さば)” の例文
むこの勘五郎に任せましたが、金箱はしかと押えて、五十文百文の出入りも、自分の手を経なければ、勝手にさばきはさせなかったのです。
鴨は猟ごとに二万羽ちかく捕れる、少ない年でも一万羽を下らないし、名物として知られているため、高い値段でさばくことができた。
若き日の摂津守 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
が、姿は雨に、月のおぼろに、水髪の横櫛、うなじ白く、水色の蹴出し、蓮葉はすはさばく裾に揺れて、蒼白あおじろく燃える中に、いつも素足の吾妻下駄。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
足にからまってすそがうまくさばけなかった故に、こんなあるき方を発明して、それが美女の嬌態と認められることになったのかと思う。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
当時の物価の安い時分でも、一日の手間三円五十銭を得た位、師匠の作はもとより弟子たちの作でもドシドシ売れさばけたものであった。
その女たちの中でも一等さばけるピンちゃんとチョキちゃんという二人がノスタレだかオシッコだかわかりませんが病気になっちゃったんで
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
容易にさばけぬと叫ぶようであった。先がつかえているためにむなく逡巡しゅんじゅんして、何かそのことを憤っているような川鳴りの音であった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
それを口を利いてやっとさばきをつけてやったのが、男の方では佐藤という土地の幅利はばきき、女の方ではここに現われた女興行師のお角さん。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
生得しやうとく聰明な人だけに、老臣等に掣肘せいちゆうせられずに、獨力で國政を取りさばいて見たかつた。それには手足のやうに自由に使はれる侍が欲しい。
栗山大膳 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
手持てもち品物しなものならばなるたけはやこれさばかう、また手持てもち品物しなものなるたけすくなくしよう、ふことは當然たうぜん結果けつくわはなくてはならぬ。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
「君は喰わず嫌いだよ。会って見もしないで悪くいうやつがあるもんか。一度会って見ろ、決して不快わるい気持はしない、ごくさばけた男だよ、」
それらを通じて、彼は海外との交易をやらせ、およそ都に見られる唐物からもののすべては佐女牛さめうしの門から密々いちさばかれていた物といってよい。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
売りさばかれたものはわずかに五匹にすぎず、しかもその販売先が、いずれも若き美しき夫人ばかりであるという点においては
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
したがって必要以上に多量に仕入れた商品は、それだけ格安にさばくことが出来るのみでなく、終には投売りもするようになる。
明治の半頃なかばごろまでさしも繁昌を極めた「阿波藍」にも大きな敵が現れました。化学は染めやすい人造藍を考え出しこれを安く売りさばきました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
いくら其の時代だからといって、芝居や講釈でする大岡さばきのように、なんでも裁判官の手心てごころひとつで決められてしまっちゃあ堪まりません。
半七捕物帳:24 小女郎狐 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「退屈なら、わたししはしないわ。」こう云ったのは褐色を帯びた、ブロンドな髪を振りさばいて、鹿の足のような足で立っている小娘である。
(新字新仮名) / ペーター・アルテンベルク(著)
時たま自分がその店に現れて、彼女が色んな男たちに騒がれてうまくさばいてゐるさまを眼にしてゐると、ちよつと舌を出したい心持にもなる。
現代詩 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
そなたの導力が手繰たぐるまにまに、やがてわたしも、そなたと一つ世界に運び上げられよう。あな讃むべき因果のさばき。あな有難や法の掟……。
阿難と呪術師の娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
至つて軽口の、さばけた、竹を割つた様な気象で、甚麽どんな人の前でも胡坐あぐらしかかいた事のない代り、又、甚麽人に対しても牆壁しやうへきを設ける事をしない。
刑余の叔父 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
こういったようなことから、後で女房が亭主に話すと、亭主はこの辺では珍らしいさばけた男なんだそうで、それは今ごろ始った話じゃないんだ。
千鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
余は法学士である、刻下の事件をありのままに見て常識でさばいて行くよりほかに思慮をめぐらすのはあたわざるよりもむしろ好まざるところである。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ていよくさばかれたり、とゞのつまりは「物も云はでやみにけり」とか、「わづらはしとて男やみにけり」とか云う風な終りを告げている挿話そうわが随分ある。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
まさか「天下の政道を取さばく決断所での琴三味線」「自分のなぐさみ気ばらしをやらるる」重忠様もなかったであろう。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
正勝は浪岡にだくを踏ませて、にれの木のある斜面を雑木林の谷のほうへ下りてくるところだった。右手には猟銃を持って、手綱は左手でさばいていた。
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
左右の肩衣かたぎぬを一斉に振って、のっさのっさと長袴の裾をさばき、磨き抜いた板廊いたろうを雁のように一列になって退さがって来る。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
夜のけた切り通し坂を自分はまるで疲れ切って歩いていた。はかまさばける音が変に耳についた。坂の中途に反射鏡のついた照明燈が道を照している。
泥濘 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
衣服いふく調度類ちょうどるいでございますか——鎌倉かまくらにもそうした品物しなものさば商人あきうどみせがあるにはありましたが、さきほどももうしたとおり、べつ人目ひとめくように
それからいい加減にそれをさばいてしまう、こうしてアポロンがアドメトス王の羊を飼ったまねをする、というわけだ。
女中がついて来るから邪魔だ、だからお前はその女中の方を巧くさばいてくれ、その間に俺はメッチェンの方を云々。
六白金星 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
第四十二 肥前ひぜん飯 と申すのは鯛の身を白焼にして細かくさばきます。別に牛蒡ごぼうをササきにして半日ほど水へ漬けて度々たびたび水を取かえてアクを出します。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
午前中はそれでも何とかさばいてゆくけれど、午後になるともう、いくらベルを押してもいつかな姿は現はさない。
灰色の眼の女 (新字旧仮名) / 神西清(著)
とても一通りや二通りで、解決の着くべき問題では無かったのを、小虎の為に簡単にさばかれたので有った。竜次郎は唯只運命の奇なるに驚くのみで有った。
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
しかれども世人はなほ平和の夢をむさぼるに余念なく、宝舟と称する美術船にて今年正月二日に売りさばきたる七福神の画は未だかつてあらざるの多額に上りたり
四百年後の東京 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
この風呂敷の問屋は、芸者に関係者はなかったが、商談などの座敷に呼ばれ、お神が出入りの芝居者から押しつけられる大量の切符を、よくさばいてくれた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
千筋ちすじとまでは行かなくとも、繊細な糸をさばいて、たぎり落ちるところもある、「花茨はないばら故郷の路に似たるかな」
火と氷のシャスタ山 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
おはま そんな男のさばきが付けられないでどうなるものか。引ッ張っといで、とっちめて帰らせてやるから。
瞼の母 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
あの美男小姓霧島京弥にその愛撫をまかせて、るす中存分に楽しめと言わぬばかりに粋なさばきを残しながら江戸の屋敷を守らせておいた、あの妹菊路なのです。
それらの印刷物は万年町の元締から「おろし」にされて、例の街頭で売りさばくことになっているのであった。
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
長身で動作がきびきびしていて、その配達ぶりは見ていて気持がよかった。彼はまたあの新聞やの特技に長じていた。新聞を指でさばいてキュッキュッと鳴らす。
安い頭 (新字新仮名) / 小山清(著)
彼らは、蒙古人のするとおりの真似をする。胡坐あぐらをかく、手づかみで食い、片手で馬をさばく。しかし、智能の程度は小学生をでぬ。とマア、こういったもんです。
人外魔境:03 天母峰 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「早くそこへ気がついて、兄さんに御苦労していただくとよかったんですな。この辺ではとてもこれだけの品物はさばけませんや。やっぱし東京に限りますなあ」
贋物 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
銭が無ければい、たゞ埋めてんべえなどゝいうさばけた坊様だ、其の代りお経なんどは読めねえ様子だが、銭金ぜにかねの少しぐれえるような事があって困るなら
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
こういう思いきった役替は、そもそも誰のさばきによるのかと、寄り寄り詮議せんぎしてみたところ、あにはからんや、押原右内一人の方寸から出ていることがわかった。
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
しからば女子をばいかにさばいたかというに、宮中や将軍家の奥向きに奉公するか、または同輩の家へ嫁にやることができれば、さらに不思議のないことであるが
紅布ミウレタさばき、足の構えの妙味、ちょっとした手銛バンデリラのこつとか、つまり専門的に細かい闘牛眼がメリイ・カルヴィンにも備わって来て、そして、そう気のついた時
一時はやかましい問題であったが、老巧なバルフォーア卿がいて円滑にこれをさばき、結局英仏語を公用語 official language とするのでなく
真実はおもてに現われて、うそや飾りで無いことは、其の止途無とめどない涙に知れ、そして此のまぎれ込者を何様どうしてさばこうか、と一生懸命真剣になって、男の顔を伺った。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
当時アテーネ遊君の大親玉フリーネがエレウシスの大祭に髪をさばいておおうたばかりの露身の肌を日光に照らし、群衆瞠若どうじゃくとして開いた道を通って海に入り神を礼し
おしどりは元来京風の髷で、島田にさばばしを掛けたその捌きが鴛鴦おしどりの尻尾に似てもおり、橋の架かった左右の二つの髷を鴛鴦の睦まじさに見立てたわけなのでしょう。
好きな髷のことなど (新字新仮名) / 上村松園(著)