顔色がんしょく)” の例文
旧字:顏色
と、ちょろりと舌を出して横舐よこなめを、ったのは、魚勘うおかんの小僧で、赤八、と云うが青い顔色がんしょく、岡持をら下げたなりで道草を食散らす。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一時半月旗の影のダニウーブ河畔に翩翻へんぽんたりし時には、全欧州民族に顔色がんしょくが無かったでないか。しかるに今果して如何の状に在るか。
現代の婦人に告ぐ (新字新仮名) / 大隈重信(著)
ああ其時のダンチョン様の不思議な物凄い顔と云ったら! 手布はんけちより白い其顔色がんしょく(血の気など何処にもございません)釣上った、赤い
西班牙の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
というから粥河はこれを飲んでは大変と顔色がんしょくが変りまする。其のうち海の方に月は追々昇って来ますると、庭のえのきに縛られて居る小兼が
「人相はともかく、問答に事よせて、顔色がんしょくうかがいにまいった。御落胤か、いつわり者か、問答しながら、顔色を見ようと——うまうまはまった」
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
が、指令を終った後の法水の態度は、また意外だった。再びもとの暗い顔色がんしょくに帰って、懐疑的な錯乱したような影が往来を始めた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
それから、私の顔を見て、今度はおずおず「どうかして」と尋ねました。私の顔色がんしょくは確かに、灰のようになっていたのに相違ございません。
二つの手紙 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それで父の意も解け、顔色がんしょくも和らぐことかと思ったのは間違いで、父は恐ろしく厳励きびしい声で、私に怒鳴りつけて来ました。
デモ持主は得意なもので、髭あり服あり我またなにをかもとめんと済した顔色がんしょくで、火をくれた木頭もくず反身そっくりかえッてお帰り遊ばす、イヤおうらやましいことだ。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
三合入りの大杯たてつけに五つも重ねて、赤鬼のごとくなりつつ、肩をって県会に臨めば、議員に顔色がんしょくある者少なかりしとか。さもありつらん。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
この書を写すに幾日かゝったかく覚えないが、何でも二十日以上三十日足らずのあいだに写して仕舞しまうて、原書の主人に毛頭もうとう疑うような顔色がんしょくもなく
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
急病でも起したのであろうか、顔色がんしょくは土のように青ざめ、額から鼻の頭にかけて、脂汗あぶらあせが玉をなして吹き出している。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
顔色がんしょく生けるが如くにみえたので、県令はさてこそという気色きしょくでいよいよ厳重に吟味したが、王はなかなか服罪しない。
女侠伝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
二郎がまなこは鋭く光りて顔色がんしょくは死人かと思わるるばかり蒼白あおしろく、十蔵は怪しげなる微笑を口元に帯びてわれらを迎えぬ。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
キラリと光るやいば、女どもはさすがに顔色がんしょくを失いました。早瀬は深々と顔を埋めて、兄の顔を仰ぐ気力もありません。
この書肆の資金を以て文芸その他諸雑誌の発行に着手せんかこれまで独天下ひとりてんかの春陽堂博文館ともどもに顔色がんしょくなからんとわれひと共に第一号の発刊を待ちかねたり。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
しょうにちょっと当地まで来れよとの通信ありければ、病児をば人に托して直ちに旅館に至りしに、彼が顔色がんしょく常ならず、身に附くものとては、ただ一着の洋服のみとなりて
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
「社長室へ呼ばれたこと丈けは確かだね。先刻廊下で行き会った時、顔色がんしょくつちの如くだったもの」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
うちの主人は時々手拭と石鹸シャボンをもって飄然ひょうぜんといずれへか出て行く事がある、三四十分して帰ったところを見ると彼の朦朧もうろうたる顔色がんしょくが少しは活気を帯びて、晴れやかに見える。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「雨を帯びたるよそほひの、太液たいえきの芙蓉のくれなゐ、未央びおうの柳のみどりも、これにはいかでまさるべき、げにや六宮ろくきゅう粉黛ふんたいの、顔色がんしょくのなきもことわりや、顔色のなきもことわりや」
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
歯の根も合わぬほどなるも、風雨の中を縦横奔走して、指揮監督し、る時は自らくわふるい、または自らぬいで人夫に与え、つとめて平気の顔色がんしょくを粧いたりしも、予もひとしく人間なれば
園部の顔色がんしょくはこのとき急に蒼白そうはくに変じ、身体をブルブルと震わせたが
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
平生へいぜい金銭に無頓着むとんじゃくであった抽斎も、これには頗る当惑して、のこぎりの音つちの響のする中で、顔色がんしょくは次第にあおくなるばかりであった。五百ははじめから兄の指図をあやぶみつつ見ていたが、この時夫に向っていった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
をもって横行おうこうするやからの顔色がんしょくをなくしてやろうぞ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
春照高番の里に許すまじき顔色がんしょくで控えている。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
わりゃ、はいはいで、用を済まいた顔色がんしょくで、人間並に桟敷裏を足ばかりで立って行くが、帰ったら番頭に何と言うて返事さらすんや。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
よもやそれ程の金入とも存じませんから好加減いゝかげん胡麻化ごまかし掛けたを問詰められ、流石さすがの悪人も顔色がんしょくが変って返答に差詰りました。
しかし長老はう云った時何故か其顔をあかくした。勿論次の瞬間には僧侶らしい強い意志の力で顔色がんしょくを元へ返えしはしたが。
喇嘛の行衛 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
文三は恐ろしい顔色がんしょくをしてお勢の柳眉りゅうびひそめた嬌面かお疾視付にらみつけたが、恋は曲物くせもの、こう疾視付けた時でもお「美は美だ」と思わない訳にはいかなかッた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
歌劇「ボリス・ゴドゥノフ」は驚くべき作曲で、したたるような現実感に、従来のうそ八百の歌劇を顔色がんしょくなからしめる。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
心配そうな顔してグチャ/\述立のべたてると、奥平もおおいに驚いた顔色がんしょくを作り、左様そうか、ソリャ気の毒な事じゃ、さぞ心配であろう、かくに早く帰国するがかろう
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
治修はるなが顔色がんしょくやわらげたまま、静かに三右衛門の話し出すのを待った。三右衛門はもなく話し出した。
三右衛門の罪 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
乃公も嘘を吐けばよかった。富田さんは見る間に顔色がんしょくを変えて、何か言いたそうに口をモグモグさせたが、グーイと喉を鳴らしただけで一言もなく、さっさと出て行ってしまった。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「そんなことを云わねえで、後生ごしょうだから助けておくんなせえ。この通りだ」と、七蔵は両手をあわせて半七を拝んだ。根が差したる悪党でもない彼は、もうこうなると生きている顔色がんしょくはなかった。
半七捕物帳:14 山祝いの夜 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この狂人きちがいは、突飛ばされず、打てもせず、あしらいかねた顔色がんしょくで、家主は不承々々に中山高のひさしを、堅いから、こつんこつんこつんとはじく。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と是から萩原束が真赤まっかに酔って、耳のあたりまで真黒まっくろ頬髭ほゝひげの生えている顔色がんしょくは、赤狗あかいぬが胡麻汁を喰ったようでございます。
小言いッて観る者は千人に一人か二人、十人が十人まず花より団子と思詰めた顔色がんしょく、去りとはまた苦々しい。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
自ら血気を抑えて時としては人の顔色がんしょくをも犯し、世をこぞって皆酔うの最中、独り自らめ、独行勇進して左右を顧みざることなれば、随分容易なる脩業しゅぎょうにあらず。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
すぐに小増につかわし、これから酒肴さけさかなを取って機嫌好く飲んで居たが、その晩も又小増が来ないから顔色がんしょくを変えておこりました。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
という顔色がんしょくで、竹の鞭を、トしゃくに取って、さきを握って捻向ねじむきながら、帽子の下に暗い額で、髯の白いに、金があらわ北叟笑ほくそえみ
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
イヤもうすでに印度洋から軍艦を増発して何千の兵士はただ今支度最中、しかるにこの戦争の時期をのばして待つなどゝはいわれのない話だ云々うんぬんと、思うさま威嚇おどして聞きそうな顔色がんしょくがない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
(内へけものが出た、来てくれせえ。)と顔色がんしょく、手ぶりであえいで言うので。……こんな時鉄砲は強うございますよ、ガチリ、実弾たまをこめました。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
長「黙れ、其の方がどうも其の姿や顔色がんしょくにもじず、千代に惚れたなどとしからん奴だなア、そこで手前が割ったというも本当には出来んわ、馬鹿々々しい」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
何もそう、顔色がんしょくを変えて恐怖おっかながる事もありますめえ。病気で苦しんでる処を介抱してやったといえばそれ迄のことだ。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今夜にも両人をやり突殺つきころし、其の場で己も腹掻切かきゝって死のうか、そうすれば是が御主人様の顔の見納め、と思えば顔色がんしょくも青くなり、主人の顔を見て涙を流せば
指環は緑紅りょくこうの結晶したる玉の如きにじである。まぶしかつたらう。坊主はひらいた目も閉ぢて、ぼうとした顔色がんしょくで、しつきりもなしに、だら/\とよだれを垂らす。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
と源兵衞の顔を見詰めているうちに、顔色がんしょくが変ってまいると、秋月喜一郎はわざとにや/\笑いかけました。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「歌の先生、どうだ歌先、ちょっと奥さん、はははは、今日こんちア。」と、けろりと天井を仰いだが、陶然として酔える顔色がんしょく、フフンといって中音になり
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と云い放たれ、びっくり致したが、そこは悪党でございますから、じりゝと前へ膝を進めて顔色がんしょくを変え。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
指環は緑紅の結晶したる玉のごときにじである。まぶしかったろう。坊主は開いた目も閉じて、ぼうとした顔色がんしょくで、しっきりもなしに、だらだらとよだれを垂らす。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)