きよ)” の例文
捨吉が口唇くちびるを衝いて出て来るものは、朝晩の心やりとしてよく口吟くちずさんで見たきよい讃美歌でなくてこうした可憐な娘の歌に変って来た。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
楽しいきよい一晩だった……。二人は何事も隠し合わないつもりではあったが、彼はただ無関係な事柄だけしか彼女に話せなかった。
日中には、何千となき白いちょうがそこに逃げ込んできた、そしてこの生ある夏の雪が木陰に翩々へんぺん渦巻うずまくのは、いかにもきよい光景であった。
尊くせられきよめられし肉再びわれらに着せらるゝ時、われらの身はその悉く備はるによりて、いよ/\めづべき物となるべし 四三—四五
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
「この女は処女だ、私は初めてきよらかなものをけがすのだ。しかも私は昨夜は他の女と寝たのに」。かく思うとき性欲は興奮する。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
かかる人格にして初めて、気高く、きよく、美しき仕事ができる。われ等としても、最大の注意をもっこれを監視し、又警護する。
恋人がバッハのきよらかなオルガン曲を弾いて対抗し、辛くも異教的な誘惑から恋人を救うと言った物語を読んだことがある。
探偵小説と音楽 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
きよくまことなる心、無極の意と相繋がる意、世の雑染を離れて神に達するのがん、是等の三要素を兼有する詩人文客の詞句を聴くは楽しむ可きかな。」
トルストイ伯 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
きよよるの月光を浴びながら、はるばるフエカンの断崖まで運んで行き、麻袋の口をあけて、奇妙な肉塊を一つずつ英仏海峡の荒波のなかへ落しこんだ。
青髯二百八十三人の妻 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
しかしてこれらのことの後イエスみずからまた彼らに顕われ給い、東より西に至るまで、彼らによりてきよくかつ朽ちざる永遠の救いを宣べ伝えしめ給えり。
見よ! そこに横たわっているダンネベルグ夫人の死体からは、きよらかな栄光が燦然さんぜんと放たれているのだ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
そしてどの仏の前にも——それはみんなすずでつくってあります——小さい祭壇さいだんがあって、そこにはきよい水と、花と、火のともっているろうそくとがありました。
私はこのきよき、妹に対する兄の真実の愛という名において、国家の審判に烈しき抗議を申し込む者です。
死者の権利 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
こののちわたしの祈祷のときに、死によって永遠にきよめられた彼女の名を自由に呼ぶことが出来るようにして下されたことについて、わたしはあつく感謝しました。
一人の勝れた女、一人の潜めた可能力を一斉に噴き出して、はじめて感じる恋のきよい熱情に燃えた女だ。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
「おお、わがよ」とおほせられて、人間にんげんどものらないきよたつといなみだをほろりとおとされました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
熟睡うまいの窓につかの 罪逃がれにし人の子を 虚無の夢路にさゝやきて きよき記憶を呼びさませ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
そこで、私は彼女の居間に腰を下し、つい今しがたまでゐた女の爲めにきよめられてゐるそこの空氣を呼吸して、幸福な氣持ちになつてゐたのです。いや、これは誇張だ。
ラフアエロの描いた天使のやうにきよらかな顏。實物よりも十倍位の大きさの一つの神祕的な顏。
聖家族 (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
あの人たちは、地上にいたときに愛していた人たちから離されている間に、この人たちにとって最も残酷な呵責かしゃくである放心の苦難を受けて、煉獄の浄火にきよめられたのです。
確かにこれはきよすぐれた魂の声だ、と悟浄は思い、しかし、それにもかかわらず、自分の今えているものが、このような神の声でないことをも、また、感ぜずにはいられなかった。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
パリス おゝ、かりそめにも勤行ごんぎゃうのおさまたげをしてはならぬ!……ヂュリエットどの、木曜日もくえうびにはあさはやうおむかへきませうぜ。それまでは、おさらば。このきよ接吻キッス保有しまっておいてくだされ。
大斎期おおものいみの際くらいのものであった、約百記ヨブきを好んで読んだが、またどこからか『きよき父イサーク・シーリン』の箴言しんげんや教訓の写しを手に入れて、しんぼうづよく長年のあいだ読み続けたが
きよみやこに携えゆき殿みや頂上いただきに立たせていいけるは爾もし神の子ならばおのが身を下へなげそはなんじがために神その使つかいたちに命ぜん彼ら手にて支え爾が足の石に触れざるようすべしと録されたり
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
なぜといふに、自分じぶんしゆきみおもたてまつると、其聖墓そのおはかこゝろうちにもうはいつてゐるからだ。亜孟アメン。どれ、日射ひあたりのいゝ此処ここへでも寝転ねころばうか。これこそ聖地せいちだ。われらが御主おんおるじ御足みあし何処どこをもきよくなされた。
上さんは胸があるきよい尊い物にしつけられるやうな気がした。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
つみや、かなしみでさえそこではきよくきれいにかがやいている。
夕焼のように混濁した朱でなくて、きよくて朗らかな火である。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
けふ一日ひとひ腹をいためてしをればきよきまとゐに行きがてなくに
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
肩の曲線カーブに打つづくきよらの背中があるのです。
きよきを攻むやと、終日ひねもす啄木鳥きつつきどり
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
厳かなきよき自然の力を表わす
聖堂の近くを過ぐる (新字新仮名) / 今野大力(著)
きよせい宿やどりこの時ひらけ
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
きよきひと神秘くしびなる
全都覚醒賦 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
きよづしと胸縫ひて
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
それは彼女に残っていた唯一の見栄みえであって、それもきよい見栄だった。彼女は自分のものをすべて売り払って、それで二百フランを得た。
官能を断ち、世を断ったベートーヴェンの心の声が、弦楽四重奏曲という形をかりて、大諦観のきよらかな美しさを、心行くまで描くのである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
一の峰を成す、この峰カートリアと呼ばれ、これが下にはたゞ禮拜らいはいの爲に用ゐる習なりし一のいほりきよめらる。 一〇九—一一一
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
しかし彼は、自分たちの周囲に微笑ほほえんでいるきよい光を見、彼女の失明した眼をながめ、そしてしみじみとあわれを覚えた。
遊女の心にでもきよさはあります。純な恋をすることはできます。どのような人かわかりもしないのに、初めから悪いものと疑うのはいけないと思います。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
学者をして無心ならしめよ、無学者をして無心ならしめよ、心のきよきものは福なり、其人は天国を見ることを得べければなり、かくの如くして始めて真正の実行生ず。
実行的道徳 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
ラファエロの描いた天使のようにきよらかな顔。実物よりも十倍位の大きさの一つの神秘的な顔。
聖家族 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
如何どうしても菅原様へくことが出来ないならば、私は一旦いつたん菅原様へ献げた此のきよ生命いのちの愛情を、少しも破毀やぶらるゝことなしにいだいたまゝ、深山幽谷へ行つてしま心算つもりだつて——
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
あなたの抱いてゐる同情は、法に合つてもゐないし、きよらかでもない。そんなものは、もうとつくに潰してしまつてゐるべきだつたのです。今そのことを引き出すのをづべきですよ。
かれは青年の言葉から火のようなきよい矢が自分の魂に向かって放たれるのを感じた。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
来たるべき神の国の宴を前にしてこれをきよむるためのキッドシュでありました。
引裂ひきさかれた旗は床の上に落ちていました。三色旗は銃剣の先にはためいていました。そして玉座の上には、青ざめてきよらかな顔をした貧しい男の子が、眼を天へ向けて横たわっていました。
そしてその結果は如何いかん? 麗わしき神の御業みわざは、無残にも脚下に蹂躙じゅうりんせられ、人間が額に汗して築き上げたる平和の結晶は、一朝にして見る影もなく掃滅せられ、夫婦骨肉のきよきずなは断たれ
きよき扉に手を寄せて
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
二人のきよい魂から去らないで、ある童貞女らの修道院において「常住礼拝」をしなければあがなわれるものではないように思われた。