具足ぐそく)” の例文
おりから、望楼ぼうろうの上へ、かけあがってきたのは、とどろき又八であった。黒皮胴くろかわどう具足ぐそく大太刀おおだちを横たえ、いかにも、ものものしいいでたちだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今は主君と先祖の恩恵にて飽食ほうしょく暖衣だんいし、妻子におごり家人をせめつかい、栄耀えいようにくらし、槍刀はさびもぬぐわず、具足ぐそくは土用干に一度見るばかり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
改めらるゝになかには紺糸縅鐵小脾こんいとをどしてつこざね具足ぐそくりやう南蠻鐵桃形なんばんてつもゝなりかぶと其外籠手こて脛當すねあて佩楯はいだて沓等くつとうとも揃へて是ありまたそこかたなに疊紙たゝみの樣なるつゝみあり是を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
煩悩ぼんなう具足ぐそく衆生しゆじやうは、いづれにても生死をはなるる事かなはず、哀れみ給へ、哀れみ給へ。病悪の正因をぬぐひ去り給へ。大日向の慈悲じひを垂れ給へ」
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
彼は指をもって日本製の古き具足ぐそくを指して、見たかと云わぬばかりの眼つきをする。余はまただまってうなずく。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その渦まく煙りのなかに浮き出している円満具足ぐそくのおん顔容かんばせは、やはり玉藻の笑顔であった。阿闍梨は数珠を投げすてて跳り上がりたいほどにいらいらしてきた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しからば善美ぜんびとはなんであるかと反問はんもんするであらう。それしよくくわんしてべたところ同工異曲どうこうゐきよくで、建築けんちくてはめてへば、ぜんとは科學的條件くわがくてきでうけん具足ぐそくとは藝術的條件げいじゆつてきでうけん具足ぐそくである。
建築の本義 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
二十一、程なく小笠原少斎、紺糸の具足ぐそく小薙刀こなぎなたひつさげ、お次迄御介錯ごかいしやくに参られ候。未だ抜け歯の痛み甚しく候よし、左の頬先れ上られ、武者ぶりもいささかはかなげに見うけ候。
糸女覚え書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
しもわれ等が、古代の啓示の矛盾を指摘し、いずれの啓示も、決して円満えんまん具足ぐそくもって任ずるものでないことを告ぐれば、彼等はドグマだらけの神学者の常套語などをやときたりて
それは黒漆くろうるしの胴に金蒔絵きんまきえのある立派な具足ぐそくを着けた武士で、河内介が直覚的に「彼奴あいつだ」と感じたとき、第三弾を放とうとして身構えていたその男は、あわてゝ銃を捨てゝ逃げた。
階段をあがったすぐの所に、まるで生きた人間の様に鎧櫃よろいびつの上に腰かけている、二つの飾り具足ぐそく、一つは黒糸縅くろいとおどしのいかめしいので、もう一つはあれが緋縅ひおどしと申すのでしょうか、黒ずんで
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
やっとのことで、門閥家もんばつかの、領地有りゃうちもちの、としわかい、教育けういく立派りっぱな、何樣なにさま才徳さいとく具足ぐそくしたをとこうもありたいもの、とのぞまるゝとほりに出來上できあがってゐる婿むこさがして、供給あてがへば、ともない
鎧櫃よろいびつがあって、具足ぐそくが飾りつけられてあることに、兵馬は、ちょっと好奇心を起し、まず長押なげしにかけられた薙刀なぎなたから取って、無断に御免をこうむって、さやを外して見たけれども、びてはいるし
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
本来『八犬伝』は百七十一回の八犬具足ぐそくを以て終結と見るが当然である。
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
公儀の御茶壺おちゃつぼ同様にとの特別扱いのお触れがあって、名古屋城からの具足ぐそく長持ながもち十棹とさおもそのあとから続いた。それらの警護の武士が美濃路みのじから借りて連れて来た人足だけでも、百五十人に上った。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
水口の中村先生は近来もっぱら孫子の講釈をして、玄関には具足ぐそくなどがかざってあると云う、問うに及ばず立派な攘夷家である、人情としては是非とも立寄たちよって訪問せねばならぬが、ドウも寄ることが出来ぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
と、具足ぐそくの音をあられのようにさせ、やり陣刀じんとう薙刀なぎなたなど思いおもいな得物えものをふりかざし、四ほうにパッとひらいてりむすんだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人間は煩悩ぼんなう具足ぐそくをそなへてをりますから、私は、どうしても、何かを信じなくては生きては参れません。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
領し物頭役ものがしらやく相勤あひつとめたる大橋文右衞門清長きよながいざ鎌倉かまくらと云ふ時のため武士の省愼たしなみ差替さしかへの大小具足ぐそくりやうぐらゐは所持致し居り候これ御覽ごらん候へと仕舞置しまひおきたる具足櫃ぐそくびつ并びに差替の大小を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あるいは見出したと思った。いつか兄といういかめしい具足ぐそくを着けて彼女に対するような気分に支配され始めた。だから彼といえどもみだりにお秀の前に頭を下げる訳には行かなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「カムサスカ」とこの土地とに大都会出来しゅったいすれば、その勢に乗じ「カムサスカ」より南洋の諸島も開け、「アメリカ」所属の島々までも自ら属し従い、勢い具足ぐそくの日本島となるべきなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
きのうは具足ぐそく開きの祝儀というので、よんどころなしに窮屈な一日を屋敷に暮らしたが、灯のつくのを待ちかねて、彼は吉原へ駕籠を飛ばした。きょうもながしてひる過ぎに茶屋へかえって来た。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
凛々りんりんたる勇姿ゆうし、あたりをはらった。さしも、烏合うごう野武士のぶしたちも、このけなげさに、一てきなみだを、具足ぐそくにぬらさぬものはない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夜番よばんのために正宗まさむねの名刀と南蛮鉄なんばんてつ具足ぐそくとを買うべく余儀なくせられたる家族は、沢庵たくあん尻尾しっぽかじって日夜齷齪あくせくするにもかかわらず、夜番の方ではしきりに刀と具足の不足を訴えている。
その顔たるや、一兵一兵、足利方の陣には一つもないような形相ぎょうそうの者ばかりだった。具足ぐそく膝行袴たっつけなどボロボロである。白昼降りて来た天魔の兵かとさえあやしまれる。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「てまえは、その戦道具いくさどうぐの、旗差物はたさしものとか、具足ぐそくなど納めていますが、昔ほど儲かりませんて」
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて、家康は、小姓だけをつれて——具足ぐそくなしの平服で、さっさと、気がるにあらわれた。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あれへ具足ぐそくを着込ませたら、よもや江戸の青ひょろけた侍どもにひけはとるまい」
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そちの生国の尾張には、桶皮胴おけかわどうとはちごうて、胴丸どうまるとかいう、新しい工夫の具足ぐそくが、近頃行われておるそうな。一領買うて来い。そちの生国じゃ、勝手はようわきまえておるであろうが」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「身軽がいいぞ。よけいな物は、一切具足ぐそくから取り捨てろ。かぶとも用いず、素頭すこうべ鉢金はちがねだけを当て、草鞋わらじの緒はきつく締めるな。絶壁をじ、乱岩の山上で働くには、緒が切れやすい」
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
身なりに合った具足ぐそくを着、丸っこい眼と笑靨えくぼを持った年少の可憐かれんなる武者と。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つい今朝はまだ、身に袈裟けさをかけていた恭順の人が、具足ぐそく馬上の人だった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼が、巡視隊の家士十二人を選んで、そのすべてに白とおどしの具足ぐそくを着せ、黄と白の母衣ほろを負わせ、手綱、馬飾りまですべて山吹ぞっきの行装で練り歩いたなども、一端の例といえよう。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なんぞ、この女子に似合いそうな、陣羽織と具足ぐそくがあったら、貸し与えてやってくれい。——陣中に、その身なりでは、歩行にも不便、兵どもの眼にもよくない。……よいか、控えにおる間に、着せかえてやってくれよ」
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かぶと、具足ぐそくを締めながらも
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)