とこ)” の例文
「なあ、光ちゃん、この頃あの人ぼんやり気イつき出して来たよって、用心せんとあかんねん。今日はあてがあんたとこい行くわなあ」
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「何でございますか、向うの嘉吉さんのとこの婆さんが気がれて戸外おもてへ飛び出したもんですから、みんなで取押えるッて騒いだんですよ。」
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「何ですとえ、幾程いくら苦しいと云ッて課長さんのとこへはけないとえ。まだお前さんはそんな気楽な事を言ておでなさるのかえ」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
三田の三角のとこの詰らないところ引込ひっこんで、それから此方こっち便たよって来て、誠に私も三年越し喘息で、今にも死ぬかと思うが死なれもし無いで
藤吉がその日仲間の者四五人と一しょにあるとこで一杯やりますと、仲間の一人がなんかのはずみから藤吉と口論を初めました。
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
わかったもんじゃ御座んせんが、それでもその紙が、その黒い髪の毛と一つとこに這入っていたことだけは間違いねえんで……。
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「なにその蔦屋にね、欽吾さんと兄さんが宿とまってるんですって。だから、どんなとこかと思って、小野さんに伺って見たんです」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大石さんのとこへいらっしったの。あなた今時分いらっしったって駄目よ。あの方は十時にならなくっちゃあ起きていらっしゃらないのですもの。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
何しろ新材料はやみみと云うとこで、近所の年寄や仲間に話して聞かせると辰公は物識ものしりだとてられる。迚も重宝ちょうほうな物だが、生憎あいにく、今夜は余り材料たねが無い。
越後獅子 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
「私のとこの小次郎は何と云っても拾い子で心配の度も少いが、あなたの所は血を分けた実子さぞ心配でござんしょうな」
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「や? ……叡山えいざんにいた範宴だ、法然ほうねんのところにかくれて、綽空と名をかえたと聞いたが、こんなとこに住んでいたのか」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「どこへいらしたのよう? そんなとこで何をしてらっしゃるのよう? もうすっかり支度ができましたのよ!」
娘の分まで働いて遣るばかりでなく、朝飯のパンも半分分けてやり、昼飯には屹度何かしらあつたかな物を二銭がとこ買つてやつてゐた。娘は始終一文無しなのだ。
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
「ね、あたしどんなとこへ行くのかしら。」一人のいてふの女の子が空を見あげてつぶやくやうに云ひました。
いてふの実 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
その代りしはき事も二とは下らねど、よき事には大旦那が甘い方ゆゑ、少しのほまちは無き事も有るまじ、厭やに成つたら私のとこまで端書一枚、こまかき事は入らず
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「あんさん、えらい粋なとこに住んだはりまんナ。こゝ、これを囲うたアる家と違いまんのか」
俗臭 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
昨宵ゆうべもね、母が僕にさう云ふんだ。君が楠野さんとこへ行ツた後にだね、「肇さんももう二十三と云へや小供でもあるまいに姉さんが什麽どんなに心配してるんだか、真実ほんたうに困ツちまふ」
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
やさしい京の御方おかたの涙を木曾きそに落さおとさせよう者を惜しい事には前歯一本欠けたとこから風がれて此春以来御文章おふみさまよむも下手になったと、菩提所ぼだいしょ和尚おしょう様にわれた程なれば
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
彼方あなたの一隅には「松公ンとこちやんは朝から酒飲んでブウ/\ばかり、育つてるぢやねエか」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
かねて同所に此店の職人が住で居まして、先日得意先から注文された飾物を其職人にあつらえて置きましたところ、一昨日が其出来あがりの期限ですのに、に入るまで届けて来ませんから
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
塗師屋の主人は、それを手に取って、「オヤこれはうまいもんだ。素晴らしい出来だ。何処どこから来たんだ。誰の作だ」とくと、「それは、何さんのとこの弟子の何さんという人の作だ」
いやおっかアに無理はねい。金公が悪い。金公金公、金公どうしたっていうもんだから、金公もきまり悪く元のとこへ戻ってくると、その始末で、いやはよっぽどの見もんであったとよ
隣の嫁 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
かあさんとこへ行つていらつしやいよう。いらつしやいてばよう。』
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
わたしどうかすると随分ひどいとこに寝るのだから。10790
「はてな、うしてこんなとこへ出て来たらう。」
横浜の叔母さんとこへ遣りませう
雨情民謡百篇 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
牝牛等呑んでるとこへゆく。
それに聞けば課長さんのとこへも常不断じょうふだん御機嫌伺いにお出でなさるというこったから、きっとそれで此度こんども善かッたのに違いないヨ。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「狭いんで驚いちゃ、シキへは一足ひとあしだってめっこはねえ。おかのように地面はねえとこだくらいは、どんな頓珍漢とんちんかんだって知ってるはずだ」
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「僕はちょっとも気イ付かなんだ。………けど、そない云われると、水の前から、えらい馬が合うてるみたいなとこがあったな」
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
兼「いゝえほんの心ばかりで、生憎あいにく今日は持合せがなんですから又出直して参ります、本当にくねえ斯んなとこにお住いで」
そのかはしはことも二とはさがらねど、よきことには大旦那おほだんなあまはうゆゑ、すこしのほまちはことるまじ、やにつたらわたしとこまで端書はがきまい、こまかきことらず
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
私しは氷をたべようと思いましたが一人では余り淋しい者ですから右隣の靴店くつみせ内儀ないぎと左隣の手袋店てぶくろみせの内儀を招きましたところ、二人とも早速さっそくに参りまして十一時過までもこゝに居ました
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
「あたしどんなめにあってもいゝからおっかさんのとこに居たいわ。」
いてふの実 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
『今朝、小宮洋服店の主人が主筆ンとこへ行つたさうだがね。』
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
お仙は俺のとこの女中だが、今じゃアやっぱりお客さんだ。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
わたしもお前さんとこの奉公人に交って顔を出しました。
「こんな末恐ろしい子は、わしがとこへなど置けん」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あなた、そんなとこに寝て……どうなすっ。……」
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はらとこです、はじめてゞすか。』
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
「ええあの表通りの教師のとこにいる薄ぎたない雄猫おねこでございますよ」「教師と云うのは、あの毎朝無作法な声を出す人かえ」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こりゃアお作がおらとこへよこした手紙だが、こんな手紙があったか、困った奴だナア、まアおかゝさん、わしとけへ此の手紙を
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
………何? 行つたとは限らん?………阿呆らしい! 人の家の台所借つて、かしわの肉いたりして、リヽーのとこやなかつたら、何所どこへ持つて行きまんね。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
イと課長さんのとこへも御機嫌ごきげん伺いにお出でお出でと口の酸ぱくなるほど言ッても強情張ッてお出ででなかッたもんだから、それでこんな事になったんだヨ
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
その代りしはき事も二とはさがらねど、よき事には大旦那おほだんなが甘いはうゆゑ、少しのほまちは無き事も有るまじ、やに成つたら私のとこまで端書はがき一枚、こまかき事は入らず
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
『今朝、小宮洋服店の主人が主筆ンとこへ行つたさうだがね。』
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
あ様のを一番とこへ立てて
「いいとこで!」
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「そんな人があるから、いけないんですよ。——それからまだ面白い事があるの。此間こないだだれか、あの方のとこ艶書えんしょを送ったものがあるんだって」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
新「なに、此畜生め、オイ頭のはげてるとこつと、手が粘って変な心持がするから、棒か何かえか、其処そこ麁朶そだがあらア、其の麁朶を取ってくんな」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)