頭髪あたま)” の例文
旧字:頭髮
その様子を見るとまた身体からだでも良くないと思われて、真白い顔が少し面窶おもやつれがして、櫛巻くしまきにった頭髪あたまがほっそりとして見える。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
来いと仰しゃればきもしましょうが、頭髪あたまを剃らんでも改心さえすれば宜しい頭ばかりまるくっても心を改めんではなんにもなりません
お庄はしりから二番目の妹と、一つの車に乗せられた。汽車に乗る前に、父親に町で買ってもらった花簪はなかんざしなどを大事そうに頭髪あたまにさしていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
今頃は定めてお登和さんが襷掛たすきがけ手拭てぬぐい頭髪あたまかぶって家の中を掃除しているだろう。お登和さんは実に働きものだよ。君の幸福おもられる
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「さあ、これがお前のシャツと股引だよ。わたしはヷシカと一緒に行くんだ。あの人の頭髪あたまの方が、お前よりよっぽど房々しているんだもの」
丁寧にこうお辞儀をするその櫛目のはいったばかりの頭髪あたまへ夫人の眼がいった。その眼が徐かに離れの方を見やった。唐沢氏が半身を現して
女心拾遺 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
かたすみの煎餅蒲団に、チョビ安が、蜻蛉とんぼのような頭髪あたまをのぞかせ、小さな手足を踏みはだかって、気もちよさそうな寝息を聞かせています。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
なんだと思う。頭髪あたま黄巾きれを見ろ。大賢良師張角様の方将ほうしょう、馬元義というものだ。家探しして、もし食物があったら、素ッ首をはね落すがいいか
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
成程頭髪あたまに塗つてみるとすつとして気持がい。だが香気にほひだけは余り感心しなかつたので、よく調べてみると、上等のウイスキイだつたさうだ。
コンナに逆上のぼせ上っては駄目だ。気をかしては駄目だ。一つ頭髪あたまでも刈直かりなおして、サッパリとしてからモウ一度、ここへ来て考え直してみるかな。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それからさらに、ルピック氏は、彼のもじゃもじゃの頭髪あたまへ手を通し、そして、しらみでもつぶすように爪をぱちんと鳴らす。これが、先生得意の戯談じょうだんである。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
誰の頭髪あたまにも、みんな白髪しらがの一本や二本——もっとあるであろう。その面上にも、細かき、荒き、しわが見える。
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「私がこんな幽霊のような頭髪あたまをしていたもんですから、三吉さんも驚いて逃げて行って了いました……」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「どんなに寒かったか知れない。」と爺は言いながら、堅く結んで凍っている合羽の紐をようやく解いた。女の巣のような頭髪あたまからは、雪が解けて、しずくしたたっている。
凍える女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
幸子は当日の頭髪あたまこしらえるために雪子と二人で井谷の美容院へ出かけたが、自分はセットだけのつもりなので、雪子を先にやらせて、番の来るのを待っていると
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ぼうぼう頭髪あたまのごりごり腮髯ひげかおよごれて衣服きものあかづき破れたる見るから厭気のぞっとたつほどな様子に、さすがあきれて挨拶あいさつさえどぎまぎせしまま急には出ず。
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
あの頃、よく、頭髪あたまに花をさした美しい娘が、君のアトリエの前で馬車を止めさせて、君が絵を描くのを見てゐた。さも、君の描いてゐる絵が、よくわかるやうな顔をして見てゐた。
序文 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
生涯を学問に貢献しやうといふ先生が嬢様のお気に入らうと頭髪あたま仏蘭西フランス風とかに刈つて香水をなすりつけコスメチツクで髯を堅め金縁目鏡に金指環でおつウ容子振つたさまは堪らない子。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
そのうちにやっと順番が来て事務所へ呼ばれて行くと、頭髪あたまをてかてかにひからせた二十四、五の男が仔細しさいらしく住処、姓名、年齢、経歴、それからこれまでの職業などを質問した後
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
次ぎにエンマは、結婚の翌朝、彼が頭髪あたまに櫛を当てている時、鏡に映って見えたのだが、前頭部の髪の中に、間違う可くもなく、すこし変った形をした傷痕があるのを認めたと言った。
消えた花婿 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
後から見ると頭髪あたまばかりが若いので、貞之進はいよ/\落胆がっかりして、すぐに出るも変なものとちょっと坐りは坐ったが、高座で何事を云うか耳には這入はいらない、ひとの笑ったのに誘われて顔を挙げると
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
洋行帰りのハイカラで、牛乳配達のように綺麗に頭髪あたまを分けている。頭も気に入ったが此男このおとこの帽子も気に入った。山高の低い奴で、此頃流行の形だ。手品師も丁度んな帽子を使ったと覚えている。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ひとえにそれはかれの如才なさのたまものだった。たとえば、かれは、支那兵に扮するのに頭髪あたまを丸坊主にしてかゝった。舞台の合い間には何くれとなく、自分からすゝんで上の役者たちの用を足した。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
頭髪あたまってんな身の上になったから逢われますものゝ、定めて不実の親だと腹も立ちましょうが、どうぞ堪忍して下さいあやまります
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ればハイカラに仕立てたお島の頭髪あたまは、ぴかぴかする安宝石で輝き、指にも見なれぬ指環が光って、体にむせぶような香水のにおいがしていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「ああ悔しい‼……思いつめた女に友達と見変えられた」といってかっと両子で頭髪あたまを引っいて蒲団の中で身悶みもだえした。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
壁の根に背をあずけてコクリコクリやっていると——何刻なんどき経ったか、ふと、しきりに頭髪あたまにさわるものがあるので、右近は夢中で手をやって払い退けた。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
この頃は自分の頭髪あたまを掻きまわしたり、耳の上を挙固でコツンコツンとなぐったりしてここがドウかなっているに違いない違いないと云い出しはじめた。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
で何かの会合で知合に出会でつくはすと、鼻先を見る前に(実業家といふものは、いねと同じで、鼻先さへ見ればその日の機嫌がわかるものだ)先づ頭髪あたまへ気をつける。
源太は却つてしんから可笑をかしく思ふとも知らずにお傳はすいと明くれば、のろりと入り来る客は色ある新造どころか香も艶もなき無骨男、ぼう/\頭髪あたまのごり/\腮髯ひげ
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
「橋本さん——貴方はそんな頭髪あたまをしていらっしゃるから旦那に捨てられるんです」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「おいでなさい。」と、おじいさんは、をこすりながらがりました。そして、がったをのして、いすにこしをかけて、かがみかっている若者わかもの頭髪あたまろうといたしました。
てかてか頭の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
美妙はいなの背のように光ったベラベラ着物に角帯かくおびをキチンと締め、イツでも頭髪あたまを奇麗に分けて安香水やすこうすいの匂いをさしていたが、紅葉はくすんだ光らない着物に絞りの兵児帯へこおびをグルグル巻いて
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
雪子は井谷の美容院へ明日の頭髪あたまこしらえに行っていて留守であったが、帰って来て話を聞くと、外のことは承知したけれども、集合の場所をオリエンタルホテルにしたことについて難色を示した。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
又初めの沈黙に帰って居ると、婢は小歌の頭髪あたまを見て、洗ったね何だかさがったようだよそれにびんがと云って手を掛けようとするを、何でもいゝんだよこれが好きだって、おやそうだれが、良人やどがさ
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
と、振向いて、お内儀さんの頭髪あたま禿はげをそこから見下ろす。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
美代 もう、頭髪あたまけてんのね。
お増は階下したで着更えをすると、ほこりっぽい顔を洗ったり、袋から出した懐中鏡で、気持のわるい頭髪あたまに櫛を入れたりしていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
二、三日わなかった懐かしい顔は櫛巻くしまきにつかねた頭髪あたまに、蒼白あおじろ面窶おもやつれを見せて平常いつもよりもまだ好く思われた。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
比丘尼びくに前名ぜんみょうを熊と申す女に似気にげない放蕩無頼を致しました悪婆あくばでございまするが、今はもう改心致しまして、頭髪あたまり落し、鼠の着物に腰衣を着け
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「へい/\、お値段の所は精々勉強いたしてございます。」番頭は櫛の目の立つた頭髪あたまへ一寸手をやつた。
……鼻がんがって……眼が落ちくぼんで……頭髪あたま蓬々ぼうぼうと乱れて……顎鬚あごひげがモジャモジャと延びて……。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
今思えば真実ほんとゆめのようなことでまるで茫然ぼんやりとした事だが、まあその頃はおれの頭髪あたまもこんなに禿げてはいなかったろうというものだし、また色も少しは白かったろうというものだ。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
今までどこにひそんでいたのか、しまの着物に股引ももひ腹掛はらがけ、頭髪あたまも変えて、ちょいと前のめりに麻裏あさうらを突っかけて、歩こうかという、すっかり職人姿の舞台いたに付いているこの喬之助である。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
毛並のいい頭髪あたま銀杏返いちょうがえしに結って、中形ちゅうがたのくしゃくしゃになった寝衣ねまきに、あか仕扱しごきを締めた姿が、細そりしていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
旦那が少し春気はるけ頭髪あたまいゝから床屋を呼びにやってくれと云うと、はてな、まだいつもより少し刈込みがお早いが、それには何処かへおいでなさるのだろう
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
お見かけの通り黒っぽい木綿着物に白木綿の古兵児帯へこおびしめて、頭髪あたま蓬々ぼうぼうとさしておりますから、多少けて見えるかも知れませぬが、よく御覧になりましたならば
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
那威ノールウエーの詩人イブセンは色々人とちがつた癖をたんと持つてゐたが、頭髪あたまの好みなぞもその一つで、普通ならば綺麗に櫛の目が立つたのがよかりさうなものだのに、その人は
不思議でしょう! ……あなた此の頃、頭髪あたまに付ける香油あぶらかなんか買って来たでしょう。ちゃんと机の上に瓶が置いてあるというではありませんか。そうして鏡を見ては頭髪かみ
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
目こするに、さっさとまげに取揚げられた内儀さんの頭髪あたまは、が所々引釣ひきつるようで、痛くて為方しかたがなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)