なら)” の例文
そして山水訣さんすいけつの著者のごときも、蕭照は李唐から出て李唐にもまさり、董源とうげん皺法しゅうほうならって董源よりも遒勁しゅうけいであるとさえ評している。
人間山水図巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この筆法にならってわたくしはその生れたる過去の東京を再現させようと思って、人物と背景とを隅田川の両岸に配置したのである。
正宗谷崎両氏の批評に答う (新字新仮名) / 永井荷風(著)
魯侯は女楽にふけってもはやちょうに出なくなった。季桓子きかんし以下の大官連もこれにならい出す。子路は真先に憤慨ふんがいして衝突しょうとつし、官を辞した。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
彼が天然を讃美したのはただ天然を讃美したのではない、彼は天然において神を讃美したのである。我らまた彼にならうべきである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
西班牙スペイン葡萄牙ポルトガル等が独りこれを行ったばかりでなく、英も仏も皆当時はそのひそみならって同様な非人道的なことを行っていたものであった。
永久平和の先決問題 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
「何時分」という語で結ぶ句がいくつもあるのは偶然であるか、どれかの先蹤せんしょうならったものであるか、その辺はよくわからない。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
第一に最も理想的な方法として推奨したいのは、カード式によるインデックスを作ることである(図書館の本の整理法にならうわけである)
自分は、唯、支那の小説家の Didacticism にならつて、かう云ふ道徳的な判断を、この話の最後に、列挙して見たまでゝある。
酒虫 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
特務曹長「なるほど金無垢であります。すぐ組み立てます。」(一箇をちぎり曹長に渡す。以下これにならう。おのおの皮をく。)
饑餓陣営:一幕 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
彼れの『独物語』は向象賢の『仕置』にならって書いたものと思われるが、その中に自国の立場についての考えを露骨に言いあらわしています。
琉球史の趨勢 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
先導者らが得意になったほど、その例にならう者があまりに多かった。多数の文学者らが、今では政治を事として、国務をつかさどらんと考えていた。
常人をしてこの句法にならわしめば必ずや失敗に終らん、手爾葉の結尾をもって一句を操るもの、蕪村の蕪村たるゆえんなり。
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
林泉寺の縛られ地蔵は昔から繁昌している。当寺でもそれにならって、縛られ地蔵を始めてはどうかと云うのでござります。
半七捕物帳:66 地蔵は踊る (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ナライ小碓皇子おうすおうじの故智をならい、花恥ずかしき美女に化けて往くと、ノンテオクたちまちれて思いのありたけ口説くどく。
徒士町かちまちの池田の家で、当主瑞長ずいちょうが父京水の例にならって、春のはじめ発会式ほっかいしきということをした。京水は毎年まいねんこれを催して、門人をつどえたのであった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
我は嘗ていにしへの信徒の自らむちうち自らきずつけしを聞きて、其情を解せざりしに、今や自らその爲す所にならはんと欲するに至りぬ。
治承ちしょうの昔文覚上人もんがくしょうにんが何処の馬の骨だか分らないされこうべを「義朝よしとも髑髏どくろ」と称して右兵衛佐頼朝うひょうえのすけよりともに示した故智になら
沿革などというと如何いかにも骨董家めくので、ごく簡単に書くと、日本で芸術品としての陶器が出来出した頃、伊万里焼いまりやきならって後藤才次郎ごとうさいじろうという人が
九谷焼 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
支那律にならって一の罪に対して一定不動の刑を定むるの不当なる所以を論弁し、量刑に軽重長短の範囲を設くべき旨を主張せられたという事である。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
広海さん、失礼ですが我邦わがくにの親たちも英国風にならって娘のために毎週一度位晩餐会ばんさんかいを開いたらよかろうと存じます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
誰も彼もその例にならつて、鱷の腹の中に隠居して骨折らずに、月給を取るとなつたら、国家が立ち行きますまい。
錫のコストは無論むろん下るだけ下った。これでH・デューラン氏を技師長とする雲南錫鉱公司は、群小鉱山が競ってこれにならうほどの成績をあげたのである。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
しかし他にならい他につかえた痕跡のみであろうか。そこには真に動かし得ない朝鮮固有の美があるではないか。私はその窟院を訪ねた日を忘れる事は出来ぬ。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
享保時分、酒樽は別に船積みするという理由の下に、新運送業が起った。それにならって、他の貨物も専門専門に積む組織が起った。すべて樽廻船たるかいせんと云った。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
金五郎は、弓張提灯に、火をけた。松川源十も、それにならった。永田組の三字が入った十個ほどの提灯が、俄かに咲いた花のように、海上に光を落した。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
青年書生のごときは、成業を将来に期すべき者なり。いずくんぞ放肆ほうし、自棄、かの両者のひそみならうべけんや。
日曜日之説 (新字新仮名) / 柏原孝章(著)
頼胤も兄にならってそちらへ眼を向けた。そこには一領の甲冑が飾ってあった。青、黄、赤と三段おどしの美しいよろいで、かぶとにも腹巻にも菊水の金章が打ってあった。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
数馬は心で感心し、「歩くのが彼らの商売とは云え、自ら戦場駈引きの足並みにならうとは不思議なものじゃ」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それをするには、いろいろな人が懺悔を書いた例にならって、自分も愚しい著作の形でそれを世間におおやけにしようと考えるように成った。「あの事」を書いたら。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
僕の行末がどうなろうと、わずかに彼にならうことを得、一篇の貧しき自叙伝といくつかの fairly-tale を生涯の終りに遺すことが出来るならば!
わが師への書 (新字新仮名) / 小山清(著)
「右足のない梟」と叫んだ首領は、そこでみずから先に立って席に坐った。一同もこれにならって席についた。
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
が、われ等は、決して彼等のひそみならって実行不能、真偽不明の煩瑣はんさ極まる法則などは述べようとはせぬ。
これにならわんとしてわが旧習に疑いを容れたるものなれば、あたかもこれを自発の疑いと言うべからず。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
たわいのない事を云ふかと思ふと、祖母の頭にはこんなにしつかりしたところもあるのだと、お梅は自分もこれにならつて精細な計算帖をつくる氣になつて暇を告げた。
孫だち (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
そして出来あがつた上は太秦うづまさのそれにならつて牛祭を催す事にめて、伊原青々園せい/\ゑん祭文さいぶんを、梅幸ばいかうの振付で、その往時むかし丑之助うしのすけの名にちなんで菊五郎が踊るのだといふ。
悄然しょうぜんと、こちらへ歩いてくる。すると、これにならって、他の人々も銃を棄て、みなそのあとに続いた。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
元来日本の教育は独逸ドイツならったために、すべてが規則的で、学科を多くして、あたう限り多くの芸術を教えようとしたのである。これは教育の方針を誤ったものである。
女子教育に就て (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
自分も用心のため、すぐ彼の傍へ行ってひんならった。それから三人前後して濡れた石をみながら典座寮てんぞりょうと書いた懸札かけふだの眼につく庫裡くりから案内をうて座敷へ上った。
初秋の一日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこで実はならってこれを造りましたので、ありていに申します、貴台をあざむくようなことは致しませぬ
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
この高原のどんな小径にでも勝手な名前をつけたがる西洋人にならって、彼もこのへんの小径を自分勝手に Philosophenフィロゾフェン Wegウェグ と呼んでいたくらいだったのに。
恢復期 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
私もそれにならって起きて行くと、意外にも家の主人からチャランケ(談判)をつけられた。
えぞおばけ列伝 (新字新仮名) / 作者不詳(著)
将軍家斉いえなりは、源頼朝すら、足利尊氏すら、もしくは乃祖だいそ徳川家康すら、その例なかりし太政大臣の極爵を、生れながら軍職と共に併せ帯び、豪奢ごうしゃなく、しこうして下の上になら
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
彼のおにをもあざむくばかりのかおが、ニコニコ笑うのをみると、ぼくは股の上の彼の感触かんしょくから、へんに肉感的センシュアルなくすぐッたさを覚え、みんなにならって、やはり三番の沢村さんのひざ
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
そして山を羽黒と称するに至った所以ゆえんは、権現の使者は三足の烏であるということから導かれたものであることは疑を容れない。其烏もまた熊野権現の使者にならったものであろう。
二、三の山名について (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
心にかなう男もないまま、ただひたすらに芸道にのみおもいを浸し、語りものの中の男女の情けのたわむれは、おのが想いをのみ込ませて、舞台の恋を真の恋と思いならして居りましたゆえ
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
普賢菩薩の霊象にならって額に大きな宝珠ほうじゅがついている。鈴と朱房しゅぶさのさがった胸掛むなかけ尻掛しりかけ
ことに季という重き荷を背負っている俳句は、他の文芸にならうに便宜なものであるかどうかという事をも考えないで、他の文芸と歩調を一にしようというのは誤ったことではないのか。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
これに反して、誰に気兼きがねもいらない兄貴のフェリックスと姉のエルネスチイヌは、お代りがしければ、ルピック氏のやり方にならって、自分の皿を大皿のほうへ押しやるのである。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
大雑駁おおざっぱにいえばツルゲーネフ等にならって時代の葛藤かっとうを描こうとしたのは争われないが、多少なりともこれに類した事実が作者の視聴内にあった否乎は二葉亭はかつて明言しなかった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
背後うしろを振り返って私を招き入れると、謹しみ返った態度で外套がいとうを脱いで、扉のすぐ横の壁に取付けてある帽子掛にかけた。だから私もそれにならって、霜降しもふりのオーバーと角帽をかけ並べた。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)