言うばかりでなく、お内儀さんにむかっても内々こんなことを吹き込んだらしい。お内儀さんはその讒言ざんげんを取りあげなかったが、それでもお光にむかってこんなことを言った。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
到底とてもこれに相続は石油蔵へ火を入れるやうな物、身代けふりと成りて消え残る我等何とせん、あとの兄弟も不憫ふびんと母親、父に讒言ざんげんの絶間なく、さりとて此放蕩子これを養子にと申うくる人この世にはあるまじ
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)