内部なか)” の例文
おりの戸をあけてそっと内部なかにはいると、見かけは鈍重そうな氷原の豹どもも、たちまち牙をきだし、野獣の本性をあらわしてくる。
人外魔境:08 遊魂境 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
硝子の窓から内部なかのぞいてみると、底にはふくよかな脱脂綿だっしめんしとねがあって、その上に茶っぽい硝子くずのようなものが散らばっている。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
……ヘヘ……まだまだビックリなさるお話が御座りまする。その振袖娘の振る骰子が、内部なか錘玉おもりの付いたマヤカシ骰子ざいと言う事実を
窓からは線路に沿った家々の内部なかが見えた。破屋あばらやというのではないが、とりわけて見ようというような立派な家では勿論もちろんなかった。
路上 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
なるほど独身者の侘び住いらしく、三間しかない狭い家の内部なかが、荒れ放題に荒れているのさえ、伝二郎には風流みやびに床しく眺められた。
そして、知らない文字に攻められるのが恐しさに、内部なかをば開けて見ないで、手馴れてゐる自分の書物で蔽うて机の片隅へ押し遣つた。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
「ああ——」とお房は返事をしたが、やがて急に力を入れて、幼い頭脳あたま内部なかが破壊し尽されるまではめないかのように叫び出した。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
日はもう暮れかけていましたが、大屋敷の窓にはまだ鎧戸よろいどが下してありませんでしたので、内部なかの様子をちらと覗くことが出来ました。
しかし外面おもてからたのとはちがって、内部なかはちっともくらいことはなく、ほんのりといかにも落付おちついたひかりが、へや全体ぜんたいみなぎってりました。
懐中鉄梃かなてこを取りだし、器用な手つきで錠をねじ切ると、いきなり懐中電燈で抽斗の内部なかを照らしたが、彼は思わず歓びの吐息をもらした。
空家 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
女博士をんなはかせは困つたなと思つてそのまゝそつと逃げ出さうとしてゐると、内部なかからいて悪戯盛いたづらざかりの女学生が「ばあ」と言つて顔を出した。
内部なか這入はいるに従って闇は益々深かくなり、天井を見ても左右を見ても、無限に厚い岩ばかり、その面には象形文字や鳥獣の姿がってある。
木乃伊の耳飾 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
サト子は、思いきり悪く、町角の歩道に立って考えていたが、あいまいな身振りでドアを押すと、そろりと内部なかへはいった。
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
デパートの内部なかは、いつもはるのようでした。そこには、いろいろのかおりがあり、いい音色ねいろがきかれ、そして、らんのはななどいていたからです。
青い星の国へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
そこで、今度は私が大声にわめいてみた。これなら如何いかに寝込んでいても目を覚ますだろうと思ったが、どうした事か、内部なかからは何の物音も聞えない。
火縄銃 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
内部なかはもぬけの殻だつた! 家ぢゆうに煙が立ちこめて、ただ、まんなかのペトゥルーシャの立つてゐた辺に一やまの灰燼が残つてゐるばかりで、それからは
そしてなほ彼は馬車が空なので内部なかに這入ることを許してくれた。私は這入つた、ドアが閉つて、走り出した。
白粉おしろいに汚れた赤い襟の平常着ふだんぎ雛妓おしやくのやうな姿をしたお光を連れて、愛宕神社あたごじんしやへ行つた時、内部なか空洞うつろになつてゐる大銀杏おほいてふに蜂が巣を作つてゐるのを見付けて、二人ふたり相談の上
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
しかしいつの間にか私の手は青い内部なかの灯が映っている硝子張りの扉を押していた。
世相 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
文身ほりものの様に雲竜うんりゅうなどの模様もようがつぶつぶで記された型絵の燗徳利かんどくりは女の左の手に、いずれ内部なか磁器せとものぐすりのかかっていようという薄鍋うすなべもろげな鉄線耳はりがねみみを右の手につままれて出で来る。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
内部なかは、三、四間もあろうと思われる広さで、非常に沢山の鱒がこもっていた。
幼年時代 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
すると又、突然いきなりふんどし一点ひとつで蚊帳の外に跳出とびだしたが、自分の荷物は寝る時のまんまで壁側にある。ホツと安心したが、猶念の為に内部なかを調べて見ると、矢張変りが無い。「フフヽヽ」と笑つて見た。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
と呼んでみましたが、内部なか洋灯ランプも消えて何の物音もしないのでございます。
蒲団 (新字新仮名) / 橘外男(著)
湿っぽい廊下——内部なかには浅間しい二ツの亡きがらが、お互の喉笛を、掴み合ってころげている、その窓の外で、雪之丞は、思いがけなく闇太郎を発見して、はずかしそうにいうのだった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
至極しごく好い具合です。出血も口元だけです。内部なかの方は何ともありません」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わたしの内部なかで 強気に さういらへするもののこゑがしてゐる
独楽 (新字旧仮名) / 高祖保(著)
魔法つかひ鈴振花すずふりばな内部なかに泣く心地こそすれ春の日はゆく
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「じゃ、あいつら内部なかで何してやがるんだ!」
滔々とうとうと弁じ立てるのだが、その日は法水が草稿を手に扉を開くと、内部なかは三十人ほどの記者達で、身動きも出来ぬほどの雑沓ざっとうだった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
彼は自分の内部なかからいて来るもののために半ば押出されるようにして、隅田川すみだがわの水の中へでも自分の身体を浸したいと思付いた。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
が、ただ、その乾坤二刀の柄の内部なかに秘めらるる孫六水火の秘文状ひもんじょうそれだけ……それだけは、所望でござる! この老骨の命を賭しても!
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
誰人だれむかえにてくれるものはないのかしら……。』わたくしはまるで真暗闇まっくらやみ底無そこなしの井戸いど内部なかへでもおとされたようにかんずるのでした。
そうして右手の取付とっつきの部屋の前まで来ると、そこに今一人待っていた看護婦が扉を開いて、私たちと一緒に内部なかに這入った。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
キャラコさんが、雨戸をガタピシさせていると、また内部なかから、細い弱々しい、茜さんのつぶやくような声が聞えて来た。
岩をり抜いて作られたがんから、獣油の灯が仄かに射し、石竹せきちく色の夢のような光明が、畳数にして二十畳敷きほどの、洞窟の内部なか朦朧もうろうけむらせ
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
独語ひとりごとを言ひ言ひ内部なかに入つて来た。見ると暖炉ストーブ周囲まはりには、先客せんかくがどつさり寄つてたかつて火いきれに火照ほてつた真赤な顔をして、何かがやがや話してゐた。
むすめは、その光線こうせんがどこからどういうふうにもれてくるのであろうかと、おもわず、みせほうっていって、いろガラスでられたまど内部なかをのぞいてみました。
気まぐれの人形師 (新字新仮名) / 小川未明(著)
内部なかで何か故障を起こしたらしく、マズルカが中途で、⦅*4マルボローはいくさに門出せり⦆という歌に変り
内部なかでごと/\する音がして、頭髮が肩まで伸びて垂れ下つて垢だらけの男が、汚れくさつた布子の上へ、犬の皮か何かで拵へた胴着のやうなものを羽織つて、立ち現はれた。
ごりがん (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
ただ一つ濃い闇を四角に仕切ってポカッと起きているのは、厚い煉瓦塀れんがべいをくりぬいた変電所の窓で、内部なかには瓦斯ガスタンクの群像のような油入あぶらいり変圧器が、ウウウーンと単調な音を立てていた。
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その吼声こえと、風のうなりと、樹々を打つ雨の音を聞くと、静かなへや内部なかが一しお暖かそうに思われ、そこにじっともだしている婦人おんなの姿が、何となく懐かしい感じをさえも与えるのであった。
犬舎 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
「林がこの内部なかで寝ているのに間違いはないでしょうね」
火縄銃 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
わたしの内部なかに 揚羽蝶よりも
独楽 (新字旧仮名) / 高祖保(著)
内部なかは、湿っぽい密閉されたへや特有の闇で、そこからは、濁りきっていて妙に埃っぽい、咽喉のどくすぐるような空気が流れ出てくるのだ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
父としての彼が今度のような事件を引き起こして見ると、おのれの内部なかにあふれて来た感動すら彼はそれを説き明かすことができない。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
仮にまたあの家へ行くにしても、何か機械からくりのありそうな影屋敷の内部なかをのぞいて見ることも、何となくお蔦の好奇心をそそのかすのだった。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ものがた良人おっとほうでも、うわべはしきりにこらこらえてりながら、頭脳あたま内部なか矢張やはりありしむかし幻影げんえいちているのがよくわかるのでした。
源内先生も、すこしゾクッとした顔で、恐るおそる喰い合せの悪い門扉の隙間から、内部なかを覗いていたが、とつぜん
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
この時忽然背後うしろの辻堂の扉が、内部なかの方から開けられて、そしてそこから現われ出たのはまだ前髪の若衆である。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
耳と眼をジッと澄まして動静ようすをうかがいますと、この森は内部なかの方までかなり大きな樹が立ち並んでいるらしく、星明りに向うの方が透いて見えるようです。
死後の恋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)