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恍惚
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うっとり
ふりがな文庫
“
恍惚
(
うっとり
)” の例文
事実黄金色の軽快なアルコオルが体内に流れ込んだのだから、隣の食卓の一組は食堂に来た時より一層若やぎ
恍惚
(
うっとり
)
として来たらしい。
三鞭酒
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
ガルールはもう
飲食
(
のみくい
)
どころではなかった。彼は眼を細めて、遠い、太陽と夢幻の国へ航海する光景を、
恍惚
(
うっとり
)
と夢見ているのであった。
ラ・ベル・フィユ号の奇妙な航海
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
綺麗
(
きれい
)
な
褄
(
つま
)
をしっとりと、水とすれすれに
内端
(
うちわ
)
に
掻込
(
かいこ
)
んで、一人美人が
彳
(
たたず
)
む、とそれと自分が並ぶんで……ここまで来るともう
恍惚
(
うっとり
)
……
沼夫人
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
遠く——遠く——静は
眸
(
ひとみ
)
をやって、なお、舞い出さなかった。
恍惚
(
うっとり
)
と、鶴ヶ岡のここの高さから空を見ていた。行く雲を見ていた。
日本名婦伝:静御前
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
褪紅色
(
たいこうしょく
)
の上品な
訪問着
(
アフタヌーン
)
を着けて
綺麗
(
きれい
)
な優しそうな眼は幾分疲れを帯びた風情に
恍惚
(
うっとり
)
と見開いていたが、こないだホテルで逢ったとおり
ナリン殿下への回想
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
▼ もっと見る
初は面白半分に目を
瞑
(
ねむ
)
って之に
対
(
むか
)
っている
中
(
うち
)
に、いつしか
魂
(
たましい
)
が
藻脱
(
もぬ
)
けて其中へ紛れ込んだように、
恍惚
(
うっとり
)
として暫く
夢現
(
ゆめうつつ
)
の境を迷っていると
平凡
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
家も心もひっそりとしたうちに、私は
硝子戸
(
ガラスど
)
を開け放って、静かな春の光に包まれながら、
恍惚
(
うっとり
)
とこの稿を書き終るのである。
硝子戸の中
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
その
拳
(
こぶし
)
を両耳の根につけて、それを左右に揺ぶりながら、
喜悦
(
よろこばしさ
)
に
恍惚
(
うっとり
)
となった瞳で、彼女は宙になんという文字を書いていたことであろう。
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
その時男は組み合せた両手を解いて柔く女の頸を抱いた……男は立ち上って櫂を手にした。女は空を
恍惚
(
うっとり
)
と見上げている——
湖水と彼等
(新字新仮名)
/
豊島与志雄
(著)
恍惚
(
うっとり
)
と見とれていましたが、又鏡の事を思い出しまして、
斯様
(
かよう
)
な美しい処に隠して在る鏡というものは、どんな美しい不思議な宝物であろう。
白髪小僧
(新字新仮名)
/
夢野久作
、
杉山萠円
(著)
無心——というよりいつもいつも、心に執拗にこびりついている歌、例の歌を唄ってしまうと、彼女は
恍惚
(
うっとり
)
と考え出した。
剣侠
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
スバーは、際限のない自分の寂しささえ超えて
恍惚
(
うっとり
)
として仕舞いました。彼女の心は、堪え難い程苦しく重い、而も、云うことは出来ないのです。
唖娘スバー
(新字新仮名)
/
ラビンドラナート・タゴール
(著)
言葉はさもさも
恍惚
(
うっとり
)
として述べたけれども、さういふ言葉がやりきれないほど石碑のやうな顔付で、つづいて玄也の方へ孔のやうな視線をきりかへ
竹藪の家
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
この
媚
(
なまめ
)
かしい羽織が女のような眉山の顔と
能
(
よ
)
く
釣合
(
つりあ
)
って、影では
蔭間
(
かげま
)
のようだと
悪語
(
わるくち
)
をいうものもあったが、男の眼にも
恍惚
(
うっとり
)
とするほど美くしかった。
硯友社の勃興と道程:――尾崎紅葉――
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
また
恍惚
(
うっとり
)
としたような眼で彼を見あげ、
躯
(
からだ
)
じゅうが恍惚となったような声音でいった、「わたくしたち、もう身も心も、ぴったりといっしょですわねえ」
百足ちがい
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
航海の話、印度の話——しかし、アアミンガアドを一番
恍惚
(
うっとり
)
させたのは、お人形についてのセエラの空想でした。
小公女
(新字新仮名)
/
フランシス・ホジソン・エリザ・バーネット
(著)
心持
俯向
(
うつむ
)
いていらっしゃるお顔の
品
(
ひん
)
の好さ! しかし奥様がどことなく
萎
(
しお
)
れていらしって
恍惚
(
うっとり
)
なすった御様子は、トント
嬉
(
うれし
)
かった昔を忍ぶとでもいいそうで
忘れ形見
(新字新仮名)
/
若松賤子
(著)
いつか気持も安らかに
恍惚
(
うっとり
)
となったグーロフは、こんなことを心に思うのだった——よくよく考えてみれば、究極のところこの世の一切はなんと美しいのだろう。
犬を連れた奥さん
(新字新仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
部屋のしきりを
閉
(
た
)
て切って刺青の道具を手にした清吉は、暫くは唯
恍惚
(
うっとり
)
としてすわって居るばかりであった。彼は今始めて女の
妙相
(
みょうそう
)
をしみ/″\味わう事が出来た。
刺青
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
昨日も、そうして、
恍惚
(
うっとり
)
とお湯に
浸
(
つか
)
っていると、不意に戸があいて、浅吉さんが入って来ましたが、私のいるのを見つけて、きまり悪そうに引返そうとしますから
大菩薩峠:24 流転の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
僕は
少年心
(
こどもごころ
)
にもこの美しい景色をながめて、
恍惚
(
うっとり
)
としていたが、いつしか
眼瞼
(
まぶた
)
が重くなって来た。
鹿狩り
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
すれっからしの修業をつむことを念願にしている古市加十でも、さすがにこれには仰天せざるを得ない。やや暫くの間は思慮分別を失って
恍惚
(
うっとり
)
と突っ立ったままになっていた。
魔都
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
喬介の説明に
恍惚
(
うっとり
)
として聞き入っていた私は、とうとうその興奮を爆発さしてしまった。喬介は、煙草に火を点けてぐっと一息深く吸い込むと、眼を輝かせながら言葉を続けた。
デパートの絞刑吏
(新字新仮名)
/
大阪圭吉
(著)
若殿は
恍惚
(
うっとり
)
として、
見惚
(
みと
)
れて、
蓙
(
ござ
)
の上に敷いてある
座蒲団
(
ざぶとん
)
に、坐る事さえ忘れていた。
悪因縁の怨
(新字新仮名)
/
江見水蔭
(著)
それで、たちまち、なんともいえない
香気
(
かおり
)
に
恍惚
(
うっとり
)
となってしまって、ちょうは、あとさきの
考
(
かんが
)
えもなく、その
真紅
(
まっか
)
な
花弁
(
かべん
)
に
吸
(
す
)
いつけられたように、その
上
(
うえ
)
に
降
(
お
)
りて
止
(
と
)
まったのです。
ちょうと怒濤
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
手の上には、花のように
繊麗
(
せんれい
)
な指先の、こまやかな接触を感じていた。そしていまだかつて
嗅
(
か
)
いだことのない美妙な
香
(
かお
)
りに、包み込まれ、
恍惚
(
うっとり
)
となり、ほとんど気を失いかけていた。
ジャン・クリストフ:04 第二巻 朝
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
今年の一月彼はある運動会で一少年を見た、その時のその少年の顔には愛の色
漲
(
みなぎ
)
り、眼には
天使
(
エンジェル
)
の
笑
(
えみ
)
浮んでいた、彼は
恍惚
(
うっとり
)
として暫く吾を忘れ、彼の胸中に燃ゆる
焔
(
ほのお
)
に油を
注
(
つ
)
いだのである。
愛か
(新字新仮名)
/
李光洙
(著)
槍ヶ岳は大海から頭をのそりと出す
烏帽子岩
(
えぼしいわ
)
のようで、雪の
白条
(
しろすじ
)
は岩の上へ
鴎
(
かもめ
)
が糞を落したようだ、自分は
恍惚
(
うっとり
)
として、今山の
巓
(
いただき
)
に立っているのか、波の寄る
渚
(
なぎさ
)
を歩いているのかと、惑った
奥常念岳の絶巓に立つ記
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
留
(
とど
)
められたる
袖
(
そで
)
思い
切
(
きっ
)
て振払いしならばかくまでの切なる
苦
(
くるしみ
)
とはなるまじき者をと、恋しを恨む恋の愚痴、
吾
(
われ
)
から吾を
弁
(
わきま
)
え難く、
恍惚
(
うっとり
)
とする所へ
著
(
あらわ
)
るゝお辰の姿、
眉付
(
まゆつき
)
媚
(
なまめ
)
かしく
生々
(
いきいき
)
として
睛
(
ひとみ
)
風流仏
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
どうしてそれが好かれずにいるものか! 何かしら
恍惚
(
うっとり
)
するような不思議な魅力がひそんでいるのに、どうしてそれを好かずにおられよう? 恰かも眼に見えぬ力の翼にでも乗せられたように
死せる魂:02 または チチコフの遍歴 第一部 第二分冊
(新字新仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
そして列車が動かなくなった時、葉子はその人のかたわらにでもいるように
恍惚
(
うっとり
)
とした顔つきで、思わず知らず左手を上げて——小指をやさしく折り曲げて——
軟
(
やわ
)
らかい
鬢
(
びん
)
の
後
(
おく
)
れ
毛
(
げ
)
をかき上げていた。
或る女:1(前編)
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
奥様は左からも右からも眺めて、
恍惚
(
うっとり
)
とした目付をなさりながら
旧主人
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
その画面を指しながら、
恍惚
(
うっとり
)
として言います。
仏教人生読本
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
と
間
(
あい
)
を
措
(
お
)
いて、
緩
(
ゆる
)
く引張つてくゝめるが如くにいふ、
媼
(
おうな
)
の
言
(
ことば
)
が
断々
(
たえだえ
)
に
幽
(
かすか
)
に聞えて、其の声の遠くなるまで、桂木は
留南木
(
とめぎ
)
の
薫
(
かおり
)
に又
恍惚
(
うっとり
)
。
二世の契
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
どうぞ私の身体をしっかりと抱いていらして……
恍惚
(
うっとり
)
としてきたその耳に口をつけて、私は言ったのです。お前の頼みは必ず引き受けた。
ウニデス潮流の彼方
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
見ると今美紅姫は自分の
室
(
へや
)
に閉じ籠もって、机の上に頬杖を突いて窓の外を見ながら何か
恍惚
(
うっとり
)
と考えているところでした。
白髪小僧
(新字新仮名)
/
夢野久作
、
杉山萠円
(著)
法水は伸子と窓際に立って、パノラマのような眺望を、
恍惚
(
うっとり
)
と味わっているうちに、彼女の肩に手を置き、無量の意味と愛着とを
罩
(
こ
)
めて云った。
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
お色は心が
恍惚
(
うっとり
)
となった。これまでも易は見て貰ったが、こんな
凄
(
すさま
)
じい立てかたは、一度も経験したことがなかった。
銅銭会事変
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
「よし、よし。……もうやがてお見えだろう」と、幸福そうに老眼を
皺
(
しわ
)
めて
恍惚
(
うっとり
)
と庭園の春日に眸を細めた——。
平の将門
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
そしてやがて、姉の千賀がほっと
太息
(
といき
)
をついて
恍惚
(
うっとり
)
としたように泰助を眺め、それから母のほうへ振返って、胸の中からなにか
溢
(
あふ
)
れてでも来るように
囁
(
ささや
)
いた。
思い違い物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
母親というものは、子供に添え乳をするところを見ると、不思議に
恍惚
(
うっとり
)
とした眼付をして、
莞爾莞爾
(
にこにこ
)
しながら、子供の顔にやさしい接吻の雨を降らせるものだ。
小さきもの
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
空は、往来から見上げた時より、ずっと近くに見えるので、ロッティは
恍惚
(
うっとり
)
となってしまいました。
小公女
(新字新仮名)
/
フランシス・ホジソン・エリザ・バーネット
(著)
雪江さんの
面
(
かお
)
ばかり見ていると、いつしか私は現実を離れて、
恍惚
(
うっとり
)
となって、雪江さんが何だか私の……
妻
(
さい
)
でもない、
情人
(
ラヴ
)
でもない……何だか斯う
其様
(
そん
)
なような者に思われて
平凡
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
彼はけちな、直き
赭
(
あか
)
い顔をする中学生ではない。母親の横顔はつい三四人隔てて見えているのに、実際油井の握って離さないのは自分の手だという歓びが、みのえを
恍惚
(
うっとり
)
させた。
未開な風景
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
もう春もいつしか過ぎて夏の初めとなって、木々の青葉がそよそよと吹く風に揺れて、何とのう
恍惚
(
うっとり
)
とする日である。人里を離れて独りで柴を刈っていると、二郎は体中汗ばんで来た。
稚子ヶ淵
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
と言って
恍惚
(
うっとり
)
とさせてしまったことほど、能登守の男ぶりが
立優
(
たちまさ
)
って見えました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
僕はその枕元にツクネンとあっけにとられて
眺
(
なが
)
めていると、やがて
恍惚
(
うっとり
)
とした眼を
開
(
ひらい
)
てフト僕の方を御覧になって、
初
(
はじめ
)
て気が
着
(
つい
)
て嬉しいという風に、僕をソット引寄て、手枕をさせて横に寐かし
忘れ形見
(新字新仮名)
/
若松賤子
(著)
春の日の
午過
(
ひるすぎ
)
などに、私はよく
恍惚
(
うっとり
)
とした魂を、
麗
(
うらら
)
かな光に包みながら、御北さんの
御浚
(
おさら
)
いを聴くでもなく聴かぬでもなく、ぼんやり私の家の土蔵の白壁に身を
靠
(
も
)
たせて、
佇立
(
たたず
)
んでいた事がある。
硝子戸の中
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
風が添ったか、紙の幕が、
煽
(
あお
)
つ——煽つ。お稲は
言
(
ことば
)
につれて、すべて
科
(
しぐさ
)
を思ったか、
振
(
ふり
)
が手にうっかり乗って、
恍惚
(
うっとり
)
と目を
睜
(
みは
)
った。……
陽炎座
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
華やかな笑い声の中に、
恍惚
(
うっとり
)
するような妻の
呻
(
うめ
)
きが交って、思わずギョッとして、私は顔色を変えた。相手は最早
悲哀
(
トリステサ
)
ではないのであった。
陰獣トリステサ
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
“恍惚”の意味
《名詞》
恍惚(こうこつ)
何かに心を奪われうっとりすること。また、そのようなさま。
意識がぼんやりしていてはっきりしないこと。また、そのようなさま。
認知症で脳の機能が低下しているさま。
(出典:Wiktionary)
恍
漢検1級
部首:⼼
9画
惚
漢検準1級
部首:⼼
11画
“恍惚”で始まる語句
恍惚境
恍惚感
恍惚郷