正宗まさむね)” の例文
咽喉のどしめしておいてから……」と、山西は一口飲んで、隣の食卓テーブル正宗まさむねびんを二三本並べているひげの黒い男を気にしながら
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ところが如何いかに威張っても、正宗まさむねの剣も、鎮西八郎ちんぜいはちろう本間孫四郎ほんままごしろうの様な遠矢とおやも大砲の前にはつまらぬ。親船で軍艦には向えぬ。
吾人の文明運動 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
困って居ると友達が酒飲みに行かんかというから、直に一処いっしょに飛び出した。いつも行く神保町の洋酒屋へ往って、ラッキョをさかな正宗まさむねを飲んだ。
(新字新仮名) / 正岡子規(著)
はまなべ、あをやぎの時節じせつでなし、鰌汁どぢやうじる可恐おそろしい、せい/″\門前もんぜんあたりの蕎麥屋そばやか、境内けいだい團子屋だんごやで、雜煮ざふにのぬきでびんごと正宗まさむねかんであらう。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
質の研究のできていない鈍刀はいくら光っていても格好がよくできていてもまさかの場合に正宗まさむねの代わりにならない。
断水の日 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
正宗まさむねびんが一杯散らかって、空はまだうすあかいのに、足の下には奈良の町のイちらちらして、遠くの方の、ちょうどわたしらのア向うのあたりには
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
大分以前に開かれた文部省の重要美術審査会で、新たに重要美術品に指定された物のうちに、岩倉具栄いわくらともえ氏所蔵の「武蔵正宗まさむね」という名刀が挙げられている。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
則重もまた正宗まさむね門下の傑物だが、今ここに評判に上っているような宝物としては物足りないのであります。
プッツリとばかりも文句無しで自己おのが締めた帯をはずして来ての正宗まさむねにゃあ、さすがのおれもえぐられたア。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それから平貝たいらがいのフライをさかなに、ちびちび正宗まさむねを嘗め始めた。勿論下戸げこの風中や保吉は二つと猪口ちょくは重ねなかった。その代り料理を平げさすと、二人とも中々なかなか健啖けんたんだった。
魚河岸 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
一つ試してお目にかけましょうか。婆やさん、其処そこの棚に一合入の正宗まさむねびんの明いたのがあるね。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
何故なぜ「ビールに正宗まさむね……」のそのいづれかをれなかつたらう』といふがひとつくいである。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
其れが果てると、余は折詰おりづめ一個をもらい、正宗まさむね合瓶ごうびんは辞して、参拾銭寄進きしんして帰った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
当時もこの宿にはざま君も正宗まさむね氏なども来ていて、毎日近くのシャトウやオリーブの林を描きに出かけたものだった。正月だというのに外套がいとうも着ずに写生が出来るのだから結構だった。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
夜番よばんのために正宗まさむねの名刀と南蛮鉄なんばんてつ具足ぐそくとを買うべく余儀なくせられたる家族は、沢庵たくあん尻尾しっぽかじって日夜齷齪あくせくするにもかかわらず、夜番の方ではしきりに刀と具足の不足を訴えている。
どこに隠し持ったか、西京達磨さいきょうだるまばかり正宗まさむね、富五郎の手にぎらりさやを走る。
あの正宗まさむね屋敷という方にあった農家から、捨吉はよく田圃たんぼの道づたいに岡見を見に来た一夏の間を思出すことが出来た。あの稲の葉の茂った田圃の間から起る蛙の声を思出すことが出来た。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
麦酒、正宗まさむね、サンドウィッチ、サイダァ、牛乳、餡パン、マッチ、新聞、——
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
ぬし正宗まさむね、わしアび刀、ぬしは切れても、わしア切れエ——ぬ」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
たまらねえね。こういうなぞたくさんの変事になると、知恵蔵もたくさんあるが、切れ味もまたいいんだから。え? だんな。遠慮はいらねえんだ。ちょっくら小手しらべに、正宗まさむね村正むらまさ、はだしというすごいところを
湯気ゆげなかに、ビール、正宗まさむねびんの、たなひたならんだのが、むら/\とえたり、えたりする。……横手よこて油障子あぶらしやうじに、御酒おんさけ蕎麦そば饂飩うどんまれた……
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
正宗まさむね氏と鍋井なべい氏の絵を見ると、かなり熱心に自分の殻を突き破る事に努力しているという事が感ぜられる。
二科会その他 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
二杯たべて出がけにもう一本正宗まさむねびん熱燗あつかんにつけさせたのを手にげながら饂飩屋の亭主がおしえてくれた渡し場へ出る道というのを川原かわらの方へ下って行った。
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
恋というのは刀と刀とを合せて火花の散るようなものよ、正宗まさむねの刀であろうと竹光たけみつのなまくらであろうと、相打てばきっと火が出る、一方が強ければ一方が折れる分のことだ。
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しがない白浪しらなみの下ッにしろ、剣といえば日本のほこりと合点し、伊勢の玉纏横太刀たまきのたちや天王寺の七星剣などの古事ふるごとはとにかくとして、天国あまくに出現以来の正宗まさむね義弘よしひろ国次くにつぐ吉平よしひら
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分じぶん義母おつかさんに『これから何處どこくのです』とひたいくらゐであつた。最早もう我慢がまんきれなくなつたので、義母おつかさん一寸ちよつたつようたしにつた正宗まさむねめいじて、コツプであほつた。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
保吉は少しからだげ、向うの窓の下をのぞいて見た。まず彼の目にはいったのは何とか正宗まさむねの広告を兼ねた、まだ火のともらない軒燈けんとうだった。それから巻いてある日除ひよけだった。
保吉の手帳から (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
真澄はそれから女を対手あいてにして飲んでいたが、何時いつの間にかねむってしまって、朝早く眼を覚ましてみると、いっしょに寝たはずの女もいなければ、正宗まさむねびんぜんもなにもなかった。
岐阜提灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
例せば井上公使の猟区に出掛けた時の有様を説いて、おのおのが手製の日本料理をこしらへて、正宗まさむねの瓶を傾け、しかもそこに雇ひつけの猟師(独逸人)に日本語を教へてあるので
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
正宗まさむね氏の絵が沢山ある。自分はどうした訳か、この人の使用する青や緑と朱や紅との強い対照の刺戟が性に合わないせいでもあるか、どうも親しみを感じる訳に行かない。
二科会展覧会雑感 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ここに言うホールとは、銀座何丁目の狭い、窮屈な路地にある正宗まさむねホールの事である。
号外 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
客は註文のフライが来ると、正宗まさむねびんを取り上げた。そうして猪口ちょくへつごうとした。その時誰か横合いから、「こうさん」とはっきり呼んだものがあった。客は明らかにびっくりした。
魚河岸 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
すると私の眼に触れたのは、誰かが盛んに喰い荒らし、飲み荒らして行ったらしい正宗まさむねの一升びんと、西洋料理の残骸ざんがいでした。そうだ、そう云えばあの灰皿にも煙草たばこの吸殻が沢山あった。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
日本の正宗まさむねの瓶詰が巴里パリの食卓の上に並べられる日が来ぬとも限らぬ。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
うち女中ぢよちうなさけで。……あへ女中ぢよちうなさけふ。——さい臺所だいどころから葡萄酒ぶだうしゆ二罎にびん持出もちだすとふにいたつては生命いのちがけである。けちにたくはへた正宗まさむね臺所だいどころみなながれた。葡萄酒ぶだうしゆ安値やすいのだが、厚意こゝろざし高價たかい。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「とすると——行平ゆきひら小鍛冶こかじ正宗まさむね、あんな仲間でございますか」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
正宗まさむねがなまくらになったのは悲惨である。
ラジオ雑感 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
『近来の正宗まさむねだろう』
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)