眼尻めじり)” の例文
見る陰もなくせ衰えて、眼が落ちくぼんで……が、その大きな眼がほほえむと、面長おもなが眼尻めじりに優しそうなしわたたえて、まゆだけは濃く張っている。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
この伯母の主人はいつもにこにこした眼尻めじりで私を愛してくれた。私は祖父の家の後を継いでいる養子よりも、この魚屋の主人の方が好きだった。
洋灯 (新字新仮名) / 横光利一(著)
ごま塩の頭は、うすくなっていたが、口髭の黒い、眼尻めじりにしわのある将軍の顔は、写真で見るのとそっくりだった。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
きんは吃驚びっくりした眼をして、「駄目よ。こんな私をからかわないで下さい」と、眼尻めじりしわをわざとちぢめるようにして笑った。美しいしろい入れ歯が光る。
晩菊 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
成程さう思つて見ると、うかしてゐるらしくもある。色光沢いろつやくない。眼尻めじりに堪へ難いものうさが見える。三四郎は此活人画から受ける安慰の念をうしなつた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
見る眼もむべき雨後の山の色をとどめてみどりにおいひとしお床しく、鼻筋つんと通り眼尻めじりキリリと上り
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
蘿月らげつは色の白い眼のぱつちりした面長おもなが長吉ちやうきちと、円顔まるがほ口元くちもと愛嬌あいきやうのある眼尻めじりあがつたおいととの、若い美しい二人の姿すがたをば、人情本にんじやうぼんの作者が口絵くちゑ意匠いしやうでも考へるやうに
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「ふんそうか」忠相ただすけが笑うと、切れ長の眼尻めじりに、皺が寄るのだ。さざなみのような皺だ。しぼの大きなちりめん皺だ。忠相は、そのちりめん皺を寄せて、庭のほうへ膝を向けた。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
勝太郎にくらべて何から何まで見劣りして色は白いが眼尻めじりは垂れ下り、くちびる厚く真赤で猪八戒ちょはっかいに似ているくせになかなかのおしゃれで、額の面皰にきびを気にして毎朝ひそかに軽石でこすり
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ひげがある。あまりしゃべり過ぎたことを恥じるように、口がその中へ隠れてしまっている。深いひだのある額、眼尻めじりしわ、それから、伏せたまぶた……歩きながら眠っている恰好かっこうだ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
なし恩をせ置思ひを遂んと心の中に目算もくさんなし忽ちおこ煩惱ぼんなういぬよりもなほ眼尻めじりを下げお光殿にも可愛かあいさうにわかい身そらで後家になられ年増盛としまざかりををしい物と戯氣おどけながら御子息道之助殿を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
眼尻めじりに集まる細い意気地いくじのないしわ、小鼻のあたりに現われる過度の反抗的な表情
六月 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
ウロンスキーは成る程子供好きらしい、柔和な、何となく気の弱そうなところのあるさびしい眼元に微笑を含んで、眼尻めじり小皺こじわを寄せながら、自分がうわさされているのを黙って聞いていた。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
敏活な変わりやすい顔つき、その顔つきで彼は、クリストフの言うことに残らず耳を傾け、その唇の動きを見守みまもり、その一語一語に、面白がってる同感的な注意を示し、ひたい顳顬こめかみ眼尻めじり
眼尻めじりをなで、上唇うわくちびるをこすり、顎のしわをかくきれいな手も、はっきりと見えた。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
目鼻立めはなだち尋常じんじょうひげはなく、どちらかといえば面長おもながで、眼尻めじりった、きりっとした容貌かおだちひとでした。ナニ歴史れきしに八十人力にんりき荒武者あらむしゃしるしてある……ホホホホ良人おっとはそんな怪物ばけものではございません。
一文字なりの、かなり大きな唇と、その尻さがりの穏やかな眼で微笑するくらいであるが、眼尻めじりに皺のよる眼のなごやかな色と、唇のあいだからみえるまっ白な歯とは、ひどく人をひきつける。
かほいろ淺黒あさぐろい、ひだり眼尻めじり黒子ほくろのある、ちひさい瓜實顏うりざねがほでございます。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
病人はまだ眼尻めじりに涙のたまったままの顔で、唇にみを浮かべていた。
秋空晴れて (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
「いや、そのまま、居て下さい。」と、ウラスマルは掌と掌をこすり合せながら、右方の眼尻めじりへだけ小皺こじわを寄せて、私に納得させ、それから次に、英語でもつて、外の客人へ、カムインと呼びかけた。
アリア人の孤独 (新字旧仮名) / 松永延造(著)
と女は笑って、眼尻めじり小皺こじわのさざなみを立てながら
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
見ると迷亭君の両眼から涙のようなものが一二滴眼尻めじりから頬へ流れ出した。山葵わさびいたものか、飲み込むのに骨が折れたものかこれはいまだに判然しない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あなたの娘ではなしさ、きり/\此処ここ御出おだしなされ、七が眼尻めじりあがらぬうち温直すなおになされた方が御為おためかと存じます、それともあなたは珠運とかいうやつに頼まれて口をきくばかりじゃ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
びらの無紋むもんに、茶献上ちゃけんじょうの帯。切れの長い眼尻めじりに、燭台の灯がものすごく躍る。男でも女でも、美しい人は得なものです。どんな恰好かっこうをしても、それがそのまま、すてきもないポーズになる。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
顔は色の浅黒い、左の眼尻めじり黒子ほくろのある、小さい瓜実顔うりざねがおでございます。
藪の中 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
かなり大きな眼が、笑うとかえって眼尻めじりり上って、そうして針のように細くなって、歯がまっしろで、とても涼しく感ぜられる。からだが大きいから、看護婦の制服の、あの白衣がよく似合う。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
綺羅子は綺羅子で、眼尻めじりに皺が寄るほど強く男の頬ッぺたへ額をあてている。二つの顔は四つの眼玉をパチクリさせながら、体は離れることがあっても、首と首とはいっかな離れずに踊って行きます。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼女の顔も蒼白そうはくになり眼尻めじりがつりあがるようにみえた
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「いやうもんだ御手數おてかずで」と主人しゆじん眼尻めじりしわせながられいべた。米澤よねざはかすりひざいたいて、宗助そうすけから色々いろ/\樣子やうすいてゐる態度たいどが、如何いかにもゆつくりしてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
一体にがばしりて眼尻めじりにたるみ無く、一の字口の少しおおきなるもきっとしまりたるにかえって男らしく、娘にはいかがなれど浮世うきよ鹹味からみめて来た女にはかるべきところある肌合はだあいなリ。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
左の眼尻めじり黒子ほくろがあったが、——そんな事さえくらべて見ても、やはり確かに男だった。お蓮は不思議に思うよりは、嬉しさに心をおどらせながら、そのまま体も消え入るように、男のくびへすがりついた。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
かれの眼尻めじりからなみだがすっと頬へ伝わった。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「いやどうもとんだ御手数ごてかずで」と主人は眼尻めじりしわを寄せながら礼を述べた。米沢よねざわかすりを着たひざを板の間に突いて、宗助からいろいろ様子を聞いている態度が、いかにもゆっくりしていた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)