なぞら)” の例文
そのほか篳篥ひちりきなどは、いずれあとからなぞらえたものであろうが、築山、池をかけて皆揃っている。が、いまその景色を言う場合でない。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「古学をんで、近代の戦術を説き、孫子十三篇になぞらえて、孟徳新書と題せらる。この一書を見ても丞相の蘊蓄うんちくのほどがうかがえましょう」
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
旧暦の六月朔日ついたちには、市中と郊外にある富士山の形になぞらえた小富士や、富士権現を勧請かんじょうした小社に、市民が陸続参詣した。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
闇黒くらやみのなかの雪みたいに大きく群れてるのは恋のかもめたちだろう。むこうにちかちかするのは、羅馬ローマ七丘になぞらえて七つの高台に建ってるリスボンの灯だろう。
隣の坊ちゃんを竜宮りゅうぐう小僧になぞらえて見る。ここでは坊ちゃんは海表かいひょうの世界から縁あって、鶴見に授けられたものとする。坊ちゃんは打出うちで小槌こづちを持って来る。
中国ではこの草が海辺を好んでよく育つというので、それで水仙と名づけたのである。仙は仙人せんにんの仙で、この草を俗を脱している仙人せんにんなぞらえたものでもあろうか。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
相州そうしゅう浦賀郡うらがごおり東浦賀の新井町あらいまち𢌞船問屋かいせんどんやで名主役を勤めた人で、事実有りました人で、明和の頃名高い人で、此の人の身の上にく似て居りますから、此の人になぞら
何故なら、動いてゆく虹は、視半径二度ずつの差で、その視野に入ってくる色を変えてゆくからだよ。つまり、レヴェズは、韻文の恋文を、虹になぞらえて伸子に送ったのだ
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
其のうるさくて忌々いまいましいことはそうの欧陽修をして憎蒼蠅賦の好文字をすに至らしめ、其のえば逃げ、逃げてはまた集るさまは、片倉小十郎をしてこれを天下の兵になぞらえて
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その年の夏となりしが四五月頃の気候のよき頃はさてありしも、六七月となりては西洋なぞらいの外見煉瓦蒸暑きこと言わん方なく、のみの多きことさながらに足へ植えたるごとし。
良夜 (新字新仮名) / 饗庭篁村(著)
その池の北岸を東南に進んでセンゲー・ルン(獅子溪ししだに)というたにの間を通って行きました。がその溪の両側の岩が妙な形をして居るのでチベット人はその岩の形の獅子になぞらえそれで
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
彼は彼自身をメィフェストやヨブになぞらえようと無意識のうちに考えていたのであったと思えば興味がないでもなかったが、かえって肉体的の憂鬱ゆううつを感じさせられる方が遙かに多かった。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
その頃どこかの気紛きまぐれの外国人がジオラマの古物ふるものを横浜に持って来たのを椿岳は早速買込んで、唯我教信と相談して伝法院の庭続きの茶畑をひらき、西洋型の船になぞらえた大きな小屋こやを建て
◯「汝昴宿の鏈索くさりを結ぶや、参宿の繋縄つなぎを解くや」とは何を意味するか。古代人はすべて天象を動物になぞらえたもの故、「結ぶ」「解く」等の語を用いたのであるというのが普通の見方である。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
すなはち此の寺の相をるに、れまことの天台宗の寺に非ず。本尊は聖母マリアにして羅漢は皆十二使徒なり。美しき稚児ちごを養ひて天使になぞらふる御辺の御容体は羅馬ローマン加特里克カトリクか、善主以登ゼスイトか。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
これに似て日本で猫を虎になぞらえた事『世事せじ百談』に
太郎たらう黍團子きびだんごなぞら
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
千助せんすけじゆんさかづき𢌞まはつてとき自分じぶん國許くにもとことなぞらへて、仔細しさいあつて、しのわかものが庄屋しやうや屋敷やしき奉公ほうこうして、つま不義ふぎをするだんるやうに饒舌しやべつて
片しぐれ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
なぜこの花を日輪にちりん、すなわち太陽にたとえたかというと、あの大きな黄色の花盤かばんを太陽の面とし、その周辺に射出しゃしゅつしている舌状花弁を、その光線になぞらえたものだ。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
小供たちはその球根を掘り起して、つないで、珠数じゅずなぞらえて、石地蔵のくびに掛けてる。それだけではすまない。まだまだいたずらをする。球根をりつぶすと粘った濃い汁が出る。
その小説の中の柱たりむなぎたる人物は、あるいは「親孝行」という美徳を人になぞらえて現わしたようなものであったり、あるいは「忠義」という事を人にして現わしたようなものであったり
黍団子きびだんごなぞら
鬼桃太郎 (新字新仮名) / 尾崎紅葉(著)
幇間ほうかんなかまは、大尽客を、獅子ししなぞらえ、黒牡丹と題して、金の角の縫いぐるみの牛になって、大広間へ罷出まかりいで、馬には狐だから、牛に狸が乗った、滑稽おどけはては、縫ぐるみを崩すと
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
説をすものあり、曰く、桐楊のきりは男児に較べ、やなぎ令嬢むすめたちになぞらえたのであろう。漢皇重色思傾国いろをおもんじてけいこくをおもう……楊家女有ようかにじょあり、と同一おんなじ字だ。道理こそ皆美人であると、それあるいはしからむ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なお仏師から手紙が添って——山妻云々とのおことば、あるいはおたわむれでなかったかも存ぜぬが、……しごとのあいだ、赤門寺のお上人が四五度もしばしば見えて、一定いちじょうそれになぞらえ候よう
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
覚束おぼつかなげに巡査の声色こわいろい声で使いながら、打合せの帯の乳の下の膨らんだ中から、一面の懐中鏡を取出して、顔を見て、ほつれ毛を掻上かきあげた。そのくしを取直して、鉛筆になぞらえて
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雪女の、その……なぞらえた……姿見に向って立つ後姿を、美しいひとは、とながめて
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
乱れがみをむしりつつ、手で、砕けよ、とハタと舷を打つと……時のせた指は細くなって、右の手の四つの指環は明星になぞらえた金剛石ダイヤモンドのをはじめ、紅玉ルビイも、緑宝玉エメラルドも、スルリと抜けて
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
乱れがみをむしりつゝ、手で、砕けよ、とハタとふなばたを打つと……時のせた指は細く成つて、右の手のつの指環は明星になぞらへた金剛石ダイヤモンドのをはじめ、紅玉ルビイも、緑宝玉エメラルドも、スルリと抜けて
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
実は太郎を、浦島の子になぞらえて、ひそかに思い上った沙汰さたなのであった。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
泉殿せんでんなぞらへた、飛々とびとびちんいずれかに、邯鄲かんたんの石の手水鉢ちょうずばち、名品、と教へられたが、水の音よりせみの声。で、勝手に通抜とおりぬけの出来る茶屋は、昼寝のなかばらしい。の座敷も寂寞ひっそりして人気勢ひとけはいもなかつた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
泉殿せんでんなぞらえた、飛々とびとびちんのいずれかに、邯鄲かんたんの石の手水鉢ちょうずばち、名品、と教えられたが、水の音より蝉の声。で、勝手に通抜けの出来る茶屋は、昼寝の半ばらしい。どの座敷も寂寞ひっそりして人気勢ひとけはいもなかった。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
水晶にべにをさした鴛鴦おしどりの姿にもなぞらえられよう。……
源氏の著者にやなぞらえたる
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)