さかい)” の例文
阮もみずからそれを誇って、この理をもってすときは、世に幽と明と二つのさかいがあるように伝えるのは誤りであると唱えていた。
千古の恨みを吐き出して其の声は人間のさかいを貫き深く深く冥界と相通ずるかと疑われる様な音である、余は感動せずに聞く事は出来ぬ
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
陸を行けば、じき隣の越中の国に入るさかいにさえ、親不知子不知おやしらずこしらずの難所がある。削り立てたような巌石のすそには荒浪あらなみが打ち寄せる。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
だから作品のすぐれたさかいでは図抜けてすぐれたものが生まれ、書きながした物はそのままに散文とかわりないものになっていた。
我が愛する詩人の伝記 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
君らは水の色を一目見たばかりで、海中に突き入った陸地と海そのもののさかいとも言うべき瀬がどう走っているかをすぐ見て取る事ができる。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
窓の鉄棒を袖口を添えて両手に握り、夢現ゆめうつつさかいに汽車を見送ッていた吉里は、すでに煙が見えなくなッても、なお瞬きもせずに見送ッていた。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
あるいは他より来りてそのさかいを犯し、不平の一点において、かの守旧家と一時の抱合をなすのおそれなしというべからず。
学者安心論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
流をはさむ左右の柳は、一本ごとに緑りをこめて濛々もうもうと烟る。娑婆しゃば冥府めいふさかいに立ちて迷える人のあらば、その人の霊を並べたるがこの気色けしきである。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すなわちこの区切りをさかいとしてその内部が真の果実であって、この果実部はあえてだれも食わなく捨てるところである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
渤海奇毒きどくの書、唐朝官家に達す。なんじ高麗こうらいを占領せしより、吾国の近辺に迫り、兵しばしばさかいを犯す。おもうに官家の意に出でむ。われ如今じょこんうべからず。
岷山の隠士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
徳川家康のさかいへも、ほとんど見さかいなきすがたで侵攻を開始し、まさに、天下再乱の恐慌きょうこうを思う民衆の予想はあたっているかとも思われるばかりであった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
東方が竹町と七軒町のさかいでこの堀が下谷と浅草の界だと思います。七軒町の取っ附きまでが一丁半位、南北は二丁以上、随分佐竹屋敷は広かったものです。
それによってみれば、壁はある大通りかもしくは樹の植わった裏通りと庭とのさかいになってるらしかった。
三途河はにせものの十王経には葬頭河そうずかとも書いてありますが、そんな地名が仏教の方に前からあったわけでなく、そうずかは日本語でたださかいということであったのを
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
牢屋ろうやさかいにして、北は官宅街とし、南に庶民の町屋を営ませた。蝦夷地改め北海道の主都として、面目のために、当地に自費移住するものには家作料を百両貸しあたえた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
今の芝公園と愛宕山あたごやまさかいのところを「切通し」という、昼間からよいの口までは相当賑であったが、夜がけると寂しくなり、辻斬などもしばしば行われた、翁は子供心に
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
石垣いしがき一つさかいにして隣家に留守居する人たちのことは絶えず伊之助の心にかかっていたからで。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その日の焼亡はまことに前代未聞の沙汰さたで、しもは二条よりかみ御霊ごりょうつじまで、西は大舎人おおとねりより東は室町小路をさかいにおおよそ百町あまり、公家くげ武家のやしきをはじめ合せて三万余宇が
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
青い海と青い空とのさかいに、同じような青の上に、白い薄いヴェールをかぶったような、おぼろげなかすんだ色に、大きな島のように浮んでいました。白い雲がいただきの方を包んでいました。
少年と海 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
かかる病なん、ついにその痛むところ、はちすの花の開くがごとくみ崩れて腐り行けば、命幾日もあらずというを聞くにも、今は幾許いくばくならずそのさかいに至らんと思えば、いとど安き心なし。
玉取物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
こんな幻像を夢うつつのさかいに繰り返しながらいつのまにかウトウト眠ってしまう。
病院の夜明けの物音 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
彼女は原っぱのさかいの木戸を押しける。そして、ぐちをしたエルネスチイヌを従えて、はいって来た。生籬いけがきのそばを通る時、彼女はいばらの枝をへし折り、とげだけ残して葉をもぎ取った。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
それで澤山な報酬が得られる仕事とでも云ふのならいけれ共、海とも山とも付かない不安なさかいへ又踏み込んで行つて、結局は何方どつちう向き變つて行くか分らないと云ふ始末を思ふと
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
その頃は、今の芝の公園と愛宕の山とのさかいの所を『切通し』といった。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
声々に、可哀あわれに、寂しく、遠方おちかたかすかに、——そして幽冥ゆうめいさかいやみから闇へ捜廻さがしまわると言った、厄年十九の娘の名は、お稲と云ったのを鋭く聞いた——仔細しさいあって忘れられぬ人の名なのであるから。——
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私は初めて見るその物すさまじい天候に呆気あっけに取られて、運動場のさかいの、たけの高いポプラのこずえが、その白い埃の霧の中に消えているあたりを眺めながら、直ぐにじゃりじゃりと砂の溜ってくる口から
虎狩 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「そんなさかいなんぞがあるものですか。」
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
暇があるからだと云って、長次郎が松葉を敷いてくれたつくばいのあたりを見れば、敷松葉のさかいにしてある、太い縄の上に霜がまだらに降っている。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
この山とあの山とのへだたりの感じは、さかいの線をこういう曲線で力強くかきさえすれば、きっといいに違いない、そんな事を一心に思い込んでしまう。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
水と空のさかいだけが、ぼっと夜明けのように明るいだけだった。夜の海は、真っ暗にえすさんでいる。常でも浪の激しい由比ゆいヶ浜に、こよいは風がある。
日本名婦伝:静御前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
顔に袖を当てて泣く吉里を見ている善吉は夢現ゆめうつつさかいもわからなくなり、茫然として涙はかえッて出なくなッた。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
廊下をさかいとして一つ屋根の下が二階と三階とに建て分けて有るのだ、廊下を奥へ突き当たって左へ曲った所に余り高くないはしごが有って三階へ登る様に成って居る。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
その時両軍の兵士は、この暗い中で、わずかの仕切りをさかいに、ただ一尺ほどの距離を取っていくさをした。仕切は土嚢どのうを積んで作ったとかA君から聞いたように覚えている。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その日の焼亡はまことに前代未聞の沙汰さたで、しもは二条よりかみ御霊ごりょうつじまで、西は大舎人おおとねりより東は室町小路をさかいにおほよそ百町あまり、公家くげ武家のやしきをはじめ合せて三万余宇が
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
たとえば情欲には限りなきものにて、美服美食もいずれにて十分とさかいを定め難し。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
唐の寧王ねいおうちょ県のさかいかりに出て、林のなかで獲物えものをさがしていると、草の奥に一つのひつを発見した。ふたの錠が厳重におろしてあるのを、家来に命じてこじ明けさせると、櫃の内から一人の少女が出た。
仔細しさいに見れば、町というには名ばかりであるが、家々が、木目の白さを競っていた。しかし、官宅の堂々さに比して、東西にくぎる火防線をさかいにした南の町地には、昔のままの草葺くさぶき小屋も雑居していた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
また田立村ただちむらを過ぎてさかいの川で美濃の国の方にはいる方針である。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
下野安蘇あそさかい村大字馬門
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
いわば悠々ゆうゆう閑々と澄み渡った水の隣に、薄紙一重ひとえさかいも置かず、たぎり返ってうず巻き流れる水がある。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「絹買えば白き絹、糸買えば銀の糸、金の糸、消えなんとするにじの糸、夜と昼とのさかいなる夕暮の糸、恋の色、うらみの色は無論ありましょ」と女は眼をあげて床柱とこばしらの方を見る。
一夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
驚いて振り向くと何時からか知らぬが、秀子が次の室と此の室とのさかいに立って、余と権田との争いの様を眺めて居る、余は今まで自分の熱心に心が暗み、少しも気が附かなんだけれど
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
すなわち飢寒と教育と相対あいたいして、このさかいをば決してゆべからざるものなり。
小学教育の事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
嬉しい中に危ぶまれるような気がして、虚情うそ実情まことか虚実のさかいに迷いながら吉里の顔を見ると、どう見ても以前の吉里に見えぬ。眼の中に実情まごころが見えるようで、どうしても虚情うそとは思われぬ。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
当時県吏の権勢はさかんなものであった。成善が東京にった直後に、まだ浦和県出仕の典獄であった優善を訪うと、優善は等外一等出仕宮本半蔵に駕籠かご一挺を宰領させて成善を県のさかいに迎えた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
これは修羅の世を抜けいでて寂光の土にいたるという何ものかのひそやかなあかしなのでもあろうか。それでは自分も一応は浄火のさかいを過ぎて、いま凉道蓮台のかどさきまで辿たどりついたとでも云うのか。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
これまではただ無知で済んでいたのである。それが急に不徳義に転換するのである。問題はひとえに智愚をさかいする理性一遍のかきを乗り超えて、道義の圏内けんないに落ち込んで来るのである。
学者と名誉 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
葉子は一刹那いっせつなの違いで死のさかいから救い出された人のように、驚喜に近い表情を顔いちめんにみなぎらして裂けるほど目を見張って、写真を持ったまま飛び上がらんばかりに突っ立ったが
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
すなわちその分限とは、天の道理に基づき人の情に従い、他人の妨げをなさずしてわが一身の自由を達することなり。自由とわがままとのさかいは、他人の妨げをなすとなさざるとの間にあり。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
これは修羅の世を抜けいでて寂光の土にいたるといふ何ものかのひそやかなあかしなのでもあらうか。それでは自分も一応は浄火のさかいを過ぎて、いま凉道蓮台のかどさきまで辿たどりついたとでも云ふのか。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)