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艫
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とも
ふりがな文庫
“
艫
(
とも
)” の例文
一人は
艫
(
とも
)
にいて網か綱のようなものを曳き、一人は舳から乗りだして湖の底をのぞきこみながら、右、左と船の方向を差図している。
肌色の月
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
殆んど
素面
(
しらふ
)
で、
艫
(
とも
)
からこの狂態をヂツと見詰めて居る貫兵衞の冷たい顏には不氣味なうちにも、妙に自信らしいものがあつたのです。
銭形平次捕物控:091 笑い茸
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
後に聞いて梯子駆け上れば
艫
(
とも
)
に水白く泡立ってあたりの景色廻り舞台のようにくる/\と廻ってハンケチ帽子をふる見送りの人々。
東上記
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
エンジンをとめ、
艫
(
とも
)
から餌箱を胴の間に廻しながら、加納は言った。餌箱の中には、泥にまみれたゴカイが、びくびく動いている。
狂い凧
(新字新仮名)
/
梅崎春生
(著)
と
艫
(
とも
)
で
爺
(
じッ
)
さまがいわっしゃるとの、馬鹿いわっしゃい、ほんとうに寒気がするだッて、千太は
天窓
(
あたま
)
から
褞袍
(
どてら
)
被
(
かぶ
)
ってころげた
達磨
(
だるま
)
よ。
海異記
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
▼ もっと見る
櫓は舳先や
艫
(
とも
)
に三、四挺あるが、櫓で運ぶという事は、よくよく順潮の時に少しやるだけで、もっぱら帆によって行く事になっている。
鳴雪自叙伝
(新字新仮名)
/
内藤鳴雪
(著)
或日も、彼はおりかを
艫
(
とも
)
に坐らせて一廻り廻つて來ると、岸には次の順番を待つてゐたおつぎの外に、おみつつあんが立つてゐた。
大阪の宿
(旧字旧仮名)
/
水上滝太郎
(著)
「あすこによく
鰐
(
わに
)
の奴が、背中を干しているのだが、……」と事務員の一人が指したが、そのすぐあと、
艫
(
とも
)
の方にいた事務員がいった。
河明り
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
「友田」の提灯にとりかこまれて、憂鬱そうに、金五郎が、その
舳
(
へさき
)
に立っていた。金五郎の乗って来た小伝馬は、
艫
(
とも
)
に
曳航
(
えいこう
)
されている。
花と龍
(新字新仮名)
/
火野葦平
(著)
舳
(
へさき
)
に立つと、互に離れないように、
艫
(
とも
)
と艫とを太い縄で結びあわせた僚船の姿が、まだ寝足りなそうに浮かんでいるのが見えた。
空襲警報
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
一人は
舳
(
へさき
)
に
櫂
(
かい
)
をあやつる少女、一人は
艫
(
とも
)
にギタを抱く少年、少女は全身に純白の羽毛の
衣
(
きぬ
)
を纒い、少年は真紅の羽毛の衣に包まれている。
地獄風景
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
見れば
艫
(
とも
)
の方から、左腕には
般若
(
はんにゃ
)
の面を抱え、右の手を
翳
(
かざ
)
して足拍子おもしろく踊りながらこちらへ来るのは、清澄の茂太郎であります。
大菩薩峠:24 流転の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
そこは活動写真館の前の
河縁
(
かわぶち
)
でその町の名物の一つになっている
牡蠣船
(
かきぶね
)
の明るい
燈
(
ひ
)
があり、二つになった
艫
(
とも
)
の右側の
室
(
へや
)
の
障子
(
しょうじ
)
が一枚
開
(
あ
)
いて
牡蠣船
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
艫
(
とも
)
の方を見ると、実に驚くべき速さでむくむくと湧き上がる、奇妙な銅色をした雲が、水平線をすっかり
蔽
(
おお
)
っているのに気がついたのです。
メールストロムの旋渦
(新字新仮名)
/
エドガー・アラン・ポー
(著)
いってみると、船の
舳先
(
へさき
)
や
艫
(
とも
)
や、船室の周囲のあゆみで、人が右に左に走りまわってい、船板を踏み鳴らす音に続いて、高い水音が聞えた。
青べか物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
老女は顔を扇子に隠して、苦々しくこう云うと、侍は
艫
(
とも
)
の
船子
(
ふなこ
)
に、同じような口調で、はやく突き流してしまえといいつけた。
剣難女難
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
舟はおの/\二客を
舳
(
へさき
)
と
艫
(
とも
)
とに載せて、
漕手
(
こぎて
)
は中央に坐せり。舟の行くこと
箭
(
や
)
の如く、ララと我との乘りたるは眞先に進みぬ。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
艫
(
とも
)
と
舳
(
へさき
)
の二カ所に赤々と
篝
(
かがり
)
を焚いて、
豪奢
(
ごうしゃ
)
極
(
きわま
)
りない金屏風を風よけに立てめぐらし、乗り手釣り手は船頭三人に目ざむるような小姓がひとり。
旗本退屈男:10 第十話 幽霊を買った退屈男
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
あがりぎわに一枚引きめくって来た
艫
(
とも
)
の板をぶらさげて、泰軒は半眼をうっとりと眠ってでもいるよう……
自源流
(
じげんりゅう
)
水月
(
すいげつ
)
の
相
(
すがた
)
。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
我にあらはれしかの淑女が、さながら
水軍
(
ふなて
)
の大將の、
艫
(
とも
)
に立ち
舳
(
へさき
)
に立ちつゝあまたの船に
役
(
つか
)
はるゝ人々を見てこれをはげまし
神曲:02 浄火
(旧字旧仮名)
/
アリギエリ・ダンテ
(著)
かまはないから、おれの舟の舳を、お前の舟の
艫
(
とも
)
にゆはへ附けておくれ。舟も仲良くぴつたりくつついて、死なばもろとも、見捨てちやいやよ。
お伽草紙
(旧字旧仮名)
/
太宰治
(著)
やがて漕ぎ出したときに、御符売りは
艫
(
とも
)
の方に乗り込んだ一人の男を急に見付け出したらしく、ほかの乗合をかきわけて彼の胸倉を引っ掴んだ。
半七捕物帳:05 お化け師匠
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
船の中にはヤイレスポと、ポニポニクフと、その部下たちの死体が、
舳先
(
へさき
)
に積みあげられ、
艫
(
とも
)
に積みあげられてあった。
えぞおばけ列伝
(新字新仮名)
/
作者不詳
(著)
艫
(
とも
)
の高い五大力の上には鉢巻きをした船頭が一人一丈余りの櫓を押していた。それからお
上
(
かみ
)
さんらしい女が一人御亭主に負けずに
棹
(
さお
)
を差していた。
本所両国
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
舟の
艫
(
とも
)
に坐って、船頭四人がいい機嫌で笑いながら調子をそろえて前後に動き、妙な歌を唄って力強く艪を押すのを見ることは実に新奇であった。
日本その日その日:03 日本その日その日
(新字新仮名)
/
エドワード・シルヴェスター・モース
(著)
艫
(
とも
)
を波のほうへ向ける事も得しないで、力なく漂う船の前まで来ると、波の山は、いきなり、獲物に襲いかかる猛獣のように思いきり背延びをした。
生まれいずる悩み
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
地中海に
入
(
はひ
)
つて初めて逆風に遇い、浪の為に一時間五
浬
(
マイル
)
の速力を損失する日が
二日
(
ふつか
)
程つづいた。
艫
(
とも
)
の方の友人は大抵僕の室へ来て
船暈
(
せんうん
)
を逃れて居た。
巴里より
(新字旧仮名)
/
与謝野寛
、
与謝野晶子
(著)
野だが
大人
(
おとな
)
しくなったなと気が付いて、ふり向いて見ると、いつしか
艫
(
とも
)
の方で船頭と釣の話をしている。野だが居ないんでよっぽど話しよくなった。
坊っちゃん
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
その入り込んだ蔭になっていたボートの
艫
(
とも
)
に、これこそ全く思いもかけなかった少女が独り、
真正面
(
まとも
)
にこちらを向いたまま腰をおろしているのである。
植物人間
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
日向丸は
艫
(
とも
)
の船底に
船霊
(
ふなだま
)
を
祀
(
まつ
)
り、その小さい神棚の右よりに赤いおき上りの小法師がぽつりと一つ置かれてあった。
暦
(新字新仮名)
/
壺井栄
(著)
船頭の
老夫
(
じいさん
)
は
艫
(
とも
)
の方に
立上
(
たちあが
)
って、
戕牁
(
かしぐい
)
に片手をかけて今や舟を出そうとしていながら、片手を挙げて、乗らないか乗らないかといって人を呼んでいる。
観画談
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
余等は導かれて紅葉館の旗を
艫
(
とも
)
に立てた小舟に乘つた。宿引は一禮して去り、船頭は
軋
(
ぎい
)
と櫓聲を立てゝ漕ぎ出す。
熊の足跡
(旧字旧仮名)
/
徳冨蘆花
(著)
翌々日の新聞は、彼が其日行った
玉川
(
たまがわ
)
の少し下流で、雷が小舟に落ち、
舳
(
へさき
)
に居た男はうたれて即死、而して
艫
(
とも
)
に居た男は無事だった、と云う事を報じた。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
そこで眼ざす鯖の群れが青海原に見えて来ると、一人は
艫
(
とも
)
にまわって
潮銹
(
しおさび
)
の付いた一挺櫓を押す。一人は手製の爆弾と巻線香を持って
舳先
(
へさき
)
に立ち上るのだ。
爆弾太平記
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
ドノバンは
艫
(
とも
)
のイバンスのかたわらにすわった。富士男はモコウとへさきのほうにすわって帆を
監視
(
かんし
)
した。船が動くとともに一同は左門洞にむかって三拝した。
少年連盟
(新字新仮名)
/
佐藤紅緑
(著)
艫
(
とも
)
では
舷側
(
げんそく
)
上部まで水に触れていた。何度か舟は水をかぶり、私のズボンと上衣の裾とは、百ヤードと行かないうちに、すっかりびしょびしょに濡れてしまった。
宝島:02 宝島
(新字新仮名)
/
ロバート・ルイス・スティーブンソン
(著)
アーダはクリストフとともに
艫
(
とも
)
の方にすわり、うとうととした不平そうな様子をし、光が眼にしみるとか、一日じゅう頭痛がするだろうとか、愚痴を言っていた。
ジャン・クリストフ:05 第三巻 青年
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
蒸気の
艫
(
とも
)
へ、三人かたまって河風にふかれた。空はもう墨を流したようだ。水神の方角で大きい稲妻がする。その下に白鬚橋が長く反を打って廻燈籠の絵のようであった。
九月の或る日
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
僕のいる所からは、すぐ前を漕いで行く舟の
艫
(
とも
)
の方が見える。そこにはお酌が二人乗っている。
百物語
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
そんな折には彼女はいつも海水着の上に大きなタオルを
纏
(
まと
)
ったまま、
或
(
あ
)
る時は
艫
(
とも
)
に腰かけ、或る時は
舷
(
ふなべり
)
を
枕
(
まくら
)
に青空を仰いで誰に
憚
(
はばか
)
ることもなく、その得意のナポリの
船唄
(
ふなうた
)
痴人の愛
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
疲れきったイエス様は
艫
(
とも
)
の方で
舟夫
(
せんどう
)
の座布団を枕にゴロ寝をせられ、すぐに熟睡に落ち給うた。
イエス伝:マルコ伝による
(新字新仮名)
/
矢内原忠雄
(著)
艦長は船の
艫
(
とも
)
の方の部屋に居るので、
或
(
あ
)
る日、朝起きていつもの通り用を弁じましょうと思て艫の部屋に
行
(
いっ
)
た、所がその部屋に
弗
(
ドルラル
)
が何百枚か何千枚か知れぬ程散乱して居る。
福翁自伝:02 福翁自伝
(新字新仮名)
/
福沢諭吉
(著)
舟の
舳
(
へさき
)
の方を見ると折よくモリがあつたので、これを右手に奮ひ
起
(
た
)
つて
舷
(
ふなべり
)
に足をかけ、鱶の頭へ
打
(
ぶ
)
つ
徹
(
とお
)
して手綱を
艫
(
とも
)
にかけ、その
儘
(
まま
)
発動機を鳴らして港へ帰つて来たのである。
東京湾怪物譚
(新字旧仮名)
/
佐藤垢石
(著)
一艘に一人づつ
艫
(
とも
)
に腰かけて、花やかな帶の端を水の上へ垂らし、
兩手
(
りやうて
)
には二本の
棹
(
さを
)
を持つて、水中へさし
込
(
こ
)
んではくる/\廻して引き上げると、藻くが
絡
(
から
)
まつて
上
(
あが
)
つて來る。
筑波ねのほとり
(旧字旧仮名)
/
横瀬夜雨
(著)
田船の舳と
艫
(
とも
)
とには、又別に麻縄が長く結付けてあって、どちらも両方の岸にまで届く程の長さがある。つまり田船の中に乗った者が、自分で舳の縄を手繰れば、向岸へ着く。
死剣と生縄
(新字新仮名)
/
江見水蔭
(著)
艫
(
とも
)
の方を見れば七人の水夫、舵を取り帆を操りながら口々に何か語り合う、その声あたかも猿のごときが、ふと何物をかみつけけん、同時に
話声
(
わせい
)
をやめてとある一方に眼を注ぐ
南極の怪事
(新字新仮名)
/
押川春浪
(著)
彼女は
緊
(
しか
)
と舟の
艫
(
とも
)
を掴んだ。何か心に残るものがあった。でもそのまま力を込めて舟を押した。舟はスーッと渚を離れた。急に重い荷を下したような安堵が彼女の心に感ぜられた。
湖水と彼等
(新字新仮名)
/
豊島与志雄
(著)
舳
(
へさき
)
にも、
艫
(
とも
)
にも、船頭が、川の方を向いて、両手を突いていた。船中の侍は、駕の側、前後に、膝をついていた。駕の中に、垂れをあげた津軽越中守が、腕組して、水を眺めていた。
三人の相馬大作
(新字新仮名)
/
直木三十五
(著)
第二図は
頭巾
(
ずきん
)
冠
(
かぶ
)
りし
裃
(
かみしも
)
の
侍
(
さむらい
)
、町人、
棟梁
(
とうりょう
)
、子供つれし女房、
振袖
(
ふりそで
)
の娘、
物
(
もの
)
担
(
にな
)
ふ下男など
渡舟
(
わたしぶね
)
に
乗合
(
のりあい
)
たるを、船頭
二人
(
ふたり
)
大きなる
煙草入
(
たばこいれ
)
をぶらさげ
舳
(
へさき
)
と
艫
(
とも
)
に立ち
棹
(
さお
)
さしゐる佃の渡しなり。
江戸芸術論
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
今度は松の木の代りに鴉のとまり場は其處に置き竝べてある漁舟の
舳
(
へさき
)
となり
艫
(
とも
)
となつた。追ひつめた犬は勢ひこんで前脚を舷までは打ちかけるが、ほんの一二尺の距りで鴉に及ばない。
鴉と正覚坊
(旧字旧仮名)
/
若山牧水
(著)
“艫(
船尾
)”の解説
船尾(せんび、en: Stern)は、船の後ろの部分のこと。とも(艫)、スターンともいう。
(出典:Wikipedia)
艫
漢検1級
部首:⾈
22画
“艫”を含む語句
舳艫
艫舵
艫舳
艫寄
艫綱
真艫
艫櫓
艫櫂
艫幕
艫音
艫部
艫肉豆
艫端
艫板
艫擢
二丁艫
艫先
艫作崎
船艫
舳艫訓
...