おわ)” の例文
さて今既に印刷しおわっているファウスト考には、右の第一部、第二部の正誤表を合併して、更に訂正を加えて添えてあるのである。
不苦心談 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
かつまたこの代赭色の海を青い海に変えようとするのは所詮しょせん徒労とろうおわるだけである。それよりも代赭色の海のなぎさに美しい貝を発見しよう。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
街のあかりに薄く紅紅あかあかと映えてゐる潤んだ夜空に眺め入り、又その奥に何か震へる明日の心を探しはじめる、今日もおわれり、と思ひながら……。
海の霧 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
き大いにその妙を得、大抵両三人、同じく上り、会読かいどくしながらこれをき、『史記』など二十四葉読む間に米しろおわる、また一快なり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
相伝ふ、昔はその民家の悪気を追ふとて、を二口合せて、獅子の頭に擬似して戸々を巡り、その祭りおわるときは、燎火にて焼棄やきすてたるなりと。
獅子舞雑考 (新字新仮名) / 中山太郎(著)
... とてもかくてもこの外に、鼠をさがらんにかじ」ト、言葉いまだおわらざるに、たちまち「あっ」と叫ぶ声して、鴨居かもいより撲地はた顛落まろびおつるものあり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
そして、舟をゆくままにまかしておくと、いつの間にか遊びがおわって、舟は元の処に帰って船がかりをするのであった。
織成 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
其夜演奏がおわって劇場を出ると、堀端からはハーモニカや流行唄が聞え、日比谷の四辻まで来ると公園の共同便所から発散する悪臭が人の鼻を衝く。
帝国劇場のオペラ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
鶴しからば競争をって見ようと言うと蟹が応じたので二人一斉に一、二、三と言いおわって鶴が一目散に飛び出す
ほとんど無我夢中で飲みおわるや否や、ごめん、とも言わずに、次のお客の色黒く眼の光のただならぬのが自分を椅子から押しのけて割り込んで来るのである。
禁酒の心 (新字新仮名) / 太宰治(著)
さとったところを「一生参学の大事おわれり」(生涯の修業の大目的が達せられたということ)とか、「桶底打破つうていたは」(迷いの桶の底を抜くということ)とか言って
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
兄が御遺族の嘱託によって、三月から筆を執って『西周伝にしあまねでん』を草しおわったのはその年の十月中旬です。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
船内灯火ことごとく消えて、僅かに星明りにてペンを走らすのみ。余が妻は嬰児を抱きて、石像の如く余が傍らに立てり。相顧みて千万無量の微笑、最早や凡べてはおわんぬ。
沈黙の水平線 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
陳の一言がおわるか畢らないかに、音楽の声が舟をゆるがすように起った。歌の声と笙や笛の音が入り乱れて騒がしくなって、もう話も笑声も聞くことができなかった。
西湖主 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
本尊の開眼会かいげんえは持統女帝の晩年、薬師寺伽藍の完成は文武帝の初年である。しかしこの本尊の鋳造の仕事は、『薬師寺縁起』にある通り、天武帝崩御前におわっていたらしい。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
めらめらと燃えあがり、燃えおわった後の、また燃えなおしの、めらめらの、今も僕を追ってくる、この執拗しつようほのおは僕にとって何だったのか。僕は汽車から振落されそうになる。
鎮魂歌 (新字新仮名) / 原民喜(著)
匡房が続往生伝には、子息の冠笄かんけいわずかおわるに及んで、遂に以て入道す、とあるばかりだ。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
大鞆は心の底にて「ナニ生意気な、人を試すなどと其手に乗る者か」と嘲りおわッて「そんなら本統ほんとうの所ろアレは何の傷だ(谷)夫は未だ僕にも少し見込が附かぬがまあ静かに聞く可し、 ...
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
俺はすでに不老長生ふろうちょうせいの法をおわり、雲に乗り風にぎょし一瞬に十万八千里を行く者だ。
ようやくそれをおわり、こんどは自分が何か言わなければならない番になったけれど
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
けだし炎天に人をせて歩むこと故、馬もいたく疲れて道はかどらず、毛は汗によごれて如何にも見苦しきさまを言へるなり。一句吟じおわれば炎天に人馬の疲労せしさま見るが如し。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
禿げ髪無く、貝螺ばいら体に附きそのいまえず、前年たまたま海底に遊び竜宮に進み、食をたまはるに塩螺類をもってすと、言ひおわつてくもの色なり。是に於て人始めて儀来婆ぎらいばばと称す。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
おれはどうしても言わずに置こうと思ったのだ。マリイ。聞いてくれ。もう跡たった一年だそうだ。それでおしまいだというのだ。」言いおわって男はまた声を立ててはげしく泣き出した。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
古来の俳優はただ長吉と小梅との早替りを以て能事おわれりと心得たるが如し。
両座の「山門」評 (新字旧仮名) / 三木竹二(著)
それが出来ましたなら、現代人の芸術の能事のうじおわれりではございますまいか。
彼女にとつてそれが恋の死ぬばかりの快よさの全部であつた。定はこの様な花子の前に俘囚ふしゅうのやうに盲従しなければならない自分の位置を間もなく知つた。夏になり、やがて暦のうへでの夏がおわつた。
水に沈むロメオとユリヤ (新字旧仮名) / 神西清(著)
たちまちにして読みおわりぬ。余音嫋々じょうじょうとして絶えざるの感あり。天ッ晴れ傑作なり貴兄集中の第一等なりと感じぬ。この平凡なる趣向、卑猥ひわいなる人物、浅薄なる恋が何故に面白きか殆ど解すべからず。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
堂に法華ほっけと云い、石に仏足ぶっそくと云い、とう相輪そうりんと云い、院に浄土と云うも、ただ名と年と歴史をして吾事わがことおわると思うはしかばねいだいて活ける人を髣髴ほうふつするようなものである。見るは名あるがためではない。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
(穴をことごとく揉みおわり、栓をなしたる後、怪しげなる身振にて。)
巡礼がおわって帰るとすなわち家中の神への報告祭があります。
ユタの歴史的研究 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
またたひまに一点の黒影となりおわんぬ。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おわりぬ。
香以はやみに紛れて茶屋へ引き取り、きわにはことばを尽して謝し、「金は店からすぐ届ける」と云いおわって四手よつでに乗り、山城河岸へ急がせた。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その頼みの言葉のおわらないうちに、珊瑚がとばりの中から出て来た。大成はひどくじて、黙って出て帰ろうとした。珊瑚は両手をひろげて出口にたちふさがった。
珊瑚 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
今日一家の主人病に死するや其の葬礼のよく死者生前の意志又は遺族が意向のままに行わるるもの甚稀にして大抵は友人親戚が厚情の犠牲となりおわるを常とす。
偏奇館漫録 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかれども十月十六日に至り、鞠問きくもん全くおわり、奉行は彼を流罪に当るものとなし、案を具えてこれを老中に致す。大老井伊直弼、「流」字をこうして「死」字とす。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
われ汝をして数術の法を知らしめんと欲すと、留まること十五日、昼夜諸の要術を語る、祐法を受けおわり、人をして送り出ださしめ、家に還るを得、大いに卜占を知り
葬儀がおわって漢産は留まり、魚は漢生と玉佩を伴れて出て往ったが、それから帰らなかった。
竹青 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
いわんやその成功をや。李氏又云う。種子は手にあり。唯万里の荒蕪、或は力の及ばざらんをおそる。吾人の肉体、この労に堪うるや否や、憂いなきを得ざる所以ゆえんなりと。言いおわって眉をひそむ。
上海游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ところが案外なもので(えてして僕のやることは失敗におわるものですから)
「思へば憎き彼の聴水、重ねて見当らばただ一噬みと、朝夕あけくれ心をばれども、彼も用心して更に里方へ出でざれば、意恨うらみを返す手掛りなく、無念に得堪えず候」ト、いひおわりて切歯はがみをすれば
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
ここおいて清の独り緋をるを見て之を疑う。ちょうおわる。せい奮躍してを犯さんとす。帝左右に命じて之を収めしむ。剣を得たり。せい志のぐべからざるを知り、植立しょくりつして大にののしる。衆その歯をけっす。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
おわりてねむりに就くころは、ひがし窓の硝子ガラスはやほの暗うなりて、笛の音も断えたりしが、この夜イイダ姫おも影に見えぬ。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
部署既ニおわルヤ出デヽ朝廷わかツ所ノ府県奉職規則ヲ示シカツコレニ告ゲテ曰ク、余東京ヲ発スルノ前幾日、皇上便殿べんでんニ宣光ラヲ引見シ詔シテ曰ク民ハ国ノ本ナリ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
竇は読みおわって顔の色が土のようになった。その時宮女がはしって来て奏聞そうもんした。
蓮花公主 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
と言いおわって死んだ。
美女を盗む鬼神 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
講じおわったのち、貞固はしばら瞑目めいもく沈思していたが、しずかって仏壇の前に往って、祖先の位牌の前にぬかずいた。そしてはっきりした声でいった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
先生ハ博学ニシテ詩ヲ善クス。好ンデ辺事ヲ研覈けんかくシ以テ世用せいようねがヒシガソノ才ヲおわラズシテ没セリ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
老女は聞きもおわらず、窓の戸を開け放ちたるままにて、桟橋さんばしほとり馳出はせいで、泣く泣く巨勢をたすけて、少女を抱きいれぬ。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
描かんとする人物に対して、著作者の同情深厚ならざるときはその制作は必ずうるおいなき諷刺にち、小説中の人物は、唯作者の提供する問題の傀儡かいらいたるにおわるのである。
十日の菊 (新字新仮名) / 永井荷風(著)