怪我けが)” の例文
小指に怪我けがをしてもすぐ蒼くなるくせに、女は、案外、残忍なことだの血を見ることに、男とは違った興味をそそられるものらしい。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「はい、はい」といいながら、お紋は光枝の怪我けがした脚にハンカチを結きつけようとしているのを見て、旦那様はさらに大きな声で
什器破壊業事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
何や……怪我けが貴方あんたは何やかて、美津みいさんは天人や、その人の夫やもの。まあ、二人して装束をお見やす、ひなを並べたようやないか。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「まあま、人は、寄りあうと、理解を失って群れさわぐものじゃ。うっちゃって置きなされ、それより、怪我けがせん算段が肝要じゃて」
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その男は仕合しあわせにも大した怪我けがもせず、瀑布ばくふを下ることが出来たけれど、その一刹那せつなに、頭髪がすっかり白くなってしまったよしである。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかしまたある動物学者の実例を観察したところによれば、それはいつも怪我けがをした仲間を食うためにやっていると云うことです。
手紙 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
投げつけられても、稲の茂った水田みずたの中ですから別に大した怪我けがはなく、暫らくもぐもぐとやって、泥だらけになって起き返ると
「それよりも、お怪我けがが無くて、なによりでした。ほんとうに、」と言いかけて、肩を落して溜息ためいきをつき、それから、顔を伏せたまま
春の盗賊 (新字新仮名) / 太宰治(著)
転げるように駆けこみざま、父に飛びかかって、後ろから抱きとめたため、銃は天井へ向けて発砲されて、幸い誰も怪我けがをしなかった。
さいわい怪我けがもなかったので早速さっそく投出なげだされた下駄げたを履いて、師匠のうちの前に来ると、雨戸が少しばかりいていて、店ではまだあかりいている。
死神 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
そして、それからというもの、部落の馬が、病気をしたり怪我けがをしたりすると、伝平は、仕事を投げ出して飛んで行くのだった。
(新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
そうだ、たとい、軍人さんでなくって、普通にお怪我けがをなさった方にしても、こんなに不自然な、かくされかたをされる筈はない。
香水紳士 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
とうとう怪我けがもさせずに番屋へ追い込んだというでごわして、へ、へ、いまでもこのあたりの一つ話になっているくらいでごわす
私の傷なんか大したことないのですが、先方のお客様と運転手さんとにひどい怪我けがをさせたことは何とも申し訳がございません。
鉄の規律 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
彼は倒れても、物にぶっつかっても、怪我けがをしても、火傷やけどをしても、泣いたことがなかった。ただ自分を害する事物にたいして奮激した。
もらひしにも勝る嬉しさ喜ばしさ何れも怪我けがなき一同は打連うちつれ御門ごもんを出にけり斯て元益は音羽町へ立歸り我家を終了しまひて母の方へ同居なし醫業いげふ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
怪我けがは大したことはありませんが、それでも、旅先で間違があってはならぬと言う母親の心遣から、新婚旅行はそのまま中止になりました。
身代りの花嫁 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
一ばんしんがりの男先生は、怪我けがの日以来ほこりをかぶっている女先生の自転車を押していった。道で出あった村の人も浜までついてきた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
それから病気や怪我けがをしても、少しも弱らずにぐに治ってしまう自癒力じゆりょくともいうべきもの、是らはいずれも近世に入ってひどく退歩した。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
無論大した怪我けがではないと合点して、車掌は見向きもせず、曲り角の大厄難、うしろの綱のはずれかかるのを一生懸命に引直ひきなおす。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
父のこの大怪我けがもばからしい強がりから、爪でひっかかれたのだった。それも猫でも子供でもなく、父の部下のような若い代言人たちだった。
ッちやんは最早もうオイ/\いてばかりゐて、なんにもはないので、怪我けがをしたのかしないのか一かうわけわかりませんでした。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
どこにも怪我けががなくて、足でも顔でも、透き徹るようで……美しいという評判の方でやしたが、まったく綺麗きれいなもんでがした
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
息が切れて走れなくなりました。頭や背中には石を投げつけられて怪我けがをしました。この上つかまったら、どんな目にあわされるかわかりません。
泥坊 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
おおおおみんな止めろ止めろ! こりゃあとても問題にならねえ、普通の旅の人じゃあねえ、怪我けがをするだけ損というものだ。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
得心ずくで任せた顔だから、少しの怪我けがなら苦情は云わないつもりだが、急に気が変って咽喉笛のどぶえでもき切られては事だ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
頭の怪我けがは大した事はないとの事で御座いますが、云う事は辻褄つじつまが合うたり合わなんだりするそうで、道理もっともとも何とも申しようが御座いません。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
あの時、姉たちは運よく怪我けがもなかったが、甥は一寸ちょっと負傷したので、手当を受けに江波まで出掛けた。ところが、それがかえっていけなかったのだ。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
その時は急いで逃げたから人が怪我けがをしたかどうかわからなかった。ところが不思議にも一箇月ばかりたっれがわかった。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
よくも案内を知らないので半分はひ子になりながら、この騒ぎのなかを怪我けがもしないで見てあるくうち、とう/\宮城へ入り込んでしまひました。
拾うた冠 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
木が倒れても、家が焼けても、子供が怪我けがしても、犬が死んでもみな霊魂がしたことにすれば、とにかく説明はつく。
我らの哲学 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
怪我けがもしなかったことを私は安心しましたが、父はこんな突発的な場合にも素早く、馴れたものでそれというと、葛籠つづらの中の売りめを脇にはさんで
それでも怪我けがないのが勿怪もっけさいわいで、大事の顔へきずでも付けられようものなら、取返とりかえしが付きゃアしない。何しろ、お葉とか云う奴は呆れた女だ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「もしか、お怪我けがをなすつたので、人手がお入用でしたら、私、行つて、ソーンフィールド莊からでもヘイからでも、誰かを呼んで參りませうか。」
一方、倒れている人間の方はどうかというと、これはただ恐怖のあまり気を失っただけで、少しの怪我けがもなかった。
虎狩 (新字新仮名) / 中島敦(著)
時には自分でころんで怪我けがをしたり、時には一日中あの船室昇降口室コムパニヨンの片側にある自分の小さい寝床の中に横になっていたり、そうかと思うと、時には
もし妻に怪我けがでもあったのではなかったか——彼れはの消えて真闇まっくらな小屋の中を手さぐりで妻を尋ねた。眼をさまして起きかえった妻の気配がした。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「そうですよ。高野山でがけから落っこちて怪我けがしたですよ。ほらね、足も膝皿ひざさらくじいて一週間もんでもらって、やっと歩けるようになったですよ。」
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その怪我けがをした少女とそれからもう歩き疲れているらしいその妹とを二人、両手に引張ってホテルに向って歩いてゆく彼の方がよほど気が気でなかった。
恢復期 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
さいはひ怪我けがは無かりけれど、彼はなかなかおのれの怪我などより貴客きかくおどろかせし狼藉ろうぜきをば、得も忍ばれず満面にぢて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ところで、にんじんは怪我けがをしたまま生きているやつの、最後の息の根をとめるのである。この特権は、冷たい心の持主であるというところからきている。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
私は舅姑しゅうと郷里きょうりにおりましたから此方こちらでは夫婦差向さしむかいでございましたが二十日ばかり過ぎるとある時良人やどが家の近所で車から落ちて右の腕を怪我けがしました。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
兎も角も眼の悪い重二郎のおふくろ怪我けががあってはならんと、明店を飛出とびだす、是から大騒動おおそうどうのお話に相成ります。
大正十二年の震災に病院は焼けましたが、あの悪いお足であちこちお逃げになったのに何の怪我けがもなくて、本郷森川町新坂上の御親戚に避難せられました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
そんだがこれ、怪我けがつちやえゝまちだから、わし下駄げた穿きながらひよえつところがつただけくびをつちよれたんだなんて
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
もっともその際誰がつぶされたかは解らない。あるいは外にいたものの方がひどい怪我けがをしたかも知れぬ。
地異印象記 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
さはらぬ人にたゝりはない、おのれの気持を清浄に保ち、怪我けがのないやうにするには、孤独をえらぶよりないと考へた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
少々蛮的で相手に怪我けがをさせることもある危険性、結局親父に取りあげられて風呂のたきつけにされたもの。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
寺でも経堂その他の壁は落ち、土蔵にもエミ(亀裂きれつ)を生じたが、おかげで一人ひとり怪我けがもなくて済んだと書いてある。本陣の主人へもよろしくと書いてある。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
風流に作った庭の岩角いわかどに腰をおろしそこねて怪我けがをした時には、その痛みのある間だけ煩悶はんもんをせずにいた。
源氏物語:13 明石 (新字新仮名) / 紫式部(著)