ぎょく)” の例文
吉弥の跡の行動を監視させておくのに都合がよかろうと思ったから——吉弥の進まないのを無理にぎょくをつけて、晩酌の時に呼んだ。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
しばらくして、浦子はぎょくぼやの洋燈ランプの心をげて、あかるくなったともしに、宝石輝く指のさきを、ちょっとびんに触ったが、あらためてまた掻上かきあげる。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ぎょくはそこでやぐべて暫く女をやすまし、自分は他のへやへいって寝たが、朝になって女の所へいってみると、女は帰ったのかもういなかった。
阿英 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
相場で云えば売買両方のぎょくを出して置く両建と云ったようなものである。しかし、両建と云うのは、大勝する所以ゆえんではない。
真田幸村 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
瑪瑙のぎょくや細工物を京へ持っていって売り、京から一年の必要品を買って帰るのである、父子は出来六という下男を供に吹矢の里をたっていった。
オランダの敷物、ペルシャの壁飾り、インドの窓掛、ギヤマンの窓、紫檀したん黒檀こくたんぎょくちりばめた調度、見る物一つとして珍奇でないものはありません。
何うもこれは出来ないわざでげすな、ちょいとぎょくを付けて、祝儀を遣った其の上で、情夫いゝひとに会わして遣るなんてえ事は中々出来るこッちゃア有りやせん
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
今まで何度来ても、それはこちらでぎょくをつけてやるから来るので、向うからついぞたずねて来たことなどなかったのに、めずらしい。どうしたのだろう。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
ガラスでさえも、支那人の手に成った乾隆グラスと云うものは、ガラスと云うよりもぎょく瑪瑙めのうに近いではないか。
陰翳礼讃 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
異様に白く、或は金焔色に鱗片がきらめき、厚手に装飾的な感じがひろ子に支那の瑪瑙めのうぎょくの造花を連想させた。
高台寺 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
これ女の揚代より四分を待合が取るゆゑとか聞きぬ。御泊りとなれば芸者は十一時より翌朝までぎょくだけでも十二本の規則きめなるに、浜町は女二円にて事済みなり。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「月給は弁当つき三十五円でしてね、朝は九時から、ひけは四時です。ところでぎょくづけが出来ますかね。」
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
ねえ、橋本君、吾儕われわれの商売は、女で言うと丁度芸者のようなものだネ。御客大明神だいみょうじんあがめ奉って、ペコペコ御辞儀をして、それでまあぎょくを付けて貰うんだ。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
龍頭瓶りゅうとうへいだの、ぎょくの文鎮だの、青貝の戸棚だの、大理石の硯屏けんびょうだの、剥製の雉だの、恐るべき仇英だのが、雑然とあたりを塞いだ中に、水煙管みずぎせるくわえた支那服の主人が
上海游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
銀子はこの商売に取り着きたての四五年というもの、いつもけいあんぎょくばかりされていた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「礼だ、礼だ、と大さわぎしているが、礼とはいったい儀式用のぎょくはくのことだろうか。がくだ、がくだ、と大さわぎしているが、楽とはいったい鐘や太鼓のことだろうか。」
現代訳論語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
二階から下りた時、父はぎょくだの高麗焼こうらいやきだのの講釈をした。柿右衛門かきえもんと云う名前も聞かされた。一番下らないのはのんこうの茶碗であった。疲れた二人はついに表慶館を出た。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この女にオールナイトのぎょくをつけて、私一人だけがこの町を去って、日本領事館へ出かけて行って、この女——澄子の知己だというなにがし書記官に事情を話し、それから官憲へ依頼して
曹操は白馬にまたがり、黄金の鞍をそなえ、ぎょくをもってつくられたくつわをとる。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なんだかぎょく蠟石ろうせきを溶かしたもので描いてあるような気持がする。例えば、白ばらのつぼみの頭の少し開きかかった底の方に、ほのかな紅色の浮動している工合などでも、そういう感じを与える。
二科会展覧会雑感 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
池はぎょくもて張りたらんやうに白く湿める水のに、静に魚のぬる聞こえて、瀲灔ちらちらと石燈籠の火の解くるも清々すがすがし。塀を隔てて江戸川べりの花の林樾こずえ一刷ひとはけに淡く、向河岸行く辻占売の声ほのかなり
巣鴨菊 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
初は隣家の隔ての竹垣にさえぎられて庭をなかばより這初はいはじめ、中頃は縁側へのぼッて座舗ざしきへ這込み、稗蒔ひえまきの水に流れては金瀲灔きんれんえん簷馬ふうりん玻璃はりとおりてはぎょく玲瓏れいろう、座賞の人に影を添えて孤燈一すいの光を奪い
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「宝剣か、ぎょくか、唐渡からわたりのものか。」
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
破蕉龍はしょうりゅうしっして水仙ぎょくをはらめり
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
「実はぎょくの整理です」
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「三つ岩のひじくらぎょくにして一万、南谷の石蓋いしぶたに小判で八千、穴底の砂金は量ってみなければわかるまいがお祖父じいの代から二百万という云い伝えがある」
その時ぎょく匡山きょうざんの寺へいって勉強していた。ある夜初更しょこうのころ、枕にいたところで、窓の外で女の声がした。
阿英 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
と身を横に、おおうたともしびを離れたので、ぎょくぼやを透かした薄あかりに、くっきり描きいだされた、上り口の半身は、雲の絶間の青柳あおやぎ見るよう、髪もかたちもすっきりした中年増ちゅうどしま
女客 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ぎょくのように半透明に曇った肌が、奥の方まで日の光りを吸い取って夢みる如きほの明るさを啣んでいる感じ、あの色あいの深さ、複雑さは、西洋の菓子には絶対に見られない。
陰翳礼讃 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
十年前の江戸の旅にはまだそれでも、紙、織り物、象牙ぞうげぎょく、金属のたぐいを応用した諸種の工芸の見るべきものもないではなかったが、今は元治年代を誇るべき意匠とてもない。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
高麗縁こうらいべりの青畳の中、脇息きょうそくもたれて、眼をやると、鳥の子に百草の譜を書いた唐紙、唐木に百虫の譜を透かし彫にした欄間らんまぎょくを刻んだ引手やくぎ隠しまで、この部屋には何となく
ことに青味を帯びた煉上ねりあげ方は、ぎょく蝋石ろうせきの雑種のようで、はなはだ見て心持ちがいい。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
身上みあがりをしたり、聞けば他で以て高利を借りて、それも是れもまア稼人かせぎにんのこったから私は何にも云いませんけれども、考えて御覧なさい、私はぎょくをいくら取りそこなったか知れやしない
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「じゃア、僕がけさのお礼としてぎょくをつけましょう」
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
ぎょくがそのほかであるのは言うまでもなかった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ぎょく龍刻りゅうこく筆筒ふでたてと、獅子の文鎮ぶんちんとであった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黒塗金蒔絵きんまきえの小さな棚を飾って、毛糸で編んだ紫陽花あじさいの青い花に、ぎょく丸火屋まるぼや残燈ありあけを包んで載せて、中の棚に、香包を斜めに、古銅の香合が置いてあって、下の台へ鼻紙を。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
貴方のようななんじゃ有りませんが、随分中にはふうの悪いお客が、ぎょくの五つ六つも附けて祝儀の少しも出すとね、上手うわてへでも連出して色男振って、ほんとにあなた然うじゃア有りませんか
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
支那人はまたぎょくと云う石を愛するが、あの、妙に薄濁りのした、幾百年もの古い空気が一つに凝結したような、奥の奥の方までどろんとした鈍い光りを含む石のかたまりに魅力を感ずるのは
陰翳礼讃 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それでまた珍らしくなって、いったん伏せたのをまた開けて見ると、ふと仮名かなの交らない四角な字が二行ほど並んでいた。それにはかぜ碧落へきらくいて浮雲ふうんき、つき東山とうざんのぼってぎょく一団いちだんとあった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「板橋の東景庵とうけいあんの薬師如来像が盗まれた。これは運慶作の御丈おんたけ四尺五寸という大した仏像だ。厨子ずしは金銀をちりばめ、仏体には、ぎょくがはめ込んである。十一年前の春盗まれて、未だに行方が知れない」
芸妓げいしゃも自家これに客となって、祝儀を発奮はずみ、ぎょくを附けて、弾け、飲め、唄え、酌をせよ、と命令を奉ぜしめた時ばかり、世の賤業を営むものとおとしめてよろしいけれども、臂鉄砲ひじでっぽう癇癪玉かんしゃくだまを込めた
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ぎょくを二つ払えばいという訳にはいかねえから、それはいけねえ
金二百円一円札○一金側時計一個たゞし金鎖附此代金二百円○一同一個但銀鎖附此代金百円○一掛時計二個此代金五十円○一衣類二十七品此代金五百円○一ぎょく置物一個此代金二百円○一古銅こどう花瓶一個此代金百五十円
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
、……むしゃくしゃするから、台所へ掛合ってますで飲んだ、飲んだが、何うだ。会費じゃあねえぜ。二升や三升で酔うような行力じゃねえ、酔やしねえが、な、見ねえ。……ぎょくに白粉で、かもじと来ちゃあ堪らねえ。あいよ、ねえさん。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)