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もうろう
ふりがな文庫
“
朦朧
(
もうろう
)” の例文
朦朧
(
もうろう
)
と見えなくなって、国中、町中にただ
一条
(
ひとすじ
)
、その桃の古小路ばかりが、漫々として波の
静
(
しずか
)
な
蒼海
(
そうかい
)
に、船脚を
曳
(
ひ
)
いたように見える。
絵本の春
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
それでも、この連中はみんな、酒浸りのために黒ずんだ顔色、ぼんやりした
朦朧
(
もうろう
)
たる眼、固く結んだ蒼い唇、などで区別がつくのだ。
群集の人
(新字新仮名)
/
エドガー・アラン・ポー
(著)
堀は、そういう一日ずつが経ってゆくごとに内儀の顔がずっとさきから心の中に生きていたことを
朦朧
(
もうろう
)
として意識のなかにも感じた。
蛾
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
だから文学者の仕事もこの分化発展につれてだんだんと、
朦朧
(
もうろう
)
たるものを明暸に意識し、意識したるものを
仔細
(
しさい
)
に区別して行きます。
文芸の哲学的基礎
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
と、部屋内の
灯
(
ともしび
)
が、一時に光を失ったかのように、四辺
朦朧
(
もうろう
)
と小暗くなり、捧げられた深紅の纐纈ばかりが虹のように燦然と輝いた。
神州纐纈城
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
▼ もっと見る
見る限り灰色の大空に、何かしら途方もなく巨大な生きものが、
朦朧
(
もうろう
)
と覆いかぶさって、不気味なスロー・モーションで
蠢
(
うごめ
)
いていた。
妖虫
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
いかに現在の計測を精鋭にゆきわたらせることができたとしても、過去と未来には末広がりに
朦朧
(
もうろう
)
たる不明の
笹縁
(
ささべり
)
がつきまとってくる。
野球時代
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
今この茶碗で番茶を
啜
(
すす
)
っていると、江戸時代の麹町が湯気の間から
蜃気楼
(
しんきろう
)
のように
朦朧
(
もうろう
)
と現れて来る。店の八つ手はその頃も青かった。
二階から
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
楼上には我を待つ畸人あり、楼下には
晩餐
(
ばんさん
)
の用意にいそがしき老母あり、弦月は我幻境を照らして
朦朧
(
もうろう
)
たる好風景、
得
(
え
)
も言はれず。
三日幻境
(新字旧仮名)
/
北村透谷
(著)
横網ニ親戚ノ家ガアルノデ、ソコヘ行ク途中ナンダロウト思ッタ。ホンノ一分間グライデ、ソレカラアトハ
朦朧
(
もうろう
)
トナッテシマッタ。
瘋癲老人日記
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
うとうとすると、
経帷子
(
きょうかたびら
)
に
数珠
(
じゅず
)
を手にした死装束の母が、
朦朧
(
もうろう
)
と枕許に現れて……全身にビッショリと、汗をかいてしまいました。
仁王門
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
その最も古きは西南戦争の翌年、熊本鎮台の一兵卒が写真をとったときに、
朦朧
(
もうろう
)
としたる他人の姿が一緒に写っていたことがある。
おばけの正体
(新字新仮名)
/
井上円了
(著)
女流詩人らが息を切らし汗を流しながら、シュリー・プリュドンムやオーギュスト・ドルシャンの詩句を、
朦朧
(
もうろう
)
たる調子で
誦
(
しょう
)
した。
ジャン・クリストフ:07 第五巻 広場の市
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
多くの人に残る記憶も前後して
朦朧
(
もうろう
)
としたものとなり勝ちであるが、明治の文学らしい文学はあの二十年代にはじまったと言っていい。
千曲川のスケッチ
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
マリア・ブルネル夫人と同じ
朦朧
(
もうろう
)
状態を
狙
(
ねら
)
い、あわよくば、まさに飛び去ろうとする潜在意識を記録させようとしたからなんだよ。
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
興奮と
煩悶
(
はんもん
)
とに
労
(
つか
)
れた勝平の頭も、四時を打つ時計の音を聴いた後は、
何時
(
いつ
)
しか
朦朧
(
もうろう
)
としてしまって、寝苦しい眠りに落ちていた。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
其処
(
そこ
)
へ幸ひ戸口に下げた
金線
(
きんせん
)
サイダアのポスタアの蔭から、小僧が一人首を出した。これは表情の
朦朧
(
もうろう
)
とした、
面皰
(
にきび
)
だらけの小僧である。
あばばばば
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
着物は——中田の
朦朧
(
もうろう
)
とした
眼
(
まなこ
)
には、黒っぽい
盲縞
(
めくらじま
)
のように思えたが、それが又、あたりの荒廃色と、妙に和合するのであった。
自殺
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
すると店の灯も、町の人通りも
香水
(
こうすい
)
の湯気を通して見るように
媚
(
なま
)
めかしく
朦朧
(
もうろう
)
となって、いよいよ自意識を
頼
(
たよ
)
りなくして行った。
金魚撩乱
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
されど、二度三度ふりかえりし時は、白き姿の
朦朧
(
もうろう
)
として見えたりしが、やがて
路
(
みち
)
はめぐりてその姿も見えずなりぬ。ただ三たび
小説 不如帰
(新字新仮名)
/
徳冨蘆花
(著)
酔眼
朦朧
(
もうろう
)
たる眼前へ二十人ぐらいの舞妓達が次から次へと現れた時には、いささか天命と諦らめて観念の眼を閉じる気持になった程である。
日本文化私観
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
第一に殺人その他の重罪犯人は犯行中精神の
朦朧
(
もうろう
)
状態にあり、犯行後になって、自分の犯行を全く記憶していない場合がある。
誰が何故彼を殺したか
(新字新仮名)
/
平林初之輔
(著)
円い
磨硝子
(
すりがらす
)
の笠をかけた
朦朧
(
もうろう
)
たるランプの火影に、十九歳のロザリンが
洋琴
(
ピアノ
)
を弾きながら低唱したあのロマンスのなつかしさ。
海洋の旅
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
ふりかえった彼の前をすれすれに、
朦朧
(
もうろう
)
たる人影が、音もなく通り過ぎて部屋の中へ入ってきた。何であろう。何者であろう。
四次元漂流
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
ようやく近ごろ酔眼
朦朧
(
もうろう
)
として始めて
這個
(
しゃこ
)
の消息を
瞥見
(
べっけん
)
し得たるに似るがゆえに、すなわちこの物語に筆を執りいささか所懐の一端を伸ぶ。
貧乏物語
(新字新仮名)
/
河上肇
(著)
此の考が
閃
(
ひらめ
)
くと、一時はっと気が付きかけたが、暫くして再び意識が
朦朧
(
もうろう
)
とし出した。ぼんやりした意識の中に妙な光景が浮び上って来た。
光と風と夢
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
一転すると悲壮沈痛にして、抑えがたき感慨が
籠
(
こも
)
る。
朦朧
(
もうろう
)
として春の宵の如きところから、
寥々
(
りょうりょう
)
として秋の夜の月のように冴え渡って行く。
大菩薩峠:19 小名路の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
目が
醒
(
さ
)
めた時、重吉はまだベンチにいた。そして
朦朧
(
もうろう
)
とした
頭脳
(
あたま
)
の中で、過去の記憶を探そうとし、一生懸命に努めて見た。
日清戦争異聞:(原田重吉の夢)
(新字新仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
四方の壁際までにはやっとその光りが泳ぎ着く位で、四
囲
(
い
)
は灰色の壁が
朦朧
(
もうろう
)
と浮き出てストーブの火もいつしか消えていた。
点
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
自分の嘘の効果のあまりの絶大さに、悪夢でも見ているような
朦朧
(
もうろう
)
とした気持ちで、でも半分は本気でそれをたずねたのだ。
軍国歌謡集
(新字新仮名)
/
山川方夫
(著)
十吉は振返つて、やはりその火影を見てゐるブラウエンベルグ老人の顔にほつと安堵の色のうかんだのを、
朦朧
(
もうろう
)
たる幽暗の中にみとめた。……
灰色の眼の女
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
やっとその時になって玄竜は横合いの方から臆病そうに首を突き出し、慌てたように
朦朧
(
もうろう
)
とした目をこすって見据え、口をばっくりと開けた。
天馬
(新字新仮名)
/
金史良
(著)
バベはよく言った、「クラクズーは二色の声を持ってる夜の鳥だ。」彼は
朦朧
(
もうろう
)
とした恐ろしい、ぶらつき回ってる男だった。
レ・ミゼラブル:06 第三部 マリユス
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
忽
(
たちま
)
ち
山岳
(
さんがく
)
鳴動
(
めいどう
)
し、
黒烟
(
こくゑん
)
朦朧
(
もうろう
)
と
立昇
(
たちのぼ
)
る、
其
(
その
)
黒烟
(
こくゑん
)
の
絶間
(
たえま
)
に
眺
(
なが
)
めると、
猛狒
(
ゴリラ
)
は
三頭
(
さんとう
)
共
(
とも
)
微塵
(
みじん
)
になつて
碎
(
くだ
)
け
死
(
し
)
んだ、
獅子
(
しゝ
)
も
大半
(
たいはん
)
は
打斃
(
うちたを
)
れた、
途端
(
とたん
)
に
水兵
(
すいへい
)
が
海島冒険奇譚 海底軍艦:05 海島冒険奇譚 海底軍艦
(旧字旧仮名)
/
押川春浪
(著)
朦朧
(
もうろう
)
ランプに照らされた空車の二字が目に入った刹那、本庄は救われたような喜びに我を忘れて合図の手を高くさし挙げ、停るのを待ち兼ねて
黒猫十三
(新字新仮名)
/
大倉燁子
(著)
動物的生命においては見るといっても、
朦朧
(
もうろう
)
たるに過ぎない、夢の如くに物の影像を見るまでであろう。動作が本能的と考えられる所以である。
絶対矛盾的自己同一
(新字新仮名)
/
西田幾多郎
(著)
それまで、どこを転々として、何をしてゐたかと、
朦朧
(
もうろう
)
として頭を
捻
(
ひね
)
つて跡を辿ると、恥づべき所業だけしか手繰り得ないのもいつもの通りだ。
大凶の籤
(新字旧仮名)
/
武田麟太郎
(著)
朦朧
(
もうろう
)
とした月の光の
射
(
さ
)
した水の上に岸を離れたばかりの小舟が浮んで、それが湖心のほうへ動いていた。櫓を
押
(
おし
)
ている小柄の男の姿も見えていた。
ある神主の話
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
きかねど
晦日
(
みそか
)
に
月
(
つき
)
の
出
(
で
)
る
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
十五夜
(
じふごや
)
の
闇
(
やみ
)
もなくてやは
奧
(
おく
)
は
朦朧
(
もうろう
)
のいかなる
手段
(
しゆだん
)
ありしか
新田
(
につた
)
が
畫策
(
くわくさく
)
極
(
きは
)
めて
妙
(
めう
)
にしていさゝかの
融通
(
ゆうづう
)
もならず
示談
(
じだん
)
を
別れ霜
(旧字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
眠っているのかいないのか判然せぬ状態、揉ませている方の意識もやや
朦朧
(
もうろう
)
たる点が、春雨の趣に調和するのであろう。
古句を観る
(新字新仮名)
/
柴田宵曲
(著)
彼は快活で
朦朧
(
もうろう
)
たる心持の、のんきな連中に
伍
(
ご
)
しているのが耐えられなかった上、また彼の額にある極印が、その連中には邪魔になったからである。
トニオ・クレエゲル
(新字新仮名)
/
パウル・トーマス・マン
(著)
廻り
燈籠
(
どうろう
)
の人物の影が、横に廻らず上下に
旋
(
まわ
)
ったらあたかも予が見た所に同じ。しかし影でなくて
朦朧
(
もうろう
)
ながら二人の身も衣装もそれぞれ色彩を具えた。
十二支考:10 猪に関する民俗と伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
発
(
た
)
ち
際
(
ぎは
)
のあわたゞしさの中でも、彼を思ひ、是を思ひ、時に
朦朧
(
もうろう
)
とした、時に
炳焉
(
へいえん
)
とした悲しみに胴を顫ひ立たせ
途上
(新字旧仮名)
/
嘉村礒多
(著)
こんど急な病気で半分意識が
朦朧
(
もうろう
)
としたとき、フロムゴリド博士をよび、自動車をまわして入院させてくれたのは、大使館の河井夫妻の親切であった。
道標
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
明和
(
めいわ
)
戊子
(
ぼし
)
晩春、雨
霽
(
は
)
れ月
朦朧
(
もうろう
)
の夜、
窓下
(
さうか
)
に編成し、以て
梓氏
(
しし
)
に
畀
(
あた
)
ふ。題して
雨月物語
(
うげつものがたり
)
と
曰
(
い
)
ふと云ふ。
剪枝畸人
(
せんしきじん
)
書す。
雨月物語:02 現代語訳 雨月物語
(新字新仮名)
/
上田秋成
(著)
大杯を持って、そのうしろへ坐ったのが、
無態
(
むたい
)
に、与平のからだを抱いて、自分のほうへ向け直すと、与平はもう別人のような酔眼を、
朦朧
(
もうろう
)
とすえて
梅里先生行状記
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
昭和九年私の父が
胃潰瘍
(
いかいよう
)
で大学病院に入院、退院後十月十日に他界した。彼女は海岸で身体は丈夫になり
朦朧
(
もうろう
)
状態は脱したが、脳の変調はむしろ進んだ。
智恵子の半生
(新字新仮名)
/
高村光太郎
(著)
半ば
朦朧
(
もうろう
)
状態に於て意識せるものとするも、
彼
(
か
)
の小児の人形飜弄の如く、自己が手を下したるものとは
思惟
(
しい
)
せずして、屍体そのものの活躍なりと錯覚し
ドグラ・マグラ
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
ところで、その時に見せてもらった雲岡の写真は、
朦朧
(
もうろう
)
とした出来の悪いもので、あそこの石仏の価値を推測する手づるにはまるでならなかったのである。
麦積山塑像の示唆するもの
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
こんなことを言って熱心に世話もしないのであったが、宮は
終焉
(
しゅうえん
)
の床で、夫人がもう意識も
朦朧
(
もうろう
)
になっていながら、生まれた姫君を気がかりに思うふうで
源氏物語:47 橋姫
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
朦
漢検1級
部首:⽉
17画
朧
漢検1級
部首:⽉
20画
“朦朧”で始まる語句
朦朧体
朦朧俥夫
朦朧状態
朦朧車夫