旋風つむじかぜ)” の例文
たまたま画像えぞうをもって来る者があると、必ず旋風つむじかぜが起ってその画像を空に巻き上げ、どこへか行ってしまうといい伝えておりました。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
金井君の唇は熱い接吻を覚える。金井君の手は名刺を一枚握らせられる。旋風つむじかぜのように身をかえして去るのを見れば、例の凄味の女である。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
木の根に縛られている又八と、その又八を三重四重みえよえに黒々と取り巻いて、彼の肉片でも要求しているような群犬の旋風つむじかぜである。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うす陽の街上まちに、小さな旋風つむじかぜが起こって、かわいた馬糞の粉が、キリキリとり糸のようにまっすぐに、家のひさしほども高く舞い立っています。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
旋風つむじかぜのような疾走がようやく終わると、多くの黒い人の群れがおびただしい灯に照らされながら、たちまち私たちの前に立ち現われて来ました。
何とも肚に据えかねる心持になって、居間へ引きかえそうとすると、扉の隙間から廿歳ばかりの娘が、美しい旋風つむじかぜのようになって飛び込んで来た。
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
みるみるうちにその踊が激しくなってきて、はては旋風つむじかぜのようにぐるぐる廻り出した。危いなと思ってると、果して一人足をふみ外して落ちてきた。
神棚 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
そののち、六郎が切通きりどおしの坂を通って、新しい堂の前に往くと、きっと、村雨むらさめが降って来たり、旋風つむじかぜが吹き起ったりした。
頼朝の最後 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それをかぐと葉子の情熱のほむらが一時にあおり立てられて、人前では考えられもせぬような思いが、旋風つむじかぜのごとく頭の中をこそいで通るのを覚えた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
するすると爪立つまだちし上つたが早いか、さつと横倒しに倒れかかつて、つつつと小走りに右へ、麥畠の畔になぐれ込んでしまつた——旋風つむじかぜが卷いたのだ。
旋風 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
十兩にまとめた金を握つて、濱町の吉三郎のところへ驅けて行つた筈の八五郎が、半刻はんときも經たないうちに、面喰つた旋風つむじかぜのやうに舞ひ戻つて來たのでした。
彼は真逆さまに地面にころがりおち、ガンパウダーと、黒馬と、幽霊騎士とは旋風つむじかぜのように通りすぎていった。
勿論もちろん旋風つむじかぜつねとて一定いつてい方向ほうかうはなく、西にしに、ひがしに、みなみに、きたに、輕氣球けいきゝゆうあだか鵞毛がもうのごとく、天空てんくうあがり、さがり、マルダイヴ群島ぐんたううへなゝめ
中にも、ぬしというものはな、主人あるじというものはな、ふちむぬし、峰にすむ主人あるじと同じで、これが暴風雨あらしよ、旋風つむじかぜだ。一溜ひとたまりもなく吹散らす。ああ、無慙むざんな。
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
だが、それでも世間の人々は、此の花粉の旋風つむじかぜを見て胆を潰してゐるんだよ。そんな人達は、それを見て、疫病の前兆だとか此の世の終りだと思つてゐるのだ。
口際に引きひたる壯丁わかものはやうやくにして馬のはやるを制したり。號砲は再び鳴りぬ。こはらちにしたる索を落す合圖なり。馬は旋風つむじかぜの如くはしりて、我前を過ぎぬ。
もし千代子と高木と僕と三人が巴になって恋か愛か人情かの旋風つむじかぜの中に狂うならば、その時僕を動かす力は高木に勝とうという競争心でない事を僕は断言する。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大火が起れば旋風つむじかぜを誘致して焔の海となるべきはずの広場に集まっていれば焼け死ぬのも当然であった。
烏瓜の花と蛾 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
新婦はかごに乗せられ、供の者大勢おおぜいは馬上でその前後を囲んでり出して来る途中、一つの古い墓の前を通ると、俄かに旋風つむじかぜのような風が墓のあいだから吹き出して
遠藤はとうとうたまり兼ねて、火花の旋風つむじかぜに追はれながら、ころげるやうに外へ逃げ出しました。
アグニの神 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
主義の衝突は自然要素の衝突にも似ている。大洋は水をまもり、旋風つむじかぜは空気をまもる。王は王位をまもり、民主政は民衆をまもる。王政たる相対は、共和政たる絶対に対抗する。
ちひさな葬式さうしきながらひつぎあと旋風つむじかぜほこりぱらつたやうにからりとしてた。手傳てつだひ女房等にようばうらはそれでなくても膳立ぜんだてをするきやくすくなくてひまであつたから滅切めつきり手持てもちがなくなつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
滔々とうとうと述べ立てる先生の有様は、宛も気焔を吐きたくて、誰か聞いて呉れる人を待って居たとでもいう風である、余は唯我が心の中は旋風つむじかぜの吹きまくる様な気持で、思いも未だ定まらねば
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
ところがその中尉はもうすっかり戦闘熱にうかされて、彼の頭は旋風つむじかぜのように混乱してしまい、眼の前に*10スヴォロフ将軍の姿でもチラつくように勇躍ゆうやくして、巧名手柄こうみょうてがらに向って突進するのだ。
旋風つむじかぜのやうに駆けて来る。その群が近づいたのを見ると、どれよりもぬきんでゝ、真つ先を駆けてゐるのは、きのふワシリが乗つて来た鼠色の馬である。一歩毎にその馬と外の馬との距離が遠くなる。
平和な田舎家いなかやの庭に不意に旋風つむじかぜが捲いて起りました。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この柵草紙の盛時が、即ち鴎外という名の、毀誉褒貶きよほうへん旋風つむじかぜ翻弄ほんろうせられて、予に実にかなわざるいつわりの幸福を贈り、予に学界官途の不信任を与えた時である。
鴎外漁史とは誰ぞ (新字新仮名) / 森鴎外(著)
今——この松原の中の街道を、その駕が一挺に提燈ちょうちんが三つ四つ、人数が七、八名ばかり一団になって、東寺のほうから旋風つむじかぜみたいに駈けて来るのが見える。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
藤倉草履に砂埃が立って、後から小さな旋風つむじかぜが、馬の糞を捲き上げては消え、消えては捲き上げていた。
外交部長の大村氏と物言ひ掛長の藤井氏とは、その一日自動車を飛ばして、旋風つむじかぜのやうに走り廻つてゐたが、夕方になると、千五百円の小切手を握つて帰つて来た。
旋風つむじかぜのような風が俄かにどっと吹き出して、往来には真っ白な砂けむりが渦をまいて転げまわった。
半七捕物帳:30 あま酒売 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
十両にまとめた金を握って、浜町の吉三郎のところへ駆けて行ったはずの八五郎が、半刻はんとき(一時間)もたないうちに、面喰らった旋風つむじかぜのように舞い戻って来たのでした。
遠藤はとうとうたまり兼ねて、火花の旋風つむじかぜに追われながら、ころげるように外へ逃げ出しました。
アグニの神 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そういう異様な動作を飽かず繰返したのち、今度は突然に身を翻すと、何やら聞きとりにくいことを切れ切れに叫びながら、まるで旋風つむじかぜのように監房から走り出して行った。
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
彼女のかしらはうしろに倒れましたが、その腕はまだわたしを引き止めるかのように巻きついていました。突然に烈しい旋風つむじかぜが窓のあたりに起こって、へやのなかへ吹き込んで来ました。
と、小さな旋風つむじかぜが起ってそれがうっすりとちりを巻きながら、轎夫かごかきの頭の上に巻きあがって青いすだれたれを横に吹いた。簾は鳥の飛びたつようにひらひらとあがった。艶麗えんれいな顔をした夫人が坐っていた。
悪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
色には、恋には、なさけには、其の咲く花の二人をけて、ほかの人間は大概風だ。中にも、ぬしと云ふものはな、主人あるじと云ふものはな、ふちむぬし、峰にすむ主人あるじと同じで、此が暴風雨あらしよ、旋風つむじかぜだ。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
案のじょう、そこへ旋風つむじかぜのようにあばれまわってきた四、五人のさむらいがある。なかでも一きわすぐれた強そうな星川玄蕃ほしかわげんばは、つかつかと鎧屋のそばへよってきた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただひとつの手がかりは、当日の九つ半ごろに酒屋の小僧が浜町河岸を通りかかると、今まで晴れていた空がたちまち暗くなって、俗に龍巻たつまきという凄まじい旋風つむじかぜが吹き起った。
異妖編 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
二人が四人になり、八人になり、十六人になり、忿怒は旋風つむじかぜのように屋敷の中を吹き捲って、命もいらぬと言う血気の武士、とり刀で二三十人、辛くもとざした表門の内に駆け寄ったのです。
礫心中 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
上野へ旋風つむじかぜきながら、灰を流すように降って来ました。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それと共に、り伸ばした物干竿は、忠明の姿を真二つに斬り下げたかのような旋風つむじかぜを起し、忠明のまげのもとどりは、それをわすに急なため、逆立って、ぷつりと、元結もといの根が切れた。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
旋風つむじかぜのように駈け寄って来てお咲を突き飛ばした。
半七捕物帳:06 半鐘の怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
道の雪、降る雪、そこらの屋根の雪が、白毫びゃくごう旋風つむじかぜとなって眼をさえぎる。——ふと、かたわらを見ると、傾いた土の家のかどに、一詩を書いたれんと、居酒屋のしるしの小旗が立っていた。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どこの草葺くさぶき屋根にも、この防風林がつきもので、十ぽう碧落へきらくのほか何ものも見えない平野にあっては、時折、気ちがいのようにやッて来る旋風つむじかぜや、秩父颪ちちぶおろしの通り道のようになっている地形上
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の驚きと共に、駒も驚いて、突然、まっ白な旋風つむじかぜを起して狂奔きょうほんした。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
旋風つむじかぜのなかに龐徳の得物と関羽の打ち振る偃月刀えんげつとうとが閃々と光のたすきを交わしている。両雄の阿呍あうんばかりでなくその馬と馬とも相闘う如く、いななき合い躍り合い、いつ勝負がつくとも見えなかった。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
郎党たちは、そう分っているだけに、何と慰めることばも知らず、黙々と、黒桃花くろつきげの尾や馬蹄にけぶ粉雪こなゆき旋風つむじかぜに、かぶと前立まえだてをうつ向けがちに従って行ったが、そのうちに一ノ郎党、鎌田兵衛正清が
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
道をかえんと駒を返すとそこからもわっと伏兵の旋風つむじかぜが立つ。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
炎と、黒煙と、悲鳴と矢うなりの旋風つむじかぜであった。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)