場末ばすゑ)” の例文
そこ此処こゝに二三けん今戸焼いまどやきを売る店にわづかな特徴を見るばかり、何処いづこ場末ばすゑにもよくあるやうな低い人家じんかつゞきの横町よこちやうである。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
つぶやいてひと溜息ためいきする。……橋詰はしづめから打向うちむか眞直まつすぐ前途ゆくては、土塀どべいつゞいた場末ばすゑ屋敷町やしきまちで、かどのきもまばらだけれども、それでも兩側りやうがは家續いへつゞき……
月夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しかし本所ほんじよの或場末ばすゑの小学生を教育してゐる僕の旧友の言葉に依れば、少くともその界隈かいわいに住んでゐる人々は子供のかずの多い家ほどかへつて暮らしもらくだと云ふことである。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ひきずりながらあとに從ひ音羽町の七丁目迄來りしが長三郎は此時は頻に腹痛ふくつうなし初めこらへ難なく成しかばかはやいらんと思へども場末ばすゑの土地とてかりんと思ふ茶屋さへあらぬにこうじたり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
づ二だいの三等車とうしやつぎに二等車とうしやが一だいこのだいが一れつになつてゴロ/\と停車場ていしやぢやうて、暫時しばらくは小田原をだはら場末ばすゑ家立いへなみあひだのぼりにはひとくだりにはくるまはしり、はしとき喇叭らつぱいてすゝんだ。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
いつも両側のよごれた瓦屋根かはらやね四方あたり眺望てうばうさへぎられた地面の低い場末ばすゑ横町よこちやうから、いま突然とつぜん、橋の上に出て見た四月の隅田川すみだがは
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
が、目貫めぬきまちぎた、次第しだい場末ばすゑ町端まちはづれの——とふとすぐにおほきやまけはしさかります——あたりで。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
東京の冬は何よりもの茎の色にあらはれてゐる。殊に場末ばすゑの町々では。
都会で (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
あなのやうな眞暗まつくら場末ばすゑ裏町うらまちけて、大川おほかはけた、近道ちかみちの、ぐら/\とれる一錢橋いちもんばしふのをわたつて、土塀どべいばかりでうちまばらな、はたけいけ所々ところ/″\侍町さむらひまち幾曲いくまがり、で
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
この風やこの雨には一種特別の底深そこぶかい力が含まれてて、寺の樹木じゆもくや、河岸かはぎしあしの葉や、場末ばすゑにつゞく貧しい家の板屋根いたやねに、春や夏には決して聞かれない音響おんきやうを伝へる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
もとより以前いぜんから、友造ともざういへは、土地とちでも、場末ばすゑの、まちはづれの、もと足輕町あしがるまちやぶ長屋ながやに、家族かぞく大勢おほぜいで、かびた、しめつた、じと/\したまづしいくらしでたのであるから
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それからまたむかふからわたつててこのはしして場末ばすゑきたなまちとほぎると、野原のはらる。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ちやうどまち場末ばすゑむでる日傭取ひようとり土方どかた人足にんそく、それから、三味線さみせんいたり、太鼓たいこらしてあめつたりするもの越後獅子ゑちごじゝやら、猿廻さるまはしやら、附木つけぎものだの、うたうたふものだの
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
つと、の(おもつた)がえて、まざ/\とうしてものを言交いひかはせば、武藏野むさしのをか横穴よこあなめいた、やま場末ばすゑびたまちを、さぐり/\にかせいで歩行あるくのが、さそはせて、としのやうに
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「こんなかた蕎麥そばはれるかい。場末ばすゑだなあ。」
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)