幾個いくつ)” の例文
お其はだまって見ていたが——たんばほおずきが幾個いくつ破られて捨られてもだまって見ていたが、そのまま帰りかけると、大きな声で
旧聞日本橋:02 町の構成 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
カチカチ山の狸と兎が背負っているような、恰好のいい蒔の束が、見る間に幾個いくつも幾個も出来たのを、土蔵の背後うしろに高々と積上げた。
父杉山茂丸を語る (新字新仮名) / 夢野久作(著)
牛込のその下宿は、棟が幾個いくつにも分れて、綺麗な庭などがあったが、下宿人は二人ばかりの紳士と、支那人しなじんが一人いるぎりであった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
幾個いくつかの異国的の食器の類が、各自めいめいの持っている色と形とを、いよいよ美しく見せて居るのが、いちじるしい特色ということが出来る。
血ぬられた懐刀 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
名倉の母達が泊っている宿からは、柳行李やなぎごうり幾個いくつも届いた。「まあ、大変な荷物だ」と稲垣も来て言って、仮にそこへ積重ねてくれた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
健三にはほとんど問題にならない事が、彼らの間に想像の種を幾個いくつでも卸した。そうされればされるほどまた比田は得意らしく見えた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼は鋳鍋の柄を持って鋳込んだ弾は幾個いくつあるだろうと思って、台の上にのせた鉛の鋳込んだ型に眼をやった。鋳込んだ型は九個ここのつであった。
猫の踊 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
幾個いくつかの皿すでに洗いおわりてかたわらに重ね、今しも洗う大皿は特に心を用うるさまに見ゆるは雪白せっぱくなるに藍色あいいろふちとりし品なり。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
それで華族令くわぞくれい發布はつぷされると直に華族にれつせられて、勲章くんしやうも大きなのを幾個いくつか持ツてゐるやうになる、馬車にも乘ツて歩けるやうになる
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
上塗うわぬりをせぬ土蔵どぞう腰部ようぶ幾個いくつあながあって、孔から一々縄が下って居る。其縄の一つが動く様なので、眼をとめて見ると、其縄は蛇だった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
自分はおごそかなる唐獅子の壁画に添うて、幾個いくつとなく並べられた古い経机きょうづくえを見ると共に、金襴きんらん袈裟けさをかがやかす僧侶の列をありありと目にうかべる。
霊廟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
されど汝は、神のかたに汝を引寄する綱のこのほかにもあるを覺ゆるや、請ふ更にこれを告げこの愛が幾個いくつの齒にて汝を噛むやを言現いひあらはすべし。 四九—五一
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
静かに坐って居るのと違い何分にもく切れぬそれだから背中に縦の傷が幾個いくつも有る一方は逃げ一方は追う内に梯子段の所まで追詰た、斯うなると死物狂い
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
一つの大きな伽藍石がらんせきから小さい飛び石が幾個いくつも幾個も長く続き、遥か向うに御殿のような座敷が見えている。
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その間、幾個いくつかの花子の首の試作品がオテル・ド・ヸロンのアトリエに出来つつあったのでした。
バルザックの寝巻姿 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
郵便脚夫ゆうびんきゃくふにもつばめちょうに春の来ると同じく春は来たのであろう。郵便という声も陽気に軽やかに、幾個いくつかの郵便物を投込んで、そしてひらりと燕がえしに身をひるがえして去った。
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
いつの間にそういう心持が起って居たか、自分には少しも判らなかったが、やはり母に叱られた頃から、僕の胸の中にも小さな恋の卵が幾個いくつか湧きそめて居ったに違いない。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
……その横町の入口に、幾個いくつも軒灯が出ているから、その内に菊水と書いたのもありますよ。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
蒼味あおみを帯びた薄明うすあかり幾個いくつともなく汚点しみのようにって、大きな星は薄くなる、小さいのは全く消えて了う。ほ、月の出汐でしおだ。これがうちであったら、さぞなア、好かろうになアと……
午前あさの三時から始めた煤払いは、夜の明けないうちに内所をしまい、客の帰るころから娼妓じょろうの部屋部屋をはたき始めて、午前ひるまえの十一時には名代部屋を合わせて百幾個いくつへやに蜘蛛の一線ひとすじのこさず
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
あちこちのはたの中に死人のくわんをむき出しにして幾個いくつも捨ててある。聞けば死者があると占者うらなひしやがどの方角のどの地へうづめよと命ずるまゝに、たれの所有地であらうと構はずくわんを持つて来て据ゑて置く。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
新「うか、樽柿は幾個いくつでも買いますが、何うかお茶でも水でも下さい」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その婦人は繻珍しゅちん吾妻袋あずまぶくろを提げて、ぱッとした色気の羽二重の被布ひふなどを着け、手にも宝石のきらきらする指環を幾個いくつめていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
幾個いくつかの別棟の建物があり、厩舎うまやらしい建物も、物置きらしい建物も、沢山の夫婦者の作男達のための、長屋らしい建物もあった。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
仕かえしは味噌だるの中へときまった。彼女は自家用の幾個いくつかの樽のなかへおしっこが出たくなると、穴をあけておいてした。
うれい重荷おもにうて直下すぐしたに働いて居る彼爺さん達、彼処あち此処こちに鳶色にこがれたけやきの下かしの木蔭に平和を夢みて居る幾個いくつ茅舎ぼうしゃ
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
人間活力の発展の経路たる開化というものの動くラインもまた波動を描いて弧線を幾個いくつも幾個もつなぎ合せて進んで行くと云わなければなりません。
現代日本の開化 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
中学時代からっていたラジオで、幾個いくつも幾個も受信機を作ってはこわし作っては毀しするので、彼の勉強部屋になっている区長のうちの納屋の二階は
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
月に十四、五両も上がるうす幾個いくつとかあって米を運ぶ車をく馬の六、七頭も飼ッてある。たいしたものだと梅ちゃんの母親などはしょっちゅううらやんでいるくらいで。
郊外 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
白木屋の店頭に佇立たたずむと、店の窓には、黄色の荒原の処々ところどころに火の手の上っている背景を飾り、毛衣けごろもで包んだ兵士の人形を幾個いくつとなく立て並べてあったのが、これ又わたくしの眼を驚した。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
土を掘ってみると、可成かなり大きな可愛らしいやつが幾個いくつとなく出て来た。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
種々いろんな屋台店の幾個いくつも並んでいる人形町の通りに出た。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
善美を尽くした幾個いくつかの部屋のその一つの部屋まで来ると、気高いまでに美しい一人の婦人が立っていた。他でもない鳰鳥である。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
広い門のうちから、垣根に囲われた山がかりの庭には、松や梅の古木の植わった大きなはちが、幾個いくつとなく置駢おきならべられてあった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ラムプの逆光線を同じように受けた男女の顔が幾個いくつも幾個も重なり現われて、心配そうに自分の顔を見守っている視線をハッキリと認めたのであった。
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
腰障子の土間の広い、荒っぽい材組きぐみで、柱なんぞも太かったが、簡素な造りで、藤木さんは手拭ゆかたを着て、目白めじろをおとりにして木立に小鳥籠が幾個いくつかかけてあった。
六所様にはけい六尺の上もある大太鼓おおだいこが一個、中太鼓が幾個いくつかある。若いたくましい両腕が、撥と名づくる棍棒で力任ちからまかせに打つ音は、四里を隔てゝ鼕々とうとうと遠雷の如くひびくのである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
幾個いくつと知れぬ町中まちなかの橋々には夕涼ゆうすずみの人の団扇うちわと共に浴衣ゆかた一枚の軽い女のすそが、上汐のために殊更ことさら水面の高くなった橋の下を潜行くぐりゆく舟の中から見上る時、一入ひとしお心憎く川風にひるがえっているのである。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
窓を幾個いくつ附けたものかと僕は非常に気をんだことがあったッけ……
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
大な石塊が幾個いくつも幾個も出て来た。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
年の頃は、十四五歳、刳袴くくりばかまに袖無を着、手に永々と糸を付けた幾個いくつかの風船を持っている。狡猾らしい顔付である。だが動作は敏捷である。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
叔母はさびれた秋口の湯治場に、長く独りで留まっていられなかった。宿はめっきりひまになって、広くて見晴しのよい部屋が幾個いくつも空いていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
幾個いくつも仕舞い込んだ革のサックを、誰にもわからないように肌身に着けて持っているんですってさあ
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
金欄手きんらんでの陶器の高脚コップで、酒盛りをしたものと見えて、私の家にも、その幾個いくつかがきていた。
よし又讀み得たにした處が、幾個いくつも返り點をつけて見ねばならぬ古典的な文體が、少しも自分の感情に伴はないので、血族の情愛どころか、同じ時代に生きてゐる人の心持さへしない事がある。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
幾個いくつかの山、幾個かの谷、沢や平野を買い占めてのう。幾万本、いや幾十万本の木を、とりこにして置いて育てているのだよ。
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
男が学校へ帰って行ってから間もなく、女は目ぼしい衣類や持物を詰め込んだ幾個いくつかの行李をそっと停車場まで持ち出して、独りで長い旅に上った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その白い腕や首の周囲まわりには大暴れに暴れながら無理に取押えられた時のかすり傷や、あざ幾個いくつとなく残っていて、世にも稀な端麗な姿を一際ひときわ異様に引っ立てているかのように見える。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
お百姓がお客様なのであるが、売手におそれて近寄らないのと、売る方でも気まりが悪いので、七夕たなばたの星まつりのようにささの枝へ幾個いくつもくくりつけて、百姓の通る道ばたに出しておいてぜにに代えた。
旧聞日本橋:08 木魚の顔 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
たばになって倒れた卒塔婆そとばと共に青苔あおごけ斑点しみおおわれた墓石はかいしは、岸という限界さえくずれてしまった水溜みずたまりのような古池の中へ、幾個いくつとなくのめり込んでいる。無論新しい手向たむけの花なぞは一つも見えない。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)