しょう)” の例文
その詰めたり何かする間にも、しょう篳篥ひちりきのごとき笛を吹き太鼓を打ち、誠に殊勝なる経文を唱えてなかなかありがたく見えて居ります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
これが前にもちょいと申し上げて置きました、若殿様がしょうだけを御吹きにならないと云う、そのわれに縁のある事なのでございます。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
==ねんねんよ、おころりよ、ねんねの守はどこへいた、山を越えて里へいった、里の土産に何貰うた、でんでん太鼓にしょうの笛==
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大きい方は二行に並んですわった八人の楽女が横笛、立笛、そうしょう銅鈸どうばつ琵琶びわなどをもって、二人の踊り女の舞踊に伴奏する。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
中宮ノ大夫たゆう実衡さねひらの琵琶、大宮ノ大納言のしょう、光忠宰相のひちりき、中将公泰きんやす和琴わごん、また笛は右大将兼季かねすえ、拍子は左大臣実泰。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「坊や、お眠り、よい子だねえ。……竹太郎はよい子でございます、泣きもむずかりもいたしませぬ。かねに太鼓にしょうの笛、赤い鼻緒の下駄持たむ……」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しょう篳篥ひちりきノヨウナモノヲ鳴ラサレルノハ迷惑ダケレドモ、誰カ一人、富山清琴ノヨウナ人ニ「残月」ヲ弾イテ貰ウ。
瘋癲老人日記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
いちばん上のおよめさんは琵琶びわをひき、二ばんめのおよめさんはしょうき、三ばんめのおよめさんはつづみつのでした。
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
中将の子で今年から御所の侍童に出る八、九歳の少年でおもしろくしょうの笛を吹いたりする子を源氏はかわいがっていた。これは四の君が生んだ次男である。
源氏物語:10 榊 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「坊やのお乳母うばはどこへ行た、あの山越えて里へ行た。里のお土産みやに何もろた。でんでん太鼓にしょうの笛——」
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
さて、囃子方はやしかたの座がととのう。太鼓があり、つづみがあり、笛があり、しょう、ひちりきの類までが備わっている。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
こまどりのうたをうたった、あのいい音色ねいろみみこえるような、また、ふえや、太鼓たいこや、しょう音色ねいろなどが、五さいうつくしい夕雲ゆうぐもなかからわいて、うみうえまでこえてくるような
紅すずめ (新字新仮名) / 小川未明(著)
太鼓たいこしょう篳篥ひちりきこと琵琶びわなんぞを擁したり、あるいは何ものをも持たぬ手をひざに組んだ白衣びゃくいの男女が、両辺に居流れて居る。其白衣の女の中には、おかずばあさんも見えた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
鈴の音も、しょう篳篥ひちりきの音も、そうかと思うと太鼓の音がどろどろどんどんと伝わりました。
張扇をバタバタと叩いて「ソラソラ」と云う時は軽い時で、笛のしょう歌を「オヒャラリヒウヤ」とタタキ附けるように云う時は筆者の気が抜けているのを呼び醒ますためであった。
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
天蓋てんがいしょう篳篥ひちりき、女たちは白無垢しろむく、男は編笠をかぶって——清楚せいそな寝棺は一代の麗人か聖人の遺骸いがいをおさめたように、みずみずしい白絹におおわれ、白蓮の花が四方の角を飾って
大道芸人のしょうを吹くもの、蛇皮線じゃびせんをひく者、だけを鳴らす者なども集まっている。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
踊りに伴って鳴る楽器が春にふさわしい閑雅な音をただよわす。胡弓こきゅう、長鼓、太胡、笛、しょうの五器がそれぞれの響きを悠揚ゆうような律に調和させて大同江の流れの上へ、響いて行くのである。
淡紫裳 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
遊舫ゆうほうしょう、漁浦ノ笛モ遠ケレバ自ラ韻アリ。寺鐘、城鼓モ遠ケレバマタ趣キナキニアラズ。蛙声ノ枕ニ近クシテ喧聒けんかつヘザルガ如キモ、隔ツレバ則チ聴クベシ。大声モト聴クニ悪シ。
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しょう篳篥ひちりきの音が始まった。私たちは立ちあがってその方へ見に行った。
光り合ういのち (新字新仮名) / 倉田百三(著)
町はずれの住んだ家に来て見れば母屋づくりの立派な一棟ひとむねのなかから、しょう吹く音いろがきこえ、おとなうことすらできなかった。近くの家々の人も、網代車あじろぐるま前簾まえすだれの中の生絹の顔を見ることがなかった。
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
この阿波守は只今東京で医を開業しいる重次郎君の先祖であろう。予君の父君に久しく止宿して後渡米の時その家から出で立った。父君は京生まれで、しょうを吹き、碁を囲んで悠々公卿くげ風の人であった。
里の土産に何貰うた、でんでん太鼓にしょうの笛……
狂女と犬 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
稚児二人あたかも鬼にえきせらるるもののごとく、かわるがわる酌をす。静寂、雲くらし。うぐいすはせわしく鳴く。しょう篳篥ひちりきかすかに聞ゆ。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
奥まった寝殿には、催馬楽さいばらの笛やしょうが遠く鳴っていた。時折、女房たちの笑いさざめく声が、いかにも、春の日らしくのどかにもれてくる。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で、その間には太鼓、しょう篳篥ひちりき、インド琴あるいはチベット琴、笛などいろいろ楽器類及び宝物を持って行くのです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
いつも篳篥ひちりきを吹く役にあたる随身がそれを吹き、またわざわざしょうの笛を持ち込んで来た風流好きもあった。僧都が自身できん(七げんの唐風の楽器)を運んで来て
源氏物語:05 若紫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
まず篳篥ひちりきの音がした。つづいてしょうの音がした。からみ合って笛の音がした。やがて小太鼓が打ち込まれた。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
御自分も永年御心を諸芸の奥秘おうひに御潜めになったので、しょうこそ御吹きになりませんでしたが、あの名高い帥民部卿そちのみんぶきょう以来、三舟さんしゅうに乗るものは、若殿様御一人おひとりであろうなどと
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ひめさまの、うたをうたわれるこえはたいへんに、よいおこえでありました。また、たいへんにものをならすことがお上手じょうずでありました。ことや、ふえや、しょうらすことの名人めいじんでありました。
町のお姫さま (新字新仮名) / 小川未明(著)
汪もこれでひと息ついて、ひたすらに夜の明けるのを待っていると、表がようやくしらんで来た時、太鼓をたたき、しょうを吹いて、大勢の人がここへ近づいた。そのなかには昨夜の男もまじっていた。
つづいてめんこ、でんでん太鼓にピイヒョロヒョロのしょうの笛。その下からただのおもちゃにしては少しおかしい変な玉が三つころころと飛び出しました。赤に、白に、黄——。大きさはすももくらい。
=でんでん太鼓にしょうの笛、起上り小法師こぼし風車かざぐるま==と唄うを聞きつつ、左右に分れて、おいおいに一同入る。陰火全く消ゆ。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やがて、楽所がくそ御興ごきょうには、右大臣兼季かねすえの琵琶、権ノ大夫冬信の笛、源中納言具行ともゆきしょう、治部ノきょうのひちりき、琴は宰相ノ公春きんはるなど秘曲をこらした。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それらはまあよい方の仕事で、なお大きな笛やしょう篳篥ひちりきを吹いたり太鼓を打ったり、あるいは供養物くようもつを拵えたりするのも、やはり壮士坊主の一分の仕事になって居るのです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
盲目の眼を前方に向け、歯のない口をポッカリと開け、破損やぶれたしょうのような嗄れた声で
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
今日の拍子合わせの笛の役には子供を呼ぼうとお言いになって、右大臣家の三男で玉鬘たまかずら夫人の生んだ上のほうの子がしょうの役をして、左大将の長男に横笛の役を命じ縁側へ置かれてあった。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
わたしたちの先祖せんぞは、みんなをはげますために、ふえいたり、しょうらしたり、またうたをうたったりしたのでした。それで、孫子まごごだいまでも、こんないいごえされるようになったのです。
紅すずめ (新字新仮名) / 小川未明(著)
私が楊家屯ようかとん露宿ろじゅくしたゆうべよいの間は例の蛙どもが破れたしょうを吹くような声を遠慮なく張上げて、私の安眠を散々に妨害したが、夜の更けるに随ってその声も漸く断えた。今夜は風の生暖い夜であった。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
大無! 心気を澄ましたい。しょうを持てっ
老中の眼鏡 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
そのしょうやひちりきの音から伊勢の宮の稚児ちごたちおもい出され、んだ足をひき摺って登った鷲ヶ岳の樹々の氷花つららが、ふと考え出されたのであろう。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
丁々坊は熊手をあつかい、巫女みこは手綱をさばきつつ——大空おおぞらに、しょう篳篥ひちりきゆうなるがく奥殿おくでんに再び雪ふる。まきおろして
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
左大臣の七男がわらわの姿でしょうの笛を吹いたのが珍しくおもしろかったので帝から御衣を賜わった。大臣は階下で舞踏の礼をした。もう夜明け近くなってから帝は常の御殿へお帰りになった。
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
かねに太鼓にしょうの笛、赤い鼻緒の下駄持たむ。……
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
が今、武蔵の耳をいたく刺戟したのは、その風の間に流れて来た——しょう篳篥ひちりきと笛とを合奏あわせた古楽の調べであった。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「勝手にピイピイ吹いておれ、でんでん太鼓にしょうの笛、こっちあ小児こどもだ、なあ、阿媽おっか。……いや、女房おかみさん、それにしても何かね、御当処は、この桑名と云う所は、按摩の多い所かね。」
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とお言いになり、しょうの笛を吹いた子に酒杯をお差しになり、御服を脱いでお与えになるのであった。横笛の子には紫夫人のほうから厚織物の細長にはかまなどを添えて、あまり目だたせぬ纏頭てんとうが出された。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
島の西がわ、天狗てんぐつめとよぶ岩の上に、さっきからひとりの神官しんかん、手にしょうの笛をもち、大口おおぐちはかまをはき、水色のひたたれを風にふかせて立っている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人形使 しょう篳篥ひちりきが、紋着袴もんつきばかまだ。——消防夫しごとしが揃って警護で、お稚児がついての。あとさきの坊様は、こうかっしゃる、御経を読まっしゃる。御輿舁みこしかつぎは奥の院十八軒の若いしゅ水干烏帽子すいかんえぼしだ。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「オオ……何やら美しい……蓮花はちすがにおう……妙なあのは、しょうの音か、頻伽びんがの声か。……蓮華れんげが降る、皆さま、蓮華が降って、私の顔にかかります」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)