粘土ねんど)” の例文
それがいまでは、こわれた二つの大理石の円柱のあいだに粘土ねんどでこしらえた小さなみすぼらしい家を通って、入口がついているのです。
ただその大部分だいぶぶんがその上につもった洪積こうせき赤砂利あかじゃり壚※ローム、それから沖積ちゅうせきすな粘土ねんどや何かにおおわれて見えないだけのはなしでした。
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
この埴輪はにわといふ言葉ことばはにといふのは粘土ねんどといふことで、といふのはかたちならべることから名前なまへだといふことであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
らかん橋の下を流れてゆく浅いきれいな水が、時々、粘土ねんどでもかすように白く濁って、しばらくすると、また、それがきれいに澄んでいた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やゝ平べつたい粘土ねんど細工の饅頭まんぢうを二つ合せたやうなもので、二つの中程にはやゝ大きい豆粒ほどの半圓の穴がそれ/″\に凹みをこしらへて居り、二つ合せると
それがよこにもたてにもおほきくなつて、肌膚はだもつやゝかにえてかみながくなつた。おつぎのいへうしろがけのやうにつたところからはむらのものが黄色きいろ粘土ねんどつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
両河地方メソポタミヤでは埃及エジプトと違って紙草パピルスを産しない。人々は、粘土ねんどの板に硬筆こうひつをもって複雑な楔形くさびがた符号ふごうりつけておった。書物はかわらであり、図書館は瀬戸物屋せとものやの倉庫に似ていた。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
……うかがうところどうやら下総しもおさなまり。それに名札の紙が、古河こがで出来る粘土ねんどのはいった間似合紙まにあいがみということになると、あらためて武鑑をひっくりかえすまでのことはない。
顎十郎捕物帳:10 野伏大名 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
これは前からわかっていたことであるが、太平洋の底の赤粘土ねんどのほうが、ほかの海のものよりも流星球を遥かに多く含んでいる。それでこの赤粘土について詳細に研究をした。
黒い月の世界 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
冷却れいきゃくしてのち飛散ひさんするとすれば、高尚こうしょうなるほとんかみごと智力ちりょくそなえたる人間にんげんを、虚無きょむより造出つくりだすの必要ひつようはない。そうしてあたかあざけるがごとくに、またひと粘土ねんどする必要ひつようい。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
四方の壁は丸太で組み上げて、天井は荒板張りのかご編み、水気をいとってところどころに粘土ねんどが塗りつめてある。床にはむしろが何枚も敷き詰めているとみえて、誰が歩いても跫音あしおとがしない。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
粘土ねんどで原型を造ることもありますが、直接実物からとる場合もあるのです」
悪霊物語 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
わたしなどの若いころには、どの地方へ旅行して見ても、瓦を焼くけむりの見られないところはなかった。燃料はたいてい松の枯枝かれえだで、土はそこいらの粘土ねんどを持ってきて、水でこねてかたにとった。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「ああ、あの六号室の粘土ねんどやさんか。」
夕張の宿 (新字新仮名) / 小山清(著)
第二に、この泥岩は、粘土ねんど火山灰かざんばいとまじったもので、しかもその大部分だいぶぶんしずかな水の中でしずんだものなことは明らかでした。
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
またしめつた粘土ねんどそばかれると、かたくなることをつたといふことなどが發見はつけんいとぐちとなつたかと想像そう/″\せられます。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
「……どうしたのだ、いくら老人にせよ、まるで粘土ねんどのような顔いろをして、いまにも泣きだしそうなその容子ようすは」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かみねばるやうになるとおつぎは粘土ねんどをこすりつけて、はだぬぎになつたまゝ黄色きいろまつたあたま井戸ゐどそばあらふのである。さうしてのふつさりとしたかみは二ところは三くやうにつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
冷却れいきやくしてのち飛散ひさんするとすれば、高尚かうしやうなるほとんかみごと智力ちりよくそなへたる人間にんげんを、虚無きよむより造出つくりだすの必要ひつえうはない。さうしてあたかあざけるがごとくに、またひと粘土ねんどくわする必要ひつえうい。あゝ物質ぶつしつ新陳代謝しんちんたいしやよ。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
木はつぶされ、められ、まもなくまた水がかぶさって粘土ねんどがその上につもり、全くまっくらな処に埋められたのでしょう。
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
答「たとえば粘土ねんどを以て一つのまろ陶壺すえつぼを仕上げようとなされていたものが、真二つとなってしまったからでした」
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また、この新石器時代しんせつきじだいになつてから、人類じんるい發明はつめいした大切たいせつ品物しなもの土器どきであります。土器どきといひますと粘土ねんどかたちつくつて、それをいたものであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
血相けっそうかえて、小山の素天すてッぺんへけあがってきた早足はやあし燕作えんさく、きッと、あたりを見まわすと、はたして、そこの粘土ねんどの地中に狼煙のろしつつがいけてあった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みんながばたばたふせいでいたら、だんだん粘土ねんどがすべって来て、なんだかすこうし下へずれたようになった。しゅっこはよろこんで、いよいよ水をはねとばした。
さいかち淵 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
一歩一歩、火の粘土ねんどを踏むようだった。汗がひたいににじんで来る。全身の骨が、ばらばらになるかと思う。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
アルプスの探険たんけんみたいな姿勢しせいをとりながら、青い粘土ねんど赤砂利あかじゃりがけをななめにのぼって、せなかにしょった長いものをぴかぴかさせながら、上の豆畠まめばたけへはいってしまった。
さいかち淵 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
それが亭主の厨子野耕介ずしのこうすけという男らしいのである。肉の薄い、そして粘土ねんどのような青い顔には研師のようなするどさも見えない。月代さかやきからおとがいまでは、怖ろしく長い顔に見えた。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しゅっこは、はじめに、昨日きのうあのへんはなとがった人の上って行ったがけの下の、青いぬるぬるした粘土ねんどのところをっこにきめた。そこにりついていれば、鬼はおさえることができない。
さいかち淵 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「そうかい。そんならいいよ。お前のような恩知らずは早く粘土ねんどになっちまえ。」
楢ノ木大学士の野宿 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
と、まるで粘土ねんどのような青い顔して、舌の根もうわの空に、告げるのだった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なんでもいいから、汗と鬱気うっきを出してしまうんだ。……そうだ」と、後ろを仰いだ。里の者が粘土ねんどでも採った跡であろう、崖の中腹から上へ真っすぐに二丈ばかり山肌がぎ取られてあった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その芝原へ杉を植えることを嘲笑わらったものは決して平二だけではありませんでした。あんな処に杉など育つものでもない、底はかた粘土ねんどなんだ、やっぱり馬鹿は馬鹿だとみんなが云ってりました。
虔十公園林 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
蛾次郎がさいごの力をこめた飛礫つぶてがピュッと、燕作のこめかみにあたったので、かれは、急所の一げきに、くらくらと目をまわして、竹童のからだを横にかかえたまま、粘土ねんど急坂きゅうはんみすべって
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ええ。それは世界裁判長のおやしきでございます。ここから二チェーンほどおいでになりますと、大きな粘土ねんどでかためた家がございます。すぐおわかりでございましょう。どうか私もよろしくお引き立てを
粘土ねんどのみちだ。かわいている。黄色だ。みち。粘土。
台川 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)