默然もくねん)” の例文
新字:黙然
身にまと何樣どのやうなる出世もなるはずを娘に別れ孫を失ひ寄邊よるべなぎさ捨小舟すてこぶねのかゝる島さへなきぞとわつばかりに泣沈なきしづめり寶澤は默然もくねんと此長物語を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
しかし、そこには、俊亮が默然もくねんと腕組をして立っていた。次郎は、彼と眼を見あわせた瞬間に、急に身動きが出来なくなってしまった。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
わたくし默然もくねんとして、なほ其處そこ見詰みつめてると、暫時しばらくしてその不思議ふしぎなる岩陰いわかげから、昨日きのふ一昨日おとゝひいた、てつひゞきおこつてた。
宗助そうすけ周圍しうゐのざわつくなか默然もくねんとして、ひとばいも三ばいときごしたごとくにかんじたすゑつひすわれずにせきつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
今まで眼を閉ぢて默然もくねんたりし瀧口は、やうやくかうべもたげて父が顏を見上げしが、兩眼はうるほひて無限の情をたゝへ、滿面に顯せる悲哀のうちゆるがぬ決心を示し、おもむろに兩手をつきて
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
さからつてもならぬからとて義母はゝづからあたへられし皮蒲團かはぶとんもらひて、まくらもとをすことほざかり、かぜにしてはしらきは默然もくねんとしてちゝむかひ、しづかひとふたことばまじへぬ。
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
昌黎しやうれいものいふことあたはず、なんだくだる。韓湘かんしやういはく、いまきみ花間くわかん文字もんじれりや。昌黎しやうれい默然もくねんたり。ときおくれたる從者じゆうしやからうじていたる。昌黎しやうれいかへりみて、うていはく、何處いづこぞ。藍關らんくわんにてさふらふ
花間文字 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
一同いちどう詮方せんかたなく海岸かいがんいへかへつたが、まつたえたあとのやうに、さびしく心細こゝろぼそ光景くわうけい櫻木大佐さくらぎたいさ默然もくねんとしてふかかんがへしづんだ。
自分は默然もくねんとしてわがへやに歸つた。さうして胡瓜きうりの音でひとらして死んだ男と、革砥かはどの音を羨ましがらせてくなつた人との相違を心の中で思ひ比べた。
変な音 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
差上申べしと云ば伯母お早も默然もくねんとして居たりしが此上にも傳吉殿にやしなはれ申も氣の毒なり梅方へ參り度と申ければ其儀なら私しがためたる金子百五十兩の中を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
維盛卿も、傍らにせる重景もかうべを垂れて默然もくねんたり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
『あら、あら、あのおとは——。』と日出雄少年ひでをせうねんをまんまるにして母君はゝぎみやさしきかほあふぐと、春枝夫人はるえふじん默然もくねんとして、その良君をつとる。濱島武文はまじまたけぶみしづかに立上たちあがつて
といふを聞て天忠しばし兩手をくみ默然もくねんたりしがやゝ有て三人にむか拙僧せつそう少し所存あり夫は只今此所へ茶を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
宗助そうすけくら座敷ざしきなか默然もくねん手焙てあぶりかざしてゐた。はひうへかたまりだけいろづいてあかえた。そのときうらがけうへ家主やぬしうち御孃おぢやうさんがピヤノをならした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)