此奴こやつ)” の例文
「ウム。よさそうじゃのう。此奴こやつどもの方針は……国体にはさわらんと思うがのう、今の藩閥政府の方が国体には害があると思うがのう」
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そう法水に宣告されてしまうと、つい今しがた此奴こやつとばかりに肩口を踏みにじった熊城でさえ、そろそろ自分の軽挙が悔まれてきた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
なぐったりったり、散々に責めさいなんだ挙句、あろうことかあるまいことか! しまいには、その坊さんにね、此奴こやつが腰元をそそのかして
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
山は御祭礼おまつりで、お迎いだ——とよう。……此奴こやつはよ、でかきのこで、釣鐘蕈つりがねだけと言うて、叩くとガーンと音のする、劫羅こうら経た親仁おやじよ。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
此奴こやつ、たびたびらんところに現れるくせがある。以後そのようなことのないように、ここでこの世から吹ッ消してしまうからそう思え!」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
橘好則が、平維茂たいらのこれもちの頭をたしかに取って、此奴こやつ万一生きもや返ると鞍の鳥付きに結い付けぬ内は安心出来ぬといったに同じ(『今昔物語』二五)。
此奴こやつは幕府の天文方、此奴こやつに本心を見破られた以上、幕府有司の連中に、告げ口されると思わなければならない。告げられたが最後計画画餅だ。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
浪「いや打ったって致し方がありません罪も報いもない此奴こやつを殺しても仕様がないから、御家来はゞかりだが彼方あっちで手桶を借り水を汲んで来て下さい」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
呑で居るゆゑ後藤も心の中に此奴こやつ勿々なか/\の惡漢なりと思ひければ彌々いよ/\酒興しゆきようさまにもてなし懷中より百兩餘りも有ける胴卷を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
なに、けつげうに吠ゆだと——此奴こいつ生意気をかす、俺を桀のだとは失敬極まる——、此奴こやつめ、ワンワン/\/\
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
「お兄様、面目ない、——私はお前の妹のお元、悪人の手に誘拐かどわかされて、心にも無い妾奉公、親のかたきとも知らずに此奴こやつに身を任せました、兄上様許して——」
禁断の死針 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「……はてな、斬られているようでもないし、体はまだぬくいし、どうして此奴こやつめ、気を失っているのか」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……此奴こやつは口では斯んなことを云ってるが腹の中は斯うだな、ということが、この精神統一の状態で観ると、直ぐ看破出来るんだからね、そりゃ恐ろしいもんだよ。
子をつれて (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
「いえ、いけません。此奴こやつがお刺身をったんです。以後の見せしめに、こうしてやるのです」
しかし無理に押し込んで入れば、なに此奴こやつがという気が起こりやすい。世を渡るには
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
……おくよ、をばかみたゞ一人ひとりしかたまはらなんだのを不足ふそくらしうおもうたこともあったが、いまとなっては此奴こやつ一人ひとりすら多過おほすぎる、りもなほさず、呪咀じゅそぢゃ、禍厄わざはひぢゃ、うぬ/\、賤婢はしたをんなめ!
此奴こやつある日鶏を盗みに入りて、はしなく月丸ぬしに見付られ、かれが尻尾を噛み取られしを、深く意恨に思ひけん。自己おのれの力に及ばぬより、彼の虎が威を仮りて、さてはかかる事に及びぬ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
大親分もいけれども、奉行ぶぎやうや代官を相手にして談判をした末、向ふが承知せぬのを、此奴こやつめといふので生捕りにして、役宅やくたくを焚き、分捕りをしてかへつたといふのでは、余り強過ぎる。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
貴君のお顔を見てゐますのさと言へば、此奴こやつめがとにらみつけられて、おおこわいお方と笑つてゐるに、串談じやうだんはのけ、今夜は様子が唯でない聞たら怒るか知らぬが何か事件があつたかととふ
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そこで此奴こやつは疑わしいという話を仕掛けられて花に花が咲いては困る事が起るであろうからと気遣って、私はじきに話の緒口いとぐちを開きました。それはゲロン・リンボチェの事を言いました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
追い出される時、あたいは云われたんだ(どうも此奴こやつはもう長くはないから)
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
吉村 此奴こやつ、初めからその気でいたのだ。危い、退って見て居れっ!
天狗外伝 斬られの仙太 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
此奴こやつ狡猾ずるい奴だ」と、兵站へいたん係の衣水いすい子、眼玉を剥き出し
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
何處どこやらの骨董こっとうてんみせさきで見たることあり此奴こやつの顏を
河馬 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
「あなた様の太刀先をひっぱずして、庄内川へ飛び込んだ男が、隠密の此奴こやつでございます。川がないから大丈夫で。今度こそお討ちとりなさりませ」
怪しの者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「ヤレヤレ又馬の糞議員共が寄り集まった。此奴こやつ等と見え透いた議論をしなければ日が暮らされぬのか。要するに余計な手数なんだが、馬鹿馬鹿しい」
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
一英人ビル族二人藪の隅の虎王族を詈るを立ち聞くと「此奴こやつおれが豆とあつものと鶏を遣ったに己の水牛を殺しやがった」
言はざれば主税之助は彌々いよ/\怒り此奴こやつ勿々なか/\澁太しぶとき女なり此上は槍玉やりだまあげて呉んずと云ひつゝ三間の大身の槍を追取さや
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
蝦蟇法師は流眄しりめに懸け、「へ、へ、へ、うむ正に此奴こやつなり、予が顔を傷附けたる、大胆者、讐返しかえしということのあるを知らずして」傲然ごうぜんとしてせせら笑う。
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
此奴こやつが跡目相続をすべき奴じゃけれども仕方がないと云うて、十九の時に勘当をされた、丁度三人の同胞きょうだいでありながら、私は出家になり、弟は泥坊根性があり
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
……此奴こやつは口では斯んなことを云つてるが腹の中は斯うだな、といふことが、この精神統一の状態で觀ると、直ぐ看破出來るんだからね、そりや恐ろしいもんだよ。
子をつれて (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
「日本橋浮世小路、いろは寿司方——いろは屋文次、此奴こやつですな。今夜は一つここへ向けましょう」
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ナニ此奴こやつら、服装なりこそうるわしけれ、金持ちでこそあれ、たかの知れたもののみである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
貴君あなたのおかほますのさとへば、此奴こやつめがとにらみつけられて、おゝこわいおかたわらつてるに、串談じやうだんはのけ、今夜こんや樣子やうすたゞでないきいたらおこるからぬがなに事件じけんがあつたかととふ
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
さては此奴こやつみしならんト、思ひひがめつおおいいかって、あり合ふ手頃の棒おつとり、黄金丸の真向まっこうより、骨も砕けと打ちおろすに、さしもの黄金丸肩を打たれて、「あっ」ト一声叫びもあへず
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
椽の下からあらわいでたる八百八狐はっぴゃくやぎつね付添つきそいおれかかとねらうから、此奴こやつたまらぬと迯出にげだうしろから諏訪法性すわほっしょうかぶとだか、あわ八升も入る紙袋かんぶくろだかをスポリとかぶせられ、方角さらに分らねばしきりと眼玉を溌々ぱちぱちしたらば
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
半助 それ、此奴こやつ等を眠らしちまって駆けつけろ!
天狗外伝 斬られの仙太 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
此奴こやつ生意氣なまいき!。』と水兵すいへいさけんだ。
「——此奴こやつな」
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……関係つながりがあるのではあるまいかな? ……いよいよ此奴こやつは逃がせねえ。うむそうだ踏み込んでやろう。有名なうて悪漢わるものであろうとも、たかの知れた盗賊だ。
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
越前守殿此奴こやつ勿々なか/\横道わうだうなりと思はれコリヤ久兵衞其方は去年極月中旬浪人文右衞門事五兵衞の店にて百兩の金を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
此奴こやつが何うしてお若さんを知っておりますかと申しますと、元大工でげすから晋齋のとこへ度々たび/\親方と共に仕事にまいり、お若さんが居なされたを垣間見かきまみたんで
お鉄(此奴こやつあ念を入れて名告なのる程の事ではなかった)は袖屏風そでびょうぶで、病人をいたわっていたのでありますが
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あれは本当の事では御座いませぬ。夢の話をしていたのに此奴こやつが私の頭をなぐったのです」
正夢 (新字新仮名) / 夢野久作萠円(著)
やむをえず鉄器もてその穴を揺り広げやっと捉え得とあるも似た事だが、蜥蜴の腹の麟板は、物にかかる端を具えぬから、此奴こやつはその代り四足に力を込めてその爪で穴中の物に鈎り着くのであろう。
角一 (平松に)此奴こやつ、なんだ?
天狗外伝 斬られの仙太 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
「ヤヤッ! 此奴こやつはっ——!」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
此奴こやつっ』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「財宝を隠匿かくしたが、その時突然勘兵衛めは、伊丹東十郎を穴の中へ突き落とし、『此奴こやつさえ殺してしまえば我らの秘密を知る者はない』と申しおった」
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と驚きました粥河圖書、思うに此奴こやつは我が悪事を知るばかりでなく、女房お蘭を生埋にした事まで知っている上は助けて置かれんとつかに手を掛け、すらりと抜きました。