狐狸こり)” の例文
そこで狐狸こりの仕業ということになって屋敷中を狩り立てましたが、狐や狸はさておき、かわうそ一疋も出なかったということです。
江戸の化物 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
世に言う狐狸こりのたぐいにばかされたのかも知れぬと考えると、急に、むらむらと冒険心が湧いて来て、却ってうれしいような気分になり
狂女と犬 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
祖父江出羽守の猟座かりくら、山伏山の田万里は、こうしてあくなき殿の我慾の犠牲にえに上げられて、一朝にして狐狸こり棲家すみかと化し去ったのだった。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
よって、妖怪の大部分は天狗てんぐにもあらず、狐狸こりにもあらず、幽霊にもあらず、悪魔にもあらず、人なりと断言することができる。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
その上このあたりには昼間でも時とすると狐狸こりたぐいが出没すると云われ、その害をこうむった惨めな話が無数に流布されている。
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
狐狸こりのわざにはあらず。からにしたものは三ぺいなり。うま、留守ばんにあずけおく。こんど通過の折まで、よく草を喰わせてやしおくべし。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
妖気ようき紛々ふんぷんたる割に、身体に活々した弾力のあるところを見ると幽霊というよりは、狐狸こりの仕業という類いかもわかりません。
昔の武士が狐狸こりの妖怪を退治する話がありますね。相手は美しい女に化けているのですが、その女をいくら斬っても少しも手応えがありません。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
解せないのみならず、あるべからざることで、日頃、金がほしい、金がほしいと口に出しているのを、憎い狐狸こりどもが知って調戯からかいに来たのか。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その者等が様子をくと見極めてもしも変化のものなら、なんの年こそとっていれ狐狸こりたぶらかされる気遣いはないと、御決心あそばしましたから
孤高とか、節操とか、潔癖とか、そういう讃辞さんじを得ている作家には注意しなければならない。それは、殆んど狐狸こり性を所有しているものたちである。
如是我聞 (新字新仮名) / 太宰治(著)
世はチャレス第二世の柔弱淫縦腐敗の世となり、バトラル、ドライデン、クラレンドンのごとき狐狸こりはい寵遇を受け
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
……妖怪、変化、狐狸こりかわうそ、鬼、天狗、魔もののたぐい、陰火、人魂、あやし火一切、生霊、死霊、幽霊、怨念、何でも構わねえ。順に其処へあらわかせろ。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
狐狸こりから猫まではまだ夜のものとってもよかったか知れぬが、猿を夜の者ということは何としても理に合わない。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
僕は東京と田舎ゐなかとを兼ねたる文明的混血児なれども、東京人たる鹿島さんには聖賢相親しむの情——或は狐狸こり相親しむの情を懐抱くはいはうせざるあたはざるものなり。
田端人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
嘘八百と出鱈目仙人で狐狸こり固めた信州新手にいて村はおろか信州一円に隠れもなきアバタ男、形容するに言葉なきその醜怪な面相には千曲川の河童も憐憫の余り死に
猿飛佐助 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
電話帳に本名を出しとくような狐狸こりとは段違いの怪物だからウッカリした事は出来ないと思ったからだ。
冥土行進曲 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
狐狸こり妖異よういや、鳥のつらをした異形の鬼魅きみ、そのほか外道げどう頭とか、青女あおおんなとか、そういった怪物あやしものが横行濶歩する天狗魔道界の全盛時代で、極端に冥罰めいばつ恠異かいいを恐れたので
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
かれらの跋扈跳梁ばっこちょうりょうはあたかも黄金境の観を呈し、幽霊もののけ妖怪変化、死霊いきりょう魑魅魍魎ちみもうりょう狐狸こり草木のたぐいまでが人を脅し世を騒がしては溜飲りゅういんをさげていた。
風流化物屋敷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
この笠松はその昔「あし」ととなえた蘆荻ろてきの三角洲で、氾濫する大洪水のたびごとにひたった。この狐狸こり巣窟そうくつあばいて初めてひらいたのがの漂流民だと伝えている。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
お前の話を黙って聞いていると、まるで狐狸こりたぐいが一変して嬋娟せんけんたる美女にけるのと同じように聞える。まさかお前は、金博士から妖術ようじゅつを教わってきたのではあるまい
必定幽靈いうれいか又は狐狸こりの類か惣内に化たるかが目には見分らず汝等は親子の事故目利めきゝ屹度きつと知れるで有う幽靈か又化生けしやうか何ぢや汝等が目には何と見えるコレ九郎兵衞ふか頭を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
凹んだ疊の上を爪立つて歩かねばならぬ程の狐狸こりの棲家にもたとへたい荒屋あばらやで、蔦葛つたかづらに蔽はれた高い石垣を正面に控へ、屋後は帶のやうな長屋の屋根がうね/\とつらなつてゐた。
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
いたずらに狐狸こりのすみかとかわりはて、見るかたもないすがたとなってしまいました。
亡霊怪猫屋敷 (新字新仮名) / 橘外男(著)
この山道には狐狸こり変化へんげに関する事件がなかなか多く、母も度々さういふ話をした。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
変化へんげの術が人間にできずして狐狸こりにできるのは、つまり、人間には関心すべき種々の事柄があまりに多いがゆえに精神統一が至難であるに反し、野獣は心を労すべき多くの瑣事さじたず
蕪村は狐狸こり怪をなすことを信じたるか、たとい信ぜざるもこの種の談を聞くことを好みしか、彼の自筆の草稿新花摘しんはなつみは怪談を載すること多く、かつ彼の句にも狐狸を詠じたるもの少からず。
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
尤も狐狸こり妖怪といって、妖怪の或るものは多く狐狸その他のけものの神通力によって変幻する現象とされてある事もある。しかしまたそうでなく妖怪は本質から妖怪となっているものもある。
ばけものばなし (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
ここに至って他力宗たりきしゅうになってしまって、ただもう世界に力とするものは蝙蝠傘こうもり一本、その蝙蝠傘こうもりのこっちは自分が握っているが、むこうは真の親切者が握っているのだか狐狸こりが握っているのだか
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
以上狐狸こり退治の秘伝、親類縁者たりともごく内々ない/\の事内々の事。
狐狸こりの仕業はかならずあるものと信じて居た。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
獅子に似た兇心、兎の怯懦きょうだ狐狸こりの狡猾……
狂人日記 (新字新仮名) / 魯迅(著)
「でも、まさか狐狸こりの住家ではあるまい」
凡俗なる狐狸こりともがらを友と
鬼桃太郎 (新字新仮名) / 尾崎紅葉(著)
もし、この試験によりて精神にごうも異常なきことを承認するを得ば、狐狸こりもしくは蛇の類の憑付ひょうふにあらざることを知るを得ん。
狐狸こりでも住みそうな、この古館ふるやかたのしいんとしていることはどうだ。も見えぬし、犬すらもここにはいないとみえる。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
狐狸こりどもの我をたぶらかすにやと、その夜は湯にもいらでしぬ。夜あけて、この事を家あるじに語りければ、それこそ折ふしは来り給ふ人なり。
温泉雑記 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
月下の美人生面せいめんにしてわが名をる。馭者たる者だれか驚かざらんや。渠は実にいまだかつて信ぜざりし狐狸こりの類にはあらずや、と心はじめて惑いぬ。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それとも狐狸こりの類のいたずらであろうか。だが、現代にそんな草双紙くさぞうしめいた現象があり得ようとも思われなかった。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
洛中がその始末であるから、羅生門の修理などは、元より誰も捨てて顧る者がなかった。するとその荒れ果てたのをよい事にして、狐狸こりむ。盗人ぬすびとが棲む。
羅生門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あらゆる女出入に飽き果てた宗三郎に取っては、狐狸こりでも変化でも構わない、現世的な生活から逃離し、物的な慾望を持たない、恋の対象だけが望ましかったのです。
猟色の果 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
それが恐ろしさと馬鹿らしさに皆、忘れても和尚を負かさぬように気を付けているが、それでも時々大地震のような家鳴やなり、震動が起るので、事によるとやはり狐狸こり仕業しわざかも知れない。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
せよとかたはらへ摺寄すりよればお粂はとくより心得居し事ゆゑ一向おどろかずアイサ私しは盜賊たうぞく山賊さんぞくの類でなく又狐狸こりにても候はず大願だいぐわん有て當山へこもりし者なり本社拜殿はいでんは女人禁制きんせい故此茶屋ちややにて通夜つや
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
数え年二百歳か三百歳というだうら若い青さに痩せていた頃、嘘八百と出鱈目仙(千)人で狐狸こりかためた新手にいて村では、信州にかくれもなき怪しげな年中行事が行われ、毎年大晦日の夜
猿飛佐助 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
蕪村は狐狸こりかいを為すことを信じたるか、縦令たとい信ぜざるもこの種の談を聞くことを好みしか、彼の自筆の草稿『新花摘しんはなつみ』は怪談をすること多く、かつ彼の句にも狐狸を詠じたる者少からず。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
家つきの調度の品々までなかなかにった住居すまいではあるが、ながらく無人、狐狸こりの荒らすにまかせてあったうえに、いまの住人というのがまた得体えたいの知れない男ばかりの寄合い世帯なので
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
こんなことは生れて初めての伝七郎、大袈裟に云えば魂も宙に飛んでしまい、骨抜き泥鰌どじょうのように酔って、よし狐狸こりの類の化かすにもせよ、ただこの仙境の消えであれかしと願うだけだった。
恋の伝七郎 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
待てよ、先刻せんこくから表にたゝずんだまゝ近寄らぬ処を見れば、日頃女房に恋いこがれている我が心に附け入って、狐狸こりのたぐいが我をたぶらかすのではないか知らん、いや/\全く人かも知れぬ、兎も角も声を
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
何にしても厄介やっかいな相手で、彼らに挑まれた為に夜どおし角力を取り、後には気狂のようになったという話が九州などには多い。それでいて必ずしも狐狸こりのごとくだますつもりではないらしいのである。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
凡俗ほんぞくなる狐狸こり
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)