うち)” の例文
まもなくうちから持って来た花瓶にそれをさして、へやのすみの洗面台にのせた。同じ日においのNが西洋種のらんはちを持って来てくれた。
病室の花 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「そう自任していちゃ困る。実は君の御母さんが、家の婆さんに頼んで、君を僕のうちへ置いてくれまいかという相談があるんですよ」
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
うちのおとうさんをいじめるから、お前をおれがいじめてやると言って雪をぶっかけたり、道ばたから押し落としたりするそうですよ。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
だから、もし自分のうち女房かないから手紙を投げつけられるやうな事があつたら、大抵の亭主は、小鳥のやうにふるへあがるにきまつてゐる。
下宿にいちゃあ何かと困るでしょう、どうせ一週間ばかりならうちにいて養生してもいいでしょう、ね、宅でも大変お前さんに見込みを
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
美「なにわちきのお父さんと心安い人なんで、四五たび私を呼んでくれた人ですが、うちのお母さんと近付に成りたいって来てえるんですよ」
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
自分はそっとこの革包かばん私宅たくの横に積である材木の間に、しかも巧に隠匿かくして、紙幣さつの一束を懐中して素知らぬ顔をしてうちに入った。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「何そうむずかしい事じゃない。刑事をね、一人君のうちへ泊り込ますのだ。そして郵便をその都度すっかり見せて貰う事にするのだ」
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
客の応対ぶりだって、立派なもんだし、うちもキチンキチンとする方だし……どうしてお前なんざ、とても脚下あしもとへも追っ着きゃしねえ。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ああいう婦人おんなうちへ置いてどんな懸合かかりあいになろうも知れませぬ。「その事なら放棄うっちゃッときな、おれが方寸にある事だ。ちゃんと飲込んでるよ。 ...
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今この手紙を書く時も、うちのあの六畳の部屋へや芭蕉ばしょうの陰の机に頬杖ほおづえつきてこの手紙を読む人の面影がすぐそこに見え候(中略)
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「朝顔につるべとられて——とかなんとかいうが、おやっちゃん、うちじゃあね、あれごらん、唐茄子に乾棹ほしざおとられてだよ。」
これは彼がよく遊びに行く藝者のうちで、蝶吉と小駒の二人が、「小母おばさん」と呼ぶ此女を雇つて萬事の世話を頼んで居る。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
うちでは、不安心でございますから、私の縁者の者が、ここに神官をしておりますゆえ、これを持って、ひとまずそこへ」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
只細君が稍〻不平なのは何々會社假事務所といふ立派な札が星野の家の門口に掛つてゐることで、どうしてあの表札をうちの表に掛けないのだらう。
俳諧師 (旧字旧仮名) / 高浜虚子(著)
かはよろこなみだむせびけりしばらくして馬士まご云樣話はうちで出來るから日のくれぬ中うまのらつせへいや伯父をぢ樣と知ては勿體もつたいない馬鹿ばか
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
旦那、わたくしどもでは、萎れた花なんて置きませんです。うちの品はみんな新しい若い、愛の充ちた花で、蘆や薄荷のしげみの中で、水に浸つて生きてをります。
わるい花 (旧字旧仮名) / レミ・ドゥ・グルモン(著)
「葉子さんのおうちは山の方でしたねえ。お宅の近所の野原には沢山に草花が咲いていてどんなにかいでしょうね」
先生の顔 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
立派なもんじゃないの? うちなんかでも、困って少しお金を借りて、そのままもらってしまったことがあるけど……
街底の熔鉱炉 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
あの可厭いやと思った学生の声でしたから、私達は急いで停車場を出て、待たせて置いたうちの俥に乗って帰ったのでした。
昇降場 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
れとふも矢張やつぱり原田はらださんの縁引ゑんるからだとてうちでは毎日まいにちいひくらしてます、おまへ如才ぢよさいるまいけれど此後このごとも原田はらださんの御機嫌ごきげんいやうに
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「気違いだ。可哀そうに……。それとも酔っているのかもしれない。マックス、その人をうちまで送り届けてやれ」
うちの婆さんが、それには先づ前もつて林檎をよく洗ひ浄めて、次ぎに濁麦酒クワスに浸けて、それから今度は云々といつた塩梅に、語り進めようとした時ぢや。
うちなんぞはこの通り裏の方へ引込んでおりまして、とても表通りのお歴々と同じようなお附合いは致し兼ねまする、どうかそれは御免なすって下さいまし」
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
さかいまちにてき父ほど天子様を思ひ、御上おかみの御用に自分を忘れし商家のあるじはなかりしに候。弟がうちへは手紙ださぬ心づよさにも、亡き父のおもかげ思はれ候。
ひらきぶみ (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「あの青い美しい石なら、身投をする前の日、うちの子供へくれましたよ。形見の積りだったんでしょう」
呪の金剛石 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
これよりうちに還るまで、揚々之を見せびらかして、提げ歩きしが、の釣を始めて以来、凡そ此時ほど、大得意のことなく、今之を想ふも全身肉躍り血湧く思ひあり。
釣好隠居の懺悔 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
三日前に先生の処へ行てチャント様子をしって居るのに、急病とは何事であろうと、取るものも取敢とりあえず即刻そっこくうちを駈出して、その時分には人力車も何もありはしないから
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「そう。うちのNさんもそうなのよ。帰りにここへよると思うけど。ね奥さん、お宅ご飯ない?」
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
野生わたくしうちへおいで下さりますると、ああもったいない、雛形はじきに野生めが持ってまいりまする、御免下され、と云いさまさすがののっそりも喜悦に狂して平素つねには似ず
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
腕力で侮辱を与へようとしたもんだから、梅子さんも非常に怒つて、松島を片眼めつかちにしたんださうな、其れをうちの先生が何か関係でもあつて、左様さうさせたやうに言ひ触らして
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
その月の三十一日の午後、その僧侶の親元のうちへ来てくれと言うて馬で迎えに来ました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
うちに言ってやったところでだめなのは知れているし、でき合いを買う余裕もないので、どうかして今年の冬はこれで間に合わせるつもりで、足のほうに着物や羽織やはかまをかけたが
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「そんなことをおっしゃるけれど、わたしだって、うちへ帰ってどんなに泣くでしょう」
ふみたば (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
ちょうど時は四月の半ば,ある夜母が自分と姉に向ッて言うには,今度清水しみず叔父様おじさまがお雪さんを連れてうちへ泊りにいらッしゃるが,お雪さんは江戸育ちで、ここらあたりの田舎者いなかものとは違い
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
うちに入ると、助手が運んでくれた荷物は、ぐちゃぐちゃにこわれている。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
「それで、今から、うちへ、連れ戻りたいが、ええかい」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
下谷の伯母のうちに引き取る事になったという。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
うちの前で止ったわ。お父様のお帰りだわ。」
そうしてうちの公債証書はどのくらいあるノ。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
兎に角自分のうちには羅紗緬類似の女は一人も居ません(荻)イヤサ家に居無くとも外へかこって有れば同じ事では無いか(大)イエ外へ囲って有れば決して此通りの犯罪は出来ません何故というまず外妾かこいものならば其密夫みっぷと何所で逢います(荻)何所とも極らぬけれどそう
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
「さう自任してゐちや困る。実は君の御母おつかさんが、うちの婆さんに頼んで、君を僕のうちへ置いて呉れまいかといふ相談があるんですよ」
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
えゝお茶を上げな……あなたにも此の度々たび/\御贔屓で呼んでおくれなすった事も有りますが、明後日あさってから美代吉はうちにいませんよ
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
うちの狗か。」判事はだしぬけにみちの真中で鼻をつままれたやうな顔をした。「それぢや仕方がない、盗まれた肉代は幾らだつたね。」
うちへ来た当座は下性げしょうが悪くて、食い意地がきたなくて、むやみにがつがつしていたので、女性の家族の間では特に評判がよくなかった。
子猫 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
有ったってそれを渡したらうちで困って了う。可いよ、明日あした母上おっかさんが来たら私がきっぱりお謝絶ことわりするから。そうそうは私達だって困らアね。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
わしはあの吉助きちすけが心からきらいなのだ。腹の悪いくせにお追従ついしょうを使って。この春だってそ知らぬ顔でうちの田地の境界をせばめていたのだ。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
うちへ探偵の廻物まわしものが這入ったのですよ。小僧だと思って抛って置いたのですが、うっかりして本郷の方を嗅ぎ出されそうになったのです。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
戸をあけてうちへ入らうとすると、闇の中から、あはれな細い啼聲なきごゑを立てゝ、雨にビシヨ/\濡れた飼猫の三毛がしきり人可懷ひとなつかしさうにからまつて來る。
絶望 (旧字旧仮名) / 徳田秋声(著)
さりながら父の戒め、おりおり桜川町のうちに帰りて聞く母のおしえはここと、けなげにもなお攻城砲の前に陣取りて、日また日を忍びて過ぎぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)