風邪かぜ)” の例文
みゑ子は、風邪かぜ一つひかないですくすくと育った。月日は夢の間に流れて、三歳の春を迎え、みゑ子は片言まじりに歌などうたった。
盗難 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
何だって? ハッハッハッ、そんなこたどうでもいいから来いよ、風邪かぜなんか熱いの一杯ひっかけりゃ癒っちゃう、何ぞってと風邪を
町の展望 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
駕籠かごを呼ぶと御近所の人の目に立つし、濡れて歸しちや、万一風邪かぜでも引くと惡いし。と、うまく引止められるものだから、たうとう
この年は初めて悪性の世界的流行感冒が流行はやった秋のことで、自分もその風邪かぜかかったが、幸いにして四、五日の軽い風邪で済んだ。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
乳母は夜露にしっとりと湿しめって重くなっている娘の袂に触ってみて、追い/\冷えて来るのに、風邪かぜを引かせてはならないと思った。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
一週間の間、ルイザは風邪かぜをひいて室にこもった。クリストフとザビーネとは二人きりだった。最初の晩は、二人ともこわがっていた。
「きのうは終日ひねもす、山をあるき、昨夜は近来になく熟睡した。そのせいか、きょうはまことに気分がよい。風邪かぜも本格的になおったとみえる」
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
りませんよ。おっかさんが風邪かぜいて、ひとりでててござんすから、ちっともはやかえらないと、あたしゃ心配しんぱいでなりませんのさ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
顏色かほいろ蒼白あをじろく、姿すがたせて、初中終しよつちゆう風邪かぜやすい、少食せうしよく落々おち/\ねむられぬたち、一ぱいさけにもまはり、往々まゝヒステリーがおこるのである。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
そんなに毎晩かしてろくもしないじゃないか。何の事だ。風邪かぜでも引くとくない。勉強にも程のあったものだとやかましく云う。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
寒中は夜間外出をするなとか、冷水浴もいいがストーブをいてへやあたたかにしてやらないと風邪かぜを引くとかいろいろの注意があるのさ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二月きさらぎ初旬はじめふと引きこみし風邪かぜの、ひとたびはおこたりしを、ある夜しゅうとめの胴着を仕上ぐるとて急ぐままにふかししより再びひき返して
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
ところが、当日になると、早苗は、風邪かぜぎみでゆけないといった。しかし早苗はのどが痛いのでも、鼻がつまっていたのでもない。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
「叔父さん、風邪かぜを引くといけませんよ——シャツでもげましょう」と言って、正太は豊世の方を見て、「股引ももひきも出して進げな」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「ほう、そうか、この片っぽの靴下、持ってってやれ。喜代子きよこに、よく云ってナ、春の風邪かぜは、赤ン坊の生命いのち取りだてえことを」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
風邪かぜのはじめでございます。こんな寒い晩にお呼びして、お駒ちゃんに病気になられたりしては、わたくしが困りますでございますよねえ
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
彼女のくびにした白狐びゃっこの毛皮の毛から、感じの柔軟な暖かさが彼のほおにも触れた。この毛皮を首にしていれば、絶対に風邪かぜはひきッこない。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
年久しくその名を聞き、常に身辺にそれらしいものゝ影を見ながら、未だ嘗てその正体をしかと捉へることの出来ないものに、風邪かぜがある。
風邪一束 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
風邪かぜも引かず、水あたりもせず、名所も見物し、名物も食べて、こうして帰って来られたのは、まったくお伊勢さまのお蔭でございます。」
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
自分の身体のくせに妙な返辞だと感じたが、すこし熱もあるようなので、ようするに風邪かぜ気味なのだろうということになった。
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
たとえば野獣も盗賊もない国で安心して野天や明け放しの家で寝ると風邪かぜをひいて腹をこわすかもしれない。○を押えると△があばれだす。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「にわかに風邪かぜ気味になりまして、自宅で養生をしたく存じますが、別々になりましては妻も気がかりでございましょうから」
源氏物語:31 真木柱 (新字新仮名) / 紫式部(著)
から風邪かぜをひいてたちま腸窒扶斯ちやうチブスになつたのだとふ医者の説明をそのまゝ語つて、泣きながら釣台つりだいあとについて行つた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
と言って、救いの主見たいなお坊さんを、夜寒む、酔醒よいざめで、風邪かぜを引かしちゃあ申訳ない、これでも掛けて上げましょうね。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
おまつりが好きなのだけれども、死ぬるほど好きなのだけれども、私は風邪かぜをひいたといつわり、その日一日、部屋を薄暗くして寝るのである。
めくら草紙 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「気がついたか? お前は何処どこの何者だ? 風邪かぜひきと、丹毒たんどくといふ熱病だ。大分よくないから入院だ。入院料は一日二円五十銭だがあるかね?」
こほろぎの死 (新字旧仮名) / 村山籌子(著)
ことによると風邪かぜでも引いたか、明日あすは一つ様子を見に行ってやろうとうわさをすれば影もありありと白昼ひるまのような月の光を浴びてそこに現われ
置土産 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「おまえさんは熱がある。多分風邪かぜだと思うが、いま世間では疱瘡ほうそうがはやっているから、気をつけねばいけないですよ」
ジェンナー伝 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
(と、未亡人達に向つて)「あなた方はこの寒い廊下にこの上ゐらしては確實に風邪かぜをお召しになつてしまひますよ。」
「寒いおもいをしてはいけないいけないッて言っても、仮寝うたたねなぞしているもんだから……風邪かぜを引いちゃったんさ……」
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
お祖母さんが悪かったんだよ。二階に寝て、お前が風邪かぜでもひいてはいけないと思ったものだから、ついあんなことを
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
折から風邪かぜ気で引つこもり中だつた司教の意向をただすまでもなく、「よろしい、わたしの責任でお引き受けしませう」
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
「別に用とてはなかったがこの寒空に裸体はだかの昼寝、風邪かぜでも引くと気の毒と思ってただ呼びましたばかりであるぞ」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
或時は主人の店火災にかゝりし為め余の働口一時途切れ、加ふるに去月十日より風邪かぜの気味にて三週間ばかりぶらぶらし、かた/″\ろくな事これなく候。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
「いや、まあ止そうよ。わしは山の爺さんで、お前たちと一緒に遊ぶと、お前達が風邪かぜをひくかも知れないのだ」
お山の爺さん (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
寛子は、襯衣のない啓吉が風邪かぜを引くといけないといって、勘三の縮んだ夏襯衣を、啓吉の下着に着せてやった。
泣虫小僧 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
あべが降ってるぜ。」とジョリーは言った。「僕は火の中にでも飛び込ぶとは誓ったが、水の中でぼとは言わなかった。風邪かぜを引いちゃ、つばらない。」
急に、おお寒い、おお寒い、風邪かぜ揚句あげくだ不精しょう。誰ぞかわんなはらねえかって、ともからドンと飛下りただ。
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
『おたがいにこちらではべつ風邪かぜかんのでナ、アハハハハハ。そなたも近頃ちかごろたいそう若返わかがえったようじゃ……。』
或時娘の風邪かぜの心地で、床に就きました時なども、小猿はちやんとその枕もとに坐りこんで、氣のせゐか心細さうな顏をしながら、頻に爪を噛んで居りました。
地獄変 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
君の父上のかりそめの風邪かぜがなおって、しばらくぶりでいっしょにりょうに出て、夕方になって家に帰って来てから、一家がむつまじくちゃぶ台のまわりを囲んで
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
西洋人は少しおなかの工合が悪いかあるいは風邪かぜでも引くとチキンブローかあるいはこのお料理を食べます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
是でこそ我々の遠祖の肌膚はだが丈夫で、風邪かぜなどいうものを知らなかった原因も突き止められるのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そして外は風雨の烈しく樹木の鳴る夜に寒そうな淋しそうな顔をして少しは燈火の美しいところへも行きたいと申しました。妹はついに風邪かぜにかかり発熱しました。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
看護婦さんのいふところによると、風邪かぜをひいたり、熱を出したりした時以外は、毎日「仕事」をするのだといつて、朝からしきりと切紙細工をやつてゐたらしい。
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
風邪かぜのときにはどこの国の人も洟を出すに違ひない。ただそれを表現しないエチケットなのである。
入浴 (新字旧仮名) / 片山広子(著)
風邪かぜだらうと思ひます。……たいしたことはないと思ひますが、一寸、これから、お寄りしますが……
十年…… (新字旧仮名) / 久保田万太郎(著)
風邪かぜを引いちまった、飛んでもねえところで泳ぎをさせられちまったから、風邪を引いちゃった」
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
風邪かぜをひかないようにほっぽこ頭巾ずきんをすっぽりかぶり、足にはゴムの長靴ながぐつ穿いて。何という変てこな恰好かっこうの芸人だろう。だが木之助には恰好などはどうでもよかった。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
四五日前から、風邪かぜをひいて寝てゐると云ふ姉には、昨日、原町の家へお金をもらひに行つた時に、母から注意されたので、かへりに私は木村によつて姉を見舞つたのだ。
イボタの虫 (新字旧仮名) / 中戸川吉二(著)