はな)” の例文
がしかしその男がこの時ばかりは「きみ実際恐怖おそろしかったよ」と顔色を変えて私にはなしたくらいだから、当人は余程凄かったものだろう
暗夜の白髪 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
さあぼっちゃん。きっとこいつははなします。早くなみだをおふきなさい。まるで顔中ぐじゃぐじゃだ。そらええああすっかりさっぱりした。
黄いろのトマト (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
貴下あなたにおはなし申すことも、おしらべになって将校方にいったことも、全くこれにちがいはないのでこのほかにいうことは知らないです。
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すでに肚と肚で語り合っていた後藤基国や小森与三左衛門などもその中にはじっていることなので、はなあいは極めて円滑にすすんだ。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女はこれっぱかりも自分の秘密を、またそれについての悔恨を気取られることなしに、はなしたり笑ったりして来たのであった。
(新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
時々彼女は白いきぬ※子ハンケチで顔をきながら、世慣れた調子ではなしたり笑ったりした。どうかするとお牧にでも話しかけると同じように話した。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そこでS君は、石井の死亡した事情をはなしたので、生徒たちは初めて石井の死を知り、天長節に見たのはその陰影であったと云う事を知った。
天長節の式場 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
しかしそうばかりではなくこの世には、実に不思議なことが往々おうおうにしてあるものだから、今私がお前だちにもはなしてきかせよう
雪の透く袖 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
冗談じょうだんを云わずと真誠ほんとに、これからさきをどうするんだかはなして安心さしておくれなネエ。茶かされるナア腹が立つよ、ひとが心配しているのに。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
其座の人々四五人に何かはなして打ち連れ立ち自分の宅へもどりしが間もなく入り來りて傳吉殿此人々と立ち合ひにてせがれ部屋へや
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
さあ、いろいろはなせば長いけれど……あれからすぐ船へ乗り込んで横浜を出て、翌年あくるとしの春から夏へ、主に朝鮮の周囲いまわり膃肭獣おっとせいっていたのさ。
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
「イヤ、世帯持ちはその心がけが肝腎です。」と和泉屋は、叔母とシミジミ何やら、はなしていたが、この時口をれた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
翌朝よくちょうになって、家人一同が、昨夜の出来事をはなして如何いかにも奇妙だといっていたが、多分門違かどちがえでもあったろうくらいにしてそのままに過ぎてしまった。
感応 (新字新仮名) / 岩村透(著)
はなして居ると、突然パラ/\と音がして来たので余は外に出て見ると、日は薄く光り、雲は静に流れ、寂たる深林を越えて時雨しぐれが過ぎゆくのであつた。
空知川の岸辺 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
作「買物買いに来たのじゃ有りませんが、少し旦那様にお目に懸って、おはなし申してえ事が有ってめえりました」
そして食物はうまそうであり、又分量豊かでもあった——士官達が私にはなしたように、ポーランドの軍隊で指定されているよりも、数百カロリー優っておった。
しかし幸か不幸か、まだ自分には、まるで実見じっけんがないが、色々他人から聴いたのを、少しはなしてみよう。
テレパシー (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
もし一両日が間に御送金なくばもはやあなたとははなしはしない。例の証文の件を親御の方へ照会して処決して貰うようにするから。左様承知ありたい。草々頓首。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
蘭軒は平生大声ではなし、大声で笑つた。俗客のかどに来るときは、諸生をして不在とはしめた。諸生が或は躊躇すると、蘭軒は奥より「留守だと道へ」と叫んだ。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
その顔色が真蒼まっさおにでもなっていたものか、相方あいかたも驚きながら、如何どうしたのかと訊ねられたが、その場では別に何もはなさず、風邪の気味か何だか少し寒気さむけがするといって
一つ枕 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
○去年の春であったか、非無という年の若い真宗坊さんが来てはなしているうちに、話頭わとうはふと宗教の上に落ちて「君に宗教はいらないでしょう」と坊さんが言い出した。
病牀苦語 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
この間さる処へ呼ばれてそこの奥さんとはなしをした。するとその人が大の耶蘇ヤソ信者だからたまらない。滔々とうとうと神徳を述べ立てた。まことに品の善い、しとやかな御婆さんだ。
倫敦消息 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
駅長室に連れ込んではなして見たところが、イヤどうも分らないの何のって、工学士と言えば、一通りの教育もありながら、あんまり馬鹿げていて、話にも何にもならないです
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
こっちでも向うでもないんだよ。ちょっと耳をそばへ持って来なさい。小さい声ではなすよ。
百喩経 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
西アフリカのアシャンチー人伝うるは、昔上帝人間にんかんに住みまのあたはなしたから人々幸福だった。
しかし凡庸ぼんようの眼をもって視察し、平凡の耳をもって歴史を聴く僕のことであるから、やかましい議論はしばらくいて、いささか個人的の教訓に資すべき事柄をはなしたいと思う。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
この夜も六七人の子供がみんな大きな周囲まわりに黙って座りながら、鉄鍋の下の赤く燃えている榾火ほだびいじりながらはなしている老爺おやじ真黒まっくろな顔を見ながら、片唾かたずを呑んで聴いているのであった
千ヶ寺詣 (新字新仮名) / 北村四海(著)
それからロオラはまた近所の子供にはなしかけられるのを何よりも喜んでいます。彼等がわたしの二階の窓の下へ来て何か一言叫ぶと、ロオラはいろんなことを喋り出すのです——そうです。
オカアサン (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
「きつとジプシイのことをはなし合つてゐらつしやると思ひます。」
乞食は問はず語りに、色々な哀れつぽい身の上話をはなし出した。
帰って主人に昨夜の出来事をはなすと、主人のいうには
死神 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
主人はゆっくりいろいろはなす。小十郎はかしこまって山のもようや何か申しあげている。間もなく台所の方からおぜんできたと知らせる。
なめとこ山の熊 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
貴下あなたにおはなし申すことも、おしらべになつて将校方にいつたことも、全くこれにちがひはないのでこのほかにいふことは知らないです。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
一度ならず二度までもあまりといえば不思議なので翌朝よくあさ彼はすぐ家主いえぬしの家へ行った、家主やぬし親爺おやじに会って今日まであった事を一部始終はなして
暗夜の白髪 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
藤吉郎はなお、寧子ねねに向って、於虎の母へ、城内の住居を与え、何かと平常もはなし相手になってやるがよいと云い足した。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見てはなしてたのを聞いてきたんでさ。私どもでも少しばかし預けてあるもんだから、内の人も心配して出かけたんだが……とてももうだめかしら。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
「もう遅いから駄目。それに、僕は友人から晩餐に招ばれているんですがね、おせわしくなければ、はなしながらそこまで送って行って下さいませんか」
フェリシテ (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
ノーと先ず一語を下して置きます。諸君にしてもし僕の不思議なる願というのを聴いてくれるならはなしましょう」
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
酒の香気においも座敷に満ちていた。岸本のために膳部ぜんぶまでが既に用意して置いてあった。元園町は客を相手に、さかんにはなしたり飲んだりしているところであった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
京子は自分のどんな心境や身辺の変遷へんせんでも隠すところなく打ち明けて、加奈子のこころをたよって来たのに、加奈子は自分自身の運命や、こころを京子にはなした事はなかった。
春:――二つの連作―― (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
自分ではたしかに気は付いていたようだが、あせればあせるほど解らなくなって、ほとんど当惑していると、突然先生の声がしたので、初めて安心しました、と息をはずましながらはなして
怪物屋敷 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
これもマア、酒に酔ったこの場だけの坐興で、半分位も虚言うそぜてはなすことだと思って聞いていてくれ。ハハハハハ。まだ考のさっぱり足りない、年のゆかない時分のことだ。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
両親も大変喜んで種々いろいろ先方さきの男の様子も探ってみたが大した難もないし、ことに先方からのっての懇望のぞみでもあるから、至極良縁と思ってそれを娘にはなすと、一度は断ってはみたが
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
その下にある中庭のわきの、薄暗い廊下を通って、小使部屋の前にくると内で蕭然しょんぼりと、小使が一人でさも退屈そうに居るから、弟も通りがかりに、「おい淋しいだろう」とはなしかけて
死体室 (新字新仮名) / 岩村透(著)
晋齋老人は目をつぶッていらっしゃいましたが、あゝ怖しいものは因果だ、この親子は何うして斯うも幸ないであろうと、伊之吉お米が双児でありしことをおはなしになってお嘆きあそばす。
はなすので、ある僧のはなしによると、所謂いわゆる寺の亡者が知らせに来る場合には、必ずその人の生前の性質が現れる、例えば気の荒い人だったらば、かねの叩きようすこぶる荒っぽいそうだし、温和な人ならば
テレパシー (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
空に高く、かすかに聞えてくるのである、夜もけて十時過ぎた頃だった、今まできょうに乗じて夢中にはなしていた老爺おやじが、突然誰も訪れた声もせぬのに、一人で返事をしながら、はなし半ばに、ついとって
千ヶ寺詣 (新字新仮名) / 北村四海(著)
「笑つたり、はなしたり。」
見分みわけざれば目鼻めはなのある人とは申さずと云ふに武士は大いに笑ひそれは餘り譽過ほめすぎるなりと云つゝ最早もはや酒もやがて三升ばかりのみたる故ほろ/\機嫌きげんになりコレ亭主貴樣は田舍ゐなか似合にあは漢土からの事など引事ひきごとにして云は感心々々かんしん/\はなせる男だイヤ面白し/\と暫時しばしきようにぞ入りたりける
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
旅人たびびとたちはしずかにせきもどり、二人ふたりむねいっぱいのかなしみにた新しい気持きもちを、何気なくちがったことばで、そっとはなし合ったのです。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)