晦日みそか)” の例文
すなはち仏前に座定ざじょうして精魂をしずめ、三昧さんまいに入る事十日余り、延宝二年十一月晦日みそかの暁の一点といふに、忽然こつぜんとしてまなこを開きていわ
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
先月の晦日みそかから手前共の二階に泊まって居りまして、闇祭りの日のひるすぎに、これから一座のあとを追って行くと云って立ちました
半七捕物帳:68 二人女房 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
催促はしないけれども、どうかしてくれればいいがと思って、日を過ごすうちに晦日みそか近くなった。もう一日二日ふつかしか余っていない。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
毎月の月給が晦日みそかの晩になっても集金人が金を持って帰るまでは支払えなくて、九時過ぎまでも社員が待たされた事が珍らしくなかった。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
毎月晦日みそかぢかくなると、お千代は一時自分のものにして喜んでいた種子の衣類を一襲々々ひとかさねひとかさね質屋に持って行かなくてはならぬようになった。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼を割下水のどぶの中へ打込み、半殺しにしたは実に大逆非道な奴で、捨置かれぬと云う其の癇癖をこらえ/\て六月の晦日みそかまで待ちました。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
しこうして周布の力は彼が行をして十二月晦日みそかまで延期せしめたり。而してこの延期中には如何なる変化をば彼が身に及ぼせしか。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
一昨日は三月の晦日みそかで、夜中近くまで弟の金次郎を相手に帳面を調べ、それからめいのお豊のしやくで珍しく一杯呑んで寢たのは子刻こゝのつ(十二時)過ぎ。
二十九日にはさかいへ向い、晦日みそかには、堺奉行所の公式の饗応きょうおうに招かれたり、また松井友閑まついゆうかんの案内で、遊覧などに送っている。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
晦日みそかに金を取りに来た牛乳屋が、辰代の断りの言葉を聞いて、先月から滞ってるのにそれでは困ると、可なりうるさく云ってから、何と思ったか
変な男 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
きかねど晦日みそかつきなか十五夜じふごややみもなくてやはおく朦朧もうろうのいかなる手段しゆだんありしか新田につた畫策くわくさくきはめてめうにしていさゝかの融通ゆうづうもならず示談じだん
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
二十五枚ひとさしが二貫、即ち二十銭、晦日みそかの掛取りに二、三本受け取ると、風呂敷に包んで天秤棒の先につけて担ぐ。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
「一年じゅう麦めしに漬物、十五日と晦日みそかに味噌汁が一杯、そのときは汁の中のみを皿に取ったのがおかずで、ほかには漬物も喰べさせねえそうだ」
へちまの木 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
河原のやみの底を流れる川水が、ほのかな光を放っている外は、晦日みそかに近い夜の空は曇って、星一つさえ見えなかった。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「ナニ、これしきのことに凹んでたまるもんですか。私の頭脳の中には、今塩瀬の店の運命がある——おまけに明日は晦日みそかという難関を控えている」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
二十五日、二十八日、晦日みそか、大晦日、都の年の瀬は日一日と断崖だんがいに近づいて行く。三里東の東京には、二百万の人の海、さぞさま/″\の波も立とう。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
もっと多くの類似が出て来るとよいのだが、愛知県の東部、三河の南設楽みなみしだら郡のうちには、九月晦日みそかの神送りのよいを、田の神送りと呼んでいる村がある。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
女流文学者は毎月晦日みそかにはきまつて厭世観を起す例になつてゐるが、しかしこの瞬間ほど世の中を厭に思つた事はない。
夫も五月十日に返濟なし七月盆前ぼんぜんに五十兩借是又同廿日に返し九月節句前にも八十兩借同月晦日みそかに返濟せしがさて今度は十二月となり年のくれなれば誰も金を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
……実は今月の晦日みそかに、伝馬町の堺屋から虎列剌ころりが出たんです。……主人の嘉兵衛と一番番頭の鶴吉と姉娘の三人がひどい吐潟下痢はきくだしをして死んでしまった。
顎十郎捕物帳:05 ねずみ (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
十一月も晦日みそかのことであった。小平太は朝から小石川の茗荷谷みょうがだににある戸田侯のお長屋に兄の山田新左衛門を訪ねて行った。おりよく兄も非番で在宿していた。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
折竹孫七が、ブラジル焼酎しょうちゅうの“Pingaピンガ”というのを引っさげて、私の家へ現われたのが大晦日みそかの午後。さては今日こそいよいよ折竹め秘蔵のものを出すな。
人外魔境:05 水棲人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
あつちにちやぜにらねえな、煙草たばこぷくふべえぢやなし、十五日目にちめ晦日みそかでそれまでは勘定かんぢやうなしでそのあひだこめでもまきでもみんな通帳かよひりてくれえなんだから
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
喰積くいつみとかいうような物も一ト通り拵えてくれた。晦日みそかの晩には、店頭みせさきに積み上げた菰冠こもかぶりに弓張ゆみはりともされて、幽暗ほのぐらい新開の町も、この界隈かいわいばかりは明るかった。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
◎此の屋敷で一月一杯居りましたが、京都の西郷さんから京の屋敷へ来いと兵隊を迎へによこして呉れましたから、丁度晦日みそかに伏見を立つて京都の薩邸へ這入りました。
千里駒後日譚 (新字旧仮名) / 川田瑞穂楢崎竜川田雪山(著)
「私、何もお止めしているんじゃありませんわ。明後日お帰りなさいよ。丁度晦日みそかで切りが好いわ」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
彼らは旧暦八月朔日ついたちのもうけ魚を取らんために出かけるから、七月の晦日みそかの夜に見ゆるのである。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
壽阿彌は嘉永元年八月二十九日に八十歳で歿したから、歳暮の句は弘化四年十二月晦日みそかの作、歳旦の句は嘉永元年正月ついたちの作である。後者は死ぬべき年の元旦の作である。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
先々月晦日みそかより、太守樣俄に御病氣不一と通わづらひ、大小用さへ御床之内にて、御やすみも不成、先年の御煩の樣に相成模樣にて、至極御世話被成候儀に御座候。
遺牘 (旧字旧仮名) / 西郷隆盛(著)
其外そのほか便利べんりは一々かぞあぐるにおよばざることなり。たゞ此後このゝち所謂いはゆる晦日みそかつきることあるべし。
改暦弁 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
「鎧櫃から化け物浪人とかけて、なんと解く——晦日みそかの月と解く。心は、出たことがない」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
洋服を着て抱え車に乗る、代言人の、わたしの父の家でさえ、毎月晦日みそかそうじがすむと、井戸やおへっついを法印ほういんさんがおがみに来て、ほうろくへ塩を盛り御幣ごへいをたてたりしても
半分は迷信みたいなものがあって、晦日みそかには神主がやって来て荒神こうじん様を拝んで家中御祓おはらいをして帰るとか、そんなことでもいろいろ家庭の情趣として私の心に残っているのは母の御蔭である。
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
そして翌日は晦日みそかになつてゐるのだが、誰も払はずに、交渉を引受けた小肥りの映画説明者の返答を待つことになつた。ところが、翌朝早く、主人は部屋々々を起して廻つて部屋代を取立てた。
日本三文オペラ (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
もう今日ッきりお前に前座同様のコマコマした仕事は言いつけないから安心して芸にお打ち込み。いいかえ。今月と言ってももう晦日みそかだから、正月の下席からお前は真打だ。両国の立花家で看板を
円太郎馬車 (新字新仮名) / 正岡容(著)
因果な事には私のような男の常として、借金の断りを云うのは不得手、従って勘定はキチンキチンと払わなければどうも落ち着いていられないので、晦日みそかが来ると云うに云われない苦労をしました。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
まさか晦日みそかがこわいのじゃないだろうのに、と大笑いですが、やはりすこしペンもたず休みますから。すこし研究を要します。心臓の関係だとこまるから。一時的のものを反覆してはこまりますから。
仕事に来たその月晦日みそかの夜の事、大島老人は、最初私に向って
寛延年不詳としつまびらかならず、霜月のしかも晦日みそか枯野見かれのみからお定まりの吉原へ。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
事件の勃発ぼっぱついたしましたのは、五月のちょうど晦日みそか
晦日みそかの晩かな。
悲しき玩具 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
喜介 先月の晦日みそかにかけ出したぎりで音沙汰なし、相手は大抵見當あたりが付いてゐるものゝ、表沙汰にしたら又迷惑する人もあらう。
箕輪の心中 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
それからもう一つは、瓦斯屋ガスや電気屋、これが勘定を晦日みそかに取りに来ないで月央つきなかの妙な時に取りに来るばかりかまず大抵たいてい剰銭つりせんを持っていない。
独居雑感 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「大變なのにはれてゐるよ。大家に酒屋に米屋、——それに横町の金貸しさ。それにしちやまだ晦日みそかには早いやうだが」
と、いかにも若者らしい感情を頬に燃やして主税は憤慨ふんがいするのだった。——それはつい昨日きのう晦日みそかに起った事なのである。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
生憎あいにく今日は晦日みそか金円きんえん入用いりようで、まとまった金は出来んが、此処こゝへ五十円持って来たから、是だけ請取うけとって置いてくれ
晦日みそかと十一日、二十一日は帳合の日である、平松町へもまわらなければならないし、五時には吉田屋に約束がある。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
精進しょうじん潔斎けっさいなどは随分心の堅まり候ものにてよろしき事とぞんじ候に付き、拙者も二月二十五日より三月晦日みそかまで少々志の候えば酒肴しゅこうども一向べ申さず
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
中にも「晦日みそか」と物のわからない批評家とを一番怖ろしがつたものだが、その女神様を信心し出してからは、この二つさへ一向怖ろしくなくなつたといふ事だ。
見上ぐれば、大内山の翠松の上には歯切れの悪い晦日みそかの月。柳眉悲泣といったぐあいに引っ掛っている。
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)