いき)” の例文
まさかこればかりを客に出すわけにもいかないから、いきあゆの塩焼きといっしょにして「源平焼げんぺいやきでございます」などといって出す。
インチキ鮎 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
そして黙ったままその大石に一著を補っていきとした。瀬川が素知らぬ風を装ってることが、ちらと動いた頬の筋肉で彼に感じられた。
愚かな一日 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
いきづくりはお断わりだが、実は鯉汁こいこく大歓迎なんだ。しかし、魚屋か、何か、都合して、ほかの鯉を使ってもらうわけには行くまいか。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼女はいき々と金を欲しがった。女学校時代、金は何か卑しいもののやうに評価されてゐたのが、今は金の華やかさにすっかり感嘆した。
滑走 (新字旧仮名) / 原民喜(著)
「すみちゃん。おれは昨夜ゆうべから急に何だか若くなったような気がしているんだ。昨夜だけでもいきがいがあったような気がしているんだ。」
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「それぢや一と風呂浴びて來るが、——その間によく考へて置くが宜い。その大石たいせきはどう考へたところでいきはあるまいが」
わかい芳郎の眼はその花にひきつけられた。冬薔薇のような赤いいきいきとした花は、ねずみ色にぼかされた四辺あたりの物象の中にみょうにきわ立って見えた。
赤い花 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
いきられるだけいきてみようじゃないか。何のこれが見付かりさえすれば助かるのだ。事に寄ると、骨はけているかも知れんから、そうすれば必ず治る。
前途にどれ程の困難があり、危険があり、この世のほかいき地獄が横わっているかを、まるで想像もしていなかった。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
身體からだあたまらくがないので、何時いつでもうはそら素通すどほりをすることになつてゐるから、自分じぶんそのにぎやかなまちなかいきてゐると自覺じかく近來きんらいとんおこつたことがない。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
黄身は鶏の食物で白身が鶏の身体にある間黄身が養っている。雛になってもまだ半分位腸の上の方に残っているから二、三日食物を与えないでも平気でいきている。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
いきている者に物をいう様に分らぬ事を繰返し大きに遅れたと帰ろうとすると、ばら/\降出して来て、ほかく処もないから水街道の麹屋へこうとすると、和尚様は
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
……「精神病院はこの世のいき地獄」という事実を痛切に唄いあらわした阿呆陀羅経あほだらきょうの文句……
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
桃太郎の誕生場をやると、仲見世の何とかいう、今の天勇のもう一つ向こうの通りの勧工場に、永らくかざられてあったいき人形にそっくりだった。まったくあれの再来かと疑われた。
随筆 寄席風俗 (新字新仮名) / 正岡容(著)
このような簡単なものは、ずいぶん古くからあったもので、僕が少年時代、神戸の湊川みなとがわが、まだ淋しい堤防であったとき、その上に掛かった小屋で、「いき人形」を見たのを覚えている。
人造物語 (新字新仮名) / 海野十三(著)
万年草まんねんそう、高野山大師の御廟にあり一とせに一度日あってこれを採と云此枯たる草を水に浮めて他国の人の安否を見るに存命なるは草。水中にいきおいたるがごとし亡したるは枯葉そのまゝ也
植物一日一題 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
「贅沢な老人だな。こんな採りたての、いきのいい海老を食べるなんて。」
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
中姉樣ちうねえさま何時いつもお留守居るすゐのみしたまへば、ぼく我長おほきくならば中姉樣ちうねえさまばかり方々はう/″\れてきて、ぱのらまやなにかヾせたきなり、れは色々いろ/\いきたるやうきてありて、鐵砲てつぱうなにかも本當ほんたうやうにて
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
われは大統領ドオジエたち輪奐りんくわんの美をたづねて、その華麗を極めたるむなしき殿堂を經𢌞へめぐり、おそろしきいき地獄の圖ある鞠問所きくもんじよを觀き。われは彼四面皆ふさがりたる橋の、小舟通ふ溝渠の上に架せられたるを渡りぬ。
何か証拠品が落て居たのか夫は実に驚いたナ(谷)ナニ斯う抜目なく立廻らねば駄目だよ夫も君達の目で見ては何の証拠にも成らぬが苦労人のいきた目で見れば夫が非常な証拠に成る(大)エ其品は何だ
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
その魚は、漁師の籠からでも落ちたものらしく、いきがよかった。
播州平野 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
兄弟が揃った処、お祖母さんも、この方がお気に入るに違いない、父上おとうさん母上おっかさんの供養の為に、いきものだから大川へ放して来ようよ……
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
関西方面ではともかく、東京でいきあゆの料理が自由に食べられるようになったのは、そう古いことではない。
若鮎の塩焼き (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
大事ないき證人があつたんだから、それを伴れて來て、首實驗をするのが一番早い、——り組の若い者磯吉——あの男は半九郎を刺し殺した女を見てゐる筈だ。
……と思う間もなくどこの何者とも知れない女性の叫びに苛責さいなまれ初めた絶体絶命のいき地獄……この世の事とも思われぬほど深刻な悲恋を、救うことも、逃げる事も出来ない永劫えいごうの苛責……。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
如何どうして此三昼夜ばッかいきちょったか? 何を食うちょったか?
人夫たちの眼はいきいきとした。権兵衛は軍扇をった。
海神に祈る (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そこで、讃歎すると、上流、五里七里の山奥からいきのまま徒歩で運んで来る、山爺やまじじいの一人なぞは、七十を越した、もう五十年余りの馴染なじみだ、と女中が言った。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「その時は手前てめえいき証人になってくれるだろう。なア、彦兵衛」
いきあゆの刺身は洗い作りの王、一尾から四切れか六切れ。
料理メモ (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
すきは要らん、うめちゃいかん、いきて居るよ!」
驚破すわやとって行き見れば、この時しも得三が犠牲いけにえを手玉に取りて、いきみ殺しみなぶりおれる処なりし。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鉄砲巻は山に積むし、近所の肴屋さかなやから、かつおはござってら、まぐろいきの可いやつを目利して、一土手提げて来て、私が切味きれあじをお目にかけたね。素敵な切味、一分だめしだ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……馳走酒ちそうざけのひどいのをしたたか飲まされ、こいつはいきがいいと強いられた、黄肌鮪きはだの刺身にやられたと見えて、うちへ帰ってから煩った、思い懸けず……それがまた十何年ぶりかで
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白い腕を露呈あらわに、とかがみ腰に手を伸ばして、ばさりと巣を探る悪戯いたずらのように——指を伏せてもらちあく処を——両手に一つずつ饅頭を、しかしいきもののごとくふわりと軽く取った。
美人したたか身をあせれば、まげ崩れ、なり乱れ、帯はするする、もすそははらはら、いとしどけなくなれるに恥じて、はや一歩ひとあしも移し得ず、肩をすぼめて地にひれふし、いきたる心地更に無し。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「分ってら、分ってらい、いや分ってます。御馳走は分ってら。御馳走でなくッて、この霜枯にいきのいいきはだと、濁りのねえ酒が、わっしの口へへえりようがねえや、ねえ、おかみさん。」
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
故郷ふるさとなる、何を見るやら、むきは違っても一つ一つ、首を据えて目をみはる。が、人も、もの言わず、いきものがこれだけ居て余りの静かさ。どれかがかすかに、えへん、と咳払せきばらいをしそうでさみしい。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ふゆことでの、前兆ぜんてうべい、八尺余はつしやくよつもつたゆき一晩ひとばんけて、びしや/\とえた。あれまつあをいわ、とうちに、てん赤黒あかぐろつて、きものといきものは、どろうへおよいだての。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
でっくりふとった膏親爺あぶらおやじと、軽薄けいはくらしい若いものと、誰が見ても、人買が買出した様子なのが、この炎天だから、白鵞はくがかもも、豚も羊も、一度水を打って、いきをよくし、ここの清水で、息を継がせて
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)