)” の例文
と見て、妻が更に五六つぶ拾った。「椎がった! 椎が実った!」驩喜かんきの声が家にちた。田舎住居は斯様な事がたいした喜の原になる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
馬鹿になってしまったのではないかと疑われるくらい——正月でもあるせいもあろうが——夜毎よごとにぎやかな笑い声にちているのだった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼らの心は永遠なる理想や価値、真によき宗教や哲学や道徳や芸術や学問の憧がれとそれらに対する努力とにおいて喜びにち溢れつつ悩んでいる。
語られざる哲学 (新字新仮名) / 三木清(著)
私がこれまで罵られ、はずかしめられてもいかなかったのは、五年の愛がまだたなかったからですが、こうなってはもうすこしもいることはできません。
小翠 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
雪解け春きたり水ち稲茂り、やがて秋の風に黄金の穂が波うつ時が来ると、わずかばかりの充足に心まで酔いうかれて、かえって村雀と共に踊り歌うのである。
これ等のすこしく失へる者は喜び、彼等の多く失へるはいは憂ひ、又まれには全く失はざりし人の楽めるも、皆内には齷齪あくそくとして、てるはけじ、虧けるは盈たんと
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
幼にして精敏、双眸そうぼう烱々けいけいとして、日に書を読むこと寸にち、文をすに雄邁醇深ゆうまいじゅんしんなりしかば、郷人呼んで小韓子しょうかんしとなせりという。其の聰慧そうけいなりしこと知る可し。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
同伴つれはおもしろし、別して月も宵にはあるべし、この夜の清興を思へば、涼風ちて車上にあり。
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
いえもいよ/\御繁昌ごはんじょうでございましたが、つればくる世のならい、奥様には不図ふとした事が元となり、ついに帰らぬ旅路におもむかれましたところ、此の奥様のおつきの人に
しほたま一八を出して溺らし、もしそれ愁へまをさば、しほたまを出していかし、かく惚苦たしなめたまへ
月はつればかくる。いたずらに指を屈して白頭にいたるものは、いたずらに茫々ぼうぼうたる時に身神を限らるるをうらむに過ぎぬ。日月はあざむくとも己れを欺くは智者とは云われまい。
一夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
つれば欠くるという。なおも店の拡張を計って天の冥護に離れ、人の同情を失えばどうなるか。思いをここに致せばなかなか現状の不自由等をかこつべきではないのである。
いわんや金蓮の怪たんなる、明器めいきを仮りて以て矯誣きょうぶし、世をまどわしたみい、条にたがい法を犯す。きつね綏綏すいすいとしてとうたることあり。うずら奔奔ほんぽんとして良なし、悪貫あくかんすでつ。罪名ゆるさず。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
水星が月と同じようにけを示すこと、太陽に黒点のあることなどを見つけ出し、それらの事がらからコペルニクスの説の真であることをますます確信するようになりました。
ガリレオ・ガリレイ (新字新仮名) / 石原純(著)
「これを文天祥ぶんてんしょう土窖どこくに比すればわがしゃはすなわち玉堂金屋なり、塵垢じんこうの爪につる蟻虱ぎしつの膚を侵すもいまだ我正気に敵するに足らず」と勇みつつ幽廬ゆうろの中に沈吟せし藤田東湖を思え
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
歯角脊足宛然さながら皆具う、大なるは数十丈、あるいは十丈につ、小さきはわずかに一、二尺、あるいは三、四寸、体皆具わる、かつて因ってあつめこれを見る、また曰く冀州鵠山こくさんに伝う
「モンセーニュールいけるは、地とこれにてる物はわがものなり。
肉の楽しみをきわめることをもって唯一の生活信条としていたこの老女怪は、後庭に房を連ねること数十、容姿端正たんせいな若者を集めて、この中にたし、その楽しみにけるにあたっては、親昵しんじつをもしりぞ
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
罪悪がちて来ると、隣家の火災で10395
つるにか、くるにか。
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
およそはこうと予期されていたことではあったが、決定と分ると、誰の眉にも、一層な明るさと、前途への意気がちて見えた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
若々とした武蔵野に復活の生気があふれる。色々の虫が生れる。田圃たんぼに蛙が泥声だみごえをあげる。水がぬるむ。そろ/\種籾たねもみひたさねばならぬ。桑のがほぐれる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
綏々すいすいとして蕩たることあり、うずら奔々ほんほんとして良なし、悪貫已につ。罪名宥さず。陥人の坑、今よりち満ち、迷魂の陣、此より打開す。双明の燈を焼毀しょうきし、九幽の獄に押赴おうふす。
牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
日の出る方をもとつ国、清い霊魂の行き通う国、セヂの豊かにあふれて、惜みなくこれを人間にわかとうとする国と信じていたとしたら、それこそは我々の先祖の大昔の海の旅を
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
詛言のろいごとを言つて、「この竹の葉の青いように、この竹の葉のしおれるように、青くなつて萎れよ。またこの鹽のちたりたりするように盈ち乾よ。またこの石の沈むように沈み伏せ」
階を登れば老侠客莞爾くわんじとして我を迎へ、相見て未だ一語をはさゞるに、満堂一種の清気てり。相見ざる事七年、相見る時ににはかに口を開き難し、斯般このはんの趣味、人に語り易からず。
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
語られざる哲学が求める真理は全人格が肯定しまた全人格が喜ばしさにあふれつつ服従する生ける真理である。それは私たちにとって律法ではなくして愛の対象となるような真理である。
語られざる哲学 (新字新仮名) / 三木清(著)
蕭々しょうしょうたる白髪 すでこうべつ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
うつわちた。
「ひんがしの、空の曠野ひろのを、ながむれば——むらさきの、雲はたなびき——春野の駒か、霞むは旗か、つわものばらの、つところ……」
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
最初は途切れ/\に、あとは次第に調子づいて、ちた心を傾くる様に彼は熱心に話した。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
月のけを目標とした太陰暦の時代には、朔日くらい目に立たぬものはなかったろう。よほどそのつもりで気をつけておらぬと、今日から月がかわるということを知らずにいる。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「この竹葉たかばの青むがごと、この竹葉のしなゆるがごと、青み萎えよ。またこの鹽のるがごと、盈ちよ。またこの石の沈むがごと、沈み臥せ」とかくとこひて、へつひの上に置かしめき。
直接に痛痒つうやうを感ぜざればとて、遠大なる事業をしりぞくべきにあらず、況んや欧洲のみに戦争の毒気つるにあらずして、東洋も亦た早晩、修羅しゆらちまたと化して塵滅するの時なきにしもあらず
一種の攘夷思想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
母なる人が、青梅あおうめにあたって、月たぬうちに早産したせいだとか。——いわゆる月足らずの子であったとみえる。
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ウィリヤム・テルの如き代表者の上に不朽なる気禀きひんをあらはし、忠節にれる時代には楠公なんこうの如き、はた岳飛、張巡の徒の如き、忠義の精気にちたる歴史的の人物を生ずるに至るなり。
徳川氏時代の平民的理想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
ここに大后は、御綱栢を御船に積みてて還りいでます時に、水取もひとりの司に使はゆる、吉備の國の兒島の郡の仕丁よぼろ、これおのが國に退まかるに、難波の大渡に、後れたる倉人女くらびとめの船に遇ひき。
社会は不幸悲惨をもってちているかのごとく印象せられるが、百分率からいうと九十八九の家庭では、女は平穏無事に小さな世事に屈托くったくし、そうしてただ少しずつ学校で教えられたことを忘れて
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
いかに和議は成っても、あふるる春光と、平和はうたわれても、ここの地上は、四十年以来、互いに父祖の代からしのぎけずり合って来た敵地である。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は「時」にあざむかれ尽くして古時いにしへを思ひ、これは「時」に弄せらるゝを知らずして空望を懸く。気ち骨かたきものすら多くは「時」の潮流に巻かれて、五十年の星霜急箭きふせんの飛ぶが如くに過ぐ。
徳川氏時代の平民的理想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
事実、今ほど幸福にたされている時はない。訴訟に勝って、彼が、郷土に帰って以来、彼の人望は、郷党たちから、いやが上にも高められている。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
天地あめつちつてふ精も近よれよ
北村透谷詩集 (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
このたのしい平和にちた地上のどこにそんなあぶないことが起っているのかと、むしろ不審にたえぬらしい、おん目をしばだたかせているのだった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
董卓が殺されてからは、天の奇瑞きずいか、自然の暗合か、数日の黒霧も明らかにれ、風はんで地はなごやかな光にち、久しぶりに昭々たる太陽を仰いだ。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夜来やらいの雨に、は、加茂の小石小石の水陰みずかげから、東山のいただきまで、いちどに春をちみなぎらした。いま。
殺気満ちつ中を、歩々、水の如くすすんで、周瑜しゅうゆの祭壇に到るや、その前にぬかずいて、やや久しく黙拝していたが、やがて携えてきた酒、その他の種々くさぐさを供え
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
工匠たくみらは工匠たちと、商人あきゅうどは商人たちと——またその家族たちと——人々はこぞって親鸞の徳をたたえ、国主の善政に感謝し、法悦の諸声もろごえは、天地あめつちちあふれていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
本懐ほんかいのほどを洩らし、同時に側臣たちへも精勤をうながしたとのことであるが、春潮ちて船出を想うような彼の心事は、まさに、成るも成らぬも、われ世に会せりとして
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御城下の田や山で、この頃よくきく歌は、光秀様の善政を謳歌おうかし、明智家の開運をことほぐ声だった。実際、領内の御政治は、非難のしようもないほど、行届いて、平和にちていた。
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてむろん、神学生の今村に対して、ふたりの眼は、感謝にちあふれていた。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)