騒々そうぞう)” の例文
旧字:騷々
私は性来しょうらい騒々そうぞうしい所がきらいですから、わざと便利な市内を避けて、人迹稀じんせきまれな寒村の百姓家にしばらく蝸牛かぎゅういおりを結んでいたのです……
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
近くきくと騒々そうぞうしい唄のこえも、遠くとおく流れて来るとなんだか寂しい哀れな思いを誘い出されて、お時は暮れかかる軒のを仰いだ。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「やいやい、岩吉、騒々そうぞうしいぞ。御用を預かる家で、一々大変だなんぞと云ってたんじゃ、客人に笑われるぜ。気をつけろい」
どうしたと云うのでございましょう? わたしは騒々そうぞうしい人だかりの中に、あおざめた首を見るが早いか、思わず立ちすくんでしまいました。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
再び、かぼそい手で、重いかんぬきをゆすぶる。閂はびついたかすがいの中できしむ。それから、そいつを溝の奥まで騒々そうぞうしく押し込む。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
シューラはシャツ一まいで立ったまま、おいおいいていた。と、ドアのそと騒々そうぞうしい人声ひとごえや、にぎやかなさけごえなどが聞えた。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
クリストフは騒々そうぞうしく話しだし、頭に浮かぶことはなんでも言ってのけ、オットーを厭になるほどなれなれしく取扱った。
それと同時に、にわか騒々そうぞうしい躁音そうおんが、耳を打った。躁音は、だんだん大きくなった。それは、まるで滝壺の真下へ出たような気がしたくらいだった。
鬼仏洞事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
騒々そうぞうしく笑っていると、東海さんが通りかかり、ものも言わず、写真をとり上げ、一寸ちょっと見るなり、「フン」と鼻で笑って、ほうり出し、行ってしまった。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
相変らず騒々そうぞうしく煙草たばこを嗅いだり、椅子いすの上で気まま勝手に身をねじ曲げたり、もぞもぞしたりしていた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
ふだん何ごともない時には、いつも駈けたり跳ねたり、つまずいたり、たんかをきったり、とても騒々そうぞうしいあわてん坊で、一人で町内をさわがしているんだが。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
急に耳もとで何かガヤガヤ騒々そうぞうしいし、しきりにゆすり起こす者があるので、武松がふと眼をあくと、県の役人やら名主やら……のみならず往来いっぱいな群集までが
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
愛子が注意の上に注意をしてこそとの音もさせまいと気をつかっているのに、葉子がわざとするかとも思われるほど騒々そうぞうしく働くさまは、日ごろとはまるで反対だった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
世人せじんれっこになってしまって、またかという様な顔をして、その一つごとに、さして驚きもしないけれど、静かに考えて見ると、何と騒々そうぞうしく、いまわしい世の中であろう。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼女は喜んで日々弁当持参べんとうじさんで高樹町から有楽町ゆうらくちょうのミシン教場きょうじょうへ通ったが、教場があまり騒々そうぞうしくて頭がのぼせるし、加上そのうえミシンだいの数が少ないので、生徒間に競争がはげしく
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その晩は無事に寝て、翌朝、隣の室が騒々そうぞうしいので、竜之助は朝寝の夢を破られました。ああ、昨夜の男女の客は——惜しい宝を石に落して砕いたような気持がしないでもない。
イヤもうれはドウするにも及ばぬことだ、く諸藩ではあるいは禄を平均すると云うような事で大分騒々そうぞうしいが、私の考えでは何にもせずに今日のこのままで、千こくとって居る人は千石
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
午後ごごでした。なんだか、きゅうあたまうえ騒々そうぞうしいので、のねずみはをさましました。
縛られたあひる (新字新仮名) / 小川未明(著)
釣ランプを取囲んで、老幼取まぜて十人もの家族が騒々そうぞうしく食事をしていた。勝代は空いた席へ割りこんで、独り生冷たい煮返しに柔かい菜浸しを添えて、まずい思いをしてはしった。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
図体の大きい使丁が物音におどろいて凄い剣幕を見せながら跳びこんでくる、彼は気短かに呶鳴り続けた。この教室の騒々そうぞうしさがコンクリートの壁をとおして他の課業を妨害ぼうがいするというのである。
白い壁 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
おおかめさんは、うちでは金が出来てしかたがないのだといった。いつでも、せまいほど家のなかがウザウザして、騒々そうぞうしいうちだった。たるづめのお酒を誰かしら飲口のみくちを廻していた。放縦ほうしょうだった。
まったくお話しに聞惚ききとれましたか、こちらがさとはなれて閑静な所為せいか、ちっとも気がつかないでおりました。実は余り騒々そうぞうしいので、そこをげて参ったのです。しかし降りそうになって来ました。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それより外にはどうすることも出来はしない。「裸婦」推敲を始めてみたが、まるでブリキ細工でもするようで、すこしも心に触れない。唯騒々そうぞうしく、浮ついた、厭な気持しかない。やめる。寝よう。
あんまり騒々そうぞうしい光景に、私はぼんやりしていた。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
名画を破る、監獄かんごく断食だんじきして獄丁ごくていを困らせる、議会のベンチへ身体からだしばりつけておいて、わざわざ騒々そうぞうしく叫び立てる。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なんだかモーターがブルンブルンと廻っているような音も聞え、ポスポスという喞筒ポンプらしい音もします。イヤに騒々そうぞうしいので、私はまゆひそめました。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「岩、てめえの話ア、騒々そうぞうしくっていけねえ。黒門町もいる事だ。もうちっと落ち着いて話をしねえ」
例に依りて挽地物屋ひきじものやの六兵衛老人の店先に立つ。早起きの老人はいつもながら仕事に忙がしそうなり。お冬さんは店の前を掃いている。籠の小鳥が騒々そうぞうしいほどさえずる。
慈悲心鳥 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
愛子はすすけた障子しょうじの陰で手回りの荷物を取り出して案配あんばいした。口少くちずくなの愛子は姉を慰めるような言葉も出さなかった。外部が騒々そうぞうしいだけに部屋の中はなおさらひっそりと思われた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
いやもっと、元気いっぱいで、いつも騒々そうぞうしく賑やかなのは、小姓組であった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「このうどんを生きているうちに食わなければ、死んで閻魔えんまに叱られる」——土地の人にはこう言いはやされている名物。兵馬はそれと知らずにこのうどんを食べていると、表が騒々そうぞうしい。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
すると、騒々そうぞうしい音が、耳いっぱいにひろがる。天井で、一匹の羽虫が蜘蛛くもの巣にひっかかり、じたばたしているのだ。蜘蛛は、糸を伝ってすべってくる。腹がパンくずのような白さだ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
きるように、楽しく生きるように頑固がんこに出来上ってる、丈夫じょうぶ騒々そうぞうしいあらっぽいクラフトの人たちの間にあって、いわば人生の外側そとがわはしっこにうち捨てられてるこの弱い善良ぜんりょう二人ふたり
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
彼は四脚しきゃく短長格ヤンブを思いっきり声を引き引きがなり立てて、いんが入れかわり立ちかわり、まるで小鈴こすずのようなうつろで騒々そうぞうしい音を立てたけれど、わたしはじっとジナイーダの顔を見たまま
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
「何だ、騒々そうぞうしい。豆腐屋とうふやを呼びに行くんじゃあるめえし、矢鱈やたらに走るな」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「みつばちさん、あちらが、たいそう騒々そうぞうしいですね。」
公園の花と毒蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
とても騒々そうぞうしいので、私はむしろ停めたいのですけれど、課長からすべて現状維持とし、何ものにも手をつけるなというので、そのままにしてあるんですよ
人造人間事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
金に不自由のないわたくしは、騒々そうぞうしい下宿を出て、新しく一戸を構えてみようかという気になったのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
また町じゅうの者も一人として何にも気づいていなかった。人々は笑いながら、騒々そうぞうしく、忙しそうに、仕事におもむいていた。蟋蟀こおろぎは歌っており、空は輝いていた。彼はすべての者を憎んだ。
米国への上陸が禁ぜられているシナの苦力クリーがここから上陸するのと、相当の荷役とで、船の内外は急に騒々そうぞうしくなった。事務長は忙しいと見えてその夜はついに葉子の部屋へやに顔を見せなかった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
酔っている男、笑っている女、賑やかを通り越して騒々そうぞうしい位であるが、そのなかで酒も飲まず、しかも独りぼっちの若い記者は唯ぼんやりと坐っているのである。隣りの老人にも連れはない。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この時に行手の方で、騒々そうぞうしい人の足音と、声とが起りました。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「はて。騒々そうぞうしいのう」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
車輪が分岐点ぶんきてんと噛み合っているらしくガタンガタンと騒々そうぞうしい音をたてたのと、車輌近くに陸橋のマッシヴな橋桁はしげたがグオーッとれちがったのとが同時だった。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
膳を下げた下女が台所へいった時分、大きな笑い声がきこえた。くだらないから、すぐたが、なかなか寝られない。熱いばかりではない。騒々そうぞうしい。下宿の五倍ぐらいやかましい。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかしすぐその後で彼女は、彼がはしゃいでいると、あまり騒々そうぞうしく笑うと言ってきびしく非難した。彼は驚いた。笑うのにも彼女に気がねをしなければならないとは思いもよらないことだった。
僕はただもう、そういう放送によってエーテルの世界が騒々そうぞうしくきまわされることがいやでたまりませんでした。僕は反感的に放送を聴くことを忌避きひしていました。
壊れたバリコン (新字新仮名) / 海野十三(著)
芸者が来たら座敷中急に陽気になって、一同がときの声をげて歓迎かんげいしたのかと思うくらい、騒々そうぞうしい。そうしてある奴はなんこをつかむ。その声の大きな事、まるで居合抜いあいぬき稽古けいこのようだ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
不意に横丁から笛と太鼓としょうとの騒々そうぞうしい破れかえるような音響が私の耳をたたきました。
三角形の恐怖 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私は老婦人のそばから立ち上ると、室のドアを蹴って飛び出しました。入口を出ると、そこには二階へ通ずる幅の広い階段があります。何か組打くみうちをしているらしい騒々そうぞうしい物音が、その上でします。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)