手段てだて)” の例文
此凄まじい日に照付られて、一滴水も飲まなければ、咽喉のどえるをだま手段てだてなくあまつさえ死人しびとかざ腐付くさりついて此方こちらの体も壊出くずれだしそう。
かう見たところ、家の中には、私を狙ふほどの者が居さうも無いのに、私は毎日、何んか變つた手段てだてで、脅かされて居るのでございます。
「いやいやそれは偽りでござる! 腰元も近習きんじゅうも知る訳がない! ——がしかしここにただ一つ、それを知られる手段てだてがござる」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
こゝにても次の圓よりいと急に垂るゝ岸、かゝる手段てだてによりてゆるまりぬ、されど右にも左にも身は高き石に觸る 一〇六—一〇八
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
彼はその手段てだてとして一種の方法を案出した。ある晩餐ばんさんの席へ招待された好機を利用して、彼は急にはげしい発作ほっさおそわれたふりをし始めた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこで先づ試みに一微風を漏脱したところ、ことごとく思量に反して、あとはもはや大流風の思ふがままの奔出を防ぎかける手段てだてもなかつた。
閑山 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
途は一つ! 只一つ! 事を荒立てないで、怪我人も出さず、科人とがにんも作らず、未然にすべてを防ぐ手段てだてを講ずる以外には何ものもないのです。
……さような風評の立たぬうちに、いかなる手段てだてを講じても事件の本末をたずね、十三人の所在をあきらかにせねばならぬ
「これが外れても、未だ他の手段てだてがある。所詮は、八郎太が一手柄立てさえすればよいのではないか——こういう機——一手柄や、二手柄——」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
討取うちとらば此度の公事は必定ひつぢやう勝利しようりならん右兩人を討取うちとり手段てだてを一こくはやくさるが捷徑ちかみちなりと申ければ主税之助は首をかたぶけ兩人を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ピドールカはありとあらゆる手段てだてをつくした。修験者に相談したり、怯え落しや癪おさへの呪術まじなひもしてみたが——しかし、なんのしるしもなかつた。
そして、最後に、酒乱の父と強欲な母とをか細い女の手で養う手段てだては、どう考えてもほかにないと、なかば自嘲的にいい放つて、つと座を起つた。
光は影を (新字新仮名) / 岸田国士(著)
「一つ珍物を喰はさうかなあ。」と、父はいつ年齡としを訊かれた時にするやうな手段てだてで、話をわきへ持つて行かうとした。
父の婚礼 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
伸びつりついたして楼内うちの様子にばかり気を配って、此処こゝへ舟をつけて待っていてくれろというからは、屹度花里が忍んで出てくる手段てだてに違いなかろう
諸方に散亡さんぼうしていた山徒をよびあつめ、あらゆる手段てだてを尽して、山門復興の運動をしておるようでございます
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「やり切れねえから眠る振りをしてやつてゐたんだぞ、奴等うぬらの馬鹿酒を飲んでやる手段てだてだつたつてえことが解らねえとは、さりとは、三国一の剣術使ひだよ。」
武者窓日記 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
いかなる大軍も攻め入る手段てだてはなかろう、一夫これを守れば万卒も越え難しというのはまさにこれじゃ。
医師は騒がず看護婦を呼びて、応急の手段てだてを施しつ。さしずして寝床に近き玻璃窓はりそうを開かせたり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
文学者や画家ゑかきとこへは、何ぞと言つては書いた者を強請ねだりに来るてあひが少くない。とりわけそれに幾らかの市価があるといふ事になると、色々の手段てだてを尽して引出しに来る。
吉田磯吉の勢力をバックにして、友田喜造一派は、いよいよ、これからあばれる算段をしとる。この前のパナマ丸では失敗し居ったが、この先、どんな手段てだてで来るかも知れん。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
歌の文句の活版刷りです。あとで何やらマヤカシ物をば。無理に買わせる手段てだてじゃないかと。疑うお方があるかも知れぬが。ソンナ心配一切御無用。これは私の道楽仕事じゃ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
で、それ取戻とりもど唯一たゞひとつの手段てだてふのが、つくなひのざうつくるにある、ざうが、御身おみたちに
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
初めてさとる我身の罪、あゝ我れなかりせば、御邊も可惜あたら武士を捨てじ、横笛も亦世を早うせじ、とても叶はぬ戀とは知らで、道ならぬ手段てだてを用ひても望みを貫かんと務めし愚さよ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
クログスタット それともこの兩三日のうちにその金を拵へる手段てだてがおありですか?
人形の家 (旧字旧仮名) / ヘンリック・イプセン(著)
王子はいろいろ思い廻された上、遂にお守役もりやく老女ろうじょにわけを話して、白樫しらがしの森に行けるような手段てだてを相談されました。老女は大層たいそう王子に同情しまして、いいことを一つ考えてくれました。
お月様の唄 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
かうしたことが、その見習にも、すこし煙草をすふ手段てだてを與へた。彼は圓顏の、達者さうな子供で、多少とも互ひに身寄りになつてゐるこれ等總ての水夫等の彼もまた遠縁にあたつてゐた。
彼らに知らせようとするかわらを積んではくずすような取り止めもない謀略はかりごとが幼い胸中に幾度か徒事あだめぐらされたのであったがとうとう何の手段てだてをも自分からすることなくある日崖下の子の一人が私を
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
それならば進んで、その店の安売りを中止させる手段てだては——。
あらん限りの手段てだてもて妻をしひたげる之を称して倦怠期といふ
小熊秀雄全集-01:短歌集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
誠こそ手段てだてのなかの方便てだてなれ
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
神はわがその王宮を、近代ちかきよに全くためしなき手段てだてによりて見るをよみしたまふまで、我をその恩惠めぐみにつゝみたまへるなれば 四〇—四二
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
お隣にいる中村新八郎に、たった一と目別れを惜しみたい——と、思い乍らも、此時刻になっては、呼出よびだ手段てだてもありません。
そこで先ず試みに一微風を漏脱ろうだつしたところ、ことごとく思量に反して、あとはもはや大流風の思うがままの奔出ほんしゅつを防ぎかける手段てだてもなかった。
閑山 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
大工と鳶なら近よる手段てだてもあろうし、よしまた近寄ることが出来ずとも、お抱えお出入りの鳶、大工があろうゆえ、少しく智慧を働かしなば
各自めいめいお得意の音楽を奏するのだとは聞いておりましたが、それが誘惑の主を現わす手段てだてであるのでござりますか。
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
湯女ゆな奉公しているうちに、又十郎から柳生家の内状をそれとなく探り、大機——お由利——と順々に手段てだてをかえて、但馬守の生命いのちから、十兵衛、又十郎、右門
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お國と源次郎の奸策わるだくみ一伍一什いちぶしゞゅう立聞たちぎゝ致しまして、孝助は自分の部屋へ帰り、もう是までと思い詰め、姦夫かんぷ姦婦かんぷを殺すよりほか手段てだてはないと忠心一に思い込み
「夜盗だ。夜蔭に乗じて垣を乗り越へて潜入した曲者と、私は取引きいたす手段てだては弁へぬわい。」
酒盗人 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
角力取すもうとりらしい男が人を斬って、あの空屋へ逃込んでいるが捕える手段てだてが無くて困っている」
鍵屋の辻 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
それほど滑稽こっけいとも思わなかったが、心の内で、この男は心得があってわざとこんな言葉遣ことばづかいをするのだろうか、または無学の結果こうよりほか言い現わす手段てだてを知らないのだろうかと考えた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
医者は何とかして口を利かせたいものだと、頭を絞つて色々の手段てだてを試してみたが、小娘は髪の毛一つ動かさない済ました顔で、石のやうに黙りこくつてゐる。かうしてさんざ焦慮じらしぬいた末
越前守殿コリヤ平左衞門何と斯樣かやうの屆書是有る上は其方儀そのはうぎ主税之助と申合しまがいして其死骸をかくさん爲淺草了源寺よりのおくりなりといつはりを構へ其手段てだてをせし所光明院にて差拒さしこばみし故彼處へ棺桶くわんをけ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それをけて、巣を突き止める手段てだてもありませんが、暇にあかして詮索をしたら、疑問の旗本の名前位は搜り出せるかも知れないのでした。
抑〻クリストの新婦はなよめを、わが血及びリーン、クレートの血にてはぐゝめるは、これをして黄金こがねをうるの手段てだてたらしめん爲ならず 四〇—四二
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
だから手段てだてに困って、出入りのこのあっしに渡りをつけやがって、うまくいったら五百両分け前をやるからと、仲間に抱き込みやがったんです。
「誠の事情は相談ずくで、右衛門さんと別れたと見せ、紋十郎に油断をさせ、彼奴きゃつの恐ろしい悪謀わるだくみをそれとなく聴き出して、右衛門さんに知らせるのが手段てだて……」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そして、今度こんがらやせいたかを連れて、秩父へ出かけるということをどこからか聞き込み、前に生不動をったと同じ手段てだてで、怖ろしいわなの支度をしていますのさ
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
身請の下談したばなしが始まりましたんで、花里はびっくりいたして一度二度はていよくごまかしておき、斯うなってはう振ってふって振りぬいて、先から愛憎あいそをつかさせるより手段てだてはないと
「吉井、村野等の帰国を待ちまして、すぐ様、その手段てだてに取りかかりましょう」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
ボーラスの玄関番ブラツクは、思はぬ失策をしてしまつて眼を白黒させながら思案したが、肚の中のパトリツクを殺すためには自分も死ななければならぬといふ手段てだてより他に、何んな考へも浮ばなかつた。
南風譜 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)