見較みくら)” の例文
ものとを見較みくらべながら、かたまけると笑方ゑみかたの、半面はんめんおほニヤリにニヤリとして、岩魚いはな一振ひとふり、ひらめかして、また、すた/\。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ところが、あわただしい旅の仕度が整うにつれ、かの女は、むす子の落着いた姿と見較みくらべて憂鬱ゆううつになり出した。とうとうかの女はいい出した。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「考えるまでもなくここにいるじゃないか。君と僕さ。二人を見較みくらべればすぐ解るだろう、余裕と切迫で代表された生活の結果は」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
珠子は、果して大悦おおよろこびだった。私の予期した以上の悦び方だった。私の両手を握って見較みくらべ、以前よりも艶々つやつやしてきたと褒めた。
大脳手術 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「もうじきわしの停車場だよ。」カムパネルラが向う岸の、三つならんだ小さな青じろい三角標と地図とを見較みくらべて云いました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「こないだは、ずいぶん怒ってお帰りになりましたのよ。」と相変らず上機嫌じょうきげんに笑いながら、僕と斎藤氏と二人の顔を見較みくらべながら言った。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
お祖父さんは、まだはまらない本箱のふたの、うしろからのぞいてゐる本と、栄蔵の顔を見較みくらべた。そしていつた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
園絵は、はいってみると、そこに喬之助がいて、いま一緒に来た駕籠の一つからも喬之助そっくりの男が立ちでたので、ビックリして二人を見較みくらべている。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
こういう自分を、ひろい社会の多数の女性に見較みくらべると、彼女は自分の希望が、余りに自分の身に過ぎていて、なにか大それた夢かのように思えてしまうのだった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一つは当時文壇に重きをなしたユーゴーやジスレリーの翻訳小説にれた眼で見較みくらべられたからであるが、一つは硯友社の芸術至上が京伝三馬さんば系統の化政度戯作者気質かたぎに即して
「でも、泉ちゃんも繁ちゃんも大きくなったね」と岸本は二人の子供を見較みくらべながら
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼は少しどきまぎしながら、近視のように眼を細くしてその二つの写真を見較みくらべた。彼は何とはなしにその一つの方をしてしまった。そのとき彼の指の先がそっとその写真のほおに触れた。
ルウベンスの偽画 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
やや斜に拡げて弥助と見較みくらべ「こつちを向いて見ろ」といひ、絵姿を拡げしまま右手の方へ廻して見較べ「これにちげえねえ」といひて、絵姿を思はず前の方へ持つて来て、慌てて後へ廻し
只今たゞいま」と可愛い声してあがり来れるだ十一二の美しき小女せうぢよ、只ならぬ其場の様子に、お六と花吉との顔ばし黙つて見較みくらべつ、狭き梯子はしごギシつかせて、狐鼠狐鼠こそこそ低き二階へ逃げ行けり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
僕は石原の目をかすめるように、女の顔と岡田の顔とを見較みくらべた。いつも薄紅うすくれないにおっている岡田の顔は、確に一入ひとしお赤く染まった。そして彼は偶然帽を動かすらしくよそおって、帽のひさしに手を掛けた。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
それでも頭の中の像と実物とを見較みくらべながら、そういう線を探して行くと、時にはそれらしいと気のつくこともあった。しめたと思って早速描いて見ると、勿論思うような形の線にはならない。
南画を描く話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
私は「恵那峡舟遊しゅうゆう案内」と見較みくらべ見較べ、いそがしい、いそがしい。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
町人体の未知の若者とを見較みくらべるようにした。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
みなみ亭主ていしゆ二人ふたり見較みくらべるやうにしていつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
切符の番号と見較みくらべて席をさがす人々。
最後に漆の髪の主と、故人の肖像とを見較みくらべた。見較べてしまった時、聳えたる人はせた肩を動かして、宗近君の頭の上から云う。——
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
貴方あなた、おをおください。家内かないとは一方ひとかたならぬ。」とひかけていやかほもしないが、をんな兩方りやうはう見較みくらべながら
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「あ、判りました。部屋をお見せいたすのでしょう」といったが「けれども……あんな部屋」とまた云って私と向う側の貸間札のかかっている部屋の硝子扉を見較みくらべた。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
不安な顔をして、法師の鈴と、少年のむちとを、見較みくらべた。法師は、傲然ごうぜん
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼はあんにこの老先生の用向ようむきと自分の用向とを見較みくらべた。無事に苦しんで義太夫の稽古けいこをするという浜の二人をさらにそのかたわらに並べて見た。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もすそをずりおろすようにしてめた顔と、まだつかんだままのおおきな銀貨とをたがい見較みくらべ、二個ふたりともとぼんとする。時に朱盆しゅぼんの口を開いて、まなこかがやかすものは何。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すると堺屋の妻はまだ本当には安心し切らないような様子で半眼を開いて、じっと母と僕と娘の顔を見較みくらべながらやがて死んだ。木下の母親は堺屋の妻の死後までその時の様子を憎んでいた。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
自分の四辺しへんにちらちらする弱い電灯の光と、その光の届かない先によこたわる大きなやみの姿を見較みくらべた時の津田にはたしかに夢という感じが起った。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
……木魚の下に、そのままの涼しい夏草と、ちょろはげの鞄とを見較みくらべながら
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その癖彼は一々絹糸で釣るした価格札ねだんふだを読んで、品物と見較みくらべて見た。そうして実際金時計の安価なのに驚ろいた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし、十時四十八分發じふじよんじふはちふんはつには、まだ十分間じつぷんかんある、と見較みくらべると、改札口かいさつぐちには、らんかほで、糸崎行いとざきゆきふだかゝつて、改札かいさつのおかゝりは、はさみふたつばかり制服せいふくむねたゝいて、閑也かんなりましてらるゝ。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
原口さんは突然だまつた。何所どこか六※かしいところたと見える。二歩許ふたあしばかり立ち退いて、美禰子と画をしきり見較みくらべてゐる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
撫子 (じっと籠なると手の撫子とを見較みくらぶ。)
錦染滝白糸:――其一幕―― (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其癖そのくせかれ一々いち/\絹糸きぬいとるした價格札ねだんふだんで、品物しなもの見較みくらべてた。さうして實際じつさい金時計きんどけい安價あんかなのにおどろいた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
上下うへした天守てんしゆ七分しちぶ青年わかもの三分さんぶ見較みくら
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
余は余の立っている高い山の鼻と、遠くの先にある白いものとを見較みくらべて、その中間によこたわる距離を胸算用むなざんようで割り出して見て、軍人の根気の好いのにことごとく敬服した。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ひげは真白と云わんよりは、寧ろ黄色である。そうして、話をするときに相手の膝頭ひざがしらと顔とを半々に見較みくらべる癖がある。その時の眼の動かし方で、白眼が一寸ちょっとちらついて、相手に妙な心持をさせる。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
原口さんは、此時又二歩ふたあしばかりあと退さがつて、美禰子と画とを見較みくらべた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
代助は封書を巻きながら、妙な顔をして、両方見較みくらべていた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分は二人の前に坐って、双方を見較みくらべた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)