芸妓げいぎ)” の例文
旧字:藝妓
芸妓げいぎのようなものの境界きょうがいを言ったのであるが、その芸妓が酒に身を投げる位であるから、客の方はもとよりいうまでもないことである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
其の頃婀娜あだは深川、勇みは神田と端歌はうたの文句にも唄いまして、婀娜は深川と云うのは、其の頃深川は繁昌で芸妓げいぎが沢山居りました。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「あたくしは、ときどきいっそのこと芸妓げいぎにでも、女給にでもなって、思い切り世の中に暴れてみようと思うことがありますの」
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
芸妓げいぎ、日本画、浄るり、新内しんない、といった風のものも政府の力で保護しない限り完全に衰微してしまう運命にありそうな気がする。
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
江戸詰めの侍たちは、目立たないところに料理屋を見立てることから、酒を置き、芸妓げいぎを呼ぶことまで、その辺は慣れたものだ。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
なめ尽くして来た芸妓げいぎとの間の淡くして深い情交などにしばしば最も代表的なノルマールな形で実現されたもののようである。
映画雑感(Ⅶ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
東京初めその他の都市において芸妓げいぎという売笑婦の営業が今日のように繁昌はんじょうを極めるに到った根源は彼ら政治家の堕落に由来するのである。
鏡心灯語 抄 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
仲之町の芸妓げいぎ総見そうけんをさせるやら、懇意な茶屋や客に切符を売りつけるやらして、榊原の窮状はたちまちに救われてしまった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
世間の人は芸妓げいぎをたいそういやしみ、悪く言いますが、私は芸妓げいぎよりもいやしいものが、今の貴夫人に多くあるかと思います。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
例の如く文人、画師えし、力士、俳優、幇間ほうかん芸妓げいぎ等の大一座で、酒たけなわなるころになった。その中に枳園、富穀、矢島優善やすよし、伊沢徳安とくあんなどが居合せた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
新橋の芸妓げいぎを呼んでサービスさせたものでね。その頃「伊太利」とかいう洋食屋があって、イタリア風の「うどん」を自慢にしている料理人があった。
美味放談 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
勝平に付きまとっていた芸妓げいぎ達も、先刻さっき踊りが始まる拍子木が鳴ると、皆その方へけ出してしまった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
何がさて明治もまだ中途半端はんぱ頃の血腥ちなまぐさい時代の事とて、何かと騒動初まらねばよいがと、仲居なかい芸妓げいぎ連中が心も空にサービスをやっているうちに果せるかな始まった。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
半兵衛は芸妓げいぎを五人あげ、「この男はまだ女の肌を知らないんだ」などと云って出三郎を紹介した。
艶書 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
又しても山、又してもみずうみ、多くの日は、ヒッソリと静まり返った旅館の部屋部屋、そして時たま聞えるものは、田舎芸妓げいぎの調子はずれの三味線しゃみせんの音ばかりです。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
近来芸妓げいぎなどのやる踊りなるものは半ば意味を含んだ挙動をやるために幾何学的の処が極めて少い。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
当時入谷には「松源まつげん」、根岸に「塩原しおばら」、根津ねづに「紫明館しめいかん」、向島に「植半うえはん」、秋葉に「有馬温泉」などいう温泉宿があって、芸妓げいぎをつれて泊りに行くものもすくなくなかった。
里の今昔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
芸妓げいぎも、女学校の博士も、経済的の眼孔をもって観察するときはごうも高下の区別はあらざるべしといえども、社会のことはひとり経済的の眼孔をもって判定すべきものにあらず。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
それから以来はラムネを作って損をしたとか、公園芸妓げいぎを引入れたとかいうような面白くない風説を新聞の三面で聞くばかりで、文壇人としての消息はまるきり絶えてしまった。
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
芸妓げいぎ、遊女、茶屋女、その他何であるにしろ、いったん身売りの証文に判をついた以上、きれいに親許おやもとえんを切るのが習慣であり、その後の娘はいわゆる「喰焼くいやき奉公人」として
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
君自身が食えなくて餓死する刹那せつなにだって、他の人は妾のことや、芸妓げいぎのことなどを考えてるのだ! 他の人は、全く、他の人の身の上のことなど、てんきり考えはしないんだ。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
勿論もちろん人の妻なるものも、吾人ごじんが商となり工となり、はた農となるがごとく、女性が此世に処せむと欲して、えらぶ処の、身過みすぎの方便には相違なきも、そはたゞ芸妓げいぎといひ、娼妓しやうぎといひ
醜婦を呵す (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
急に地位が高くなり政治家成り金とでもいうような有様で、何んでもヤンチャな世の中……殺風景なことが多く、したがってその配偶者のことなども乱暴無雑作なことがちで、芸妓げいぎ
今代芸術きんだいげいじゅつの一大弊竇へいとうは、いわゆる文明の潮流が、いたずらに芸術の士を駆って、拘々くくとして随処に齷齪あくそくたらしむるにある。裸体画はその好例であろう。都会に芸妓げいぎと云うものがある。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
芝居裏の二枚看板、ちゃちなぽん引にうっかりつれこまれようとして、あわてて羽織芸妓げいぎの裾のもとをかいくぐって、食傷路地に出てくると、鶴源の板前が瑪瑙めのう色に塗った魚類の食楽地獄だ。
大阪万華鏡 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
木挽町こびきちょう五丁目辺の或る待合まちあいへ、二三年以前新橋しんばし芸妓げいぎ某が、本町ほんちょう辺の客をくわえ込んで、泊った事が有った、何でも明方だそうだが、客が眼を覚して枕をもたげると、坐敷のすみに何か居るようだ
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
東京の紳士と称する連中がしきりに周旋奔走して、礼遇至らざる所なきその饗応の一として、府下の芸妓げいぎを集め、大いに歌舞を催して一覧に供し、来賓も興に入りて満足したりとの事なりしが
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
芸妓げいぎの花吉を誘拐いうかいして内々自分の妾にしたのでも判つて居るぢやないか
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
あちら、こちらを見渡し、むかしの商売仲間が若い芸妓げいぎなどを連れて現れると、たちまち大声で呼び掛け、放すものでない。無理矢理、自分のボックスに坐らせて、ゆるゆると厭味いやみを言い出す。
ろまん灯籠 (新字新仮名) / 太宰治(著)
この頃向島むこうじまから芸妓げいぎに出るようになったお照がまたときどきこのおばさん
三つの挿話 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
その余力が明治期のはじめまで勢力のあった芸妓げいぎ美である。
明治大正美人追憶 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
芸妓げいぎ、日本画、浄るり、新内しんない、といった風のものも政府の力で保護しない限り完全に衰微してしまう運命にありそうな気がする。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
母はだいぶ安心したものか、もうこの頃ではわたくしを芸妓げいぎにするの妾に出すのなぞという見え透いた脅しは言わなくなったと池上は苦笑していました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
女たちは呼ばれた芸妓げいぎというかたちであり、器物とは燗徳利かんどくりとかさかずきとか、椀や皿小鉢の類いである。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
五百は後に抽斎に嫁してから、両国中村楼の書画会に往って、佐竹と邂逅かいこうした。そして佐竹の数人の芸妓げいぎに囲まれているのを見て、「佐竹さん、相変らず英雄いろを好むとやらですね」
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
何しろ父は芸人を贔屓ひいきにした人なので、三回忌の時迄は俳優や芸妓げいぎなどの参会者も相当にあり、心斎橋の播半はりはんでの精進落ちの宴会は、春団治はるだんじの落語などの余興もあって、なかなか盛大に
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
この家へは、亭主が俳友らしい人たちもたずねて来れば、近くに住む相撲すもう取りも訪ねて来る。かみさんを力にして、酒の席を取り持つ客商売から時々息抜きにやって来るような芸妓げいぎもある。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ここの女郎は、皆亭主持ちなんだぜ! そして、みんな自分の家を持ってるんだぜ、自分の家へ連れていくんだぜ、素人しろうとみたいなのや、かと思うと芸妓げいぎも及ばないようなのがいるんだぜ。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
芸妓げいぎはお世辞せじ売品ばいひんとし、彼方此方あなたこなたに振りまき、やさしいことをいうて、その報酬ほうしゅうにポチをもらおうとするが、彼らはあからさまにこれをその職業に表していることゆえ、さらに驚くに足りません。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
叫喚あっと云ってふるえ出し、のんだ酒も一時にさめて、うこんなうちには片時も居られないと、ふすまひらき倉皇そうこう表へ飛出とびだしてしまい芸妓げいぎも客の叫喚さけびに驚いて目をさまし、幽霊ときいたので青くなり
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
某家は何時いつ芸妓げいぎなど出入でいりして家風がよろしくない、足下がそんな処に近づいて醜声外聞とは残念だ、君子は瓜田かでんくつを結ばず、李下りかに冠を正さずと云うことがある、年若い大事な身体からだである
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
帰りに四馬路スマロという道を歩く。油絵の額を店に並べて、美しく化粧をした童女の並んでいる家がところどころにある。みんな娼楼しょうろうだという。芸妓げいぎ輿こしに乗って美しい扇を開いて胸にかざしたのが通る。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
芸妓げいぎくおしやくのから子供を多くお呼び被成なさるのがおすきだとさ。
七福神詣 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
先刻の芸妓げいぎ達が帰って来たのである。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
電燈とケーブルと広告と三味線と、ニッカボッカとルナパークと運動会の酒乱と女給と芸妓げいぎと温泉の交響楽を現しつつある。
女たちは呼ばれた芸妓げいぎというかたちであり、器物とは燗徳利かんどくりとかさかずきとか、わんや皿小鉢こばちたぐいである。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
娘に「ちょっと入って頂戴ちょうだい」と云われて、そのあとから若い芸妓げいぎが二人とお雛妓しゃくが一人現れた。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
光永寺と云う真宗寺しんしゅうでらに同藩の家老が滞留中、ある日市中の芸妓げいぎか女郎か五、六人も変な女を集めて酒宴の愉快、私はその時酒を禁じて居るけれども陪席御相伴ごしょうばんおおせ付けられ、一座杯盤狼藉はいばんろうぜきの最中
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
燭台のほのおがほろほろと輝き大勢の人が集り、芸妓げいぎらしい人たちが大勢集り、ぼんぼんといってくれるのがうれしいのと
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
それは小娘ながら水際立って鮮やかなものであった。わたくしが褒めると、「なにせ、この子の実父というのが少しは名の知れた舞踊家ですから」と姐さん芸妓げいぎもらした。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)