後戻あともど)” の例文
船問屋ふなどいやの西村から汽船で神戸へ着き、後戻あともどりをして奈良へ参り、奈良と京都の二ヶ所について古美術を視察見学したのでありました。
写真班しやしんはん英雄えいゆうは、すなはちこの三岐みつまたで一自動車じどうしや飛下とびおりて、林間りんかんてふ逍遥せうえうする博士はかせむかふるために、せて後戻あともどりをしたところである。——
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そこをのぼっても自分の室へは帰れないと気がついた彼は、もう一遍後戻あともどりをする覚悟で、鏡から離れた身体からだを横へ向け直した。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
羊と喧嘩 ばかりして居て自分の身体を悪くしてしまっては困るから今日は後戻あともどりをして一つ聞いて見なければならん。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
秀夫は後戻あともどりをして牡蠣船の前からまた新京橋のほうへ往って最初の場所に立って見た。きれいじょちゅうは琵琶を持っていた。
牡蠣船 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
少しゆるんで来た寒気が、また後戻あともどりをして春らしい軟かみと生気とをもたらして来た桜の枝が、とげとげしい余寒の風におののくような日が、幾日も続いた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
工夫詰所を出た森君は後戻あともどりを始めた。すると、来る時には気がつかなかったが、一軒の小さい鍛冶屋かじやがあった。
贋紙幣事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
しばらくして後の方を振りかえって見ると、お宮は本当に後戻あともどりをして、もう向うの方に帰ってゆく様子である。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
そこでペンネンネンネンネン・ネネムは又うやうやしく世界長に礼をして、後戻あともどりして退きました。三十人の部下はもう世界長の首尾がいいので大喜びです。
最初さいしょからもうしきかせたとおり、一ったくらいですぐ後戻あともどりする修行しゅぎょうはまだ本物ほんものとはわれない。』とおじいさんは私達わたくしたち夫婦ふうふむかって諄々じゅんじゅんききかせてくださるのでした。
... 変える事が好きで毎朝料理法が違います。十日まで毎日変って行って十日目にまた後戻あともどり致します」大原「それは大変ですね、十日が間毎日変ったものが食べられますか」
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
友人は余を信ずるを以てあえて余の彼がことばに従わざるを忿いからずといえども、余を愛せざる兄弟姉妹(?)の眼よりは余は聖典の教訓にさからいしもの、基督より後戻あともどりせしもの
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
しかし家へはいりかけると、ふいに後戻あともどりして、停車場へ行き、列車到着の正確な時間を調べた。終わりに家へ帰り、ザロメを呼び、翌日の昼餐について長い間彼女と論じ合った。
こぼれるほどにつたきやく行商ぎやうしやう町人ちやうにんがへりの百姓ひやくしやう乳呑兒ちのみごかゝへた町家ちやうか女房にようばうをさなおとうといた町娘まちむすめなぞで、一かゝつたふねが、おほきな武士ぶしめに後戻あともどりさせられたのを
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
冐險談ばうけんだんをしませうか——今朝けさからはじめて』とつてあいちやんはおそる々々、『でも、昨日きのふにまで後戻あともどりするにはおよばなくつてよ、何故なぜッて、わたし其時そのときにはちがつた人間にんげんだつたのですもの』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
単なる好奇心が少しぐらつきだして、後戻あともどりしてその子供のために扉をしめる手伝いをしてやろうかとふと思ってみたが、あすこまで行くうちには牛乳瓶がもうごろごろと転げ出しているだろう。
卑怯者 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「しかし今晩のうちにも後戻あともどりされることがありえますね」
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
「なんだか道が後戻あともどりをするような気がしますねえ」
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
剣付鉄砲けんつきでっぽうを肩にして調練に三ヶ年の長の月日をやられては、第一技術の進歩をくじき、折角のこれまでの修業も後戻あともどりする。
きしづたひに、いはんで後戻あともどりをて、はし取着とつゝき宿やどかへつた、——これ前刻さつきわたつて、むかごしで、山路やまみちはうへ、あのばあさんのみせはしだつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
忘るべからざる二十四日の出来事を書こうと思って、原稿紙に向いかけると、何だか急に気が進まなくなったのでまた記憶をさかさまに向け直して、後戻あともどりをした。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
『そんなことはいつでもよろしうございます。修行しゅぎょう後戻あともどりがすると大変たいへんでございますから……。』
下僕はその書面と出際でしなに私共が持って来たところの一通の書面——それには総管の印が捺してあります——とを持って、荷物はなし身軽ですから、一散いっさんに走って後戻あともどりをして行きました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
水の汚い小川にかゝつた土橋どばしの上に立つて、小池が來た方を振り返へると、お光の姿が見えなくなつてゐたので、後戻あともどりして探さうとすると、お光は町はづれの小間物屋こまものやに荒物屋を兼ねたやうな店から
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
長谷から三輪へ来たのでは後戻あともどりになる。
こゝ話談はなし後戻あともどりをしました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
うへ、野々宮さんが一家いつか主人あるじから、後戻あともどりをして、再び純書生と同様な生活状態に復するのは、とりなほさず家族制度から一歩遠退いたと同じ事で、自分に取つては
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
イヤイヤ一わせることに、先方むこう指導霊しどうれいとも手筈はずをきめていてある。良人おっとったくらいのことで、すぐ後戻あともどりするような修行しゅぎょうなら、まだとても本物ほんものとはわれぬ。
話がずっと後戻あともどりしますが、今日は少し別のはなしをしようかと思いますが、どうですか。
くつを脱いでこの冷たい川を渡るのは難儀なんぎだなあと考えて居りますと、下僕はまず荷物を先に渡しまたこちらに後戻あともどりをして私を渡してくれましたので、その冷たい水へ入らずにみました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
こんなものに始終気をられがちな私は、さっきまで胸の中にあった問題をどこかへ振り落してしまった。先生が突然そこへ後戻あともどりをした時、私は実際それを忘れていた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
然し代助は此もつともを通り越して、気がかずにゐた。振り返つて見ると、うしろの方にあねあにちゝがかたまつてゐた。自分も後戻あともどりをして、世間並せけんなみにならなければならないと感じた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
見るや否や、二三歩後戻あともどりをして三四郎のそばた。ひと目立めだゝぬ位に、自分の口を三四郎の耳へ近寄せた。さうして何か私語さゝやいた。三四郎には何を云つたのか、少しもわからない。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
医科大学生と間違へてへやの番号を聞いたのかしらんと思つて、五六歩あるいたが、急に気が付いた。女に十五号を聞かれた時、もう一ぺんよし子のへや後戻あともどりをして、案内すればよかつた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
もし左様さうだとすれば、心臓から動脈へが、少しづゝ、後戻あともどりをする難症だから、根治は覚束ないと宣告されたので、平岡も驚ろいて、出来る丈養生に手を尽した所為せゐか、一年許りするうちに
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)