成就じょうじゅ)” の例文
砕いて言えば、願う事の成就じょうじゅするかたちである。商売をすれば当たるし、尋ね物は出るし、待ち人は来るし、縁談はまとまるという。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
強要せられたる結果とは云え、凡人もまたかかる崇高な偉業を成就じょうじゅしうるということは、大きな希望ではないか。大いなる光ではないか。
特攻隊に捧ぐ (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
だが、それがたった一つ残された手段でもあったのだ。それを外にしては、彼は永遠に、彼の恋を成就じょうじゅするすべはなかったのである。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その年の四月、私が四、五年の間ひそかに浅川君兄弟の援助を得て努力してきた「朝鮮民族美術館」の建設がほぼ成就じょうじゅしました。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
すると、「この恋もし成就じょうじゅする時は、大いに恥をく事あるべし」とあったので、彼女は読みながら吹き出した。三沢も笑った。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
憂患ゆうかんと苦悩——貧困、孤独、肉体の弱味、悪徳、情熱、そのほか無数の障害にもかかわらず成就じょうじゅしたものだ、と端的に言明したことがある。
かも一首に「らむ」という助動詞を二つも使って、流動的歌調を成就じょうじゅしているあたり、やはり人麿一流とわねばならない。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
康頼 神をうたがってはいけません。熊野権現くまのごんげん霊験れいげんあらたかな神でございます。これまでかけたがんの一つとして成就じょうじゅしなかったのはありません。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
あるいは自分の呪いを成就じょうじゅさせるために、どこかで自殺したのではないかという説もありますが、確かなことは判りません。
怪獣 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「少々、思いあたることがございます。ですが、その願望が成就じょうじゅした後、私はある男から、去られることはないでしょうか」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
気軽になって、もう、はっきりと、目的成就じょうじゅの一歩手前まで来たように、声さえ出して笑おうとしたのだったが、その瞬間
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
文麻呂 元気を出せ! 清原! 元気を出すんだ! なよたけと貴様の恋は死んでもこのおれ成就じょうじゅさせるぞ!……親父の名誉にかけて俺は誓う!
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
けだし如何なる場合にても、改革は内より成就じょうじゅするあたわず、もし万一内より成就する所あらば、必らず外の勢援あるに拠る、外より圧迫するに拠る。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
もうすでにかたまった彼の腕がどこまで、あんまとして成就じょうじゅできるか。しかもそれよりほかに生きる道はないのである。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
我が願いのかくも満足に成就じょうじゅしたのはまさしく仏陀世尊ぶっだせそん妙光裡みょうこうりに接取せられて居るからであると深く内心に感謝し、紀念のために歌を作りました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
たちまち計画は成就じょうじゅし、マッケンジー始め、英国のナショナル・グラモフォン協会ソサイエティの同人を驚倒せしめたことがある。
しゅうの武王が臣の身として、君主であったいん紂王ちゅうおうを討ったのさえ、天の命ずるところにしたがい、民の与望にこたえれば、事は成就じょうじゅし、天は認めて
義を見ては死を辞せざる、困苦に堪へ艱難かんなんち、初志を貫きて屈せずたわまざる、一時の私情を制して百歳の事業を成就じょうじゅする、これら皆気育に属す。
病牀譫語 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「薩婆訶」は、速疾そくしつとか、成就じょうじゅとか、満足というような意味で、どの真言の終わりにも、たいていついていることばです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
いんさまのおいのちをとって、日本にっぽんくにをほろぼそうとしたわたしのたくらみは、だんだん成就じょうじゅしかけました。それを見破みやぶったのは陰陽師おんみょうじ安倍あべ泰成やすなりでした。
殺生石 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
本望が成就じょうじゅする——そこで何となしに気がわくわくして、これは福松と異なった意味で心が湧き立ってきました。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
重吉はお千代が家をたたんで間借りをしようと言出したので、計画のなかばは既に成就じょうじゅしたような気がした。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それからの人となる発達の道程みちのりも、われわれの先祖がかつてはなはだ困難とした場合、および非常に多くの歳月をついやして成就じょうじゅしたことを、よりわずかの困難と
おさなご (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
一気に繁昌はんじょうおもむいたが、もとよりあまねく病難貧苦を救うて現安後楽の願ひを成就じょうじゅせんとの宗旨しゅうしであれば、やがて江州ごうしゅう伊吹山いぶきやまに五十町四方の地をひらいて薬草園となし
ハビアン説法 (新字旧仮名) / 神西清(著)
私のひとすじの恋の冒険の成就じょうじゅだけが問題でした。そうして、私のその思いが完成せられて、もういまでは私の胸のうちは、森の中の沼のように静かでございます。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
すさまじきまで凝り詰むれば、ここ仮相けそう花衣はなごろも幻翳げんえい空華くうげ解脱げだつして深入じんにゅう無際むさい成就じょうじゅ一切いっさい荘厳しょうごん端麗あり難き実相美妙みみょう風流仏ふうりゅうぶつ仰ぎて珠運はよろ/\と幾足うしろへ後退あとずさ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
右四箇条相背あいそむき候わば、この一大事成就じょうじゅつかまつらず候。しかればこの度退散の大臆病者と同前たるべく候こと。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
すべては行く処へ行きついた。それも単に、復讐の挙が成就じょうじゅしたと云うばかりではない。すべてが、彼の道徳上の要求と、ほとんど完全に一致するような形式で成就した。
或日の大石内蔵助 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
今日と云う今日は日頃の恋が成就じょうじゅしそうであったのに、———現に今しがた、あのひやゝかな髪を撫で、あの柔かな頬をさすった感触が、まだ手のひらに残っているのに
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
自分が偉大になり、自分が成就じょうじゅするのゆえをもって他を騒がし、他をそこねたくはないものだ。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
唯おみきをわたくししょう、不届ふとどきばかりではござりませぬ、貴女様御祭礼の前日夕、おうまやの蘆毛を猿がいて、里方さとかたを一巡いたしますると、それがそのままに風雨順調、五穀成就じょうじゅ
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
のう仮令たとい異国の鬼となるも、こと幸いに成就じょうじゅせば、のう平常の素志も、彼ら同志の拡張する処ならん。まずこれについての手段に尽力し、彼らに好都合を得せしむるにかずと。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
「わはは。当ておるわ、当ておるわ、若い者共、盛んに当ておるわい。いや、事がそう決まらば急がねばならぬ。御老体、先ず事はなかば成就じょうじゅしたも同然じゃ。御支度さッしゃい」
一定の順序を立てて一歩一歩と着々実行してついに目的どおりに成就じょうじゅするのである。
非凡なる凡人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
漸々だんだん自分の行末いくすえまでが気にかかり、こうして東京に出て来たものの、何日いつ我がのぞみ成就じょうじゅして国へ芽出度めでたく帰れるかなどと、つまらなく悲観に陥って、月をあおぎながら、片門前かたもんぜんとおりを通って
死神 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
それは、たとい私達が社会に理想を持てないとしても、私達自身には私達自身の真の仕事というものがあり得ると考えたことだ。それが成就じょうじゅしようとしまいと私達の関したことではない。
それが善い悪いは別として、そうしなければ大願望が成就じょうじゅしないことだけはたしかである。そういう「事実の方則」がこの書の到る処に強調されているのを見逃すことは出来ないのである。
徒然草の鑑賞 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
個人の智恵や技術だけでは成就じょうじゅの望みがないと思う場合でも、これがただ一つの家だけの私の利益ではなくして、村人むらびと多数のともに切望するところでありますということを明らかにすれば
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
後に改めてその決意が成就じょうじゅしたならば、歌詞を編んで別に添えようと思う。
阿難と呪術師の娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「間根ヶ平で、七ヶ所——牧殿のお力なら、調伏は、成就じょうじゅ致しましょうな」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
これを大方おおかたのよに恋の成就じょうじゅとやいふならん、あいそめてうたがふいと浅し
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
こいつを一番利用してやって、こと成就じょうじゅの暁にはってしまおう。というのが腹黒検事の考えさ。だから、じぶんを隠すためにルチアノを使って、すべてをギャングの仕業らしく見せかけたわけだ。
人外魔境:08 遊魂境 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
私の小心と魯鈍と無能力とを徹底さして見ようとしてくれるものはなかった。それをお前たちの母上は成就じょうじゅしてくれた。私は自分の弱さに力を感じ始めた。私は仕事の出来ない所に仕事を見いだした。
小さき者へ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
どのような天才も習慣によるのでなければ何事も成就じょうじゅし得ない。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
「支那革命は成就じょうじゅしましたが……」
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
「とにもかくにも一つの成就じょうじゅへ!」
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
港八九は成就じょうじゅいたり候得共そうらえども前度せんどことほか入口六ヶ敷候むずかしくそうろうに付増夫ましぶ入而いれて相支候得共あいささえそうらえども至而いたって難題至極ともうし此上は武士之道之心得にも御座候得そうらえば神明へ捧命ほうめい申処もうすところ誓言せいげんすなわち御見分のとおり本意ほんいとげ候事そうろうこと一日千秋の大悦たいえつ拙者せっしゃ本懐ほんかいいたり死後御推察くださるべくそうろう 不具ふぐ
海神に祈る (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
彼も御一新の成就じょうじゅということを心がけて、せめてこういう時の役に立ちたいと願ったばっかりに、その職を失わねばならなかった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
他人の出来ぬ事を成就じょうじゅするのはそれ自身において愉快である。われ一箇でも、金田の内幕を知るのは、誰も知らぬより愉快である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「先ごろ、京都みやこへのぼられた真仏しんぶつ御房が、勅額をいただいて参られるころには、伽藍の普請ふしんも、悉皆しっかい成就じょうじゅいたしましょう」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)