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懐中
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ふところ
ふりがな文庫
“
懐中
(
ふところ
)” の例文
旧字:
懷中
「ええ、驚かしゃあがるな。」と
年紀
(
とし
)
には
肖
(
に
)
ない口を利いて、大福餅が食べたそうに
懐中
(
ふところ
)
に手を入れて、貧乏ゆるぎというのを
行
(
や
)
る。
葛飾砂子
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
一人も
血統
(
ちすじ
)
を残すなと厳しい探索の網を潜って、その時二歳のあなた様を
懐中
(
ふところ
)
に抱えて逃げましたのが、このお霜なのでございます。
蔦葛木曽棧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
『な、なにをいうのじゃ』と、お菅は、
懐中
(
ふところ
)
の
乳呑
(
ちの
)
みでも
庇
(
かば
)
うように、又、母性の
聖厳
(
しょうごん
)
を、髪の毛に逆だてて、叱咤するかのように
山浦清麿
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
みんなをびつくりさせるために、しばらくのうちは、女の子達のもつてゐた古い手毬をついてゐて、新しい毬は
懐中
(
ふところ
)
にかくしてゐた。
良寛物語 手毬と鉢の子
(新字旧仮名)
/
新美南吉
(著)
お葉は
其
(
そ
)
の洋盃を取って、一息に
喁
(
ぐっ
)
と飲み干した。重太郎は眼を丸くして眺めていたが、やがて
懐中
(
ふところ
)
から椿の
折枝
(
おりえだ
)
を
把出
(
とりだ
)
して見せた。
飛騨の怪談
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
▼ もっと見る
何
(
な
)
んといふ立派な考へであらう、どんなにどつさり立木を
描
(
か
)
いた所で、木は有合せ物で、
画家
(
ゑかき
)
の
懐中
(
ふところ
)
一つ痛めずに済む事なのだから。
茶話:02 大正五(一九一六)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
又
金子
(
かね
)
を沢山
懐中
(
ふところ
)
に入れて芝居を観ようと思って行っても、爪も立たないほどの
大入
(
おおいり
)
で、
這入
(
はい
)
り
所
(
どころ
)
がなければ観る事は出来ませぬ。
闇夜の梅
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
やゝ感嘆、此を久しうしてゐた栄之丞だつたが、つゞいて伯龍手を
懐中
(
ふところ
)
に、その手を胸のあたりからだして顎のあたりを撫廻すと
吉原百人斬り
(新字旧仮名)
/
正岡容
(著)
いろいろ工夫を凝らした挙句不老不死の霊酒というのを、
懐中
(
ふところ
)
の手拭に呑ませて、恥も外聞もなく眠りこけた振りをしているのでした。
銭形平次捕物控:088 不死の霊薬
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
私の
懐中
(
ふところ
)
が次第に乏しくなると共に私の
身体
(
からだ
)
も弱って来た。ずっと以前から犯されていた肺尖がいよいよ本物になったからである。
あやかしの鼓
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
毛むくじゃらの手を
懐中
(
ふところ
)
に突込み、胸を引裂いてその
腸
(
はらわた
)
でも引ずり出したかの様、朱塗の剥げた粗末な二重印籠、
根付
(
ねつけ
)
も
緒締
(
おじめ
)
も安物揃い。
怪異黒姫おろし
(新字新仮名)
/
江見水蔭
(著)
もう正月の雑誌に出す物など
他人
(
ひと
)
よりは十日も早く手まわしよくかたづけてしまって、
懐中
(
ふところ
)
にはまた札の束がふえたと思われて
うつり香
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
力ちやんまあ何でいらつしやらうといふ、化物ではいらつしやらないよと鼻の先で言つて分つた人に
御褒賞
(
ごほうび
)
だと
懐中
(
ふところ
)
から紙入れを
出
(
いだ
)
せば
にごりえ
(新字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
武一は、たらたらと血潮がしたゝり落ちるネープを
懐中
(
ふところ
)
の中に乗せると、素肌の胸に
直接
(
ぢか
)
に当てゝ、彼女の体温を見守つてゐたゞけだつた。
南風譜
(新字旧仮名)
/
牧野信一
(著)
果して真名古はこの政府の処置に忿懣を感じたと見え、辞職願を
懐中
(
ふところ
)
にし、陰々たる殺気を身に纒い、さながら妄執の如くに立上って来た。
魔都
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
種彦は依然として両手を
懐中
(
ふところ
)
にこの騒ぎも繁華なお江戸ならでは見られぬものといわぬばかり街の
角
(
かど
)
に立止って眺めていたが
散柳窓夕栄
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
ニッとほくそ笑んで、
懐中
(
ふところ
)
から巻き紙を切って、
綴
(
と
)
じた手製の帳面を取り出したかと思うと、ちびた筆の穂先を噛んでそこらを見まわした。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
何故ならば『愛の詩集』を
懐中
(
ふところ
)
にした彼の現実には、あまりに重厚で静謐な中年者の姿を思はせるものがあつたからである。
愛の詩集:04 愛の詩集の終りに
(新字旧仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
何故ならば『愛の詩集』を
懐中
(
ふところ
)
にした彼の現実には、あまりに重厚で静謐な中年者の姿を思はせるものがあつたからである。
愛の詩集:03 愛の詩集
(新字旧仮名)
/
室生犀星
(著)
しばらくその屋敷の周囲を
彷徨
(
さまよ
)
うていた米友は、物蔭へ入って
烏帽子
(
えぼし
)
と白丁とを脱いでクルクルと丸めて
懐中
(
ふところ
)
へ入れました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
東京の方に暮らした間、旦那はよく名高い作者の手に成った政治小説や
柳橋新誌
(
りゅうきょうしんし
)
などを
懐中
(
ふところ
)
にして、恋しい風の吹く
柳橋
(
やなぎばし
)
の方へと足を向けた。
夜明け前:04 第二部下
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
こいつほど、人の
懐中
(
ふところ
)
を見抜くことに機敏な奴はなかった。スリよりも機敏だった。その点、山崎自身も警戒してかゝらなければならなかった。
武装せる市街
(新字新仮名)
/
黒島伝治
(著)
イヤ、骨身に徹するどころではない、
魂魄
(
たましい
)
なども
疾
(
とっ
)
くに飛出して
終
(
しま
)
って、力寿の
懐中
(
ふところ
)
の奥深くに
潜
(
もぐ
)
り込んで居たのである。
連環記
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
その一つは三日まえにこの佐原屋の二階の
離室
(
はなれ
)
へ泊りこんだ客の、ずしりと重い
懐中
(
ふところ
)
である、旅へ出ての手始め、三次は気負ってこいつを狙った。
暗がりの乙松
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
わが物顔にして
懐中
(
ふところ
)
からお放ししないのだから。始終自身の着物をぬらして脱ぎかえているのですよ。軽々しく宮様を
源氏物語:34 若菜(上)
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
そう云って坊さんは
懐中
(
ふところ
)
から財布をだして、五十銭銀貨を森君に渡そうとした。森君は手を振って受取らなかった。
贋紙幣事件
(新字新仮名)
/
甲賀三郎
(著)
そのはずみに、
懐中
(
ふところ
)
の
財布
(
さいふ
)
を
落
(
お
)
とすと、
口
(
くち
)
が
開
(
あ
)
いて、
銀貨
(
ぎんか
)
や、
銅貨
(
どうか
)
がみんなあたりにころがってしまったのでした。
海からきた使い
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
「太郎さん、お前は何を
那麽
(
そんな
)
にポケットに入れて置くの? 大変
膨
(
ふく
)
らんでるじゃないか。
宛然
(
まるで
)
通
(
つう
)
の
懐中
(
ふところ
)
のようだよ」
いたずら小僧日記
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
その青年を国王の目の前に連れてきた大尉は、その本が焼かれる時、ふと国王が
傍見
(
わきみ
)
せられた隙に、手早く火の中から一冊を抜きとって
懐中
(
ふところ
)
へ隠した。
奇巌城:アルセーヌ・ルパン
(新字新仮名)
/
モーリス・ルブラン
(著)
「さあさ! こっちを御覧下せえ。ここに三つの杯があります。私しゃ、今これを
襤褸
(
ぼろ
)
着物の
懐中
(
ふところ
)
へ入れます。」
手品
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
今迄自分の立つて居る石橋に土下座して、
懐中
(
ふところ
)
の
赤児
(
あかご
)
に乳を飲ませて居た筈の女乞食が、此時
卒
(
には
)
かに立ち上つた。
葬列
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
塚屋は小さい算盤を再び
懐中
(
ふところ
)
して、馴れた手つきでハンドルを握った。一刻を争う……といったような面持で、「それじゃ、まア、せっかくおかせぎ——」
米
(新字新仮名)
/
犬田卯
(著)
彼はお延から受取った蟇口を
懐中
(
ふところ
)
へ
放
(
ほう
)
り
込
(
こ
)
んだまま、すぐ大通りの方へ引き返した。そうして電車に乗った。
明暗
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
会社から
直様
(
すぐさま
)
こゝへ帰つて来なくつても、いくらだつて寄り道は出来るからね。一時、二時まで外にゐるつてことは、こいつ
懐中
(
ふところ
)
十分でないと相当骨が折れる。
世帯休業
(新字旧仮名)
/
岸田国士
(著)
合同資本と謂ツても、其の
實
(
じつ
)
田舍から出たての叔父と綾さんの父とが幾らか金を持ツてゐたゞけて、
後
(
あと
)
は
他
(
ひと
)
の
懐中
(
ふところ
)
を
的
(
あて
)
の、ヤマを
打當
(
ぶちあて
)
やうといふ連中の仕事だ。
昔の女
(旧字旧仮名)
/
三島霜川
(著)
「それでは、これを……。この紙片が硝子の上に落ちていたとしましたなら、易介の
言
(
ことば
)
には形がございましょう」と云って、
懐中
(
ふところ
)
から取り出したものがあった。
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
賊は憎々しく云いながら、直ぐさま地袋を開いて、手文庫をかき探し、札入れの中の紙幣を
懐中
(
ふところ
)
に入れた。
悪魔の紋章
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
そこで一つ今夜は罪ほろぼしに、先生に
奢
(
おご
)
ってやろうと考えたのだ。彼も近頃ますます
懐中
(
ふところ
)
がぴいぴいであることは僕同然であって、同情にたえないものがある。
宇宙尖兵
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
それから、かの老僧はカトリーヌ・フォンテーヌの前に立ち停まったので、カトリーヌは
懐中
(
ふところ
)
を探りましたが、一ファージングの銅貨も持ち合わせていませんでした。
世界怪談名作集:11 聖餐祭
(新字新仮名)
/
アナトール・フランス
(著)
私は
懐中
(
ふところ
)
に始終入れている「ウチオコシ」が、したくて、
隙
(
すき
)
を見てはすぐ飛び出したものであった。
戦争雑記
(新字新仮名)
/
徳永直
(著)
「その代り冬休という
奴
(
やつ
)
が直ぐ前に控えていますからな。左右に火鉢、
甘
(
うま
)
い茶を飲みながら打つ
楽
(
たのしみ
)
は又別だ」といいつつ老人は
懐中
(
ふところ
)
から新聞を一枚出して、急に
真顔
(
まがお
)
になり
酒中日記
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
懐中
(
ふところ
)
へ掻込んで立ち其上で相手に成るのが博奕など打つ奴の常だ其所には仲々抜目は無いワ
無惨
(新字新仮名)
/
黒岩涙香
(著)
二三枚だけ残しました。われわれの
懐中
(
ふところ
)
ももう殆ど空つぽですから、何かのやくに立つかと思ひます。しかし、それもみんな捨てると仰しやるなら、もちろん、みんな捨てて来ます
イエスとペテロ
(新字旧仮名)
/
片山広子
(著)
懐中
(
ふところ
)
から
取
(
と
)
り
出
(
だ
)
した
春重
(
はるしげ
)
の
写生帳
(
しゃせいちょう
)
には、十
数枚
(
すうまい
)
のおせんの
裸像
(
らぞう
)
が
様々
(
さまざま
)
に
描
(
か
)
かれていた。
おせん
(新字新仮名)
/
邦枝完二
(著)
吉里は
懐中
(
ふところ
)
から手紙を十四五本包んだ紙包みを取り出し、それを小万の前に置いた。
今戸心中
(新字新仮名)
/
広津柳浪
(著)
持ちつけない大金が
懐中
(
ふところ
)
に
入
(
はい
)
ると、先ず第一に性の本能満足、放縦な逸楽を得たい欲念が起って、白粉臭い美人に接したがる煩悩の犬走り、国家の一機関が網を張って居るに気付かず
一円本流行の害毒と其裏面談
(新字新仮名)
/
宮武外骨
(著)
ザシキワラシの秘密を開く鍵をその
懐中
(
ふところ
)
にそっと入れてあるようにも思われる。
東奥異聞
(新字新仮名)
/
佐々木喜善
(著)
... 実行したいと思うがモー一層
委
(
くわ
)
しく話してくれ給え」中川「僕も医者でないから委しい事は知らんが西洋の医者の食餌箋を一つ二つ手帳へ記してある。マア出して見よう」と
懐中
(
ふところ
)
より手帳を
食道楽:春の巻
(新字新仮名)
/
村井弦斎
(著)
そして、
十足
(
とあし
)
ばかり歩いて後ろを振り返った。庁館がまえの家はなくなって、
荊棘
(
いばら
)
の伸びはびこった古塚があった。道度は驚いてあたふたと駈けだした。暫く走って気が
注
(
つ
)
いて
懐中
(
ふところ
)
に手をやった。
黄金の枕
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
自給するようになって、生まれて初めて月給を
懐中
(
ふところ
)
にした時は、嬉しい気持ちよりも、顧みて一ヶ月の自分の労力が余りに安価に購われ、余りに又小さなる自らの力である事を心細く思いました。
職業の苦痛
(新字新仮名)
/
若杉鳥子
(著)
“懐中”の意味
《名詞》
懐 中(かいちゅう)
懐やポケットの中のこと。また、その中にものを入れること。
(出典:Wiktionary)
懐
常用漢字
中学
部首:⼼
16画
中
常用漢字
小1
部首:⼁
4画
“懐中”で始まる語句
懐中物
懐中手
懐中鏡
懐中時計
懐中紙
懐中電灯
懐中電燈
懐中絵図
懐中刀
懐中合