きのこ)” の例文
三尺もあろうかという木の筒桶つつおけにバタと茶〔湯〕と塩を入れて、そうしてその筒桶に相当した棒の先をきのこのような具合に円くして
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
しかし公卿理想にしろ、武士の戦争目的にしろ、あんな大量の血をながして、こんなきのこちまたに見る気でなかったのはもとよりだろう。
良久しばらくして芋蟲いもむしくちから煙管きせるはなし、二つ三つあくびをして身振みぶるひしたかとおもふと、やがきのこしたくさなかへ這ひみました、たゞのこして
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
別に白ソースを拵えてクリーム一合を注して西洋きのこに西洋松露しょうろ仏蘭西豆ふらんすまめなぞを加えて一時間煮て肉へかけます。ソースは少し固めにします。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
私の国では夏の末ごろにそこにきのこを採りに行ます。そしてよく山に小屋掛けをして、そこに寝ると、夜中にきっと、怪しいことがあるのですね。
北国の人 (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
あたりは畳の上にきのこが生え、草の蔓が這うているばかりでなく、地を這う虫までがいた。わしはそのときこの阿闍利は生きてはいないと思うた。
あじゃり (新字新仮名) / 室生犀星(著)
さて葉切り蟻がきのこを栽培せる様子はだいたい上述のごとくであるが、これはよく考えてみると、実に驚くべきことである。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
誰も住む者もない家の裏庭に、きのこがいっぱいはえていまして、そこにお化が出て、人をとって食べてしまうのです。
幻の園 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
が、かくきのこたしなむせいだろうと人は言った、まだ杢若に不思議なのは、日南ひなたでは、影形が薄ぼやけて、陰では、汚れたどろどろのきもの縞目しまめ判明はっきりする。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
水田に働く人達は、極めて広く浅い麦藁帽子をかぶっていたが、遠くから見ると生きたきのこみたいだった(図33)。
墓地を出て両側のくぼみにきのこえていそうな日蔭ひかげの坂道にかかると、坂下から一幅いっぷくの冷たい風が吹き上げて来た。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それに、このへやは十一時半頃に鍵を下してしまったのだし、硝子窓も鎧扉もきのこのようにさびがこびり付いていて、外部から侵入した形跡は勿論ないのだよ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
第一巻は比較的初期のもので、『きのことり』や『山羊やぎ』のような、悪魔的な小曲があり、第二巻は後期のもので、有名な『死と唄の踊り』四曲を納めている。
しかし、だいいち水を落すべき樋がぼろぼろに朽ちていて水車みずぐるまの羽根の白い黴のところからきのこが生え上っているのだから一向に水なんかありそうにも思えない。
時間 (新字新仮名) / 横光利一(著)
家々の前の狭い浅い溝には、腐れた水がチヨロ/\と流れて、縁に打込んだ杭が朽ちて白いきのこが生えた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
そうしないとカビが生えますよ、毒なきのこが生えますよ……光明は光明を生み、悪魔は悪魔を生みますよ。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
朝から驟雨性しゅううせいの雨がざあと降って来たり、ほそい雨が煙ったり、蛞蝓なめくじが縁に上り、井戸ぶちに黄なきのこえて、畳の上に居ても腹の底までみ通りそうな湿しめっぽい日。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
風呂敷包ふろしきづつみを斜に背負い、その頃よく来た托鉢僧たくはつそうのような饅頭笠まんじゅうがさを深々とかぶり、手縫いの草履袋を提げた私の姿は、よほど妙であったらしく、兄たちはきのこのおばけだとか
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
その一つを取り上げてみると、このきのこ特有の高い香気がひえびえと手のひらにしみとおるようだ。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
根太ねだたヽみ大方おほかたち落ちて、其上そのうへねずみの毛をむしちらしたやうほこりと、かうじの様なかびとが積つて居る。落ち残つた根太ねだ横木よこぎを一つまたいだ時、無気味ぶきみきのこやうなものを踏んだ。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
見たばかりでも気が滅入めいりそうな、ひさしの低い平家建で、この頃の天気に色の出た雨落ちの石の青苔あおごけからも、きのこぐらいは生えるかと思うぐらい、妙にじめじめしていました。
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
蝦蟆は銅で作られた太い筆筒ふでづつ二本をかかえ、その筒のなかには樹の汁がいっぱいに流れ込んでいた。又そのそばには大きい白いきのこが泡を噴いていて、菌の笠は落ちているのであった。
そこいらに生えて居るきのこを主人公にしたお話しをきかせたりするのは真に快い。
二十三番地 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
只一人かゝる山の中に居って、みずか自然薯じねんじょを掘って来るとか、あるいきのこるとか、たきゞを採るとか、女ながら随分荒い稼ぎをしてかすかに暮しておるという独身者ひとりものさ、見れば器量もなか/\
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
此層の如きは、これを下層に比するときは、猶晴やかなるへやと稱すべきならん。うるほひてきのこを生じたる床は、はるかに溝渠の水面の下にあり。あはれ、此房の壁は幾何いくばくの人の歎息と叫喚とを聞きつる。
それは大体が極めて昔風な特色を備えた、見るからに古色蒼然たる建物であって、細かいきのこのような植物が家全体に蔽い被さり、精巧に縺れ絡んだ蜘蛛の巣細工のように軒端から垂れ下って居る。
……何にせよ、批判を明るみに出すためには使用しなければならない抽象的な語は、悉く自分の口の中で、腐つたきのこのやうにこなごなになつてしまふのでした。一度なんぞはかういふことがあつた。
春日遅々 (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
ノラ さうでせうねきのこも。それからきつと牡蠣もお好きでしたらう?
人形の家 (旧字旧仮名) / ヘンリック・イプセン(著)
私のたましひはぞくぞくとしてきのこを吹き出す
定本青猫:01 定本青猫 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
爛々らんらんと昼の星見えきのこ
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
あいちやんは爪先つまさき立上たちあがり、きのこふちのこくまなくうちはしなくもそのたゞちにおほきなあを芋蟲いもむし出合であひました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
そこの辻を、石川河原の方へ下がった所に、戦場が生んだ“にわいち”がこつねんときのこみたいに簇生ぞくせいしていた。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
松茸、椎茸、とび茸、おぼろ編笠、名の知れぬ、きのこども。笠の形を、見物は、心のままになぞらえ候え。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
底についているきのこは熱によって僅かに褐色にした紙で出来、本物そっくりで、市場で見受けるような、小さな藁製の物に入っている。私の娘はこれに一セント半払った。
それを今の肉へかけて附合せには別に湯煮ゆでたジャガ芋や人参の小さく繰り抜いたものと西洋きのこ仏蘭西豆ふらんすまめと西洋松露しょうろなぞを一旦バターでいためて肉の周囲へ綺麗きれいに並べます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
それは薄手な白いきのこのようなかたちをしていて、ときどきぴりぴりと震えるように動いた。
香爐を盗む (新字新仮名) / 室生犀星(著)
これはどういうわけかというと、木の葉はいつのまにか変わってこんな海綿ようのものになっているので、そうしてその海綿ようのものにはたくさんのきのこができているのである。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
石灯籠の下にある草柘植くさつげを少し離れて、名も知らない小さなきのこが二かたまり生えているのが眼についた。昨日の夕方、雨の庭を眺めたときには、それらしい影も形も見えなかったのに……。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
かかるきのこの類はあやしげなる色香をはなちて
定本青猫:01 定本青猫 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
ランク えゝ、それからきのこも好きでした。
人形の家 (旧字旧仮名) / ヘンリック・イプセン(著)
きのこなど山幸やまさち多き台所
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
あいちやんはしばら立停たちどまり、其兩面そのりやうめんらうとして一しんきのこながめてかんがみました、それがまつた眞圓まんまるだつたので、これははなは厄介やくかい難問題なんもんだいだとおもひました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
春の山にきのこを求めているような役を、七、八年もやっていると武士らしい誇りや張合いはおろか、自分は人間だかうさぎであるかについて、ちょッと考えて見たくなる。
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
考え込むためにくろずんだ姿で、季節はずれのきのこのように湿っている——それは客間でも座敷でも茶の間でも、あかるい電燈の下にはいつでもきちんと座って、十年が二十年でも
しゃりこうべ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「あれへ、毒々しい半びらきのきのこが出た、あれが開いたらばさぞ夥多おびただしい事であろう。」
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
専門の博物学者にはあらざれども、昆虫こんちゅうの生活状態を研究することに特別の趣味を有しいたる人にて、この人が初めてこの葉切り蟻がきのこを培養しつつあることを発見したのである。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
そっとその葉をとりのけてみると、朽葉のかけらを頭に土ぼこりを尻っぺたにこびりつけたきのこが、少し前屈みになった内ぶところに、頭の円い小坊主を幾つか抱え込んで、ころころと横になっていた。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
ぞくぞくとしてふきだすきのこ 毒だけ
定本青猫:01 定本青猫 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
第二百九十八 きのこの毒
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
あるいは、時の湿地が咲かせる隠花植物やきのこの多種類なのに、さすがの彼もあきれていたのか。