たす)” の例文
敵の出で来るを恐れては勿々なかなか軍はなるまじ、その上に延々のびのびとせば、横山つい攻落せめおとさるべし。但し此ほかに横山をたすけんてだてあるべきや。
姉川合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
呉傑ごけつ平安へいあんは、盛庸せいようの軍をたすけんとして、真定しんていより兵を率いてでしが、及ばざること八十里にして庸の敗れしことを聞きて還りぬ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
気高けだか過ぎて……」と男の我をたすけぬをもどかしがって女は首を傾けながら、我からと顔の上なる姿を変えた。男はしまったと思う。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「それたすけに行け」と、にわかに急ぐと、途中の森林や低地から待っていたとばかり伏兵が起った。張苞、関興ふた手の軍勢だった。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
〔評〕官軍江戸をつ、關西諸侯兵を出して之に從ふ。是より先き尾藩びはん宗家そうけたすけんと欲する者ありて、ひそかに聲息せいそくを江戸につうず。
私は現在の所へ来てから、この問題に再び着手して、有力な共同者のたすけを得て、最近その写真を撮ることが出来るようになった。
指導者としての寺田先生 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
たすけしたいと思つてゐるのです。では、先づ云つて下さい、先づ第一にあなたはどんな仕事に經驗があるか、それから何が出來るか。
御用聞、下っ引、狩り集めた組子の総勢は二十八人、銭形平次は治太夫をたすけて、全部の掛け引の責任を持ったことは言うまでもありません。
慎しみ深い人のこととて苦しみはもらさなかった。かえって、すこし心持ちがよいからと、かわやにも人にたすけられていった。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
明くる日の午ちかく、薪を折りに入った村の女たちが、藪落しの近くに倒れている勘三郎をみつけて村へたすけ帰った。
藪落し (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
お前の印堂の黒いことはどうだ、ああ怖い怖いと言ったので、簡単なアマは大変吃驚びっくりし、どうしたらこれを避けることが出来ようかとたすけを求めた。
青年探偵帆村荘六の必死の努力は、警察官をよくたすけて、この前代未聞の怪事件の謎を解くことに成功したのだった。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
機械のたすけをもってまたはこれなくして得られようとも、それは常に等量の他のすべての貨物と交換されるということが、主張されなければならない。
(小説家は、事実を述べている時でも、物語を語っているのではないかと思われるらしい。)誰か実際的な地位をつ人物がたすけて呉れなければ駄目だ。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
そういう風にして何度となく山野を跋渉ばっしょうした阿賀妻であった。それをたすけ、つき従っていた大野順平であった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
くその所天おっとたすけて後顧こうこうれいなからしめ、あるいは一朝不幸にして、その所天おっとわかるることあるも、独立の生計を営みて、毅然きぜんその操節をきようするもの
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
宣告を受けたる同胞の早く毒蛇に卷かれたるを、雲に駕せる靈のたすけ出さんとするあり。悔い恨める罪人の拳もて我額を撃ちつゝ、地獄の底深く沈み行くあり。
陸羽は代宗だいそう(七六三—七七九)のたすくるところとなり、彼の名声はあがって多くの門弟が集まって来た。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
今は中宮をおたすけしていることで、聡明そうめいな人だったから、あの世ででも私の誠意を認めておいでになることだろう。中宮のお字はきれいなようだけれど才気が少ない
源氏物語:32 梅が枝 (新字新仮名) / 紫式部(著)
西部戦線の聯合軍をたすけに、最近本国から巴里パリーへ渡つた米国青年士官の二人があつた。仏蘭西の婦人達は持前のお愛嬌と行き届いた接待とで、この遠来のお客をもてなした。
その『閹人顕正論』の四二頁已下いかにいわく、十一世紀にギリシア人、イタリアのベネヴェント公と戦い、いたくこれを苦しめた後、スポレト侯チッバルドこれをたすけてギリシア軍を破り
震え戦き、永遠の深き息吹いぶきによって時々に半ばたすけ起こされるそれらの女性よ。
例えば奥州の三春駒みはるごまは田村麻呂将軍が奥州征伐おうしゅうせいばつの時、清水寺の僧円珍えんちんが小さい駒をきざみて与えたるに、多数の騎馬武者に化現かげんして味方の軍勢をたすけたという伝説にって作られたもので
土俗玩具の話 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
私共はここに理論と実際とが互に相たすけ合う有様の著しい例を見るわけである。けだし、たしかに、簿記によって表わされる産業の実際は生産理論の確立に大いに役立ち得るからである。
砂利じゃり車のあと押しをして、熱い熱い日の下に働いていたが、ふとはげしい眩惑げんわくを感じて地に倒れ、たすけられて自分の小屋に送り込まれてからは、いかな丈夫な身体からだもどうすることもできず
ネギ一束 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
の大久保利通の如きも、当初はこれに相違なかりしといえども、長州再征の時に到り、幕政のいよいよ以てたすくべからざるを看破したるがために、遂に倒幕に変じたるが如きを見るなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
今他から突如としてたすけに来る人がなくては、とてもたすからぬ命である。
捕われ人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
田が数十けいあるが、貪縦たんじゅうくことがなく、しきりに隣接地を自分の物にしているが、その手段が甚だよくない、ひとりぽっちでたすけのない者を欺いて、やすく買い、中にはその定価を払わないで
富貴発跡司志 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
国民党をたすけると決めたなら決めたで、そっちへどんどんお金を注ぎこむ。支那人が日本人と仲よくしてからほんとに暮らしが楽になったと思うようにするのです。それ以外に手はありませんよ。
女の一生 (新字新仮名) / 森本薫(著)
ひとたすけさへなく六八世にくだりしものの田畑たばたをも、あたひやすくして六九あながちにおのがものとし、今おのれは村長むらをさとうやまはれても、むかしかりたる人のものをかへさず、礼ある人のむしろを譲れば
筑波組も西に走ったあとでは彼の同志はほとんどたすけのない孤立のありさまであった。襲撃があるというので、一家こぞって逃げなければならない騒ぎだ。長男には家に召使いのじいをつけて逃がした。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そして、恐怖だけは、迷いとべつに、尼の神経を冴えさせるばかりだった。山音、風の歩み、雨のようなこおろぎの啼くたすけて。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見ると、その男は富士屋自動車とう帽子をかぶっていた。信一郎は、急にたすけ舟にでも逢ったように救われたような気持で、立ち止った。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
お幽は伊之吉にたすけられて、精一杯の氣持で言ふのです。冷たく、底光りがして、あらゆる情熱を眞珠しんじゆに押し包んだやうな、不思議な娘です。
そこで氏郷は之をたすけて一揆を鎮圧する為に軍を率いて出張したが、途中の宿々しゅくじゅくの農民共は、宿も借さなければ薪炭など与うる便宜をも峻拒しゅんきょした。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
大安楽寺こうぼうさまの門前までゆくと、文字焼もんじやきやのおばさんと、ほおずきやのおばさんが声をかける。下足のお爺さんは、待っていたようにたすけおろしてくれる。
すなわち文面は北条氏と長尾義景とのあいだに交わされた密書で、義景の謀叛むほんを北条氏がたすける意味のものである。
城を守る者 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
〔評〕南洲人にせつして、みだりまじへず、人之をはゞかる。然れども其の人を知るに及んでは、則ち心をかたむけて之をたすく。其人に非ざれば則ち終身しゆうしんはず。
そこで我々新選組が、甲州鎮撫隊と名を改め、正式に幕府から任命され、駿河守殿をたすけ、甲府城を守る事になり、不日ふじつ出発する事になったのじゃが……
甲州鎮撫隊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
室内にレコードを掛けて、柿丘と雪子とが相抱いて踊りはじめると、赭顔あからがおの博士は、柿丘夫人呉子さんをたすけておこして、あざやかなステップを踏むのだった。
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
孤獨になればなる程、友がなければない程、たすけ手がなければない程、それだけ、私は自分を尊敬する。私は神のあたへ給ふた、人間の認める法律を守らう。
迷亭は銭に不自由はしないが、あんな偶然童子だから、寒月にたすけを与える便宜べんぎすくなかろう。して見ると可哀相かわいそうなのは首縊りの力学を演説する先生ばかりとなる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
源氏にも朝家ちょうけの政治に携わる上に心得ていねばならぬことをお教えになり、東宮をおたすけせよということを繰り返し繰り返し仰せられた。夜がふけてから東宮はお帰りになった。
源氏物語:10 榊 (新字新仮名) / 紫式部(著)
元世祖上都に万余の純白馬をい、その牝の乳汁を自身と皇族のみ飲む、ほかにホリアッド族、かつてその祖父成吉思汗ジンギスかんたすけて殊勲ありつれば白馬乳を用うる特典を得たりと、ユール註に
い止め兼ねる主君は、開拓主事である阿賀妻にたすけをもとめるにきまっていた。そのときそこでこの流れをきとめる力が彼に在り得たか?——むろん無かった。身をこわすより手はなかった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
天漢三年の秋に匈奴きょうどがまたもや雁門がんもんを犯した。これにむくいるとて、翌四年、漢は弐師じし将軍李広利りこうりに騎六万歩七万の大軍をさずけて朔方さくほうを出でしめ、歩卒一万を率いた強弩都尉きょうどとい路博徳ろはくとくにこれをたすけしめた。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
よわいわずかに十四才にして父をたすけて実業界に入った。
すでに藤吉郎と結んでいて、軍事的に加勢はできないが、裏面からおたすけしようという黙契もっけいのもとになされた反間はんかんけいだったのである。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
飛んで行つて見ると、番頭の文六と組んづほぐれつの大格鬪中、ともすれば逃げられさうになつてたすけを呼んだのです。
今日まで三年の間余は為事をたすけ余と苦心を分って来たペンが紛失した。余はがっかりした。今日は書きにくい真鍮しんちゅうのペンで「裸婦」十五枚程書いた。