まじわ)” の例文
汽車に連るる、野も、畑も、はたすすきも、薄にまじわくれないの木の葉も、紫めた野末の霧も、霧をいた山々も、皆く人の背景であった。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
第十七条 人にまじわるには信を以てす可し。おのれ人を信じて人も亦己れを信ず。人々にんにん相信じて始めて自他の独立自尊をじつにするを得べし。
修身要領 (新字旧仮名) / 福沢諭吉慶應義塾(著)
物語の一半は、親しく岡田にまじわっていて見たのだが、他の一半は岡田が去ったのちに、図らずもお玉と相識になって聞いたのである。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
今日世界における二つの大乗仏教国が互いに相知り相まじわって世界に真実仏教の光輝こうき発揚はつようするの時機はまさしく来ったのであります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
お駒は手軽に吹屋町に乗込のりこみました、が、宏大な屋敷の中に入って、幾十人の召使の中に立ちまじわると、今更いまさらお駒の美しさが目に付きます。
黄金を浴びる女 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
この『北越雪譜』の著者鈴木牧之おうは、越後の塩沢しおざわの商人で、時々商用で上京した時に当時のいわゆる文人ぶんじん雅客がかくまじわりを結んではいたものの
語呂の論理 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
この法線OPは対自性的矩形面と対他性的矩形面との相まじわる直線にほかならないが、この趣味体系内にあっての具体的普遍者を意味している。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
「美作殿は一世の奸物、これに相違はござらぬよ。が、ご子息の左内様は、それに反して潔白のご気象、……で、まじわりを結んでおるばかりで」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そののち僕は君とまじわっている間、君の毒気どくきてられて死んでいた心を振い起して高いのぞみいだいたのだが、そのお蔭で無慙な刺客しかくの手にかかって
燕王は護衛指揮張玉朱能等をして壮士八百人をして入ってまもらしめぬ。矢石しせきいままじわるに至らざるも、刀鎗とうそう既にたがいに鳴る。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ただ不幸にして自分は現代の政治家とまじわらなかったためまだ一度もあの貸座敷然たる松本楼まつもとろうに登る機会がなかったが
銀座 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
二人のまじわりは又三年ばかり続いた。そして、その年の春であった。某夜あるよ水の男は勘作が寝ている枕頭まくらもとへ来た。
ある神主の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
つまり彼等はおたがいに軽蔑し合いながら、どこかしら合う所があって、変らぬまじわりを続けていたのである。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
自然というのは神が仕組む天与のものであり、歴史というのは人間が開発した努力のあとであります、どんなものも自然と人間とのまじわりから生み出されて行きます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
私は立ち尽したまま、いつまでもまじわることのない、併行へいこうした考えで頭の中が一杯になっていた。
淫売婦 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
なるほど、弾丸の飛来方向がちゃんと出て来たので現場を中心として、鉛筆でその方向に長々と直線をひっぱった。それは線路に、ほとんど九十度をなしてまじわる方向だった。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
曰、他国の君主とそのまじわり懇親なりとも、その国教の事に至りては与からしむべからず。このことにつきては土国の人も、なお他国の人と同じく、おおいに感覚するところあらんと。
蕪村のまじわりし俳人は太祇たいぎ蓼太りょうた暁台きょうたいらにしてその中暁台は蕪村に擬したりとおぼしく、蓼太は時々ひそかに蕪村調を学びし事もあるべしといへども、太祇に至りては蕪村を導きしか
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
目科も何やら余にまじわりを求めんとする如く幾度と無く余を招きて細君と共々に間食かんじきことに又夜にりてはかゝさず余を「レローイ」珈琲館まで追来おいきたり共に勝負事を試みたり、くて七月の一夕あるゆうべ
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
市蔵の太陽は彼の生れた日からすでに曇っていたという僕の言葉の裏に、どんな事実が含まれているかは、彼とまじわりの深い君の耳で聞いたら、すでに具体的な響となって解っているかも知れない。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
藩内随一の聞え高き御方なるが、若き時より御行跡穏やかならず、長崎御番ごばん御伴おともしての地に行かれしより丸山の遊びに浮かれ、ついにはよからぬともがらまじわりを結びて彼処此処かしこここの道場を破りまはり
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
まじわりは薄くも濃くも月と雲
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
昇進を願わば華族にまじわるべし、またこれをさまたぐる者なし。これに遠ざかるもこれにまじわるも、果してその身に何の軽重けいちょうを致すべきや。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
貞固はさいの里方とまじわるに、多く形式の外にでなかったが、照と結婚したのち間もなくその弟玄琢げんたくを愛するようになった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
しかるにチベット政府は私が世間普通のまじわりをした方々を獄に下して、罪なきの罪を罰せんために予審の法廷を開きつつあるということを聞いた。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
地獄絵巻のような凄まじい環境——死物狂いの絶叫と、焔の咆哮と、雪片にまじわる火の粉の渦巻の中に、それはまたなんという、そぐわない、優しい声でしょう。
図中の旅僧は風に吹上げられし経文きょうもんを取押へんとして狼狽ろうばいすれば、ひざのあたりまですそ吹巻ふきまくられたる女の懐中よりは鼻紙片々へんぺんとして木葉このはまじわり日傘諸共もろとも空中に舞飛まいとべり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
好んで、風人とまじわったから、——可心は、この怪工に知を得て、女神の像は成ったのである。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
丹泉の俗物でないことを知ってまじわっていた唐氏は喜んで引見して、そしてそのもとめに応じた。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
小道はこの石塀の間に狭まれて、野川が自由に流れているように曲りくねり、まじわり合ってはてしなく吾々を歩み楽しませる。塀の上からは枝が垂れ、春のこととて花が咲き乱れる。
全羅紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
勘作と水の男は、又三年ばかりのまじわりを続けたが、某夜あるよ水の男は又勘作に云った。
ある神主の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
... 書く間も無くしんだ事は僕が受合う」あゝ余と目科との間柄は早やきみぼくと云う程の隔て無きまじわりとれり目「全く相違ないのかね余「傷から云えば全くそうだよ、今に検査の医者も来るだろうから問うて見たまえ、もっとも僕はお卒業もせぬ書生の事だからあてには成らぬかも知れぬが医官に聞けば必ず分る」
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
れだけは少年時代、乱暴書生にまじわっても、家を成してのち、世の中に交際しても、少し人に変って大きな口がかれる。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
この人が私にそう云う印象を与えたのは、多く外国人にまじわって、らず知らずの間に、遠慮深い東洋風を棄てたのだと云うことが、後に私にわかった。
二人の友 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
私は「あの国の仏教修行のためであります」と答えると「あの国で多くの貴族高僧にまじわったという事を ...
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
しばらく人間とはまじわらぬ、と払い退けるようにしてそれから一式の恩返しだといって、その時、饅頭のあんの製し方を教えて、屋根からまた行方が解らなくなったと申しますが
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
骨董こっとうとしてこれを好むものがもてあそんでいればよいものだと称して、人に意見をきかれても笑って答えず、同僚の教授連とも深くはまじわらず、唯自家じかの好む所に従って専ら老荘ろうそうの学を研究し
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その一物さえつかめれば、町に出ようと機械にまじわろうと知識をふやそうと、どんなことをしてもいいのである。進んだ時代はあと帰りをする必要はない。時代が与える境遇に処していいのである。
日田の皿山 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
善庵は抽斎の謁見にさきだつこと一月いちげつ、嘉永二年二月七日に、六十九歳で歿したが、抽斎とも親しくまじわって、渋江の家の発会ほっかいには必ず来る老人株の一人であった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
すべて中津の士族は他国にいずること少なく他藩人にまじわることまれなるを以て、藩外の事情を知るの便なし。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
おうなつむりは白さを増したが、桂木のひざのあたりに薄日うすびした、ただくだん停車場ステエションに磁石を向けると、一直線の北に当る、日金山ひがねやま鶴巻山つるまきやま十国峠じっこくとうげを頂いた、三島の連山のすそただち枯草かれくさまじわるあたり
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
後に抽斎とまじわる人々の中、抽斎にさきだって生れた学者は、安積艮斎あさかごんさい、小島成斎、岡本况斎きょうさい、海保漁村である。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
すでに交際あるときは、そのまじわるところの者は高尚にして美ならんことを欲するもまた人情なり。
教育の目的 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
第二十六条 地球上立国の数少なからずして、おのおのその宗教、言語、習俗を殊にすと雖も、其国人は等しくれ同類の人間なれば、之とまじわるにはいやしくも軽重厚薄の別ある可らず。
修身要領 (新字旧仮名) / 福沢諭吉慶應義塾(著)
美術家ほど世に行儀しきものなければ、独立ひとりたちてまじわるには、しばしも油断すべからず。寄らず、さわらぬやうにせばやとおもひて、はからず見玉みたまふ如き不思議の癖者くせものになりぬ。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)