すい)” の例文
旧字:
高時は、堂上などに、眷恋けんれんはせぬ。京にも負けぬ、鎌倉の京をここに築いて見しょう。あらゆる工芸のすいをあつめ、万華まんげ鎌倉の楽園を
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みんなほっと上気して眼を潤ませて、起ち居それぞれに嬌態きょうたいすいを見せるという次第だから、若さまの御満悦は断わるまでもなかろう。
若殿女難記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それも縁なら是非なしと愛にくらんで男の性質もわけぬ長者のえせすい三国一の狼婿おおかみむこ、取って安堵あんどしたと知らぬが仏様に其年そのとしなられし跡は
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
浦和中学は古来の関東気質かんとうかたぎすいとして豪邁不屈ごうまいふくつな校風をもって名あるが、この年の二年にはどういうわけか奇妙な悪風がきざしかけた。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
人生のすいな味や意気な味がお糸さんの声に乗って、私の耳から心に染込しみこんで、生命の髄に触れて、全存在をゆるがされるような気がする。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
兵は神速をとうとぶ。しかし御両人、悉皆すっかり安心して、話し/\歩くから、此方は困る。ツカ/\と追い越すのは当てつけるようですいかない。
冠婚葬祭博士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
{2}我々が問題を見ている地平にあっては、「いき」と「すい」とを同一の意味内容を有するものと考えても差支ないと思う。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
露柴はすい江戸えどだった。曾祖父そうそふ蜀山しょくさん文晁ぶんちょうと交遊の厚かった人である。家も河岸かし丸清まるせいと云えば、あの界隈かいわいでは知らぬものはない。
魚河岸 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しがらきやわらび餅とて葛餅を小さくしたような餅菓子の類をすいな手拭で顔を包んだ若い衆が屋台を引っ叩って売りにきた。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
すいの粋なる芸術道だ。泥臭いフォイアマンや、冷たく甘いピアティゴルスキーに比べて、なんという恐ろしい違いであろう。
我々の邪推じゃないよ、すいを通しているのだよ。いいかい、我々がこれほど粋を通してやっているのを、悪くとる宇津木君、君はねじけ者だ。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
刎釣瓶はねつるべ竿さおに残月のかかった趣なぞは知ろうはずもない。そういう女が口先で「重井筒かさねいづつの上越したすいな意見」とうたった処で何の面白味もないわけだ。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
すいの江戸ッ子なんだし、どんな男の奴も、一目見れば、ぽうッとなってしまうだけの色香もまだ残っているんだよ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
そんな事までして少しばかりの毛をたくわえて置くのはどういう訳かというと、それが壮士坊主仲間では非常に意気だすいだといってうらやまれるからです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「江戸ッ子」というのは、つまりえ抜きの東京人で、吾が大和やまと民族の性格のすいを代表していると云われている。
「どうもしやしませんが、親方もなかなか死際しにぎわまですいを利かしたもので……それじゃお上さんも寝覚めがようがさね」
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
そこには近代科学のあらゆるすいをあつめて作った通信設備や発電機や弾薬や食糧や戦闘用兵器などがそろっていた。
空襲警報 (新字新仮名) / 海野十三(著)
お前は市さまの弟御おととごそうな。いつもいつも親の仇でも尋ねるような顔付きは、若いお人にはめずらしい。ちっとあにさまを見習うて、お前もすいにならしゃんせ。
鳥辺山心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ちょうど日本のお相撲さんみたいなもので、この、闘牛士に特有の豚尾式結髪ピッグ・テイル——COLETA——は、西班牙スペインでは甚だすい伊達だて風ということになっている。
かみ! 三河ながらの旗本の手の内、まったすい旗本の性根のほど、この辺で御堪能にござりましょうや」
町内の伊勢屋のどら息子、貴賤老若、すい不粋ぶすい、千態万様、さながら浮き世の走馬燈で、芋を洗うような雑沓。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
展望するに、はてしない平野の銀と緑と紫の煙霞えんかがある。山城さんじょうとしてのこのプランは桃山時代のすいを尽くした城堡じょうほう建築の好模型だというが、そういえばよくうなずかれる。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
中央まんなかから取って矮鶏ちゃぼおしりの様ななりに致してすいだという、團十郎刈だんじゅうろうがりいとか五分刈ごぶがりあれが宜しいと、いきな様だが團十郎が致したから團十郎刈と云うと、大層名がいが
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
仕切るわくが自然の景物のすいをあつめて成るがために、——枠の形が趣きをそこなわぬほどに正しくて、また眼を乱さぬほどに不規則なるがために——飛石に、水に、えん
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
夜になると、心得顔の仲居が、すいをきかせて、蒲団を一つ、枕を二つならべて、出て行った。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
どうも、長者のお旦那に限って、台所口がお好きで、困ってしまいます。貧乏所帯の台所が、よっぽどもの珍らしいと見える。さ、すいにも程度がございます。どうぞ、奥へ。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
これ儒教的政論のすいぬきんでたるもの、尋常一様の封建政治の理想、必らずしもかくの如く精明なる大主義徹底したるにあらずといえども、その民情を尋酌しんしゃくし、民を養うを以て
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
(小次郎様に恋されて以来、お姫様もすいにおなりになり、アジなことをおっしゃるよ)
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
平生ふだんならば、銀座通りはまだ宵のうちだ。全日本の流行のすいをそぐった男女の群が、まるで自分の邸内でも歩いているように、屈託のない足どりでプロムナードを楽しんでいる時刻だ。
犠牲者 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
私はそれより柳橋へでも繰り込んで、すいに遊ぼうと主張する。杉は躍気やっきになって
The Affair of Two Watches (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
崇拝して居る間はまことに歌というものは優美にて『古今集』はことにそのすい
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
芸者にすいな御客人、至って野暮な御亭主なり。弟子に経綸けいりんを教うる人、家庭の教育整い難し。友のひつぎを送るもの、親類の不幸を弔わず、役所に出でては尻尾を振り、宅へ帰れば頭を振る。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かれは五十才ぐらいの年輩ねんぱいで、流行のすいを集めた身なりをしていた。犬のようなまっ白なとんがった歯をして、わらうときにはそれをかみしめようとでもするようにくちびるをあとへ引っこめた。
碧色の草花として、つゆ草はすいである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
第二百六十一 料理のすい
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
すい文吉ぶんきち
まことを云えば御前の所行しょぎょういわくあってと察したは年の功、チョンまげつけて居てもすいじゃ、まことはおれもお前のお辰にほれたもく惚た
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
かぶとよろいの華やかさは云わずもがな、黄金こがね太刀たち白銀しろがね小貫こざね矢壺やつぼや鞍にいたるまで、時代の名工が意匠いしょうすいらした物ずくめであった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ラサ貴婦人の盛粧せいしょう チベットの婦女子の内で一番すいであるところのラサ府の婦人の風俗、容貌、品格、習慣、性質、欲望等についてお話致します。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
江戸娘のすいといったお秀は年こそ少し取り過ぎましたが、ずいぶん思いも寄らぬ罪を作っていそうな美しさでした。
「色と意気地を立てぬいて、気立きだてすいで」とはこの事である。かくして高尾たかお小紫こむらさきも出た。「いき」のうちには溌剌はつらつとして武士道の理想が生きている。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
「まあ、あつらえたように、そこに蒲団ふとんも枕も出してあるわ、あのお雪さんていう子、なんてすいの通る子でしょう」
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
脱ぐよ。君等こそプロレタリヤ精神のすいだ。日本魂の精華だ。人間はそうなくちゃならん。その精神があれば日本は亡びてもこの了々亭だけは残るよ
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
いかなる事にも、物驚きをしないような、すいの柳ばし連の、美しい瞳さえ、一度にきらめき輝くのだった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
烟花狭斜えんかきょうしゃの風俗かくの如く新聞紙を利用して売名をのみもっぱらとなすに至つてはすいも意気もあつたものにあらず。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
こうすいをきかして泰軒が立ち去ったのち、二人は、あれでどれほど長く玉姫神社の階段に腰をかけて語り合っていたものか——気がついた時は、陽はすでにななめに昇って
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しかし叔母さん、此奴こいつは一番失策しくじッたネ、平生のすいにも似合わないなされ方、チトお恨みだ。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
天下を狙いたいにも天下のあきはないし、戦争いくさをしたくも戦争は起らず、せめて女にでもぞっこん打ち込む事が出来ればまだいいが、生憎あいにくすいも甘いも分りすぎているし——そうして
挙止動作から衣服きものの着こなし方に至って、ことごとくすいを尽くしていると自信している。ただ気が弱い。気が弱いために損をする。損をするだけならいいがきならぬ羽目はめおちる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこらは抜目無くして置いた事は、後で御覧なすっても解りますが、時に今ね母親さん美土代町の奧州屋おうしゅうやの旦那がね、ほんとにすいな苦労人で、美代ちゃんを呼んで度々たび/\お座敷も重なると
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)