トップ
>
森閑
>
しんかん
ふりがな文庫
“
森閑
(
しんかん
)” の例文
四つの
櫓
(
やぐら
)
のそそり立つ方形の城の中は、
森閑
(
しんかん
)
として物音もない。絵のやうに
霞
(
かす
)
むリスタアの風物のさなか、春の日ざしに眠つてゐる。
ジェイン・グレイ遺文
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
ことによると時計が違っているのかも知れないが、それにしても病院中が
森閑
(
しんかん
)
となっているのだから、真夜中には違い無いであろう。
一足お先に
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
玄関へかかって案内を頼んでもその太鼓の音は
毫
(
ごう
)
もやまなかった。その代り
四辺
(
あたり
)
は
森閑
(
しんかん
)
として人の住んでいる
臭
(
におい
)
さえしなかった。
彼岸過迄
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
この谷を
挾
(
はさ
)
んだ二つの山はまだ
暁暗
(
ぎょうあん
)
の中に
森閑
(
しんかん
)
とはしているが、そこここの
巌蔭
(
いわかげ
)
に何かのひそんでいるらしい
気配
(
けはい
)
がなんとなく感じられる。
李陵
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
髪をくしけづり、
粉白粉
(
こなおしろい
)
もつけて、また、急いで食堂へ戻つたが、網戸を
叩
(
たた
)
く白い蛾の
気忙
(
きぜ
)
はしい羽音だけで、広い食堂は
森閑
(
しんかん
)
としてゐる。
浮雲
(新字旧仮名)
/
林芙美子
(著)
▼ もっと見る
弘もまだ学校から帰らないし、家の中は
森閑
(
しんかん
)
として何だか一人取り残されたように静かである。仕方がない、又ルイズにでも会いに行こうか。
蓼喰う虫
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
どこか
上品
(
じょうひん
)
で、ものごしのしずかな
旅
(
たび
)
の
侍
(
さむらい
)
が、
森閑
(
しんかん
)
としている
御岳
(
みたけ
)
の
社家
(
しゃけ
)
の
玄関
(
げんかん
)
にたって、
取次
(
とりつ
)
ぎを
介
(
かい
)
してこう申し
入
(
い
)
れた。
神州天馬侠
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
森閑
(
しんかん
)
とした家の中から女中が出て來て荷物を受取る。何軒もあるのかと思つてゐたらこの家ただ一軒しか無いのであつた。
熊野奈智山
(旧字旧仮名)
/
若山牧水
(著)
だが、毎晩のように、その女の歌声は、
森閑
(
しんかん
)
とした夜の闇の奥からはじまり、足どりと調子を合わせながら、テンポ正しく窓の下を通りすぎる。
軍国歌謡集
(新字新仮名)
/
山川方夫
(著)
が、この地下の一室に設けられたバー・オパールの空気だけは、
森閑
(
しんかん
)
として、このバーが設けられて以来の、変りない薄暗さの中に
沈淪
(
ちんりん
)
していた。
白金神経の少女
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
いよいよ
森閑
(
しんかん
)
として、読者は、思はずこの世のくらしの侘びしさに身ぶるひをする、といふ様な仕組みになつてゐた。
音について
(新字旧仮名)
/
太宰治
(著)
男達が右往左往し娼女達の嬌声が高らかに響き返っていた昨夜の娼家界隈とも思われない程、辺りは
森閑
(
しんかん
)
としている。
天馬
(新字新仮名)
/
金史良
(著)
さらりと、
鍵
(
ママ
)
の手の縁側の角に当って人の
衣摺
(
きぬず
)
れの音がしたようですが、あとは
森閑
(
しんかん
)
として薄日の当る池泉式の庭に生温い風がそよ/\吹くだけでした。
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
森閑
(
しんかん
)
とした
浴室
(
ゆどの
)
、
長方形
(
ちやうはうけい
)
の
浴槽
(
ゆぶね
)
、
透明
(
すきとほ
)
つて
玉
(
たま
)
のやうな
温泉
(
いでゆ
)
、これを
午後
(
ごゝ
)
二
時頃
(
じごろ
)
獨占
(
どくせん
)
して
居
(
を
)
ると、くだらない
實感
(
じつかん
)
からも、
夢
(
ゆめ
)
のやうな
妄想
(
まうざう
)
からも
脱却
(
だつきやく
)
して
了
(
しま
)
ふ。
都の友へ、B生より
(旧字旧仮名)
/
国木田独歩
(著)
次郎は、お浜の娘のお兼とお鶴とを相手に、地べたに
蓆
(
むしろ
)
を敷いて、ままごと遊びをしている。場所は古ぼけた小学校の校庭だが、
森閑
(
しんかん
)
として物音一つしない。
次郎物語:01 第一部
(新字新仮名)
/
下村湖人
(著)
「それから、私たちは、
庫裡
(
くり
)
や本堂の各部屋を捜しましたが、どこもかも
森閑
(
しんかん
)
として、鼠一匹おりませんでした。犯人は寺男を絞殺して逃げたものと見えます」
墓地の殺人
(新字新仮名)
/
小酒井不木
(著)
主人は獄死し、引続いて夫人と遺子とが行方不明になった畑柳家は、まるで空家のように
森閑
(
しんかん
)
としていた。
吸血鬼
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
四辺
(
あたり
)
は
夕暮
(
ゆうぐれ
)
の
色
(
いろ
)
につつまれた、いかにも
森閑
(
しんかん
)
とした、
丁度
(
ちょうど
)
山寺
(
やまでら
)
にでも
臥
(
ね
)
て
居
(
い
)
るような
感
(
かん
)
じでございます。
小桜姫物語:03 小桜姫物語
(新字新仮名)
/
浅野和三郎
(著)
と、立直って、襟の下へ
一寸
(
ちょっと
)
端を見せてお札を受けた、が、老僧と机ばかり円光の
裡
(
うち
)
の日だまりで、あたりは
森閑
(
しんかん
)
した、人気のないのに、何故か心を引かれたらしい。
遺稿:02 遺稿
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
ただ
森閑
(
しんかん
)
とした夜の幕を破ってときどきガチャリという金属の
触
(
ふ
)
れあう音が聞えた。その
怪
(
あや
)
しい物音が、室内に今起りつつある光景をハッキリ物語っているのだった。
恐怖の口笛
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
そろそろ花見どきに近づいて、どこの宿屋も江戸見物の客で込み合う頃であるのに、ことしは田舎の人の出が遅いとかいうので、広い佐野屋の二階も
森閑
(
しんかん
)
としていた。
籠釣瓶
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
然しそれは
直
(
す
)
ぐに鎮まって、間もなく、——
何処
(
どこ
)
か部屋の隅の方から、コトンと金具を合せるような物音が聞え……それっきり
森閑
(
しんかん
)
として人の様子もなくなって
了
(
しま
)
った。
亡霊ホテル
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
それに引きかえて、ずっと見廻わしてみた園の部屋は
森閑
(
しんかん
)
として、片づきすぎるほど隅まで片づいていた。それを見ると園は父の死んだという事実をちらっと実感した。
星座
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
駒込淺嘉町の大地主幸右衞門の家は、その廣さと裕福さのせゐで、いつものやうに
森閑
(
しんかん
)
として、隱れん坊遊びの歌だけが、哀調を帶びて、屋敷中何處までも聽えるのでした。
銭形平次捕物控:285 隠れん坊
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
思ひ
耽
(
ふけ
)
つて樹の下を歩いて居ると、急に鶏の声が起つて、
森閑
(
しんかん
)
とした畠の空気に響き渡つた。
破戒
(新字旧仮名)
/
島崎藤村
(著)
こちらから見ていると
一際
(
ひときわ
)
じっと静まり返って、しばらく天地が
森閑
(
しんかん
)
として
冴
(
さ
)
え渡ると
大菩薩峠:01 甲源一刀流の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
だが今は、通りも
森閑
(
しんかん
)
としていて、遠くから心細そうな犬の
吠
(
ほ
)
え声などが聞えてくる。
如何なる星の下に
(新字新仮名)
/
高見順
(著)
大目附近藤相模守が、咳払いと共に下城したあと、ちょっと
森閑
(
しんかん
)
としている時だった。
魔像:新版大岡政談
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
夏は紅白の蓮の花が咲いた。土手には草が
蓬々
(
ほうほう
)
と茂っていた。が、濠端を通る人影はまばらだった。日影の
尠
(
すくな
)
い、白ちゃけた道が、
森閑
(
しんかん
)
として寂しく光った。
葭簀張
(
よしずばり
)
の店もなかった。
四谷、赤坂
(新字新仮名)
/
宮島資夫
(著)
一種
森閑
(
しんかん
)
たる靜寂が海濱の全局を領して、まるで全體が空虚であるやうであつた。
少年の死
(旧字旧仮名)
/
木下杢太郎
(著)
「たいへんなのね。あんまり
森閑
(
しんかん
)
としてるからお留守なのかと思っちゃった」
雑沓
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
時々番傘や蛇の目傘が通るばかり、
庇
(
ひさし
)
の長く出た広い通りは
森閑
(
しんかん
)
としている。
田舎教師
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
語るもの聞くもの
森閑
(
しんかん
)
とした景色に耳を澄ます。
別府温泉
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
一
刹那
(
せつな
)
、極めて
森閑
(
しんかん
)
としていた。
阿Q正伝
(新字新仮名)
/
魯迅
(著)
それでもまだ救いの手は
炭車
(
トロッコ
)
の
周囲
(
まわり
)
に近付いていなかったらしく、そこいら中が
森閑
(
しんかん
)
として息の通わない死の世界のように見えていた。
斜坑
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
先生は同じ言葉を二
遍
(
へん
)
繰り返した。その言葉は
森閑
(
しんかん
)
とした昼の
中
(
うち
)
に異様な調子をもって繰り返された。私は急に何とも
応
(
こた
)
えられなくなった。
こころ
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
その
頃
(
ころ
)
、僕
達
(
たち
)
は
郊外
(
こうがい
)
の墓場の裏に居を定めていたので、初めの程は二人共
妙
(
みょう
)
に
森閑
(
しんかん
)
とした気持ちになって、よく
幽霊
(
ゆうれい
)
の
夢
(
ゆめ
)
か何かを見たものだ。
魚の序文
(新字新仮名)
/
林芙美子
(著)
授業中の校舎は
森閑
(
しんかん
)
としていて、ときとして屋上にはりめぐらされた金網の向うに、校庭で体操をしている幾組かの騒音や、号令や小さな叫びや
煙突
(新字新仮名)
/
山川方夫
(著)
森閑
(
しんかん
)
とした禅房の奥なので、
芭蕉
(
ばしょう
)
にかくれている中庭の向うの広書院まで、この声はよく届いて来るのだった。
新書太閤記:02 第二分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
滋幹は、垣根が朽ちて倒れているのを
跨
(
また
)
ぎ越え、構えの内へ二た足三足這入って行って、暫くあたりを窺っていたが、
森閑
(
しんかん
)
として人の住んでいそうなけはいもない。
少将滋幹の母
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
お寺のお堂みたいに天井の高い建物は、まるで水の底にでも
在
(
あ
)
る様に、
森閑
(
しんかん
)
と静まり返っていた。
陰獣
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
森閑
(
しんかん
)
とした裏庭に下りると、夫は懐中電灯をパッと点じた。その光りが、庭石や生えのびた
草叢
(
くさむら
)
を白く照して、まるで風景写真の
陰画
(
いんが
)
を
透
(
す
)
かしてみたときのようだった。
俘囚
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
夜
(
よ
)
はやゝ
更
(
ふ
)
けた。はなれの
十疊
(
じふでふ
)
の
奧座敷
(
おくざしき
)
は、
圓山川
(
まるやまがは
)
の
洲
(
す
)
の
一處
(
ひとところ
)
を
借
(
か
)
りたほど、
森閑
(
しんかん
)
ともの
寂
(
さび
)
しい。
城崎を憶ふ
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
森閑
(
しんかん
)
としてゐた。下にも二階にも物音ひとつしなかつた。時々かすかに波の音が伝はつてきた。そのうちにふつと、さつき見た空屋の一つのエレヴェーションが眼にうかんだ。
夜の鳥
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
紀昌の家に
忍
(
しの
)
び入ろうとしたところ、
塀
(
へい
)
に足を
掛
(
か
)
けた
途端
(
とたん
)
に一道の殺気が
森閑
(
しんかん
)
とした家の中から
奔
(
はし
)
り出てまともに
額
(
ひたい
)
を打ったので、覚えず外に
顛落
(
てんらく
)
したと白状した
盗賊
(
とうぞく
)
もある。
名人伝
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
店の方では、まだ起きているのでしょうが、なんの物音もきこえず
森閑
(
しんかん
)
としていました。
指輪一つ
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
そこは天長節の式場に用ひられた大広間、長い腰掛が順序よく置並べてあるばかり、
平素
(
ふだん
)
はもう
森閑
(
しんかん
)
としたもので、下手な教室の隅なぞよりは反つて安全な場処のやうに思はれた。
破戒
(新字旧仮名)
/
島崎藤村
(著)
嗚咽
(
おえつ
)
が出て出て、つづけて見ている勇気がなかった。開演中お静かにお願い申します。千も二千も色様様の人が居るのに、歌舞伎座は、
森閑
(
しんかん
)
としていた。そっと階段をおり、外へ出た。
狂言の神
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
おまんまを食べているうちにも、主人が不在とはいえ、この家の
森閑
(
しんかん
)
たることよ。
大菩薩峠:28 Oceanの巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
ばしゃ、ばしゃと湯の音が、暮れなずむ谷あいの
森閑
(
しんかん
)
とした空気を破る。
煩悩秘文書
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
“森閑”の意味
《名詞》
物音もせず、静寂なさま。深閑。
(出典:Wiktionary)
森
常用漢字
小1
部首:⽊
12画
閑
常用漢字
中学
部首:⾨
12画
“森”で始まる語句
森
森々
森然
森厳
森羅万象
森林
森蔭
森下
森鴎外
森羅