従弟いとこ)” の例文
旧字:從弟
ましてや、梅雪入道ばいせつにゅうどうは、武田家譜代たけだけふだいしんであるのみならず、勝頼かつよりとは従弟いとこえんさえある。その破廉恥はれんちは小山田以上といわねばならぬ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
煖炉ペチカのなかで、コオロギが鳴く。となりの部屋では、ドアごしに、主人と従弟いとこのアファナーシイのいびきが、をおいてきこえる。
ねむい (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「わたしはお上の御用聞きで、この一件を調べに来たのだ。米屋の下総屋の亭主は金右衛門と従弟いとこ同士だというが、全くそうかね」
半七捕物帳:60 青山の仇討 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
をりから、従弟いとこ当流たうりうの一とゝもに、九州地しうぢ巡業中じゆんげふちう留守るすだつた。細君さいくんが、その双方さうはうねて見舞みまつた。の三めのときことなので。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そして出発しようとしてる時に、ひとりの従弟いとこたずねて来たのでそのくわだては行なわれませんでした。今夕従弟は別府を去りました。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
おいが死んだ。従弟いとこが死んだ。私は、それらを風聞に依って知った。早くから、故郷の人たちとは、すべて音信不通になっていたのである。
非常に悪いことではないが、従弟いとこどうしの結婚などはあまりにありふれたことすぎるし、野合の初めを世間のうわさに上されることもつらい。
源氏物語:21 乙女 (新字新仮名) / 紫式部(著)
元旦の登城から八日まで、益村家には客が絶えず、畠中が帰藩の挨拶に来たときも、鵜殿の従弟いとこが二人と、友人たちが五人集まっていた。
滝口 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ここに播磨の国印南郡いなみのこほり七七荒井あらゐの里に、彦六といふ男あり。かれは袖とちかき従弟いとこちなみあれば、先づこれをとぶらうて、しばらく足を休めける。
その晩は叔父と従弟いとこを待ち合わした上に、僕ら母子おやこが新たに食卓に加わったので、食事の時間がいつもより、だいぶおくれたばかりでなく
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
若々しい従弟いとこたち、羽の生えかけた少年たち、それから、寄宿舎住いの眼のぱっちりしたやんちゃ娘たちがいりまじっていた。
何でも三浦の話によると、これは彼の細君の従弟いとこだそうで、当時××紡績会社でも歳の割には重用されている、敏腕の社員だと云う事です。
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「スヤ」と云ふ姓は印度インド人の最も嫌ふ「豚」の印度インド語と似て居るので、印度インドの店は別所と云ふ従弟いとこの姓を用ひて居るさうである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
故小野塚鉄斎の従弟いとこで、鉄斎亡きこんにち、娘の弥生やよいを養女格にひきとって、何かと親身に世話をしている麹町こうじまち三番町の旗本土屋多門つちやたもんであった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
温顔の、それでいて重厚な犯し難い風采である。I公爵の従弟いとこだとも、また人格者だとも私に話してきかした人もあった。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
あっしの叔母が、大旦那の里親だったんで、毎年の出代り時には、今でも叔母の子——あっしの従弟いとこが吾妻屋の奉公人を
お銀のことを表向きにするについて、笹村は自分のところへ出入りしている山内の従弟いとこの吉村によって、ふと山内のことを思い出させられていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
血縁の一人——遠縁のある従弟いとこ——が天文協会にはいったというのを、一大珍事のように語っていた。その従弟は狂人になったとのうわさまでしていた。
従弟いとこの心も自分と同じやうにしげるのためにいためられて居るのであらうと見ては、一番年上の自分が勇気を出して見なければならないと思つたのでせう
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ありていに云うと、要はこの従弟いとこが上海から来てくれる日を、半ばは心待ちにもし、半ばは荷厄介にもしていた。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「まあ何ということでしょう。」と伯母おばは叫んだ。「お前の従弟いとこはお前のようにちゃんとした子ではないんですよ。駅馬車の中で夜を明かそうなんて。」
そしてすしをもちこんだ当人の住所姓名をたずねると、トラ十の従弟いとこで、この先のこれこれの工場に働いている者ですといって、すらすらと答えたんです。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
従弟いとこの寛一君は今まで縁の下の力持ちを勤めていた関係上、時局の進展をあずかり知る権利があった。人間、順境に向うと義理を感じる丈けの余裕が出て来る。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
須利耶さまも従弟いとこさまも鉄砲てっぽうをもったままぼんやりと立っていられましたそうでいったい二人いっしょにゆめ
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
これは私の従弟いとこの千代重が外遊するまで、始終口癖にいっていた言葉と同じである。ふとこの言葉を千代重が囁いたと思うほど、花は従弟の唇を思い出させた。
唇草 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その頃の三四郎の留守宅には、妻の比露子ひろこ従弟いとこに当る及川おいかわというM大学の学生が、月始めからやって来ていた。この男に関しては、私は余り詳しく知らない。
寒の夜晴れ (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
従弟いとことおまっちゃんと三人で、炎天ぼしになって掬ったが、いれものをもたないで、土に掬いあげたのはすぐ消たようにかたまってしまった。三人はつばきをした。
よくしなければいけない。(これは僕の従弟いとこで、——エンフィールド君だ、——ジーキル博士だよ。)
ボイナというぽっちのついた大黒帽だいこくぼう従弟いとこみたいな物をいただき、もっと気取ったやつはカパのなかにギタアを忍ばせたりして、深夜にセニョリタの住む窓の下へ出かける。
そんな従弟いとこの方をお照はとりつくしまがなさそうに見ながら、茶の間へは上ったものの、何処どこへ坐ったらいいかと躊躇ちゅうちょしているようだったが、とうとう三畳の長火鉢の
三つの挿話 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
のぞいて見ると、行儀霰ぎょうぎあられ麻上下あさがみしもを着て居ります、中原岡右衞門なかはらおかえもんと云う物頭役ものがしらやくを勤めた藤原と従弟いとこ同士でございます、別当も付きまして立派なさむらいがつか/\と来ました。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
陵の従弟いとこに当たる李敢りかんが太子のちょうを頼んで驕恣きょうしであることまでが、陵への誹謗ひぼうの種子になった。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
わが留守に浪子は貴族院議員加藤かとうなにがし媒酌ばいしゃくにて、人もあるべきにわが従弟いとこ川島武男と結婚の式すでに済みてあらんとは! 思わぬ不覚をとりし千々岩は、腹立ちまぎれに
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
と云うのは自殺した運河会社社長の従弟いとこであるジェルミノーさんが肺病で死ぬる間際に、警視総監に手紙をおくって、実はあの連判状は自分のしつの金庫内に保管してあるから
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
従弟いとこノ竹内平右衛門ガ娘ヲ、オレノ実娘ニシテ六合忠五郎ト云ウ三百俵ノ男ヘヨメニヤッタ、忠五郎ハモトヨリ弟子故、縁者ニナッタ、竹内ノ惣領三平ガ此年御番入リヲシ
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
茫然として母が袖を顔にあてて泣くのを視ていたが、ふと何だか胸が一杯になって泣こうとしたら、「まあ、彼方あッちへお出でなさい」、と誰だか袖を引張るから、見ると従弟いとこだ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
私と同様出京して正則せいそく英語学校に通っていた従弟いとこが、ある日日本橋を歩いていて握鮓にぎりずしの屋台に入り、三つばかり食ってから、蝦蟇口がまぐちに二銭しかなくて苦しんだ話をしたことがある。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
それから十日とおかばかりして、叔母は私のうちに同居した。私の親類では外に、従弟いとこ貞助さだすけと、三人が出征した。センチ(戦地という言葉をこの頃覚えた)から、時折グンジユウビンが来た。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
遺言でも書いとかない限り、おれの身代はそのまゝ、残らず唯一人の従弟いとこ今田茂七の手にころがり込むんだ。お前は絶対に子供を生まんといふ、そんな厄介なものは欲しくないといふ。
医術の進歩 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
不肖ふしょうながら学資を供せんとの意味を含みし書翰しょかんにてありしかば、天にも昇る心地して従弟いとこにもこの喜びを分ち、かつは郷里の父母に遊学の許可を請わしめんとて急ぎその旨を申し送り
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
主人には、時々便をくれる従弟いとこのところへ行くように、その旅費だけは用意してありますからといいましたが、この不自由な体で行く気はない。お前がする通りにおれもするといいます。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
彼の従弟いとこは少しも蛇を恐れず、杉籬すぎがきからんで居るやつを尾をとって引きずり出し、まわす様に大地に打つけて、楽々らくらくと殺すのが、彼には人間以上の勇気神わざの様にすさまじく思われた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
主公が家にる手紙を出して、之を屋敷に届けて呉れ、親仁おやじう/\伝言をして呉れと云い、又別に私の母の従弟いとこ大橋六助おおはしろくすけと云う男に遣る手紙を渡して、これを六助の処に持て行け
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
もしK市の姉の孫——この姉のむすこはなくなっていた——が手紙のあて名を書いたのだとすると、それがどうしてこれほどまでよく、その子供の父の従弟いとこのに似ているかが不思議であった。
球根 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
家のうしろには流れの速い川があって、日常の生活はこれで足りていた。飲用にもなった。従弟いとこは自分のために、この川へ硝子罎ガラスびんを沈めてはやを取ったり、ざるを持ち出してしじみを拾ったりしてくれた。
由布院行 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
よしよし、強情っぱり、勝手にするがいい。ちゃんと教えてあげたんだからね。お気の毒だが後悔しなさんな。従弟いとこのうちの従弟いとこがせっかくこう言ってるのに、それで取りかえしのつかない罪を
はずれの旦那だんなという人は、おとよの母の従弟いとこであってあざみという人だ。世話好きで話のうまいところから、よく人の仲裁などをやる。背の低い顔の丸い中太ちゅうぷとりの快活で物のわかった人といわれてる。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
その男はヘツケル教授の従弟いとこででもあるやうに安請合やすうけあひに承知した。
さあ、黒い従弟いとこ共、急用だ。お前達は山の大湖おおみずうみに往って
と言うのは、このごろ忙しさに、不沙汰ぶさたはしているが、知己ちかづきも知己、しかもその婚礼の席につらなった、従弟いとこの細君にそっくりで。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)