合点がてん)” の例文
旧字:合點
木戸番と、宿から迎えに出た男衆とが、米友を見かけて、まずお見舞と、申しわけをするような口ぶりが、どうも合点がてんがゆきません。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「それで話が演説調になるのだ、形式的になるのだ、あの厭な上目を使うのは、祈祷をする時の表情だ」と時雄は心の中に合点がてんした。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
吉治 島の人は狐がとりいとるいうけれど、俺は合点がてんがいかんがなあ。狐が木登りするということはきいたことがないけになあ。
屋上の狂人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
絵の具のほうですっかり合点がてんしてよろしくやってくれるのを、自分はただそこまで運んでくっつけてやっているだけのような気がする。
自画像 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
だが、それ程まで洋服が好きなのは、深い理由わけのある事なので、その理由わけを聞いたなら、どんな人でも成程と合点がてんをせずには置かない。
これおちやう母様おつかさんのいふ事も兄様にいさんのおつしやる事もお前は合点がてんかないかい、狂気きちがひやうな娘を持つたわたしなんといふ因果であらうね。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
これはいよいよ父の身の上に何か起ったと合点がてんして、八重も武士の娘、その夜から懐剣を固く抱いて帯もとかずに丸くなって寝る。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
けれども田口ほどの老巧のものに、何で学校を出たばかりの青臭あおくさい自分が、それほど苦になるのか、敬太郎は全く合点がてんが行かなかった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と、ひとり合点がてんをして泣き虫の蛾次郎、せばよいのに性懲しょうこりもなく、また悪戯心いたずらごころをおこして、竹童の後からピタピタとついていった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
川添いの地にいたので、何時いつとなく釣魚ちょうぎょの趣味を合点がてんした。何時でも覚えたてというものは、それに心の惹かれることの強いものである。
蘆声 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
諺を知っている追放人エキスパトリエ仲間は成程彼が珍らしく七月十四日のキャトールズ・ジュイエの祭まで土地に居残るつもりだなと簡単に合点がてんした。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
かの地底の研究所から鉄の窓を開き、厚い硝子ガラス越しにこのかたちを観測していたが、かかる異様な現象のよって起こる訳を合点がてんした。
暗黒星 (新字新仮名) / シモン・ニューコム(著)
かわやへ入って、独りでそっと憤激の熱い涙をしぼり搾りしたものだったが、それには何か自身の心に合点がてんの行く理由がなくてはならぬと考え
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
秀夫は合点がてんが往かなかった。今の婢もそう顔だちの悪い女ではなかったが、あんなつやのないからびたような女ではなかった。
牡蠣船 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
純小説は、文学青年の手習ひみたいなもので、通俗小説に到達する段階にすぎないと、この人達は合点がてんしてゐるらしい。驚くべきことである。
向けるほどに二ツ切りの紙三つに折ることもよく合点がてんしやがて本文通りなまじ同伴あるを邪魔と思うころは紛れもない下心
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
あれは日本人或は日本の文士だけが独り合点がてんの使ひ方である。あのヒポクラテエスの第一アフオリズムには、さう云ふ意味ははひつて居らぬ。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
お菊 はい、よう合点がてんがまゐりました。このうへはどのやうな御仕置を受けませうとも、思ひ残すことはござりませぬ。女が一生に一度の男。
番町皿屋敷 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
あわて者は、肝腎かんじんの宝物に手をふれても、それと気がつかないだろう。まだみゃくがあるにちがいないと、私は合点がてんのいくまで調べる決心をした。
暗号音盤事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それを耳にすれば合点がてんせぬ者は無かったかもしれぬが、歌や文章以外の交通には、何かもう少し覚えやすく、口でしばしば言いやすい言葉が
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「討入はすんだ! それに今ごろここへお出でになったのは?」と、おしおはいよいよ合点がてんが行かなそうに、男を見返した。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
もとより往来しげ表通おもてどおりの事わけても雨もよひの折からとて唯両三日中には鑑札がさがりませうからとのみ如何いかなる訳合わけあいにや一向いっこう合点がてんが行き申さず。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そして、最後に度々念を押しても、彼女が押し黙って答えなかったので、てっきり彼女の罪を肯定したものとひと合点がてんをしてしまったのだった。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「ハテ、拙者にも、とんと合点がてんがゆきませぬ。なれど、萩乃様の包みをひろいましたる以上、入れぬというわけには……」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それであなたが少年のころお父上につれられて巨椋おぐらの池の別荘のまえをさまよってあるかれたわけは合点がてんがゆきました
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
今の新聞雑誌の文は反覆して一事を説明するためその一事をすつかり合点がてんさせるには都合が善いが、その弊は冗長に陥つて人をませる事が多い。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
Yの表情は導かれた部屋へ行つて見てすぐ合点がてんが行つたが、彼はこんなに取散らしてと言ひながら、描きかけてゐた画を手早く取りかたづけるのを
最も早熟な一例 (新字旧仮名) / 佐藤春夫(著)
れが文字とは合点がてんかぬ。二十何字なんじを覚えて仕舞しまうにも余程手間がかかったが、学べば進むの道理で、次第々々に蘭語のつづりわかるようになって来た。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
どうも貴方の御話は私に合点がてんが行きません。だつて、左様さうぢや有ますまいか。なにも貴方等あなたがたのことを私が世間の人に話す必要も無いぢや有ませんか。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
合点がてんがいつたら何事も胸に納めて、知らぬ顔に今夜は帰つて、今まで通りつつしんで世を送つてくれ、お前が口に出さんとても親も察しる弟も察しる
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
平家の一門同じ枕に討死うちじにツてつた様な幕サ、考へて見りや何の為めに生れて来たんだか、一向いつかう合点がてんが行かねエやうだ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
しかし合点がてんのいかぬことであった。本来ならば、修道院ではこの一行を待ち受けているばかりでなく幾分の敬意さえ払って出迎えるべきはずであった。
紅茶の煙のかなたに風炉釜ふろがまの煮えの別天地のあることを、一通り合点がてん行かせる書物としては、おそらくこれを極致とすべきかと、あえて自分は考えるが
茶の本:01 はしがき (新字新仮名) / 岡倉由三郎(著)
流石さすが明治めいぢおん作者さくしや様方さまがたつうつうだけありて俗物ぞくぶつ済度さいどはやくも無二むに本願ほんぐわんとなし俗物ぞくぶつ調子てうし合点がてんして幇間たいこたゝきておひげちりはらふの工風くふう大悟たいご
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
私は二人の結婚が激しい恋愛の後に成立したと聞いていたので、この冷い仲を見て、どうも合点がてんが行かなかった。
血液型殺人事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
否、恋がたきとして競争する必要もないが、吉弥が女優になりたいなどは真ッかなうそだと合点がてんした。急に胸がむかむかとして来ずにはいられなかった。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
そして、相手が何も云わぬのに、ひと合点がてんして、いつか滝人が忘れていった、早鉄漿はやがねの壺に鏡を取り出してきた。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
その時あのギョロリとした眼が一種の潤いを帯び、ふてぶてしい頬に感に堪えぬような表情が浮かんだ。それを見て我々はなるほどと合点がてんが行ったのである。
岡倉先生の思い出 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
女も困ったようなふうはしながらも、さすがに柔らかに寄りかかっているのを見ると、始終このなれなれしい場面の演ぜられていることも中将に合点がてんされた。
源氏物語:28 野分 (新字新仮名) / 紫式部(著)
これはホントにタマゲタ話じゃ。マッタクすごいよ成る程そうかと。お立会いしゅ合点がてんの行くまで。ザット御機嫌伺いまする。又と聞かれぬ地獄のチョンガレ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「それは手落ちだった。予審判事には言ったんだが、尋問中は少なくとも部屋にとどめておくべきだった。予審判事はときどき合点がてんのゆかぬことをやるからな」
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
わたしは、冷静で自制力の強い父が、時々発作的ほっさてき狂暴きょうぼうさを見せることは知っていたが、それにしても今しがた見た光景は、なんとしても合点がてんがゆかなかった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
何処どこ近処きんじょの光りが入ってくる意味にも考えた。そのほかにも色々考えた。しかしうも合点がてんかない。
白い光と上野の鐘 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
けれども、いま考えてみるとそれは独り合点がてんであり、心から清七のためを思ったやりかたではなかった。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
よく友人たち一口ひとくちに「君、それは鼠だろう」とけなしてしまう、成程なるほど鼠のるべきところなら鼠の所業しわざかと合点がてんもするが、鼠のるべからざるところでも、往々おうおうにして聞くのだ
頭上の響 (新字新仮名) / 北村四海(著)
彼はすっかり合点がてんして、「いや、いいんだ、今日あたり君に逢って話そうかと思っていたところだよ。奴も落ち着くところへ落ち着いたらしいんだ。長々ありがとう」
(新字新仮名) / 島木健作(著)
見る人は定めしあの人だから表にまさる裏をつけているだろうと推量すいりょうし、ことさらたずねもせずに独り合点がてんしているに、真相を始めて見て、彼は長日月間我々をあざむいた
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
おじさんは、また、どんな料理りょうりかとおもったのでしょう。合点がてんがいかぬというようなかおつきをして
北風にたこは上がる (新字新仮名) / 小川未明(著)
しばらく手紙を出さなかったところが、落第したために通知が出来なかったものと合点がてんして、「誰でも間違いはあるものだから、もし落第なんかしたのでも気を落さないで」
由布院行 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
だが文字の存在を知らぬ克子には、本を読めばなぜサクラが咲いたというのか合点がてんがいかない。
赤いステッキ (新字新仮名) / 壺井栄(著)