手鞠てまり)” の例文
花盛りのなしの木の下でその弟とも見える上品な男の子と手鞠てまりをついて遊んでいる若い娘の姿に、阿呆あほうの如く口をあいて見とれていた。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
蝶子さん、だが、弓も張り拡げたまゝでは、ついにゆるみが来てしまいます。手鞠てまりもつき続けていれば、しまいにははずまなくなります。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
脊から腰には二人の唐子が手鞠てまりをついて遊んで居た。藤三は夢幻むげんを追う思いで、今、彼の視野から消えた女体を、もう一度、網膜に描いた。
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
(そうか。それは右門には、よい手鞠てまりが見つかったな。あれはちょうど、鬱気うちきな猫みたいに、いつもひとみ空虚うつろな男だから——)
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
最後は姪のお雪の部屋を調べた時、可愛らしい手箱の中から、かがりかけの手鞠てまりが一つ出たのを、平次は念入に眺めて居ます。
すなわち猫が鼠を捉えて直ちにわず、手鞠てまりにして抛げたりまた虚眠して鼠その暇を伺い逃げ出すを片手で面白そうに掴んだりするがごとし。
ビンツケみたいにネバネバした奴を二三本握り固めて、麻糸でギリギリギリと巻き立てて手鞠てまりぐらいの大きさになったら、それで出来上りだ。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
飯櫃おはちを私の手の届かぬ高い処へ載せておいたり、私を蒲団ふとんの中にくるんで押入れの中に投げ込んだり、ある夜などは私を細曳ほそびき手鞠てまりのようにからげて
父は間もなく用事が出来て行つてしまひ、私も子供心にうれひを長く覚えては居ず、椽先ゑんさき手鞠てまりをついて居り升た。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
「何か、お前が出会でっくわした——黒門に逗留とうりゅうしてござらしゃるわけえ人が、手鞠てまりを拾ったちゅうはどこらだっけえ。」
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お民はそのそばにいておな年齢どしあによめがすることを見ている。周囲には、小娘のおくめも母親のお民に連れられて馬籠の方から来ていて、手鞠てまりの遊びなぞに余念もない。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
おもひまうけずして竜燈をみる事よとて人々しづまりをりしに、酉の刻とおもふ頃、いづくともなくきたりあつまりしに、大なるは手鞠てまりの如く、小なるは雞卵たまごの如し。
貝殻尽しの雛屏風を、膳椀を、画雪洞ゑぼんぼりを、色糸の手鞠てまりを、さうして又父の横顔を、……
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
手鞠てまりの振りから、花笠——それから、手習い、鈴、太鼓……と、呼吸もつがせぬ名人芸に、ただ、うっとりと、舞台を見つめるのみでございましたが、ふと、気づきますと、師匠の新次さまが
京鹿子娘道成寺 (新字新仮名) / 酒井嘉七(著)
へいの隅っこのところまで行ってまた逆戻りをしたり、みぞの中に柿の種子が落ちていたり手鞠てまりがころげ込んだりしているのを見たりなんぞして、行きつ戻りつしているうちに、まだらちがあかない。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
尾根はやせて大きな岩が露出し、黒檜の若木が石楠のように頑強な枝を張って、かさにかかって押し通ろうとする私達を手鞠てまりのように跳ね返す、笹が思い切って深くなる、その中をおずおず下って行くと
秋の鬼怒沼 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
日本の昔でも手鞠てまり打毬だきゅう蹴鞠けまりはかなり古いものらしい。
ゴルフ随行記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
手垢てあかつく君が手鞠てまりのあや糸は赤しとを見えず青しともまた
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
みんなが羽根や手鞠てまりをついていると
とん/\とんとつく手鞠てまり
桜さく島:春のかはたれ (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
もう城太郎は恋ということばを、手鞠てまりのように、受取ったり返したりしていられる相手でなかった。人の恋より、彼自身が、それに悩む年配になっていた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おもひまうけずして竜燈をみる事よとて人々しづまりをりしに、酉の刻とおもふ頃、いづくともなくきたりあつまりしに、大なるは手鞠てまりの如く、小なるは雞卵たまごの如し。
こいつあ、それ、時節が今頃になりますと、よく、この信州路、木曾街道の山家には、暗い軒に、糸で編んで、ぶら下げて、美しい手鞠てまりもつれたように売ってるやつだて。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
豚吉は、何をこの梅干ばばと、馬鹿にしてつかみかかって行きました。ところがその強いこと、橋番のお婆さんはイキナリ豚吉を捕まえますと、手鞠てまりのように河の中へ投げ込んでしまいました。
豚吉とヒョロ子 (新字新仮名) / 夢野久作三鳥山人(著)
しばしありてその岩に手鞠てまりほどにひかるもの二ツならびていできたり、こはいかにとおもふうちに、月の雲間くもまをいでたるによくみれば岩にはあらで大なる蝦蟇ひきがひるにぞありける。
これこいそれは金銀の糸の翼、輝くにじ手鞠てまりにして投げたやうに、空を舞つて居た孔雀くじゃくも、う庭へ帰つて居るの……燻占たきしめはせぬけれど、棚に飼つた麝香猫じゃこうねこの強いかおりぷんとする……
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
とき十二月じふにぐわつなんだけれど、五月ごぐわつのお節句せつくの、これこひそれ金銀きんぎんいとつばさかゞやにじ手鞠てまりにしてげたやうに、そらつて孔雀くじやくも、にはかへつてるの……燻占たきしめはせぬけれど
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
和尚なだれに押落おしおとされ池に入るべきを、なだれのいきほひに手鞠てまりのごとく池をもはねこえて掘揚ほりあげたる雪に半身はんしんうづめられ、あとさけびたるこゑに庫裏くりの雪をほりゐたるしもべらはせきたり
されば水筋みづすぢゆるむあたり、水仙すゐせんさむく、はなあたゝかかをりしか。かりあとの粟畑あはばたけ山鳥やまどり姿すがたあらはに、引棄ひきすてしまめからさら/\とるをれば、一抹いちまつ紅塵こうぢん手鞠てまりて、かろちまたうへべり。
月令十二態 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
亀姫 それよりか、お姉様あねえさま、早く、あのお約束の手鞠てまりを突いて遊びましょうよ。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
色がいいから紅茸べにたけなどと、二房一組——色糸の手鞠てまりさえ随分糸の乱れたのに、就中なかんずく蒼然そうぜんと古色を帯びて、しかも精巧目を驚かすのがあって、——中に、可愛い娘のてのひらほどの甜瓜まくわが、一顆ひとつ
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
御覽ごらんなさい。釣濟つりすましたたう美人びじんが、釣棹つりざを突離つきはなして、やなぎもやまくら横倒よこだふしにつたがはやいか、おきるがいなや、三にんともに手鞠てまりのやうにげた。が、げるのが、もやむのです。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
階子はしごの上より、真先まっさきに、切禿きりかむろの女童、うつくしき手鞠てまりを両袖に捧げて出づ。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
羽子はご手鞠てまりもこの頃から。で、追羽子おいはごの音、手鞠の音、唄の声々こえごえ
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)