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寛
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くつろ
ふりがな文庫
“
寛
(
くつろ
)” の例文
酒肴
(
しゅこう
)
が運ばれて、また娘が給仕に出た、話は途切れがちだったが、席はいつかのびやかにおちつき、いかにも
寛
(
くつろ
)
いだ小酒宴となった。
日本婦道記:小指
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
と云いながら
傍
(
そば
)
へ寄って、源三の
衣領
(
えり
)
を
寛
(
くつろ
)
げて
奇麗
(
きれい
)
な指で触ってみると、源三はくすぐったいと云ったように頸を
縮
(
すく
)
めて
障
(
さえぎ
)
りながら
雁坂越
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
地上は
寛
(
くつろ
)
いだ、幸せな、ひそまりかへつた空氣を一杯に擴げるのであるが、わたしは此の頃の或る日、北津輕郡内の小都會の板柳で
地方主義篇:(散文詩)
(旧字旧仮名)
/
福士幸次郎
(著)
と、これも、みんなに
寛
(
くつろ
)
ぎを勧めでもするやうな、
殊更
(
ことさ
)
らにおどけた調子で、少し離れたところから、ほかの者が、それにつけ加へた。
野の哄笑
(新字旧仮名)
/
相馬泰三
(著)
湯元の温泉に一夜を
寛
(
くつろ
)
ぎ、翌
黎明
(
れいめい
)
爽昧
(
そうまい
)
の湯の湖を右に見て、戦場ヶ原の坂の上に出て、中禅寺湖の方を展望すれば、景観は壮大である。
雪代山女魚
(新字新仮名)
/
佐藤垢石
(著)
▼ もっと見る
「ええ、どうぞもうお気兼ねなく。宅はがさつ者ばかりでござんすから、おもてなしのない代りに、どんなにでもお
寛
(
くつろ
)
ぎ遊ばして」
八寒道中
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
家老や用人たちは、表座敷の方でうち
寛
(
くつろ
)
いでいた。中間や小者や女中などは、台所の次の間で、年に一度の公けの自由を楽しんでいた。
仇討三態
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
しかし、かうして、周囲の誰彼にかかはりなく、雑踏と騒音のなかで、一つ時の
寛
(
くつろ
)
ぎと夢想の自由を得たことはもつけの幸ひであつた。
双面神
(新字旧仮名)
/
岸田国士
(著)
半蔵が寿平次を
寛
(
くつろ
)
ぎの
間
(
ま
)
へ案内して行って見ると、吉左衛門は裏二階から、金兵衛は上の伏見屋の方からそこに集まって来ていた。
夜明け前:02 第一部下
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
それぞれ
御用
(
ごよう
)
が
異
(
ちが
)
うので、
平生
(
へいぜい
)
は
別々
(
べつべつ
)
になってお
働
(
はたら
)
きになり、
偶
(
たま
)
にしか
御
(
ご
)
一
緒
(
しょ
)
になって、お
寛
(
くつろ
)
ぎ
遊
(
あそ
)
ばすことがないと
申
(
もう
)
します……。
小桜姫物語:03 小桜姫物語
(新字新仮名)
/
浅野和三郎
(著)
次の
室
(
ま
)
つき井菊屋の奥、
香都良川添
(
かつらがわぞい
)
の十畳に、もう床は並べて、膝まで沈むばかりの
羽根毛
(
はね
)
蒲団
(
ぶとん
)
に、ふっくりと、たんぜんで
寛
(
くつろ
)
いだ。……
怨霊借用
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
と
敏子
(
としこ
)
が笑ったのは、ついこの間のことのように覚えていたが、僕は今日から冬休みになった。当分
寛
(
くつろ
)
げる。
郁子
(
いくこ
)
も明日きりだ。
親鳥子鳥
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
居間に
寛
(
くつろ
)
いだ大塩中斎は、小間使の持って来た茶を喫し、何か黙然と考えている。怒気と憂色とが顔にあり、思い詰めたような格好である。
前記天満焼
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
わたしも、この立派な老紳士の快い炉ばたに
坐
(
すわ
)
って数分たたないうちに、あたかも自分が家族の一員であるかのように
寛
(
くつろ
)
いだ気分になった。
クリスマス・イーヴ
(新字新仮名)
/
ワシントン・アーヴィング
(著)
私は幾度も入りつけてゐる風呂場で汗を流すと、湯上り姿で、二間の床を背にして食卓の前に
寛
(
くつろ
)
いだ。兄の家の
養嗣子
(
やうしし
)
もそこで
盃
(
さかづき
)
をあげた。
町の踊り場
(新字旧仮名)
/
徳田秋声
(著)
誰ひとり
寛
(
くつろ
)
いだような恰好はしていなかった。命令だから止むを得ずこんなふうにしているのだといったようなようすだった。
地底獣国
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
あっちでの奮闘談をまた繰り返し、彦太郎も、だんだん打ち
寛
(
くつろ
)
いで来て、しまいにはなかなか雄弁になり、いい気になって、喋舌り出した。
糞尿譚
(新字新仮名)
/
火野葦平
(著)
かかる人を父とした者は真に
不憫
(
ふびん
)
なものであり、また父たるその人もゆるりと
寛
(
くつろ
)
ぐ場所も時間もなく、さなきだに
重荷
(
おもに
)
を
荷
(
にな
)
う人生において
自警録
(新字新仮名)
/
新渡戸稲造
(著)
それを今彼等の問答は
無造作
(
むぞうさ
)
に片づけてしまったのだった。ふとその事実に気のついた広子は急に
常談
(
じょうだん
)
を言う
寛
(
くつろ
)
ぎを感じた。
春
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
かくて博士たちは別室へ退いたが、熱い
珈琲
(
コーヒー
)
の一杯、
寛
(
くつろ
)
いだ紫煙の数分間は、老いたる博士の気力をまた癒したのであろう。
ウニデス潮流の彼方
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
今お役済で袴は着けて居りますが座蒲団の上に
寛
(
くつろ
)
いで居て、其の頃の
遠国
(
えんごく
)
の奉行は、黒縮緬に葵の紋の羽織を上から二枚ずつ下すったもので
松の操美人の生埋:02 侠骨今に馨く賊胆猶お腥し
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
わたくしは久し振りに匂い入りの湯にでも浸ったような
寛
(
くつろ
)
ぎを覚え、鼻から息を吸って口からゆるやかにふ——っとそれを吐き出すのでした。
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
私を喜ばす機智の閃きもなく、私を
寛
(
くつろ
)
がす感情のほつれも示さず、ただ単にいつもやって来てはここに坐る退屈な相手だ。
曲者
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
打ち
寛
(
くつろ
)
いだ丹之丞の前には、久し振りの愛妾お勝が精一杯の
粧
(
よそお
)
いを
凝
(
こ
)
らして、旅の疲れ休めの盃をすすめております。
銭形平次捕物控:035 傀儡名臣
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
何の反省もなく、唇を
洩
(
も
)
れた詞。この時、姫の心は、急に
寛
(
くつろ
)
ぎを感じた。さっと——汗。全身に流れる冷さを覚えた。
死者の書
(新字新仮名)
/
折口信夫
(著)
私は
心地
(
こゝち
)
よく
寛
(
くつろ
)
いでゐるやうに見えても、心の中は一向靜かではなかつた。馬車が、此處へ止まつた時、私は、誰か迎へに來てゐることだと思つた。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
連れだって来た供のものも昔の家臣のように
勿体
(
もったい
)
ぶって庭先に控えている。何事も主君を第一にして、それが済まなければ自分らは
寛
(
くつろ
)
げないとする。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
私たちは
寛
(
くつろ
)
いでこの大景に接していた。八ヶ岳をあとにして、諏訪湖に添いゆくころから、空はどんよりとして来た。白いものがちらちら落ちそめた。
雪の武石峠
(新字新仮名)
/
別所梅之助
(著)
「こんなんですけど、
寛
(
くつろ
)
げるかと思って、自分で縫って見たの。それに、
他所
(
よそ
)
へこんなのを頼むとうるさいから。」
機関車
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
千登世は食後の後片づけをすますと、
寛
(
くつろ
)
いだ話もそこ/\に切り上げ暗い電燈を眼近く引き下して針仕事を始めた。
業苦
(旧字旧仮名)
/
嘉村礒多
(著)
しかし、
今朝
(
けさ
)
程から
茄子
(
なすび
)
の黒焼を酒で飲みまして、御覧の通り、妙薬の
鮒
(
ふな
)
を潰して貼っておりますけに、おかげで余程痛みが
寛
(
くつろ
)
いだようで御座います。
ドグラ・マグラ
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
殿中では、何の意味もないにしろ、
鯉口
(
こいぐち
)
を三寸
寛
(
くつろ
)
げれば、直ちに当人は切腹、家は
改易
(
かいえき
)
ということに、いわゆる御百個条によって決まっているのである。
魔像:新版大岡政談
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
「拙者ひとりで寒さ凌ぎをやろうと思うていたところ、折よく分部殿がお見え、それにまた貴殿のおいでで甚だ嬉しい、ゆっくりと
寛
(
くつろ
)
いで行ってくれ給え」
大菩薩峠:11 駒井能登守の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
私は遊びに行つた始めての日、母と娘にかこまれ、家族の一人のやうな食卓で、酒を飲まされて
寛
(
くつろ
)
いでゐた。
二十七歳
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
よほど打
寛
(
くつろ
)
いで話でもする時でなければ、小刀は腰から離す事はない。たとえば人の年忌で法会などをする時は、主客共に上下を着て必ず一刀を帯びている。
鳴雪自叙伝
(新字新仮名)
/
内藤鳴雪
(著)
下宿屋
生活
(
ぐらし
)
より一躍して仮にも一家の
主
(
あるじ
)
となれば
自
(
おのずか
)
ら心
寛
(
くつろ
)
ぎて何事も愉快ならざるはなし、勝手を働くは小山が世話せし
雇婆
(
やといばあ
)
さん、これとて当座の間に合せ
食道楽:春の巻
(新字新仮名)
/
村井弦斎
(著)
椅子にかけている男の膝には、場所柄になく白と黒との
斑猫
(
まだらねこ
)
が一匹丸くなって抱かれていた。この男は打ち
寛
(
くつろ
)
いだ風で、その猫の背を撫で撫で物を云っている。
伸子
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
大いに不機嫌な顔をしながら、豺は自分の衣服を
寛
(
くつろ
)
げて、隣室に入って行ったが、冷水の入っている大きな水差と、洗盤と、一二枚のタオルとを持って戻って来た。
二都物語:01 上巻
(新字新仮名)
/
チャールズ・ディケンズ
(著)
勿論五人の間には昔ながらの親しみと、
寛
(
くつろ
)
ぎとがありました。然し、姿形から云ふともう見違へる程大人びて、腕白な中學時代の面影は殆ど何處にもありませんでした。
S中尉の話
(旧字旧仮名)
/
南部修太郎
(著)
傍
(
そば
)
で見ている奥さんには、その立派な洋服姿が、どうも
先
(
さ
)
っき客の前で勤めていた時と変らないように、少しも
寛
(
くつろ
)
いだ様子がないように思われて、それが気に掛かった。
かのように
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
ここは
寛
(
くつろ
)
ぎの世界である。安らかさの世界である。器は一家の者たちである。否、器なき所にわが家はない。器を愛する者は家に帰ることを好む。器はよき家庭を結ぶ。
民芸四十年
(新字新仮名)
/
柳宗悦
(著)
その日も
蒸暑
(
むしあつ
)
かつた。
凡
(
すべ
)
てに公平なお
天道様
(
てんとうさま
)
は、禅坊主が来たからといつて、
取
(
と
)
つて
置
(
おき
)
の風を御馳走する程の慈悲も見せなかつた。皆は
襟
(
えり
)
を
寛
(
くつろ
)
げて扇をばたばたさせた。
茶話:03 大正六(一九一七)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
室外の空気に頭を
晒
(
さら
)
していた
所為
(
せい
)
か、重かった頭も大分に
軽
(
かろ
)
く
清
(
すず
)
しくなって、胸も
余
(
よ
)
ほど
寛
(
くつろ
)
いで来たから、そのまま枕に就いて
一霎時
(
ひとしきり
)
うとうとと眠ったかと思う間もなく
画工と幽霊
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
彼はやっと出て来たと思って安心した。そして、固くなっていた体を
強
(
し
)
いて
寛
(
くつろ
)
げるようにした。
文妖伝
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
私は
小石川
(
こいしかわ
)
へ引き移ってからも、当分この緊張した気分に
寛
(
くつろ
)
ぎを与える事ができませんでした。私は自分で自分が恥ずかしいほど、きょときょと周囲を
見廻
(
みまわ
)
していました。
こころ
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
それを反て不思議にも私達は通いなれた道でも歩いているような、体まで
寛
(
くつろ
)
いだ心安さと親しさとを
以
(
もっ
)
て
之
(
これ
)
に接し得るのは、
畢竟
(
ひっきょう
)
室堂の影が始終視界を離れない為であろう。
黒部川奥の山旅
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
僅
(
わずか
)
に十坪ぐらいの余地しか使えないのでは、花壇を
拵
(
こしら
)
えるにしても、趣きを出すには
寛
(
くつろ
)
ぎが足りなさ過ぎる。その上いけないことには、その地所は鍵の手に板塀で囲まれていた。
夢は呼び交す:――黙子覚書――
(新字新仮名)
/
蒲原有明
(著)
来客の間にほつと
寛
(
くつろ
)
いだ空気が流れ、直造が袴をさばいて立ち上らうとした時だつた。
医師高間房一氏
(新字旧仮名)
/
田畑修一郎
(著)
と、荒畑は急に
寛
(
くつろ
)
いだ表情を見せながらまるで人が一変したように屈託のない微笑をうかべた。「君のことは堺君から聞いていましたよ、——いや、これは妙なところで会いましたね」
学校騒動
(新字新仮名)
/
尾崎士郎
(著)
充実した
寛
(
くつろ
)
ぎようである。六尺豊かな中肉の体躯を、悠々と部屋の一杯に伸ばしているのが、まるで畳をとおし、階下を通じ、大地の底にしっかり根をおろしたように静かに不壊である。
地上:地に潜むもの
(新字新仮名)
/
島田清次郎
(著)
寛
常用漢字
中学
部首:⼧
13画
“寛”を含む語句
寛衣
寛々
寛容
寛濶
寛大
寛裕
御寛
寛恕
寛文
菊池寛
打寛
寛達
寛永
寛政
俊寛
良寛
寛仮
璃寛
寛仁大度
俊寛僧都
...