こと/″\)” の例文
旧字:
しかしこれもまた、長吉ちやうきちには近所の店先みせさき人目ひとめこと/″\く自分ばかりを見張みはつてるやうに思はれて、とても五分と長く立つてゐる事はできない。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
良正は高望王の庶子で、妻は護のむすめであつた。護は老いて三子をこと/″\く失つたのだから悲嘆に暮れたことは推測される。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
雪枝ゆきえはハツとせて、いは吸込すひこまれるかと呼吸いきめたが、むね動悸だうきが、持上もちあ揺上ゆりあげ、山谷さんこくこと/″\ふるふをおぼえた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
談話速記にはこと/″\く仮名が使ってあるが、それが二川子爵家の出来事である事は、関係者にとっては余りにも明白だ。
しか博識ものしりの仰しゃる事には、随分拵事こしらえごとも有って、こと/″\あてにはなりませんが、出よう/\と云う気を止めて置きますと、其の気というものが早晩いつか屹度きっと出るというお話
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
この分では天下の田はこと/″\く墓となりさうであるが、いづれも無名卑民の墓であるから十年二十年ののちには大抵畑主はたぬしくはに掛けて崩して仕舞しまつて格別苦情も出ないのだと云ふ。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
などゝ面々めん/\は、創立さうりつさいにはこと/″\未見みけんの人であつたのもまた一奇いつきふべきであります
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
栗山問ふて曰く、綱目を読みしや否や、答へて曰く未だこと/″\く読む能はずと雖も只其大意を領せりと。嗚呼唯大意を領せりの一句即ち襄が終身の読書法也。栗山うなづきて曰く可也。
頼襄を論ず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
が、幾何いくばくもなく、宣教師はキリスト教を伝道して日本を侵略する下心ありとして、家康は、慶長十七年、天下に令して、キリスト教を厳禁し、外国宣教師をこと/″\く海外に追放した。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
而して其のいやしくも鉱毒事件に関する者は信書と印刷物と其の新と旧とを問はずこと/″\く之を押収し去れり。多くの拘引状は尚ほ警官の手に握られてあり。何時、誰れが捕縛し去られんも知るべからず。
鉱毒飛沫 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
哲学の高致を解せざるが故に、愚物を騙罔へんまうして文学をとほざくべしと謂ふ、斯くして一国の愛国心をも一国の思想をも一国の元気をも一国の高妙なる趣味をもこと/″\苅尽かいじんして、以て福音をかんとす
各人心宮内の秘宮 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
日を照りかへして白くきらめく岩の山、見るだに咽喉のんどのいらく土の家、見るものこと/″\く唯渇きに渇きて、旅人の気も遠く目もくらまんとする時、こゝに活ける水の泉あり、滾々こん/\として岩間より湧き出づ。
空は鏡のやうにあかるいのでそれをさへぎつゝみ木立こだちはます/\黒く、星はよひ明星みやうじやうたつた一つ見えるばかりでこと/″\く余りにあかるい空の光にき消され
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
生優しい手段はこと/″\く効を奏せず、いら/\して来た彼等は今は殆ど頭ごなしに押えつけて白状させようとしている。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
時に州を領するの間滅亡する者其数幾許いくばくなるを知らず、いはんや存命の黎庶れいしよは、こと/″\く将門の為に虜獲せらるゝ也。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
爪の間を掃除致すものを持って参り、下女に浴衣を抱えさせてお湯に這入りますのがこと/″\く長い。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
し夫れ環の端なきが如く、繚繞れうぜうとして一個の道理を始より終りまで繰り返へし、秩序もなく、論式もなく、冒頭もなく結論もなく、常山の蛇の首尾こと/″\く動くが如く、其一段
明治文学史 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
……なかで、山高やまかた突立つきたち、背広せびろかたつたのは、みな同室どうしつきやく。で、こゝでその一人ひとり——上野うへのるときりたまゝのちや外套氏ぐわいたうしばかりをのこして、こと/″\下車げしやしたのである。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
れた樹木じゆもくかわいた石垣いしがきよごれた瓦屋根かはらやね、目にるものはこと/″\せた寒い色をしてるので、芝居しばゐを出てから一瞬間しゆんかんとても消失きえうせない清心せいしん十六夜いざよひ華美はでやかな姿すがた記憶きおく
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
写真帳のどの部分からも支倉自身の写真と思われるものはこと/″\く引裂かれているのだった。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
彼は詩に於ても実際脈なり、其詠ずる所こと/″\く取つて以て風土記に代ふべき也。
頼襄を論ず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
双六巌すごろくいはの、にじごと格目こまめは、美女たをやめおびのあたりをスーツといて、其処そこへもむらさきし、うつる……くもは、かすみは、陽炎かげらふは、遠近をちこちこと/″\美女たをやめかたちづくるために、くもうすくもかゝるらし。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
薬石やくせきこと/″\く無用、自ら病を求めて病がおこるのじゃ、其の病を自分手にこしらえ、遂に煩悩という苦悩なやみも出る、これを知らずに居って、今死ぬという間際の時に、あゝ悪いことをした、あゝせつない何う仕よう
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)